命改変プログラム

ファーストなサイコロ

友達想い



 カチンと二つの銀スプーンが触れ合い音を立てる。その瞬間俺達は互いに視線が交差した。


「あっ」


 そんな呟きが愛の口からは漏れて、サッとスプーンを手元に戻した。


「ごめんなさい」


 蚊の鳴く様な声で紡いだ言葉。だけど俺は別にそんな事気にするでも無いと思ってる訳だ。だから
「ん……」とだけ返して大福かき氷成る化け物に再びスプーンを刺した。
 スプーンを通して冷気が伝わってきて、また底冷えするような寒さが体を貫いた。すくった氷はほんの僅か。それを口に運んで噛み砕くんじゃなく、転がして溶かす様に今はしてる。それだけでも腹が拒否する様な感じはするけどな。


「残り五分だよ」


 横に立つ日鞠が手でパタパタ自身を仰ぎながらそんな事を言うのがなんだか腹立たしい。それはこの状況が全て、コイツのせいだからだろう。
 何、暑いのか? こっちとしては冷房を切って欲しい位なんだけどな。


「あの……怒ってます?」


 目つきが悪く成ってたのかどうか知らないけど、向かいの愛がそんな事を言った。俺は隣の忌々しい日鞠から視線を外して、俯き加減な愛へと移す。


「別に、怒ってないけど……どうして?」
「私、最初に急がなくても大丈夫……みたいな事言いました。でも実際は全然そうじゃなくて、私もあんまり役に立ってないしで……嘘ばっかり私付いてるなって……」


 愛はどうでも良いことを何故か真剣に考える質の様だ。そんな事を気にするより、自身のブラを俺にあげた事をもっと悩むべきだと思う。女の子としてさ。
 俺は俯いて少しだけ肩を震わせだした愛に驚いて、必死に慰めの言葉を探す。いや、慰めじゃなくても、この変な重りを下ろさせる術を知りたい。なんでこんなに必死なんだよ。
 俺がその場で固まってると愛は器を勢い良く自分の元に引き寄せた。俺がその唐突な行動に思わず
「え?」と発すると、愛はスプーンを力強く握りしめてこう言った。


「まだ間に合いますよね? 私、頑張りますから!」


 すると愛は大福かき氷を次々に口に運んでいく。それは今までの愛の所作からは考えられない下品な行動だ。口の中一杯に氷を詰め込んでは、痛み出す頭を叩いて強引に噛み砕き租借していく。
 しかし、それでも大福がかき氷がみるみる減っていく……なんて事はない。基本、愛の口は小さいんだ。けど、そんな小さな口に次々と氷を詰め込んでいく姿が本当に必死で、痛々しく見えた。
 てか、見てられない。女の子にここまでさせて男の自分が高見の見物なんて出来るわけがない。愛は頭痛のせいで目尻に涙を貯めだしている。
 俺は身を乗り出して自分のスプーンを氷に突き刺してすくい上げた。だけどその時、再びカチンという音が響いた。


「おい、何するんだよ!」


 俺は思わず声を上げる。何故ならさっきの音は俺がすくい上げた氷を愛が自身のスプーンをぶつけて落とした音だったんだ。どういう気の迷いなんだよ。


「ダメ……」


 愛はズムズムと鼻を鳴らしながら宝物の様に大福かき氷を抱えている。そんなに気に入った……って訳じゃないよな? 何せ愛は目も鼻も真っ赤で限界っぽい。
 それでもめげずに氷を口に運び続けていて、それを俺はどうしたらいいのか分からず、無言で見つめ続ける。


「私だってちゃんと役に立って見せるもん……」


 涙を貯めて、鼻を濡らして、愛はボソッとそんな事を言った。それはいつかも聞いた事がある台詞だ。確か向こうLROで、俺とアイリが知り合って数週間位経った頃だった。
 モンスターの密集地帯にうっかり入り込んで、絶対絶命の場面で同じ様な事をアイリは言ったんだ。


『私だってもう、背中を守ってあげられるもん!』


 その言葉に元気付けられて何とか生還出来たんだよな。そして今も有る意味、同じ様な場面かも知れない。結構絶体絶命のピンチだし……俺の財布がさ。
 だから言っとくけど、このままじゃ絶対に間に合わない。愛には悪いけど、それは確実だ。愛の可愛らしい口だけじゃ役不足だよ。
 見てるとそろそろ咲立ての桜の様に鮮やかなピンクを称えてた唇が、青く成っているのがわかる。俺は再びスプーンを向ける。するとそれに愛は目敏く反応した。


「だ、だめ~頑張るから~」
「もう充分だ。知ってるから、頑張ったのはさ」


 俺は強引に氷をすくった。けど何故か愛はまたそれを落とすんだ。意味が分からない。ちゃんと認めたのに、まだ抵抗するか。


「もっと、もっと頑張るの! 私が食べるって言ったじゃない!」


 そう言って更に氷をかき込む愛。なんだか一方的なその言葉に俺も少しムキになってしまう。


「いい加減にしろ! もう充分だって言ってるだろ! てか、お前が食ってたら間に合わないんだよ。それくらい気付!」
「むむ~酷い! 秋徒君って紳士面してる割に酷いよね! 女を騙す詐欺師の一面持ってるよ! ダメですダメです。絶対に私が食べきって、秋徒君の女への評価を改めさせてあげる!」


 なんだか二人とも興奮して来た。不意に放った言葉からお互いのボルテージ急上昇だ。愛は更にしっかりと大福かき氷の器を抱えている。
 服が濡れそうだけどな。白いから流石に濡れたら透けそうな感じて、俺にしては気が気じゃないない。それにブラしてないから男子高校生の妄想が膨らみそうだ。
 けれど今はそんな場合じゃない。一刻も早く、大福かき氷を手にして無理にでも口に詰め込まないと実害が俺には降り掛かるんだ。
 だから俺は愛の腕の隙間から器を掴む。


「上等だ。俺は結構親切に接してたつもりだけどな。苦しそうだからとか思ってた相手にそう言うなら遠慮しねーぞ!」


 俺の言葉にもヒートアップしてる愛は怯まない。氷を詰め込んだ口を強引に動かして何かを言っている。


「ひゅごほごっほー! ひゅひゅごはごひご!」
「何だって?」


 ガリバリゴックン――と咀嚼する愛。


「こっちだってー! 助けるって決意したもん!」
「助けるなら、俺に渡せ!」


 ブンブンと首を振ってそれを拒否する愛。なんだか本末転倒しそうな勢いだ。どうしてコイツは……と俺は思う。すると横から暢気な声がタイムリミットを告げてきた。


「ほらほら、後二分だよお二人さん」


 後二分……それは儚すぎる時間だ。だけど愛は更に燃えて、スプーンを止めどなく動かしている。けれど幾ら何でも彼女だけじゃ間に合わないのは明白……だけど、こちらに渡す気はない。
 それなら!


「ああ! 秋徒君、行儀が悪いですよ」
「今のお前に行儀の事なんて言われたくない! 実害を伴うのは俺なんだ。助けたいのなら黙って食え!」
「うう~助けたいですよ!」


 怒ってはいるが愛は氷の山を減らすのに集中してくれた。俺は愛のすぐ隣に椅子を移動して来てる。手元に寄せるのは諦めて、自身が動く事にしたんだ。
 だからすぐ横に居る愛の香りが微かに鼻孔に漂って来る。勢いが付きすぎたんだ。余計なほどに、俺は愛の近くに陣取ってしまった。
 けど、ここで動くのもまた不自然というか……目の前にでニヤニヤしてる日鞠の視線がまずイヤだ。俺はせめて愛を気にしてない様に見せるために氷に手を伸ばし続ける。


「ふぐぅ!」
「いたっ!」


 二人で同時に頭を押さえた。それでも意地だ。俺達はどちらが先かを競うようにスプーンを伸ばす。体もまた震えだしていた。不意にテーブルに置かれた愛の片手を見ると凄く白い……と言うか青い? 
 それはそうかも知れないな。愛はさっきからずっと食べ続けてるんだ。文句……と言うか、俺を助けると言いながら俺を拒否し続けて食べていた。その結果。


「はぐ……ふみゅ!」


 愛は変な奇声を上げて、それでも食べ続けてる。さっきからスプーンが止まることはない。もう機械的にすら見える。けど、その細く華奢な体はちゃんと血が通って生きてることを示す様に震えていた。
 きっと愛は相当寒いんだろう。薄手のワンピース一枚に冷房の効いた店内でずっとこんな冷たい物を食べてるんだ。当然の反応か。


「後一分で~す」


 日鞠のそんな声が届いて俺は決意する。まずは愛が機械的に動かすスプーンを落とそうと。


「とう!」


 氷をすくいに向かっていたスプーンを俺は横から凪ぎはらった。愛は何が起きたか分からず一瞬硬直して、そのままの姿を保ってる。
 けれど直後に凪ぎ払われたスプーンが床を叩く音が響き、それと同時に愛は自分の手元をみやって俺を睨む。


「なな、何でこんな事するの? そんなに私は邪魔なの? 何の役にも立たない? それでも私は、君の為にっていつもいつも……もういい!」


 愛は一瞬口を噤む様に間を空けた? そして体を回転させて背を向けてしまった。俺はさっきの愛の発言に首を捻る。いつもいつも? それってどう言うことだ? 
 けどそれを確かめる前に日鞠の声が思考を遮る。


「後四十五秒しかないよ秋徒」
「何? くっそ!」


 俺は器に顔が付きそうな位近づけて吸うように氷を運んでいく。これはどうなんだ? 結構ギリギリ……って大福がまだ有るじゃないか! 何という伏兵。これは絶望的だ。
 器の底には溶けた氷と数種類のシロップが混ざりあってなんだか混沌としている。そしてそこに大福まで浮いてるから、食欲が萎える萎える。


「後三十秒」
「うおおおおおおおお! 死なば諸ともだぁぁ!」


 まずは普通の大福を口に含んで器を抱えて混ざり有った氷で喉に強引にでも流し込む。これでかなり咀嚼しやすくなって時間短縮だ。
 けれど大福は後二つ。休む間もなく二個目の抹茶大福を口に含んで再び混沌としてる氷水を利用して強引に胃へと送った。


「後十五秒」
「くあ……はぁはぁはぁはぁ」


 うぐぐぐ、腹がタプンタプン揺れている。吐く息まで冷気を持っていそうな感じだ。口の中は甘ったるくてなんかベタベタしてるしで、最後のイチゴ大福に手が伸びない。


(後……一個なのに)


 ここで屈したくはない。けれど全ての体の器官が拒否してるかの様に感じられる。しかしその時、隣から伸びてきたスプーンがイチゴ大福をすくった。


「これが最後のチャンスです。私は頼りないかもだけど、秋徒君はもっと周りに頼ってもいいんだよ?」
「うげ、何の事だよ?」


 気持ち悪さがこみ上げてくるから愛が言ってる事が理解できない。愛は大福をすくったまま複雑な表情を浮かべていて、怒ってるのか心配してくれてるのかも分からない。


「あと五秒」


 そんな日鞠の声を聞くと、途端に愛の表情が固まった。それはやっぱり俺に対して怒りに見える顔だった。


「だから私に助けられたいのか、そうじゃないのかって事だよ! どうなの!?」


 なんだか今まで見た中で一番強気な愛がここで出て気がする。でも確かに今、勝敗は愛が握ってるんだ。俺はもう限界らしいから、愛がその大福を食べきれるかだ。
 俺は切羽詰まった中で苦渋の決断をした。


「たす……けられたい! 頼む藤沢!」


 どう考えても五千円以上はきついんだ。前の部分は口に出さないでそう言った。だけどやっぱり男として……って部分がどうしても気恥ずかしさを生む。
 俺はやっぱり格好付けたがりなのかもな。
 俺の言葉を受け取ってからの愛の行動は凄かった。小さな口を精一杯広げてイチゴ大福を押し込み、後は俺と同じ方法を取っていた。
 最後は器を高く持ち上げて残りの氷水を豪快に飲み干し「プハァ!」とかやった。愛の中の何かが壊れたのかも知れないと少し心配になった程の豪快さ。
 それを男なら男らしいと言えるが、女は女らしいとは言えないからな。あんなに所作の節々に上品さを滲ませていた愛がここまでやってしまったんだ。
 それは心配になるのは当然。だけど……その時の愛の顔は凄く生き生きとしてた様な感じだった。窮地で素が見えたみたいなさ……それかヤケクソか。
 どっちにしても愛の活躍のおかげて俺達は勝った。


「タイムア~~ップ!」


 日鞠のそんな声と愛の食べ終わるのは殆ど同時だったんだ。その後にすぐに日鞠が「チェ」と舌打ちしたのを俺は聞き逃さなかったが、それを突っ込む元気は無かった。
 そして愛は満面の笑みで俺の方に振り向いてくれた。でも俺は素直じゃなくて……意地悪にも愛の口の周りを彩る氷の跡を指摘して彼女を辱めたんだ。
 顔を真っ赤に染める愛は、背中を向けて口元を拭いて僅かに顔を向けてこう言った。


「もう、こんな事より先に言うことあるんじゃないのかな?」
「ええっと……ありがとう?」
「よろしい」


 尖ってた唇を元に戻して愛は頷いた。俺は何故か胸をなで下ろす。どう言うわけか安心感が襲ったんだ。だけどそれはきっと実害を回避出来たからだと思う。それ以外に考えられないしな。


「あ~あ、私のバイト代が。まあ、しょうがないから達成おめでとう秋徒」
「やる前と違ってテンションだだ下がりだな」


 やる気がなくなったウエイトレスは心底面倒そうに器を下げていく。てかやっぱり自分の物に――と、言うかあの大福かき氷の料金事態があいつの給料だったのかよ。
 なんて恐ろしい事をやる奴だ。


「「あっ」」


 何気に手を動かすと直ぐ側にあった愛の手と指先が触れ合った。今更だけど、俺達は結構な至近距離に居る事を再認識した。
 それは愛の香りが分かる位の距離だ。それはかなりの緊張感。俺は慌てて離れ様として椅子を引いて立ち上がろうとした。けれどその時、椅子の脚が床に引っかかって盛大に転けた。


「いってててて」
「大丈夫ですか?」


 ひっくり返ったみたな形だったから椅子の背にのし掛かって背中へのダメージがかなりある。直ぐに駆け寄ってくれた愛が悶絶してた俺を起こしてくれて、背中をさすってくれる。
 もの凄く情けない光景の様に思えて成らないなこの状況。その時、愛は俺の背中をさすりながらボソッと気になる事を言った。


「本当に、前から何かやり終えたときが一番無防備なんだよね」
「ん? おい、どう言うことだよそれ?」


 俺達は今日初めて会ったはずだ。それなのに前からって発言はおかしすぎる。愛は俺の言葉に動揺しまくっている。


「ええ!? そそそれは……ね」


 次いでの言葉は出てこない。目まぐるしく眼球が動くのは言い訳を考えてるからか? そう言えばこの行動にも見覚えがある気がしないでもない。
 やっぱり愛は……そう思った途端、テーブルの向こうから何やら変な言葉が投げかけられた。


「ヘイ、そこのベストカップルさんよ。ユー達の戦い見せて貰ったぜ。アイの心がこれだけ震えたのは久々だ。そんなユー達にアイからちょっとしたお願いがあるんだがいいかな?」
「「…………」」


 何故か背中の痛みが一瞬で消えた。いや、吹き飛ばされたと言った方がいいだろう。その余りにも奇怪な言葉遣いでだ。それと言葉に合わせるような素振り。
 それは俺達が二人揃って絶句するに値する物だった。ちなみに最初に説明すると、テーブル越しに俺達に話しかけて来たのはカウンターで悲壮してた筈のヨレヨレスーツの人だ。
 でもその印象は間違いだったのかも知れない。だって目の前のこの中年おじさん……どうみても悲壮してる感じじゃない。寧ろぶっ飛んでる。頭のねじが何本か確実にさ。
 愛はその余りの衝撃に言葉もちゃんと理解できなかったらしく「な……何語かな今の?」と俺の耳元で囁いている。まあ実際、それは俺も同感だ。
 俺もこのおっさんの第一声から「はっ?」と思ったよ。そして恐らく自身を指してるであろう英語のチョイスがなんで「ミー」じゃなく「アイ」なんだよ! 一瞬おっさんの名前かと思ったし、もしかして隣の愛の事か? とも思ったじゃないか。紛らわしい。
 おっさんは正面から見るとガタイもなかなか良く、細マッチョって感じで、顔も変な言葉の印象さえなければどっかの実業家と言われれば信じれる位の物を持っている。
 面長だが目鼻立ちはくっきりとしていて、所々に刻まれた皺は老いと言うよりも大人を感じる。タバコか、それこそ葉巻でもふかしてればさぞかし似合うだろう。
 顔だけ見れば。実際はボロボロスーツだから葉巻じゃ様に成らないだろう。


「どうしたんだいユー達? 大丈夫、アイは悪い人じゃないから安心さ。さあ言葉を投げかけてくれ。ユーの魂の叫びを、さあ!」


 俺達が言葉を失ってると続いての言葉が発せられた。おっさんは悪い人じゃないかも知れないし、それは今の段階では判断できない。けど充分怪しすぎだ。
 なんだよ魂の叫びって。俺は充分に警戒しながらようやく言葉を発する。


「あの……取り合えず黙って貰えます? 連れの子が脅えてるんで」


 愛はおっさんの二回目の言葉で完全に不審者と認定したらしい。俺の後ろに回っては寂しがり屋のハムスターみたいになってる。
 だけど俺のそんな言葉でもおっさんはメゲなかった。


「だ、黙ってはユー達とアイの理解は得られない! どんな時でも人類にだけ与えられた言葉こそ、相互理解の鍵! だからアイは分かって貰えるまで言葉を発し続ける事を諦めたりはしない! 聞いてくれユー達! アイは脅える対象ではない!」


 バッバッバ……と身振り手振りを交えて激しく演説するおっさん。その姿勢は立派かも知れないが、どうやら愛が脅える原因は言葉だけじゃないようだ。
 おっさんのその大げさな動作にもどうやら愛は脅えている。つまりは意味不明な言葉と大げさな動作での相乗効果に相成ってる訳だ。本末転倒だな。


「あの、普通にして貰えませんか?」
「これがアイにとっての普通だが? 柔軟性こそ人類の利点と言われてるが、アイはその柔軟性に思考まで乗せるのはどうかと思う訳だ。
 つまりはアイは自身の普通は不変であると決めている。そしてそれこそ世界の普通! アイは今こそ普通だぞユー」


 ああ、もう頭痛い。まさか一日で二回もオカシナ人間に会うなんて、俺の人生経験上初の出来事だ。一人目は今背中で脅えてる愛だがさ……それは許せるんだ。
 愛は俺の中では可愛い女の子の部類に入るし、そもそも女の子とは日に何度も出会いたい位だからな。けどそれが男……しかもオカシナおっさんとなったら話は別だ。極力出会いたくない。
 どうか俺の人生の横をすり抜けて行ってくれる事を切に願う程だ。けどこうして俺の目の前にはオカシナおっさんが登場しちゃってる訳で、これはもう誰かの陰謀としか思えない。
 まさかこのおっさんも……って最初考えたけど、愛は知らない様なんだよな。けどその時、俺はおっさんが手に持ってる携帯に気付いた。そしてそこから聞こえる声は、電話越しでも分かる位に馴染みがあった。


【ちょ……おじさん、本題……題。こっちはもう……備万端なんだから……日……と協力……して……今から……こっちに……】


 スオウ? やっぱりあの野郎の差し金か。俺の人生にこんなキャラは登場しない。そしておっさんは「了解ボス」とか言って電話を切って、それが多分お願いの内容だと思える事を言った。


「ユー達ならヒーローに成れるよ!!!」
「は?」


 意味不明過ぎだろ。どうやらスオウに人を動かす才能は無いようだ。人選ミスにも程がある。しかしその時、タイミングを見計らってか日鞠が再登場。


「ふっふっふ、実は秋徒! さっきの大福かき氷の試練は貴方がヒーローにふさわしいかのオーディションだったのよ! ――よし、完璧だよスオウ」


 口元に持っていった携帯との会話がだだ漏れしてる日鞠。もうここまで来ると言葉の内容もさる事ながら悲しくなってくる。どうやら俺の周りにはアホしか居なかったみたいだな。

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