命改変プログラム

ファーストなサイコロ

刃の代償

「アギト!! おい、何しやがんだ! 行かせろよ!」
「アギト君! サクヤちゃん!」
「くそ! ビクともしない」


 僕とシルクちゃんとテッケンさんはそれぞれ行く手を阻む見えない壁を突破しようと試みてみたけど全ては効果無しだった。
 視線の先には拮抗しあうアギトとガイエン。そしてその後ろに苦しむサクヤとクーが居る。今直ぐにでもあそこに行かなきゃいけない。だけどこの壁がそれを邪魔する。
 このもどかしさが壁を作る奴に向くのは自然の事だ。


「何の気かな?」
「お前の場所を通る。それだけだ」


 僕は奴の背に立つ。そこしか道はない。あんな状態のサクヤを放って置くことなんか出来るわけがないんだ。だから何が何でもこの場所より向こうに。


「ここじゃあちょっと、乗り気しないんだけどな☆」
「ならさっさと引きやがれ!」


 気軽にそう言う奴に、僕はシルフィングを突き刺す。これならさっきみたいに衝撃を受け流すなんて事は出来ないだろう。
 予想通り奴の所にだけシールドは発生していない。倒せなくても奴の体勢を崩すだけで充分だ。それだけで通り抜ける数瞬は稼げる。
 だけど奴は避けようともしない。武器も盾も持ってるようには見えない。もしかしてこのローブの中の防具がもの凄く高性能だとかかも知れない。
 それでも今の僕なら……いや、『セラ・シルフィング』なら貫けると踏んで僕は勢いを止めない。依然奴は少しだけこちらに顔を見せて薄く微笑んでいる。
 何もする気は無いようだ。ならこのまま貫くだけ。システムかなんだか知らないけどな、僕らを舐めるなよ!
 シルフィングの青い刀身が奴の髪で隠れてるけどきっと細いだろう事が想像に堅くない背中へと向かい……そして
「ガキィィィィィ!!」と弾かれた。


「何!?」


 貫けない……それどころか何に弾かれた? やっぱりシールドが張られてたとか? けど触れた瞬間にそこが虹色に光る様な現象はなかった。シールドじゃない……それなら一体何がセラ・シルフィングを防いだ?


「どけ! アギト!」
「ぐああああああああ!」


 その時、そんな会話と共にアギトがこちら側に吹き飛ばされて来た。そして僕と奴の直ぐ近くでシールドに当たり止まる。
 土埃がわずかに舞い、アギトがここまで吹き飛ばされた衝撃が風を生む。その時僕は気付いた。シルフィングを防いだのが何なのかに。
 それは直ぐソコにあったんだ。奴を見て真っ先に目を引く物。


「髪の毛……お前のソレ何なんだ!?」


 皮肉だけどアギトが吹き飛ばされたおかげで気付いた。アギトが運んできた風……それは確実に奴の月を映す様な色の髪にも届いた筈だ。だけど奴の髪は微動だにしなかった。
 足首まで多い隠す程の髪が揺れないなんてあり得ない。どんな些細な風でも毛先は動くだろう。それ所か、奴の髪ははみ出た毛先一つ見えないじゃないか。
 そしてこの光沢。月の様に見えるブロンドだから反射が強いのかとも思ったけど、これはまるで金属の様だ。


「ふふふ、良いでしょう。髪は女の命、髪は女の武器なのよ☆」


 そういって首を振った瞬間に髪は髪に戻ったみたいで、夜空にその細くしなやかな姿を見せつける。見取れる位の美しさだが厄介すぎる。
 あの長さの髪なら、後ろからの攻撃はほぼ全て防げるじゃないか。


「アギト君大丈夫?」


 そんなシルクちゃんの声が聞こえて振り向くと、アギトのぐったりした姿がある。シルクちゃんは回復魔法を唱え、肩に乗っていたピクも羽ばたきながらキラキラこぼれる光のブレスをアギトに掛けてやっている。
 あれも回復用の技みたいだな。それにどうやら魔法は通る様だ。それならシルクちゃんにはこの場所から直接回復魔法をサクヤに掛けて貰う方が得策なのかも。


「ダメです。呪い系はただ回復するだけじゃ意味がないの。それに回復を受け付けなくするのもあるし……何より逆に働く場合もあります。
 呪いの確実な解除は術者を倒すか、その呪いを発生させてるアイテムを壊す事。この場合はサクヤちゃんに巻かれてるあの紙です」


 シルクちゃんの示してくれた救助方法は的確だ。確かにあれが一番怪しい。あの文字が書かれた黄色い紙から毒の様な粘液が溢れ出てる様に見えるんだ。
 けどそれにはやっぱりサクヤまで近づかなきゃダメだ。攻撃魔法を今のサクヤに当てるなんて出来ないし、そもそもそれで確実にあの紙が破壊できるのか怪しい。
 ここは手持ちの武器で寸断するのが一番確実。だけど僕達はサクヤに近づけない。あの綺麗だと思える髪が、最強の盾の様に僕らを阻んでる。
 けれどイクシードを使えばどうだ? 奴があそこを動かないなら押し切れるかも知れない。それにイクシードの限界を僕はまだ知らない。
 もしかしたらあの盾を越えれるかも知れない。いや、越えて貰わなきゃ困るんだ。僕は元々奴を倒す気でいるんだから。あの髪を斬り裂けなきゃ、どのみち僕に勝機は無い。


「アギト! おい起きろ! 起きるんだ!」


 テッケンさんが何度もアギトの事を側で呼び続ける。シルクちゃんとピクのおかげでHPはほぼ全快してるな。後は意識。けどそう悠長な事はやってられない。
 アギトを遠ざけたガイエンはサクヤの直ぐ側に立ってカーテナを掲げてる。


「ふ……化け物が。こいつも必要なくなったか?」
「君と一緒にしないでよ。とってもとっても大事よその子☆ 何回も言わせないで。君を倒すの私じゃないから。だから私が何をしなくてもその子は手に入るもの」


 ガイエンの言葉にいつもの調子で奴は応える。それがガイエンは気に食わないらしい。けど本当にサクヤが奴を止める切り札? 
 確かに大事とは言ったけど、具体的に奴は何もしていない。大事だと思わせといて実はそうじゃないとか? でもガイエンは確信を持って出してきたっぽかった。
 じゃあ奴のこの余裕は何だろう? 敵の筈のアギトを何でここまで信じてる? ガイエンが今直ぐにでもあの腕を振り下ろしたらアギトが入る間もなくサクヤはやられる筈だ。


「目障りなフクロウだ!」


 そう言ってガイエンはサクヤの傍にいたクーを手の中で回したカーテナによって吹き飛ばした。小さなクーの体が高く舞い上がって、同時に白い羽が沢山散った。


「クーちゃん!!」


 シルクちゃんの短い叫びが終わると同時にこちら側に落ちてきて二回くらい地面を跳ねる。そして痛々しい姿が僕らの瞳には映った。


「ふはははははは、そんな余裕もこれまでだ。同類が死ぬまで我関せずを貫いた事を後悔しろ! ゲームの一キャラクター風情が、人間様を舐めるなよ!」


 ガイエンはいよいよサクヤにカーテナをぶつける気だ。だけどそれよりまずこっちの怒りが爆発する。よくもクーまで……あんな小さな存在にカーテナを振るうだなんて許せない。
 クーはずっとサクヤを心配してた。そしてやっとで会えたサクヤを助けようにも励ますしかきっと出来なくて……それでも声を出し続けてたクーが目障りだと。
 僕の目にはもう奴の向こうのガイエンの腐った顔しか見えてない。そしてそれはきっと横の二人も同じだろう。
 あのクソ野郎だけはぶっ飛ばさなくちゃ気が済まない。邪魔するなら誰だろうとこのセラ・シルフィングで切り捨てる!


「あれれ、ここでソレを見せちゃっていいのかな?」
「うるせぇよ! 退かないなら今度は全力で行く!」


 風を感じる。システムがイクシードの発動をいよいよ感じて前準備をしてる様な気がする。だけどその時奴は夜空を見つめてさらに続けた。


「あ~あ、本当にスオウって誰に対しても全力に成れるんだね☆ それが例え人じゃなくても……本当に素敵。でもだからこそ不安に成っちゃうんだよね。
 みんなに一生懸命に成れる貴方の一番は何? ってね」


 何言ってるんだ? がまず浮かんだ事。だけど後半は何だか雰囲気が変わってまるで誰かの気持ちを代弁するような語り草。それが少しだけある少女を連想させた。
 頭に浮かんだその少女と目の前の事……二つに分断された感情は勢いを保てない。纏いつつあった風が肌を抜けていく。


(間に合わない)


 そう思った。けれどこのまま見殺しになんて出来ない。ヤケクソでもなんでも行かなくちゃとそう思い、再びイクシードを使おうとした時、腹の底から響く様な声がこのタゼホに広がった。


「やめろ!!」


 それはいつか僕がしたボリュームを最大にして叫んだ感じだった。だけどあの時と乗っている気持ちが違うのか、その言葉に強制力が有るように体が止まる。
 それは僕だけじゃない。その場の全員がそうなっている。奴の時と同じ……いや、あの時の様な刃物を突きつけられてる感じはしない。それよりももっと生々しい。
 そしてその声を発した奴は頭をうなだれて、背中を見えないシールドで支えて立ち上がっている。荒く呼吸を繰り返し、そして僕の方に僅かに振り向く。


「スオウ、アイツは俺の獲物だろうが。手、出すなよ」


 そう言ってアギトは背を離し、武器を握り直す。見つめるは勿論ガイエンだ。だけど背を見せたままアギトは再び僕に語り掛けてきた。


「言ったのはお前だろスオウ。それぞれが助ける奴の事に集中するってさ。信じとけ……俺はもう逃げないからさ。お前達のおかげで大丈夫だから……お前も目の前の敵を見つめてろ」
「アギト……でももう助けるのは一人じゃない」
「はは、なぁに良い具合だろ。俺はここでは先輩なんだよ。初心者のお前と違って一人が二人に成ったって関係ない」


 オレンジ色の炎が建物を崩す大きな音が聞こえていた。そしてその火の粉がアギトの周りに舞い降っていた。アギトの赤い姿とオレンジの光源はスゴく合っていて、その背が大きな炎で包まれてる様な光景が僕には見えた。


「ふふふ、君はいつだって彼に立ち塞がれる☆」


 そんな奴の声に反応したのはガイエンだ。サクヤにカーテナを下ろす格好で固まったガイエンが歯を食いしばり、態勢を元に戻してアギトの方を向いた。


「アギト、もう邪魔するなよ」
「それは無理な相談だな。俺は何が何でもお前を止める」


 二人はにらみ合い、それは言葉だけじゃないやりとりが行われていそうな感じ。


「いつもいつも……本当に貴様は目障りだなアギト!」
「これ以上、俺の仲間は傷つけさせねーよガイエン!」


 言葉の終わりと共にカーテナが横に振られた。その瞬間に、こちらにまで伝わる衝撃。僕達は脚に力を入れてその場に踏みとどまる。
 辺りに漂う土埃が視界を遮り、アギトの姿が見えなくなった。


「アギト!」


 土埃の向こうに声を発する。だってあれは避けた様子が無かったぞ。カーテナの攻撃を直に受けたとしたら、幾らアギトの防具が高性能だってヤバいだろう。
 実際アギトは一度やられてる。それなのに避けようともしないなんて何考えてるんだアイツ。その時、土埃の中から何か白いのが飛び出てくるのが見えた。
 あれは――


「クーちゃん! ピクお願い」


 僕と同じように気付いたシルクちゃんが叫んだ。そしてピクは一鳴きすると勢いよくクーが落ちる空に急上昇していった。ピンクと白の姿が重なり、すぐさまピクはシルクちゃんの傍らに降りてくる。
 ピクは静かにクーを地面に横たえる。近くで見るとわかるけど、クーの体にもあの毒の様な泡が付いている。クーは叫んでただけじゃなかったんだ。
 クーはあの紙を剥がそうとしてたんだろう。だからその体にも呪いが移った。


「そんな……これじゃあ回復出来ないよ。クーちゃん……ごめんね」


 シルクちゃんの頬に涙が見えた。そしてその涙に気付いたピクが慰めるように舐め取る。悔しい思いが僕らの胸にのし掛かる。
 何も出来ない……サクヤにもクーにもだ。特にシルクちゃんは回復魔法があるのに、それでもどうにも出来ないから悔しさは一層強いだろう。
 だからこその涙。僕はアギト達の方を向くがシールドを挟んだ向こう側はまだ土埃で見えない。


(やられてないよなアギト)


 そう願いながら剣の柄を強く強く握りしめる。アギトがああ言わなかったら、また直ぐにでも僕は飛び出す所だ。今度こそと、奴にイクシードを放つことを迷いはしない。
 でも……ガイエンをぶっ飛ばすのは僕じゃない。そうだよなアギト。


「ククククククハーハッハハハハハハハ! 幾ら邪魔しようと同じだなアギト! カーテナがある限り貴様を何度でも叩き潰せる!」


 土埃の向こうから聞こえる耳障りな笑い声。それが届いたとき、真っ先に反応したのはシルクちゃんだった。


「こんな事平気で出来るなんて、貴方は人じゃない!」


 シルクちゃんが怒っている。涙を沢山流して、何も見えない土埃の向こうに向かって叫んだ事はそうとしか思えない。いつも優しく暖かな回復魔法をくれる彼女がここまで感情を高ぶらせた場面を初めて見た。
 だけどそれでも、ガイエンは更に頭に血が昇る様な事を言い返してきた。


「そうだな、私は人なんて劣等種ではない。エルフと言う高潔な種にこの世界では生まれ変わっているのだよ! 今の私は何だって出来る。その力が有る!」


 シルクちゃんの銀髪が怒りで浮いた様に見えた。噛みしめすぎた歯がガチガチと震えている。そして立ち上がった彼女を包むように桜色の光線が幾何学模様を描いていく。
 あんなエフェクトは見たことない。けど……何らかの魔法を放とうとしてるのは分かる。


「駄目だシルクちゃん! その魔法はヤバすぎる!」


 テッケンさんは彼女が何を放とうとしてるのか分かってるみたいだ。そしてあれだけ血相を変えて止めに掛かるって事は相当な魔法何だろう。
 だけどテッケンさんが小さいせいか知らないけど、シルクちゃんは耳を貸さない。初めて見る、怒りに満ちたシルクちゃんは相当怖い。
 今までの印象とのギャップでそれは尚引き立っているんだ。けれど良く見ればその魔法陣の中にも涙の粒が幾つも浮いているのが見える。
 ちょっと怖くなったけど、あれは間違いなくシルクちゃんだ。彼女もただ必死に仲間を助けたいだけなんだ。イクシードを使おうとしてた僕と同じ。
 だけどその時、僕達の怒りに満ちた感情とか、ガイエンの不愉快なゲスの笑いとは違う声がその場に響いた。ガイエンよりも近くに居るのに、シールドの向かい側の僕らには遠い存在の奴の声。


「人だろ……俺たちはどこまで行ったって、姿形が変わったって人なんだよガイエン。そろそろ目……覚まそうぜ」


 言葉の終わりと共に、一陣の風が吹いて土埃を払いのける。そしてそれをやったのは当然アイツだ。


「アギト君……」
「ごめんシルク。だけど手出さないで欲しい。必ず助けるからさ。アイリも、サクヤも、そしてクーも」
「……うん、はい……信じてます」


 シルクちゃんを覆っていた幾何学模様が空気に溶ける様に消えていく。そして涙を拭いて前を見据えた先には、再びその姿を現したガイエンが映ってるんだろう。
 ガイエンは倒れていないアギトに表情を曇らせている。


「貴様どうやってカーテナを防いだ?」
「さんざん見せつけられた攻撃だぜ。俺が学習しないとでも思ってるのか?」


 アギトの言葉にガイエンは再びカーテナを振るう。今度は左腕を引いてそして突き出した。そして真っ正面からカーテナの攻撃がアギトを襲う。
 けれどアギトは逃げない。見据えたまま、槍にスキルを纏わせて……そしてぶつかった。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 アギトは叫びと共にスキルを解放して、その反動で強引にカーテナの力を弾いた? 信じられないけど、その場から数センチ後ろに下がっただけで確かに立っているのがその証。
 そして弾かれた力は思わぬ所にぶつかっていた。それはこのシールドを展開していた奴だ。


「うげ、ちょっとー!」


 とか言ってた。だけど直後にその叫びも掻き消えて、僕の目の前に土埃が上がると同時に僕達を隔てていたシールドは消え去った。
 そして再び僕らは全員合流する。無駄に立ち昇らなかった土埃は僕らの足下で次第に消えていった。


「まさか、そんなバカな!? カーテナは王の力だぞ! それを捨てられた貴様如きが防げる筈がない!」
「確かに……俺もそう思う。けどな納得も出来る。俺は捨てられた騎士だけど、お前は偽りの王だからだろ?」


 アギトの言葉に激高してたガイエンの動きがピタリと止まった。そして何かをブツブツとカーテナに向かって喋っている。そしてそれは次第に大きく成っていって、再びその刃がこちらに向けられる。


「貴様が……貴様がぁ居るからぁあああ!!」


 カーテナから黒いドロリとした粘液みたいなのが滴り落ちている。あれは最初から見えていた影みたいな物だろうか? なんであんな風に……段々と実体化してる様な感じだ。


「きゃははははははは☆」


 場の空気を寸断するような笑い声が再び流れた。するといつの間にか僕らとガイエンの間に再び奴が降り立っていた。


「滑稽だね~ガイエン☆ ふふ、君のそんな顔が見れただけでここに来た価値あったかもね。ブッサイクに成ってるよ~~」


 ケラケラケラとその場で本気で笑い出す。その姿を見て更にガイエンは怒りを募らせる様に体を震わせている。


「お前が……お前が私を見て笑うな! 化け物がぁああああああ!」


 ドロリとした粘液が次々と足下に黒い沼を作るように溜まっていく。そしてカーテナを奴に向かって振りかぶった時、目を疑う様な事が起きた。


「ふふ」


 そんな風に奴が薄く笑ったのを僕は見逃さなかった。そしてカーテナの攻撃は発動しない。何故ならガイエンの左腕を溜まった粘液から出てきた黒くて細長い腕が絡め取っていたからだ。


「な……なんだこれは?」


 後ろの親衛隊もザワメいている。ガイエンはその場でもがくが脚も既に粘液の中で身動きが取れなくなっていた。そして粘液の中から無数の赤ちゃんサイズの黒い人がガイエンの体を這い上がっていく。
 いびつに開いた口らしき物から何か悲鳴めいた物をそいつ等は叫んでる。無数の子供の悲鳴の様な何かを。


「何を……した貴様」
「言ったでしょう。カーテナの呪いにご用心☆」
「だが! それは私には……ぐああああああああああ!」


 言葉の途中でガイエンは黒い人に全身を包まれた。そしてガイエンを包んだそいつ等は溶けていく様に合わさって丸い球体になる。その間も絶えず叫びをあげていた。
 僕らは誰一人声を出せなかった。その余りの光景に言葉を失っていた。それは親衛隊も同じだ。


「さて、目的も果たしたし後は君に任せてあげる」


 そういって奴が見つめるのはアギト。だけどアギトは目の前の球体から目が離せない。そんなアギトを見て再び嫌らしく笑う奴に僕は剣を向けた。


「何だよこれ? 一体どういう事だ!」
「あはは、大丈夫直ぐに出てくるよ。だから心配無用☆ それよりねえ、そろそろセツリの所に行こうよ」


 唐突に出たセツリの名前に僕は一瞬固まる。そしてそんな僕の横を奴はもの凄いスピードですり抜けた。一瞬の油断、振り向いた時には奴は建物の屋根で飛び跳ねてる。


「こっちこっちー! スオウが助けたいお姫様はこっちだよー☆」


 僕は脚がなかなか出ない。行かなきゃいけないのは分かってる。だけど今の状況は混沌としすぎだ。けどそんな僕にアギトが言う。


「何やってんだスオウ! セツリはお前じゃなきゃ駄目だろーが!」


 地面を蹴った。目指すは深月の月。奴が満足気に手を叩くのが見える。


「さあみんな、我慢はここまで☆ 楽しいパーティーにしましょうね」


 ここから僕達のそれぞれの戦いが始まる。

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