命改変プログラム

ファーストなサイコロ

幾度の心がヒーローの証



「ヒーロー?」


 思わず自分でそう呟いた。けど、そいつはヒーローにしては随分と暗い色をしている。言ってみればブラックだ。そいつのヒーロースーツは俺のと寸分違わないデザインなのに色だけは真っ黒だった。
 煙が消え去った会場からはそこかしこから困惑の声が聞こえてくる。そして当然俺も困惑中だ。けど、今までの流れから察するにつまりは今目の前にいるのは、俺と言うヒーローの心の闇とかそう言うの何だろう。
 つまりはこいつがこのショウの最後の敵とみて間違いない。


「違うな……」


 その時、不意に目の前の黒いヒーローから声が発せられた。そのいかにも厳かと言う感じで発した言葉で会場が続く奴の言葉を聞くように静まり返る。
 そして俺も……確かめる為に目の前の奴の言葉を待つ。すると奴は腕を大袈裟に振って右手を俺に突き刺して来る。


「私はヒーローではない! 私は貴様の闇の部分……そう! ダークヒーローだ!」


 ババババン! とこれが特撮アニメなら入ったであろうカメラアングルの違いが目に浮かぶ様だった。そして会場の子供達はその言葉に驚愕と興奮を覚えて大絶叫中だ。


「ダ、ダークヒーロー! なんて事……」


 後ろの方で膝を付いた愛が震える声を出した。ダークヒーローか。俺もそれに驚ければ本当に良かったんだけど……俺は半ば声を失っていた。
 何故なら俺は、この目の前のダークヒーローを良く知ってると思うんだ。マスク越しだし声や口調も意図的に変えてるが、それくらいで騙される程安い関係じゃ俺達はないだろう。
 このダークヒーローの中の奴は間違いなく『スオウ』だ。今まで電話越しに命令を下してた奴が遂に黒幕として登場したと言うことか。
 スオウがこんな事をやるのは珍しいが、俺的には好都合だな。さっきから鬱屈してたんだ。だからそれを晴らす最高の材料が目の前にあるのは良いこと。このショウの上なら俺が悪を成敗するのは必然。勝利を手にするのは絶対的に俺だからだ。


「ダークヒーローだと? 貴様が俺の心の闇なら、貴様を倒すことで俺は真のヒーローに成れるって事だな」


 俺は握っていたハリボテの剣を目の前のダークヒーローに向かって突き立てる。「おお」と言う声が客席の方から聞こえて、これから始まるだろう二人のヒーローの戦いに期待を膨らませているのが分かる気がした。


(その期待は裏切らねーよ)


 そう心の中で呟いて、目の前のダークヒーローを黙って見つめる。俺達は互いに視線を確認する事は出来ないが、奴もこっちを見てるのは分かる気がする。そしてそれは多分スオウも同じだろう。


「ヒーロー……」


 後ろから不安を乗せた愛の声が届く。だが、振り返る事はしなかった。何故なら、俺は異様なプレッシャーを感じてたんだ。張りつめた空気がそれを助長してるのかもしれないが、明らかに目の前のダークヒーローから俺はそれを感じてた。
 そしてこの感じを怖いと心が叫んでるのが分かる。この感じは四日前位にガイエンと対峙した時と感じが似ている……そう思った。
 そしてそれをスオウが発しているという事実に俺は驚愕する。こんなスオウを俺は知らない。


「くくく、真のヒーロー? この私を倒す? 出来る物ならやってみるがいい。私はお前、お前は私だと分からせてやろう。
 そして貴様の力の殆どが闇側に有ると言うこともな」


 そう言ってスオウもといダークヒーローは背中から二本の剣を抜き去った。二刀流……それは奴のアドバンテージだがLRO内だけの事だろう。
 ゲーム内で出来る事がリアルでも出来ると思うなんてまだまだ初心者だなアイツ。まあ、俺も最初の内は棒振り回してスキルが発動する様な気がしてた事も有ると認めよう。
 けどここはやはりリアルなんだ。俺達がLROで使えている剣技や魔法は全てシステムの補助で出来ること。リアルにその経験が影響される事はない。
 つまりは幾らLROで熟練されたプレイヤーでもリアルに返ればただの人って事だ。まあ、何のスキルも使わずにただ武器の扱いだけで上まで登り積めた様な奴なら、リアルでもその経験が生かせないでも無いのかも知れないが、それこそ何千時間とプレイした結果だろう。
 まだまだ一ヶ月にも満たないスオウがその域に達してる事はあり得ない。だからダークヒーローを恐れる事なんか何もない……筈なのに、俺の足は自然と下がっていた。


(何でだ? リアルでも俺がスオウに喧嘩で負けたことなんか無いのに……この変なプレッシャーのせいか?)


 二刀を握ったダークヒーローからは更に凄まじい何かが放出してる気がしてた。だからきっとそれに当てられたんだろう。ビビること何てないんだと、俺は足に力を込めて前に戻す。


「ふざけた事抜かすなよダークヒーロー! ヒーローの力は光の中にこそ有るんだ!」


 俺は片手を天へと掲げて見せた。そこには世界を突き抜ける様な蒼天の空に、筆で神様が無理矢理にでも書き加えたような大きな入道雲が異様な白さでその存在感を浮きだしている。
 そして何よりも凄いのは、指の直上……天蓋の遙か先からでもその存在で俺達を照らす太陽と言う光。最近はさ、この太陽が宇宙に有るって言われるよりも、LROの様にデータで作られた虚像だと……そう言われればそれでもいいかと思ってた自分だ。
 ヒーローで有ろうとしてた時、ヒーローを憧れてた時代、そんな頃には光ってたものを常に求めてたのにな。今の俺にはこの光は強烈過ぎるほどの物だ。自分で言った言葉に「その通りだな」と思い、確かにそうではなかった自分の剣を見やった。
 これはハリボテだけどさ……LROで俺が握ってたのもしょせんは幻だ。そう変わりはしないだろう。今の俺はあの頃と同じなのかも知れない。
 俺は今でも、この口でアホな事を口走ってるんだからさ。唯一違うのは、それを信じてるか、信じてないかだけだ。そして再び、俺はあの頃の様な言葉を乗せて武器を構えてる。
 覚えるのは苛立ちの様な感情。それを向けるは幸い、目の前の奴。これはいわゆる「久々に本気でやろうじゃねーか」とかいうアイツの誘いか?
 上等だよスオウ……いや、ダークヒーロー!
 俺達は互いに獲物を構えたまま動かない。別に動かなくても体力が消費されていくのがこのスーツの恐ろしい所だ。顔を隠すマスクが世界を薄暗く染めている。
 その時、額から伝った汗が不意に目に流れてきた。反射的に一瞬目を閉じる――そして開けた時には目の前にダークヒーローの姿が無かった。


(どこに!?)


 マスクに寄って大幅に狭くなった視界では舞台を見回すだけでも数瞬掛かる。だが、それじゃ遅いだろう。ダークヒーローの攻撃は今直ぐにでも来るはずだ。


「「「ヒーロー! 下だぁぁぁ!」」」


 届いた声は会場の子供達からの物だった。俺は反射的に顔を下へ――すると見えた。奴が左右に握った右側の剣を俺めがけて振り上げる姿が!


「うらあああ!」
「くっ」


 俺はその剣を自身の剣を使ってブロックした。二つの剣がぶつかりカンッ!! と言う乾いた音が響く。俺達の持ってる剣はどっちも結局芝居用だからな。聞き成れた甲高い音が鳴る訳はない。けどそこは効果音の出番だ。
 そして剣の重さは効果音と比例していた。俺は受けた瞬間に慌ててもう一方の腕を添えて弾き飛ばされるのを防いだ位だ。
 俺達は舞台の中央で組み合う形に成っている。剣と剣での鍔迫り合い。けど、それは違った。何故ならダークヒーローは二刀流だからだ。
 防がれた剣はあっさり引き、そして反対側から凪いだ剣が俺の腹に入った。いやマジで。勢いを殺すことなく横っ腹にめり込む感触が脊髄を貫いて脳を犯す。


「ガッハ……お前……」
「おいおいヒーロー。そんなもんかよ」


 冷たい声に俺の背筋が凍り付く。膝を付いたその横からも次いでの攻撃が襲い、ダークヒーローは俺の頭の側面を剣で殴った。


「ぐああ!!」


 会場全体がその光景にどよめくのが聞こえた。マスクを被って無かったら血が吹き出してもおかしくないと思える程の衝撃だ。
 頭がクラクラする……目の部分にまでヒビが入ってるじゃないか! あのダークヒーロー、ショウという物を分かってない。
 こんなマジ攻撃なんかしたら観客は引くだろう。普通は打ち合わせでどういう攻撃をするかを入念にシュミレートして、それに合わせて受ける側も体を動かす物だ。
 当たってないけど、当たった様に見せる。そういう物なんだよ! 
 こいつ本当にスオウか? と疑問が頭に浮かぶ。幾ら何でも親友をここまで本気でぶっ飛ばすなんて信じられない。けど、ある意味……俺をこんなに本気で殴るのもコイツしかいない気もする。
 それに実を言うと、俺も本気でこのダークヒーローを殴ろうと思ってたんだ。


「はは……」
「なんだヒーロー? もう壊れたか?」


 痛む頭の中で思わずこぼれた笑いにダークヒーローは目敏く反応する。ああ、やっぱりスオウだな……そう思った。今のコイツはムカつく。時々妙にスオウはムカつく時がある。それと同じ感情が今沸いてるから確実だ。
 お互いを有る程度知ってるから出る感情の一種。
 俺は自分の剣を握り直して悠然と立つダークヒーローに言い放つ。


「お前なんて認めない。ぜってぇ倒す!」
「やれるのかよ。無くしたヒーロー?」


 俺は奴に斬り掛かる。それと同時に、復活したヒーローに会場が沸いた。俺は本気で剣を横に滑らせた。手加減? 寸止め? なんだそれは。奴がそうするのなら俺だってそうするさ! 殴られるだけ殴られて、泣き寝入りなんかしたくない。
 けど……俺の本気の剣は奴にクリーンヒットしなかった。幾ら剣を振っても凪いでも、奴はかわし受け止め、二本の剣で縦横無尽に反撃に転じる。
 そんな筈は無いと思いたかった。だけど……これは決定的だ。スオウはLROでの経験がリアルでも生きている。俺が今までコイツを向こうで見てきた剣の筋と同じ……一ヶ月にも満たない、ましてや一年以上やってる俺ですらそんな影響は無いのに、スオウにはLROの出来事がそれこそ経験値の様に貯まっているみたいだ。


(まさか、もしかしてこれは……命を懸けた代償の副産物?)


 スオウは浸透率がどうとか言ってたが、もしかしたらそれの影響なのかも知れない。アイツは時間は短くても、普通のプレイヤーよりも深くLROと繋がっている。
 それこそ、向こうでの死がだんだんとリアルに近づく程にだ。アイツは意識だけじゃなく、身体ごとLROに持って行ってるみたいな物なのかも知れない。
 だからこその死のリスク……けど、それこそまさに本当の『フルダイブ』と言える物かも……俺はそれを考えて再びゾッとした。


「どうしたヒーロー? まだ一太刀も私に届いて無いぞ」


 その言葉通り、俺は既に防戦一方に成ってきてた。LROでの戦士のままで居られるスオウと、リアルではただの高校生の俺……それは天と地程の差がある。


「なんで……なんでこんなに強いんだよお前」


 俺が思わず呟いた言葉はダークヒーローに向けた言葉じゃない。それは中身のスオウに向けた言葉だった。けどしかし、スオウにとってはそんな事はどうでも良かったのかも知れない。


「それはお前が強かったからじゃねーの? え、ヒーローよ。逃げ出す時にそんな事も忘れたか?」


 スオウの声に迷いは無かった。真っ直ぐに、そして直に俺の心を突き刺す言葉を奴は発する。スオウもヒーローにではなく、俺に向かってその言葉を言っている。
 けれど内容的に間違った事を言った訳じゃないからショウとしてもまだ成立している。観客の誰もこれがただのショウだと疑わないだろう。そして今のはその台詞に過ぎない物だとさ。
 けど実際は、そんな都合の良い台本なんて無い一人の高校生を引っかける為の大袈裟な仕掛けなんだよ。スオウは確実に俺をLROに戻そうとしてる。
 コイツは待ってるだけと言ったのに……そんな言葉を変えさせたのは多分アイツだろう。
 俺はスオウの剣撃を受けながら視線を後方に向けた。そこには愛の姿がある。心配そうな顔で、両手で祈りを捧げる様にしてこちらを見てる愛。今日という日の始まりは愛だった。あの日から新しく加わったのは愛だけだ。
 だから当然、こんな事を促したのは愛の筈。愛はやはり……俺はそれを考えて、だけど考え終わる前に無理矢理前に出た。
 意表を突かれたスオウもといダークヒーローの剣が空ぶる。そこに乗じて俺は渾身の一撃を振り下ろす。だが、それすらもかわされて、奴の剣が肉に食い込んだ。
 カウンターの要領ですれ違いざまに重い奴を貰ったみたいだ。俺は剣を落として地面に四つん這いに倒れ込む。


「くはぁっ……そうか? なんでお前にそんな事わかるんだよ……」


 絞り出した声はピンマイクが無ければ誰の耳にも届かない位の声だった。情けないヒーローに子供達の声が届くが動ける気がしない。
 俺は今はただの高校生なんだ。中身はゲームオタク。


「言っただろう。私はお前だと。だから私は知っている。お前が強いヒーローだとな。だが常に自信が無いのも俺は知っている。
 だからお前は無くしたヒーローなんだよ」


 俺を知っているらしいダークヒーローは俺の心を漏らすように喋りやがる。一体こいつはどこまで知ってるのだろうか? 


「無くしたヒーローか……確かに今の俺はそうだろう。どうやら俺の力はお前に持って行かれたみたいだしな。それでも……何か出来ると少しは足掻いてみたけどな」
「そうだな。全然だが、惜しいところまでは行ったと認めよう。最後の一太刀はなかなかだった。だが
それで負けを認めるのか?
 なかなかで逃げ出すかヒーロー? お前はヒーローだろう」


 俺たちはきっとあの時間を言っている。それは俺がスオウを誘ってLROで起こった様々な出来事の事だ。あれは俺にとっては足掻きの様な物だった。そしてそれをスオウは惜しい所までは行ったと言う。
 そして逃げ出すのか? と。


「無くしたヒーローだ」


 全てはこの言葉で片づいた。


「そうか、ならもう一つ無くしてやろう」


 そう言ってダークヒーローは愛にその剣を向けた。


「お前何を!?」
「貴様の大事な者を奪う。もう一度、いや何度だってだ。わからせてやろう、逃げる事に意味など無いと。私は貴様の“逃げ道”を無くしてやる!
 満足だろう! 貴様は無くしたヒーローなのだから!」


 奴の剣が愛に迫る。堅く目を閉じた愛は今も願っていた。一体何に? それは決まってる。これは俺にも分かる。愛はヒーローが助けてくれる事を願ってるんだ。
 いや、この場合は信じてる? なんでそこまで……その時、不意に愛の手が解けた。祈りの態勢じゃ無くなった。そして視線は剣じゃなく後方の俺に向いている。
 それから愛が浮かべた表情がいつかのアイリと完全に重なった。それはもの悲しそうな表情。あれは、あの日に、俺がアイリに見放された瞬間の顔だった。


「う……あああああああああああ!!」
「ぐあぁ!」


 俺は無我夢中で後ろからダークヒーローに突っ込んだ。それはヒーローにあるまじき格好悪さだったに違いない。けど何とか寸前で愛を守る事が出来た。
 俺は無様に息を荒く吐きながら退かしたダークヒーローの立ち位置に両手両足を付いている。それはあたかも、ふられた女を必死に繋ぎ止めようとする絵に見えなくもない。


(俺は何やってるんだ? イヤでも、これはショウで……だけどアイリが……)


 頭が混乱してる。これも全部スオウのせいだ。俺は出来る物なら今直ぐにでもこの場から逃げ出したい衝動に駆られていた。守った安心感より、あの顔をもう一度見るのがイヤなんだ。
 だけど、次に振ってきた言葉に俺の心は揺れ動く。


「ヒーローはやっぱり、私を見捨てないで居てくれた……ありがとう」


 それは考えつきもしなかった言葉だった。ショウの最中で、観客が居ることも忘れて俺は取り乱す。


「は? え? 何言ってんだ? だって……俺に幻滅した筈だろ。俺の様なヒーロー、信じれなく成ったはずじゃ……」


 愛は首をフルフルと振る。そして膝を折り曲げると、俺に目線を合わせるようにして優しく言葉を紡ぐ。何故か目尻に涙まで貯めて。


「そんな事ない……私はずっとずっとヒーローを信じ続けるよ」


 地球に寄りすぎた太陽を引きずり下ろせそうと思える程の衝撃が俺に走った。意味は分からないがそれ程の衝撃と察してほしい。
 この言葉を言ったのは愛でアイリじゃない……それは分かってる。だけど聞こえたんだ。重なったんだ。愛とアイリが……そしてあの時の俺が。
 涙が一筋流れる所まで、何もかもが完全に一致した様に見えた。もしかして俺がアイリに見捨てられた思ったあの顔も……アイリが俺に見捨てられたと思った表情だったのかも知れない。
 それはとても都合の良い解釈で確証なんて何もない。だが……もしかして俺は、まだ何一つ無くしてないのかも知れないと思った。僅かに胸で何かがくすぶる音が聞こえてる。


「本当に……俺の様なヒーローでいいのか?」


 それはただ何かを確かめたかったから出た言葉。アイリじゃないが、愛の言葉なら俺は信じれる気がした。このくすぶりに一つの結果をくれる様な……そんな感じが。


「私はヒーローが良い。ヒーローじゃなきゃやだよ。無くしたヒーローで、みんなから頼られなくなっても……その時は私だけを守るヒーローで居てください。
 たった一人を守れれば、きっとみんなも守れるよ。そしたらもう、無くしたヒーローのなんて言われない。だから今は、無くしたままのヒーローでもいいんです」


 その言葉は心に深く空いた穴に杭が一気に打ち込まれた様な感覚で俺を貫いた。だけど痛みとかじゃない。用意されてた穴にコツコツトントンとやっていくんじゃなく、一思いに全力の力で打ち込んだのが一発で綺麗に収まったんだ。それは清々しいと言える程の物。


「ありがとう。必ず守ってみせる」


 俺は小さくそう呟いて、立ち上がる。振り返るとそこにはダークヒーローが待っていた。


「お前はヒーローか?」


 おかしな質問が来た。だけど俺は迷わずに「ああ」と答えた。


「では守るのか? 守れるのか?」


 また同じ様な質問。俺は「ああ、絶対に」と答えた。


「実は私もヒーローだ」


 次いでは何か驚愕の事実っぽい効果音が入ってそう言った。俺は微動だにせず「知ってる」と答えた。ダークだけどヒーローだからな。それは俺の力らしいし。


「そうか……なら――」


 俺達の雰囲気は何かおかしな感じだった。さっきまで戦ってた敵とは思えない。寧ろ同級生と下校時に何気ない話をしてる感じだ。
 けど、次の言葉でその居心地の良い感じに終わりを告げる。


「――ヒーローは二人もいらないと思うだろ?」
「……ああ」


 俺達はぶつかり合う。その剣と拳に想いを乗せて。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「うらあああああああああああああ!!」


 真夏の熱気が震えて弾けた様な衝撃が走った。どこまでも続く蒼天に甲高い効果音が吸い込まれて消えていく。だけどそれはミスとも思える間違い……の筈だった。
 だって確実にダークヒーローの剣の方が早かった。てか寧ろ、剣と拳じゃリーチに差が有りすぎる。だけどそんな事は傍若無人な監督のご都合主義な台本に寄ってひっくり返された。
 俺に出された監督の命令はただ一つ。


【ヒーローが最後に勝つように……】


 その部分は他の出演者全員と共通してた様だ。おかげでヒーローはそこで輝くことが出来ている。 

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