命改変プログラム
踏み出す別れ
大喝采で閉幕したヒーローショウは大成功と言えるだろう。そしてそれから三十分くらいは子供の相手に費やした。ショウの時間より長くて疲れたよ。今回のショウもぶっつけ本番、行き当たりばったりで相当だったけど、常に憧れの目で見られるって言うのも疲れる物だ。
気が抜けない。子供は見たことをそのまま受け取るからな。それでも何とかヒーローショウの関係者の人たちが使う控え室に戻ると案の定、ダークヒーローの中身は居なかった。
あれから三十分だしな。今更待ってる訳もないと思ってたさ。でも……そう言えば愛も居ないな。おっさん達は満足気にテーブルを囲んで早くも祝勝会みたなノリで乾杯してるのに、一体どこに。
スオウ達と帰ったとか……でもそれは、ちょっとな。俺は暑苦しいマスクをやっとで取り払い。エアコンが効いてる部屋の空気を目一杯吸い込んでから、目の前のダメな大人っぽい奴らに何気に聞いてみた。
「あのおっさん達さ……藤沢知らない?」
「ああユーのラヴァーな」
「ぶっ、誰がラヴァーだ!! 違う、そんなんじゃねーよ俺達は!」
このおっさん既に酔ってんじゃ無いのか? いきなりとんでもない事言うじゃねーか。俺達は今日が初対面……だよな? の筈。
俺の中には愛にとっての一つの可能性が無くもないが、実はそれを聞く気はないんだ。だから俺達はそんなんじゃ……
「わははは、まあユーがそう言うならそうしておこう。シーはそうだな……う~ん確かそこに書き置きを残してたぞ」
「それを早く言えよ!」
この酔っぱらいどもめ。てか、そもそも協力した俺が最後まで働いて、こいつらが飲んだくれてるっておかしくないか?
俺はおっさん達が騒いでる場を横にそれてスケジュール? とかのファイルが置いてあるデスクに近づいた。そしてそこには一つの便箋が置いてあった。
それはいかにも女の子が使うような装飾がされた可愛らしいもので一目で愛のと分かる気がした。
「これか……」
「おいユー。それはユーに当てたものでヒーローに当てた物じゃないよ。つまりはいつまでその格好してるかって事だけどね。
そんなに気に入ったのならユーも正式な――」
「ベラベラうるさいぞおっさん! これっきりだ! こんな恥ずかしい格好継続的に出来るかよ。勿論さっさと脱ぎたいんだからな」
ただタイミングが悪かっただけ。脱ぐよりも早く、愛の手紙の内容を確認したかった。けどまあ、これを脱いでからでも良いかなと思うことにするか。
このスーツの密着感が何というか気持ち悪い。汗で湿ってるし……それにこの手紙は俺に当てた物。まあ実際、このままで読んだって何も問題なんて無いだろうけどさ。
おっさんが変な事言うから、抵抗が生まれた気がする。
俺は便箋を机に戻してロッカーに仕舞ってあった元の服を取り出して隣のシャワー室へ。このデパートはこういう人達の為に小さいけどシャワーまで完備してくれてる。
ビッチャリという感じを肌に付かせながらヒーロースーツを脱ぐと、もの凄い解放感があった。これは絞れば汗がバケツに貯まりそうだな。
「手紙か……」
シャワーを浴びながらそんな事を呟いたら、急にイヤな予感が背筋を這った感覚に襲われた。よく考えたら俺は愛の事を何も知らない。
そして思い出されるのはショウの終わりに愛が言った言葉だ。
『もう、大丈夫だね』
俺は五分も経たずにシャワーを終えて服を着て再びおっさん達が騒ぐ部屋に戻った。その余りの早さに騒いでたおっさん達がこちらを見てる。
「ユー、随分早いな」
「うるさい、俺は早風呂なんだよ」
俺はスタスタとおっさん達をやり過ごし、デスクの上の便箋を掴んで部屋のドアに手をかける。僅かなシャワーの時間で考えたんだ。このおっさん達がいる所でなんだか開きたくないと。
だから俺はドアを開いて出ることにした。だけどその時おっさんから声を掛けられた。それは変なテンションを抑え目にした、何だか真剣と思える物。
「ユー、ありがとう。楽しかったよ」
首を向けるとテーブルを囲む複数人が手のビールを掲げてる。みんな楽しそうに、子供みたいな笑顔でだ。だから俺は子供らしく時には素直になろうかなと思った。礼儀って奴は大切だ。
「こちらこそ、ありがとうございました」
そう言って俺はドアを閉めた。それと同時に中では宴会が再び始まった音が聞こえる。まあ感謝してもいい。少しは前を向ける様になったから。
非常階段の方へ行き、外に出て便箋の封を開ける。中から現れたこれまた花柄の紙を出して中身を確認すると、そこにはメールアドレスと電話番号の二つしか書いてなかった。
花の中に佇む二つの数字とアルファベットの文字列。それはカラーペンで書いてあって、丸いけど形が整った綺麗な字で綴られていた。
これは連絡して良いって事だよな。と、言うか愛はもう会う気は無いって事なんだろうか。帰ったのか? 何も言わずに?
でもだからこうしてメールアドレスと電話番号を残してる訳か。本当に訳の分からない奴だ。一体何がしたかったんだよ。
結局俺の中じゃブラジャーをくれた変な女という認識が一番強いぞ。結局返せなかったし。俺はポケットから真っ白なブラを出して眺めている。う~ん、こうしてると完全に変態だ。
もしも通りの誰かがこの光景を見たら間違いなく通報されるだろう。無実なんだけど、言い逃れが出来ない物的証拠が俺を下着ドロボーに間違いなくしそうだ。
見てるだけで赤くなる。思いだしたら笑えてきた。あんな変な奴もそうそういなからな。これが有る限り忘れられそうも無いし……実際俺はまだ、色々と納得出来てねーぞ。何で何も言わずに居なくなるんだよ。
思わずブラジャーに顔を埋めたくなる衝動を堪えてポッケに再び戻し、次いで携帯を取り出して花柄の紙と見比べる。
「どっちにするかだな……電話かメールか……」
何か電話って緊張する。けどだからといってメールじゃ何か違う気もする。メールだと会わないで去られたのと状態が余り変わらない様なさ。
てか、何より俺は愛の声が聞きたいのかも知れない。この半日ぐらいの僅かな時間だったけど、それが滅茶苦茶で、だから印象も強くてさ。いきなり居なくなられると調子が狂う。
まだ日は高いんだから。俺は夏の空を見上げながら携帯を耳元に持っていった。
「もしもし……」
か細く、だけど俺にとっては祭りばやしの様な少しのワクワクが胸を焦がす様な声が鼓膜を震わせた。そう、俺が選んだのは電話の方だ。
「藤沢だよな……俺、秋徒だけど……」
「うん、分かってるよ」
なんだか言葉が続かないな。きっと向こうも分かりきってた事だろうに、俺はそれを言ってしまった。愛が出てから俺は気づいた。何を言えばいいのか何も考えて無かったって事を。
あ~こういう時は当たり障りの無いことでもまずは言うべきかな。
「今さ着替え終わったんだけど、スオウの奴居なくてさ。ってスオウってのは俺の友達何だけど……多分ダークヒーローの中身やってたと思うんだ――て、知ってる?」
「ううん、知らない。だって私達、今日初めて会ったんだよ」
「ああ……そうだっけ」
意外ともう、すんなり吐いてくれそうな気がしたがそうでは無いらしい。どうやら隠し通し続けるみたい。愛の声に迷いは無かった。
「……」
耐え難い間が続く。会話の糸が切れたな。何かを喋らないと終わりそうなこの時間。目に見えないか弱い電波が心許なさすぎる。
僅かに動いてる雲。照りつける太陽。眼下に見える世話しなく動く人と途切れることの無い車の波。時間は確実に時を刻み、隔たる距離は加速するような気がする。
「なあ、今どこにいるんだ?」
迷っててもどうにもならない。俺はそれを知ってるはずだ。口に出した言葉は確かに届いたのだろうかと、不安になるほど向こうは静か。
時折聞こえる音は何の音だろう。それが分かれば愛が居る場所も分かるかも知れない。愛が素直に答えてくれなかった時の為に、俺は電話の向こう側に耳を澄ます。
けどその時待ちわびた声が変な事言った。
「じゃじゃ~ん! 秋徒君、愛ちゃんクイズです」
「は? 何だよいきなり」
拍子抜けするようなアホッぽい調子の声になんだか安心感が広がる。思わず口元が少し上がった。でもそれを悟られたくない……って思ったら見えるわけは無いか。
「なんとこのクイズに答えていくと、ミステリアスな愛ちゃんの謎が明かされて行く――かもです!」
「かもってなんだよ」
それにミステリアスって自分で言ってるし。最初に会った時のアホッぽい行動が頭に浮かぶ。あれも有る意味ではミステリアスだった。
そして愛は俺の声に応える事無く話を進める。
「では、じゃ~じゃん! 第一問、愛ちゃんは今何年生でしょう?」
「は? え? 高一位?」
見た目はそんな感じだ。顔はあどけない感じだし、何よりも行動が奇怪だから先輩という印象からは皆無だった。けど、だからと言って中学でも無いような発育が見て取れた様な……特に胸部辺り。
まあ、最近は中学でも発育の良い子は居るから一慨には言えないが、有る意味愛は整った体してたと思う。ワンピースだったけど……そこは想像と言う境地で補った。
妄想とも言うけどな。まあだから、高一。大人未満、子供以上みたいな。丁度この辺りの感じがするよ愛は。
「ジャンバラジャンバラ」
「は? おい、その効果音はなんだ?」
電波に乗って届いたのは謎の言葉。なんだ? 宇宙の電波でも受信してるのか?
「不正解の音」
「お前のセンスを疑うぞ!」
「ん~? 音楽性の違いって奴?」
「その不思議な言葉を音楽と言うのが失礼な気がするけどな」
確かに俺と愛はいろんなズレが生じてるとは思うが、そういう事じゃないだろ。なんで不正解で「ブッブー」じゃなく「ジャンバラジャンバラ」なんだよ。
どういう選択だ? その音は同じカテゴリーに収まって無いだろ。
「もう~、秋徒君は本当に細かい所にこだわるよね。男なんだから大きくなろうよ」
「そうか? あれは誰もが突っ込む事だと思うけど……」
結構大きかったぞ。受け流してたら気になってしょうがない……ってこういう所がせせこましいのか? 自分的には大きなつもりなんだけどな。
周りが周りだから許してないとやっていけない事が多々あるし。特に日鞠の注文はいつも無茶が過ぎる。流石に高性能のCCDカメラをあの台数ってのは……資金も少なかったしな。良くやったよ俺。
だから俺は懐具合は大きな筈だ。まあ、俺は愛と違って自己評価を口にはしないけど。
「もういいです。取りあえず不正解だからね。私はなんと大学一年生の十九歳だよ」
「は!? マジで!?」
「マジマジ」
今日一番の驚きかも知れない。年上は無いと……せめて一つか二つ位なら許せたけど、大学生ってさ……信じられん。
けど、一応まだ二十歳じゃないから予想的には範囲内なのか。だけどあれは心配な大人に成りそうな感じだな。まあ取りあえず。
「俺おもいっきりタメ口だったけど敬語の方がいいかな? いや、いいですか?」
「ううん、別に今まで通りで良いよ。いつも通りが一番――って言うか、秋徒君がそんなに驚くなんて意外だな。私こんなにお姉さんオーラを出してたのに」
「……はは、そうだっけ?」
そんなオーラは一度も感じなかったが。愛の今日の行動のどこを振り返ってもそんな所……ああ、一つ思い出した。カフェでお茶をする姿はそういえば上品で大人びてたかも知れない。
一体どこが愛的にはお姉さんオーラを放出してた部分なんだろか?
「ほ、ほら。ブラジャーあげたアレとか……きっと高校生には出来ない大胆さと色気を感じたんじゃないかな。うん、お姉さまって感じ」
うん、変態って感じなら感じたけど……あれでお姉さまとはなり得ないだろ。初対面の男にブラを渡す変な人だ。 大胆すぎだし……色気は確かにブラからは感じたかもな。残り香とか。
「そんなことより、じゃ~じゃん! 愛ちゃんクイズ第二問。愛ちゃんの趣味は何でしょうか?
1、読書 2、水泳 3、乗馬 4、フィンシング 5、ゲーム
さあどれ!」
「え~と、読書?」
何だか愛は運動全般が苦手そうだし、ゲームは想像できない。唯一抵抗無く想像できてしっくりくるのは読書くらいだ。思い出したあの優雅なティータイムの情景には本があってもおかしくない!
「ポカホンタスポカホンタス、不正解!」
何か微妙に変わってる。いや結構な変わり具合だけど、ニュアンス的に微妙なんだ。でも突っ込むのも面倒だから放置で。
「正解は1~5、全部です! 私に苦手などありません」
「いや、まあいいけど。全部ってありかよ」
またまた結構信じられない。水泳――溺れそうだし、乗馬――落っこちそうだし、フィンシング――ティーカップより重い物持てなさそうだし、ゲーム――トランプの事か?
「私のクイズなんだから私がありって言えばありなんです。ちなみに後はピアノとかもあります。幼少期からいろんな習い事させられてましたから。
ゲームはここ数年ですけど……」
ん? なんだか声のトーンが少し後半落ちたような……電話越しじゃ表情が知れないから分からない。
「さて、それでは気を取り直して第三問! じゃ~じゃん愛ちゃんが近年趣味に加えたゲームですが、それはどういうゲームでしょうか?
1、ボードゲーム 2、スティックピコピコみたいなゲーム 3、フルダイブ型のMMORPG
さあどれ!」
明らかに2のゲームって適当だよな? 余り知らないのを無理矢理数合わせに言った感じが丸解りだ。多分普通のテレビゲーム何だろうと思うけど、これなら2は除外だな。
1はある意味想像通りかも知れない、けど3も怪しい。2を余り知らない奴が3を出せるか疑問なんだ。それにやけにはっきりしてるし体験者な感じがする。
TVや雑誌で良く取り上げられてるから言葉だけなら知ってるという可能性も無くは無いが、俺は思うんだ。このクイズってもしかして、俺に対してのメッセージじゃないのだろうかと。
「い……ち、いや3だ!」
「メタコラパクス~大正解! これで初めて秋徒君は愛ちゃんポイント10Pを獲得です。愛ちゃんPが五十貯まると極秘情報の開示が出来るから頑張ってください」
メタコラパクスが正解の音ってやっぱり愛はズレてると思う。それに愛ちゃんポイントって何だよ。初めからあったのかその設定?
「その極秘情報って何?」
一応聞いてみる事はする。女の子の口から極秘情報って言われるとなんだか気になるじゃないか。女子が隠しておきたい事と言ったらアレか? スリーサイズとか。それはなかなか興味をそそる情報だ。
けど、次に何気に発せられた言葉に俺はしばし固まった。
「それは私の居場所です。五十P貯めたらもう一度、会えますよ」
それは暗にもう会わないと言ってる事と同義だ。肌に再び浮かんできた汗が頬を流れ落ちていく。
「それでは第四問。じゃーじゃん。愛ちゃんがそのゲームを始めた理由は何でしょう?
1、現実逃避 2、憧れ 3、別人に成りたかった」
少しだけ、電話の向こうから感情が漏れだして来たような気がした。しみじみとした声に聞こえたから、そう思っただけかも知れないけどな。
それに今回は普通に難しい。フルダイブ型のゲームにはそれらの理由の人が五万と居る。だから全部? とも思えるが……もしも愛がアイツなら。
「1と2だ!」
「ヘポホ~ポ~ロン。大正解だよ。愛ちゃんは当時、いろんなしがらみがイヤに成ってたの。だからある日知ったそのゲームに逃げ込んだの。勿論憧れも有った。
けど3が無いのは愛ちゃんはそこではあり得ない筈の自分を見てほしかったからです。良くできました。ボーナスで20Pあげます。これで30Pだね」
正解音もまた微妙に変わってるが、それを気にするよりも愛の喋った内容の方が重要だ。疑惑は確証に変わりつつある。
リアルの事は向こうでは余り話さなかったが、内面の事は少しは聞いてたから……目を閉じると浮かんでくる気がする。アイツの姿が。
「それでは第五問。じゃ~じゃん。愛ちゃんはそのゲーム内でとっても中の良い友達が出来ました。だけどある日、いろんな事があってその友達は愛ちゃんから離れて行きました。それは一体誰のせいだったのでしょう?
1、愛ちゃん 2、友達 3、友達ツー」
これはもしかして決定的かも知れない。責めてる・・訳じゃないよな。ならこれは……
「2だろ」
「アホポンタス! 不正解です。正解は選択4の“誰のせいでも無い”です。あの時は愛ちゃんを含めてみんなが急ぎすぎたんだよ。そしてズレ出した事に気づかなかった。だからきっと誰も悪くないよ」
また効果音が変わってるし罵倒に成ってる。そして4なんて無かった。けど……それら全てがどうでも良くなるくらいに、俺は電話越しの言葉に聞き入っていた。たとえ誰も悪くないなんて事は無いと俺が知っていても。
「では、これが最後の問題です。ふがいない秋徒君の為に最後は20Pあげましょう。じゃ~じゃん。愛ちゃんは現在絶体絶命の大ピンチ状態です。
けどそれはゲームの中の事。今夜行かなければ良いだけだけど、愛ちゃんは行くことを決めています。それはどうしてでしょう?
この問いに選択肢は有りません。ヒントは今日これまでの時間全部です!」
「これまでの時間全部?」
たった半日位だがそれでも全部と言われると首を捻りたくなる。何をした? ブラジャーを貰って、かき氷食べて、ヒーローゴッコをした。二つくらいは高校生と大学生がやる事じゃない。
愛はきっとアイツだろう……それならアイツが行く理由……待つ答え、それは俺の中に有ると思う。アイツはいつだって俺を信じて待っててくれた……なら!
「答えは俺……いや、ヒーローを信じてるからだ!」
俺はきっと電話越しなのに予想以上に大きな声で叫んでた。通りを歩く人たちがチラホラこちらを見る視線が当たってた。
まだ待っててくれるのならこれしかない……そう思える答え。あれだけ裏切っておいて何様だけど、俺は願うよ。そうであって欲しいと。
そして長い沈黙の後に答えは訪れた。
「リックラックラ~! 大正解! 愛ちゃんはいつだってヒーローを信じてる夢見る女の子なんだよ」
「……アイリ」
俺は思わずそう呟いてた。
「違うよ私は愛。20P獲得おめでとう。それでは極秘情報を開示しましょう。私は今……駅に居ます」
俺は転げ落ちそうに成りながら階段を駆け降りて通りを走った。何事か? と向けられる視線を全て無視して駅を目指す。そこは目と鼻の先だ。
だが途中で信号が俺の前に立ちふさがる。その時、そのまま手に握ってた携帯から声が聞こえるのに気付いた。
「愛! そこに居ろよ!」
「ふふ、初めて名前呼んでくれたね。でもごめんなさい、時間切れです。もう行かなきゃ」
信号が変わり暢気な音楽が流れて人の流れが始まった。俺はそれをかき分けるように進みながら電話に叫ぶ。
「後少し! 後少しなんだ! 届くんだ今度こそようやく! だから!」
「その言葉が聞きたいのは今じゃないですよ。だから待ってるの。信じてます。今日はありがとう、そしてさようなら」
ツーツーと虚しい音が漏れていた。踏み行った駅を幾ら探しても愛の姿は無く、流れ出た電車の後の疎らな光景だけがそこにはあった。
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
4
-
-
140
-
-
89
-
-
4
-
-
1278
-
-
112
-
-
9
-
-
37
-
-
63
コメント