命改変プログラム

ファーストなサイコロ

日だまれる僅かな時間

「あんた、それ本当に大丈夫なの?」


 不機嫌そうな声で向かいの席から僕を睨むのはセラだ。格好はメイド服……なんだけど、一昨日と違う。ロングスカートだったのに今は膝小僧が見える位の丈になって、なんだかリアルに居る感じのなんちゃって度が増してる。
 暗器使いなのにそれでいいのかと思わなくも無いけど、本人が良いんなら別に僕が口を挟む事じゃないよね。細く長い脚は黒のニーソックスが守るように包んでいて、上半身はフワッとした感じを押さえ目にした体のラインが良く出て風になっている。
 肩を露出して、二の腕から幅の広い布が手の甲まで覆うよう成っているんだ。その先からちょこんと出てる白い指先が銀のスプーンを握りカップの中の紅茶を回してる。
 波紋が途切れる事無く渦巻いて紅茶に何も写らない。それはなんだかここLROみたいだ。今のここの状態を僕達は何も分かってない。
 振り回される側と、それにのっかる奴ら、みたいになっててさ本質が見えない。僕は前者で、いつだってLROに振り回される側だ。そしてガイエンとかは後者と言えると思う。
 まあたまたま重なっただけかも知れないけど、奴はそれにのっかって行動を起こした状態だよ。LRO内では今のアルテミナスの動向は結構な話題の中心に成っている。
 だけどそれはガイエンのクーデターじゃない。アルテミナス国内で起こっているモンスターの大量発生に暴走。そっちがメインに囁かれてて、どうやらクーデターとは認識されて無いみたいだ。 


「ちょっと、聞いてるのアンタ?」
「ん? あ、ああ、聞いてるよ」


 何だか結構深く考え込んでたみたいだ。セラを無視した形になって、更にご機嫌斜めな雰囲気が強まった感がある。視線が棘みたいに刺さる感覚。日鞠の時もそうだったけど、女の子のそういう視線って痛いけどむずがゆくて、居心地が悪くなるな。
 さてどうするか。これ以上空気を悪くしたくないけど、そうならざる得ない言葉が出る。


「う~んどうかな? 僕は信じてるけどね。やることやったと思うし。大丈夫だろ?」
「ちょっといい加減じゃないそれ? 親友なら引きずってでも連れて来なさいよ! それじゃあ最悪の選択肢だって選ばないとは言えないわ」


 まあ確かに、それも無くはない。絶対に秋徒がここLROに再びアギトとして戻ってくるっていう確証までは僕にも無いよ。でも、だから信じるんだ。
 それにセラの意見は強引過ぎだろ。強制なんて意味が無いよ。自分からここに戻る気に成らなきゃ中途半端なだけだし、それじゃきっとまた失敗すると思うんだ。
 そしたら本当にアギトは居なくなる。そんなのは僕だって困る。だから僕に出来たのは背中を押すことと、少しだけ心を持ち上げる位だけ。
 後は秋徒の意志の問題だ。


「アギトの事信じてないの?」
「アギト様の事は信じてるわよ。アンタの事がそれほどでも無いだけ」


 成る程ね。相変わらず厳しい奴だ。少しは信頼を勝ち取った気がしてたけどそこまでセラは甘い奴じゃない。まあ確かに知り合ってまだ数日だし、そんな簡単に人は絆を分かちあえない物だろう。
 窓から木漏れ日が射して僕達を照らす。こっちの日差しは柔らかくて心地よく設定されてる様だ。まあ当然エリアやフィールドによって気候は変わるんだけど、今僕達が居る場所はすごしやすい気候を保ってくれている。
 アルテミナスに戻れない事を知った僕達は取り合えず国と国の中間に当たる地方都市に行くことにしたんだ。ここは結構特殊な立ち位置で、どこの領土にも入らない占領不可地らしい。
 なんでそういう仕様なのかは知らないけど、こういう都市は後二つあると言うことだ。それも国と国の間に同じように作られてるとか。
 そしてここはプレイヤーに依存しないのも特徴らしい。それぞれの種族の国はプレイヤーが開拓出来るけど、ここはそうじゃない。プレイヤーの影響を受けない、いわばNPCの町だ。それかシステムの……と言うべきか。
 だけどそれじゃあなんだか僕は落ち着かなく成るわけだけどね。だってLROと言うシステムはいつだって僕に厳しいからさ。初めは入れてくれないんじゃないかとさえ疑ったよ。
 取り越し苦労だったけどね。都市の名前は『ノンセルス2』どうやらここは二番目らしい。特徴が無いのが特徴の普通の都市だ。まあ、人の国と大差無いって事だよ。基本は西洋風の町並みが広がっている。通りに掛かる国の旗は無い。
 何か物足りない感はあるけどね。それが何かは分からない。周りにはプレイヤーだって一杯居るからやっぱり別に変わらないんだけどそう感じてしまう。
 だけどここを選択したセラ達に間違いは無かったよ。ここはアルテミナスじゃないから、外に出ない限りいきなり刺されるなんて事はない。
 まあ、逃げ出した僕達をわざわざ追いかけてるか知らないけど。それらを確かセラ達が調べてた筈だ。


「で、どうなんだアルテミナス側はさ?」


 僕がおもむろに切り出すと、セラは紅茶を一気に飲んでウインドウから地図を表示させた。ここLROの地図は最初自分の国だけが表示されて、踏破するに従って徐々にその全貌を表していく様に成っている。
 だけど一年経った今でもこの世界の全貌を表した地図は無いそうだ。どういう事だよと言いたいね。そして当然僕のは虫食いみたいに成ってる。だからここはセラの地図の出番だ。


「良いニュースは殆ど無いわよ」


 はなからそんな甘い期待はしてないけど、言葉にされると重く響く。セラの地図はアルテミナスにずっと居たと言う割には結構埋まってる様に見えるな。
 テーブルに浮かび上がる様に表示されてる地図にセラが指を這わせると、その部分が拡大した。どうやらアルテミナス限定にしたようだ。
 見えるのは国土のほぼ中央にアルテミナス、そして首都を囲む東西南北にそれぞれ街があり、その更に端に村がポツポツと点在してる。


「分かってる。それよりこの赤いのなんだよ」
「良く見てみなさいよ」


 僕が指した場所には『タゼホ』と書いてあった。ああ、なるほどね。これはモンスターに襲撃された場所を赤く表示してるのか。だけど……あれ? 次々に地図上で赤い光が増えて行ってるぞ。


「セラ、これって……」


 僕の声はきっと震えていたと思う。だってそれは信じられない事。僕がLROから離れたたった一日でこんな事有り得ない。地図上の赤い光は首都にもっとも近い、街の二つまでに灯ってるじゃないか! 


「だから良いニュースは無いって言ったじゃない。奴らは勢いを増して侵攻してるのよ。止められないわ。このままじゃ後一日アルテミナスが持つかも分からないわね」
「なっ!? 奴は? ガイエンは何やってるんだ? このままじゃ折角手に入れた国が無くなるかも知れないんだろ。防衛してないのかよ?」


 たった一日だぞ。明け渡したとしか思えない。だけどセラはそれを否定する発言をした。


「防衛はやった筈よ。だけど大きな軍を召集したばかりだったし何より、各地で奴らの攻撃は起きたの。それ全てに対応なんて出来ないわ。
 私たちだって見たでしょ? あのデタラメな数を」


 そう言われると口を閉ざしてしまう。確かにあれは思い出すだけで鳥肌が立つ位の光景だった。あんなのが大量に押し寄せてきたら、パニックで応戦なんて出来る筈無いのかも知れない。
 僕達は元々それを承知で向かったから覚悟も出来てた。だけどそこに居たプレイヤーの人達はそうじゃ無かった筈だ。
 だけどこれって、スゴく厄介な事に成ってる気がする。


「なあ、これってどこにセツリは居るんだ? どこ叩けばモンスターの侵攻は止まる?」


 当初はタゼホにその親玉みたいな奴が居るって事だったけど、こうなったらどうだか分からない。僕の頭に話しかけて来た奴、そしてノウイとか言う目が点君が見たセツリを浚った奴。
 それは同じ奴で、多分モンスター共の親玉であろう存在の筈だ。そいつの居場所が分からなきゃ動きようが無い。救いようがないんだ。


「きっとそれをガイエン様達も必死で探してる筈よ。向こうが掴めばそれで良し。城に残ってる侍従隊から知らせが届くわ。
 後はノウイか、あのちっこい人の連絡待ちね」
「そうか……」


 不安がのし掛かる。もしもこのままセツリが消えたらという不安がさ。頭に響いた声はわざわざ知らせて来たわけだしそれは無いと思うけど、せめて無事な姿は確認しておきたい。
 頭に響くあの陽気さが逆に怖いんだよね。何をしでかすか分からない奴……声だけでそう思った。慌ただしく行き交う人々が窓の外に見える。ここは本当に何も変わった様子がない。
 直ぐ近くでLROの中の大国が異常な軍団に攻め落とされようとしてるのになんでここまで何も変わらないで居られるのだろうか?
 やっぱりそれはゲームだから? 電源を切れば抜けられる遊びではこの差し迫った状況も他の大多数の人達にとってはイベント程度なのかもしれない。
 すると僕の視線を追っていたらしいセラが口を開く。


「別に他の人達だって興味が無いわけじゃないわよ。ただどうすればいいか分からない。事態が大きすぎるもの。国の存亡に自分と言う一人に何かが出来ると思える? 
 事態を見守る。それがもっともらしい個人の選択よ」
「……そんなもんか?」
「そんなものよ」


 やっぱりセラは辛口だ。まあ、言ってる事は分かるけどね。何が出来るか分からないし、事情を知らない人達がわざわざ絡んでくること何てないんだろう。ある意味セラはそれを嫌がる気もするし。
 追加注文した紅茶をすすりながらセラは再び広がった地図に視線を注ぐ。すると何かにセラは顔を上げた。そしてウインドウを開く。


「どうした?」
「メールよ。これは……ノウイね」
「情報か? なんだって?」


 机に身を乗り出す僕。もしかしてセツリの居場所が分かったのかも知れない。だけど何故かセラはため息をついていて、返される言葉に期待が持てなく成る気がする。
 てか、言葉を返すのも面倒になったんだろうセラはメールをこっちに向けた。何々――


【もう無理っす! 死ぬ! マジ死ぬ! 帰らせてくださいっす!】


 ――情報も何も無い。ただの泣き言がそこには綴られていた。いや、気持ちは分かるけどね。多分ノウイやテッケンさんは今、四方八方敵だらけなんだろう。
 苦労してアルテミナスから脱出したのにもう一回そこに戻るなんて苦痛でしかない。


「おい、この人大丈夫か? 流石にやばいんじゃないか?」
「大丈夫よ。逃げ足だけは誰よりも早いもの。『ミラージュコロイド』があったからアギト様達を伴って逃げ延びれたのよ。一人なら余裕でしょ」


 サラッとそう言ってのけるセラ。まあ確かにその話は聞いたし、逃げ足で彼にかなう奴は居ないと思う。それに彼ほど偵察やら情報収集に向いてる人は居ないだろう。その部分だけならテッケンさん以上だ。
 それになんだかセラはノウイを信頼してるよな。だってセラは自分が認めない相手は使わなそうだもん。視界にも入れたくないって感じ。
 それを鑑みるに、馬車馬の如くこき使われてるノウイはセラに信頼されてるって事だ。それなら僕とも向かい合ってるし最初よりは関係良好に成ったのは確かと見ていいな。
 セラは手早くメールに返信を返す。きっとキツい言葉でノウイのメールを切ったんだろう。ご愁傷様だ。僕には助けられない。何故なら彼には頑張って貰わないといけないからだ。


「だけどあの『ミラージュコロイド』だっけ? 偵察とか逃げる事だけじゃなくて戦闘にも使えそうだけど。なんであの人はそうしないんだ?」


 それは当然の疑問としてあった事。だって鏡を使っての幻覚と瞬時の移動だよ。それって凄い武器だ。戦闘に活かさないのが不思議な位の代物だろう。
 だけどあのノウイって人はそれをしない。何か理由が有るのか気になる処だよ。するとセラはウインドウを閉じて僕の方を見た。


「さあ、別にただノウイがヘタレなだけじゃない? それか発動中の制限とか、とにかくノウイは逃げる事しかしないから知らないわ。興味も無いし。
 ただ私の求める仕事が出来ればいいもの。だから偵察と情報収集なのよ。ノウイならやられる事がまず無い。情報が必ず生きて届くの。ここが大切」


 う~ん、ノウイには深く同情するよ。これは死ぬまで働かされると今のセラの言葉で感じた。目が妖しく光ってたもん。
 それに知らない興味ないって、そんな物なのか? 以外とその程度の信頼ってなんか悲しんだけど。


「そう? 普通でしょ? 私はちゃんと分けて考えてるの。だからこの程度で良いのよ」


 それはゲームはゲーム、リアルはリアルとかそういうことか? でもセラも結構入れ込んでると思うんだけど……涙を流して僕たちに頭下げた位なんだからさ。
 それとも何か隠してる? ってのは考え過ぎかな。よく考えたらそこまで詮索するほど僕も興味無いしね。一度セツリを助けてくれたようだし感謝もするし、今も彼の力に頼らないといけないのも認める。
 けれど僕達は一度出会ってそれだけだった。まだ一度も言葉を直接交わしてない。だから僕にもまだ彼をどう見るべきか判断できないって感じだ。
 これが終われば友達には成れそうな気はするけどね。


「じゃあアンタが友達やってあげればいいわ。私にとっては部下以外の何者でもないもの」
「あーはいはい、僕と彼はきっと気が合うと思うよ。でもじゃあさ、今の僕達ってどういう関係? なんかセラも立場変わってるじゃん。仲間とか思っていいわけ?」
「はあ!? ちょっとふざけないでよね。仲間って……アンタなんかただの知り合いレベルよ!」


 セラは顔を赤くしながら最後には顔を逸らしてそう言った。アンタって事は僕だけがただの知り合いレベルって事なのかな? どう言うことだよ! 本当に良く分からない奴だ。
 確かに厳密に言えば同じ目的って訳じゃないから仲間とは呼べないのかも知れない。僕はセツリ、セラはアルテミナスとアイリを助けたい訳なんだ。
 それを成すために手を組むのが最良で、お願いもされた。ようは利害の一致って奴だね。だから何だろう? なんて言うんだこういう一時的な仲間ってさ。う~ん、でも結局仲間でいい気もするな。
 同じ目的を目指すのは『同士』じゃね? なら『仲間』ってのは気持ちの問題じゃん。あれ? それだと僕は結局セラに嫌われてるという結論にたどり着くぞ。
 知り合った(たまたま)+お願いした(仕方なく)+仲間はイヤ(僕だけ?)=嫌いじゃん。少しは認められたけど、人としては嫌いで仲間はイヤって事か? 生理的に受け付けないとか? 悪かったなイケメンじゃなくて! 
 自分では可もなく不可もない顔だと思ってたけど不可が有ったみたいだ。


「何遠くの空を見てるのよ?」
「別に……ただ全部上手く行くかなって考えただけだ」


 実は全然違うけど、文句を言うと負けた気がしそうだから別の事を言ってみた。するとセラは重い声でそれに返してくる。


「今の状況だとそれは難しいわね。私たちは国とモンスターの大群を両方相手にするんだから。そんなの考えたって夢の中でも上手く行かないわよ」


 確かにその通りだな。僕達がやろうとしてることはそれほど無茶な事だ。だけど不思議と誰も諦めてないんだから僕達はみんなバカだと思うよ。
 だけどそんなバカだから出来るんだって事をシステムにも、そして玉座でふんぞり返ってるガイエンにも教えてやろう。


「そうだな。まあ、そうなんだろうと思うよ。けど、やらなきゃ行けない。だからみんな頑張ってる。諦めない為にさ」
「分かってるわよそんな事。やりきって取り戻すわ。自分の居場所を必ずね」


 セラの瞳には決意に燃える炎が見える様だった。自分の居場所か……そうなんだよね。セラは有る意味ノウイと一緒の造反者みたいな感じに成ってると思うんだ。てかセラがこの状況に追い込まれてるのもガイエンの策略かも知れない。
 ハメられたか弾き出されたかそう考えられる。セラはアルテミナスで結構なポジションに居たらしく、そしてアイリやアギトを尊敬してた。それはガイエンにとっては邪魔だったんじゃ無いかと思うんだ。
 侍従隊の長でなんだか情報を握れる立場だったセラ。それなら事前にガイエンの不振な動きを捉えておけよと言いたいけど、ここまでの事態の急変は予想外だったらしい。
 そうしてまんまと一度もアルテミナスに戻れずここまで逃げるハメになったんだ。元々僕達と森に行った時から帰す気は無かったのかも知れないな。
 でも、それだとまるで……まさかって事が考えられるんだ。


「なあセラ。お前のその居場所にはもしかして……いや、ガイエンはつまりさ」
「モンスター側と繋がっていた?」


 セラは重い言葉を重くなった口で絞り出す。流石に考えて無いわけは無かった。だってタイミングが余りにも合致しすぎだ。
 そうして一番得してるのはガイエン。僕の頭に声を届けた奴も目的を果たしたとか言ってたし、その線は結構濃厚なんだ。
 ただどっちも手のひらを返したのかどうだか知らないけど、目的を果たした途端にそれぞれを潰そうとしてるから決めかねるけどさ。
 だけどセラはそんな迷いを言葉に乗せない。時計の秒針がやけにちゃんと聞こえて、紅茶の湯気は不自然に揺れた。


「私の中では真っ先にガイエン様を黒く塗り潰したわよ。照らし合わせた情報がそう言ってるもの。モンスターの侵攻と言い、親玉の襲来、そして代わる様にソイツが姿を消した後に軍本体と親衛隊、ガイエン様の到着。
 出来すぎでしょ? そして何より『リア・ファル』王の選定石ですって? そんな物、私は知らない。聞いたことも無いわ。それでも絶対に無いとは言えないけど、タイミングが良すぎよ。
 でももし、あの泉の精が言ったようにモンスター側の親玉がシステムに介入出来るのなら……あり得なくもないわ」
「そう……だな」


 二つを繋げれば全てが噛み合う様な気がする。実際噛み合ってる。後はただ確証が無いだけだ。僕達の間で長い沈黙が流れる。
 僕は殆どガイエンを知らないから何も言えないけど、セラはどうなんだろうか? まさかと思ってるのか、やっぱりとか遂にとか思ってるのかな。
 その時、僕の頭に甲高い音が鳴った。それはメールの着信音。一体誰だ? 僕にメールなんてアギトしかないけどそれさえも今はない。テッケンさんはセラの方に送る様に成ってるしシルクちゃんは今日は入ってない。
 該当者がない中でメールを確認。


「は? え? これって……」


 僕は間抜けな声を出して何度もメールの差出人名を確認する。向かいでは僕がウインドウを開いたのと同時に時間を確認してるセラ。そして「流石時間ピッタリ」とか呟いてる。
 噛んでるなコイツ。僕が困惑の眼差しを向けると僕に普段向けない笑顔を見せてるもん。元から信用してなかったって事か。


「そう言えばサクヤだっけ? その子、城に幽閉されてるらしいわ。上手く終われれば助けられるわ。
 それじゃあ私は明日に備えて今日はもう落ちるわ」
「はあ? 今言うかそれ――ってこれ、間に合うか?」
「大丈夫よ。どうせ軍が揃うのは夜だから。それにモンスター共も動くのは夜から朝方に掛けて充分時間はあるわ。
 えっとね……これってとっても勇気が入ることなの。だからお願い。協力してあげて」


 真剣な眼差しがその目に見えた。そして僕もこれは願っても無いことだ。なら言うことは一つだけ。


「分かったよ」
 

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