命改変プログラム

ファーストなサイコロ

正しい選択



 黒と白が絡み合う。辺りに響く複数の金属音が甲高い音を立てては交錯していた。周りには物珍しげに集まったプレイヤーの群。
 息を呑む人々の空気の中で最初の断末魔が私の耳に届いたのは両者が衝突しあってまだそんなに経ってない時だった。


「うああああ!」


 親衛隊の膝元に崩れ落ちる黒い鎧が私には見えた。そしてそれがキッカケだったのか続けざまに二つの悲鳴がその場に響いた。それは勿論どちらも軍の方からだ。


「――――くっ!」


 隊長さんがそんな風に歯噛みするのが聞こえた。無理もない、ここまでとは誰も思わなかった。軍と親衛隊。何が違うでも無いはずなのに……それはただ単に国の中の更に軍での役割の違いだけの筈……だった。
 国の有事の際に外に向いて国と国民を守るのが軍っていう組織で、親衛隊はその時に中を向いて国の最も偉い人を守る役目って言う単純な、それだけの違い。
 だけど親衛隊は軍の中でのエリート集団なのかも知れないと私は思った。私が良く読んでいたマンガや小説にはそんな一文が多々あった。


【若くして王族付きの親衛隊に上り詰めた彼には人々からの羨望の眼差しが見て取れる】


 みたいな。それを考えるとただの軍より一歩二歩飛び抜けてるのかも知れない。だけど残った二人の内、一人が逃げ(?)ながらそんな私の考えを否定する。


「そんな大層なものじゃないんすよ~。この国での親衛隊はただ単にガイエン様に選ばれた奴らっす」


 ガシャガシャ音を立ててそう言った彼は最初に情けない声をだしたあの人だと分かった。重そうな鎧を着てる割にはとっても軽快な動き……彼は親衛隊の怒濤の攻めを全てかわしていた。
 その代わり、一回も反撃してないけど……だけどそれは賢明な判断なのかも知れない。


「このうちょこまかと! 貴様それでも騎士か!」
「いやいや、あの話が本当なら、あんたらに言われたくは無いすけどね~それ」
「「「殺す!!」」」


 彼は相手をさかなでる事が得意な様だ。自らで窮地を呼び込んでいる。だけど彼に届いたのは親衛隊の刃では無かった。


「ぬおおおぅぅぅ!」
「――――むがぁぁ!」


 轟いた二つの声。逃げ足一品の彼に最初に届いたのは親衛隊に吹き飛ばされた隊長さんだ。二人はぶつかってこちら側に転がってきた。


「大丈夫ですか?」


 足下に転がった二人に心配気に声を掛ける。逃げ足一品の彼はHPをほぼ減らしてないのに対して隊長さんは既に黄色から赤になる寸前と言ったところ。
 そう、親衛隊にも町中でHPを削れる権限があるみたいなんだ。これじゃあ、幾ら何でも勝てるわけない。こちらの攻撃は効かず、向こうの攻撃は通常状態で通るんだから反則だよ。


「ああ、問題ない」
「ありまくりっすよ。なんですかあいつ等のあの力? 勝てるわけ無いっすよ」


 私の言葉に隊長さんは心配掛けまいと振る舞ってくれた様だけど、彼は全然違った。だけど大問題なのは既に私にだって分かってた事だから、それは私も知りたい事だよ。
 なんで親衛隊までガイエンと同じ権限を持って行使出来るの? 
 私が巻き込んだ事で……彼らは一方的なリスクを背負ったんだ。


「お前も言ってただろう。奴ら親衛隊はガイエン様……いいや、ガイエンが自ら選んだんだ。奴はきっとこれをずっと計画してた。
 そしてそんな自分の計画の賛同者を集めたんじゃないのか? それが親衛隊。元がアイリ様直属ではなく奴直属の飼い犬だ。だから――――」
「――――だから、今のガイエンの権限を親衛隊は分け与えられてるって事ですか? そんな……」


 それじゃあ、このアルテミナスで親衛隊に勝てる訳がない。それにガイエンが軍にまでその力を分けなかったのはもしかしたらこういう状況を加味してたのかも知れない。
 ガイエンなんかよりアイリの方がよっぽど人徳有りそうだもん。もしもどこかから奴らの企みが軍にバレて、今こうやって私についてくれてる隊長さん達みたいなアイリ派が反旗を翻した時の保険。
 親衛隊と軍では圧倒的に数が違うだろうけど、今の状況下ならガイエンが信頼する親衛隊が万に一つも負ける事はあり得ない。
 それが数十と万の戦であってもだ。だって奴らには攻撃が意味を成さないんだから。


「分かったか? なら降伏する事だ。まぁ、降伏したところでなぶり殺しにする事にかわらんがな」


 そう言って周りを取り囲む親衛隊五人が武器を私たちに向ける。よくよく考えたら周りに人、プレイヤーだって居るのにこいつらは堂々としてる。
 もしかしたら既にバレる事を恐れて無いのかもしれない。なら益々やっかいだけど……どのみち、私たちが大ピンチなのは変わらない事実としてここにある。
 私達を取り囲む親衛隊の顔には爛々とした色が見えた。そんなに見下すのが楽しいの……それとも手にした力にでも酔ってるのか……どちらにしても言葉が通じる様には見えない。
 でも……それでも私にはそれしかない。私にとって戦う事とは剣を振ることでも魔法を願うのでもない。私に出来る戦いは言葉を紡ぐ事だけだ。
 だから私は二人の前に進み出る。


「貴方達はなんでガイエンに協力するんですか? この人達だって元は仲間じゃないですか! なんでこんな事平気でやれるの……おかしいよ!」
「おかしい? 何が? どこが? 一体全体、何を言ってるんだこの女は。LROは普通にPKプレイヤーキラーだって出来るだろ。
 それが同じ種族なら我らが断罪するのは当然の役目。誇りと名誉の為の行為だ。そうしてどこにも負けない強固な国が出来る……あの方の理想とする国が。なのに……」


 私の言葉に応じた親衛隊の言葉はどこかチグハグな感じがした。それに最後……何、この間? もの凄く睨まれて、その瞳には凄まじい怒りが見て取れる。そして続きが紡がれる。怒声という音と共に。


「なのに貴様はそんな崇高な我らが主を侮辱するか! 貴様などがあの方を呼び捨てるか! 許せん、許せん、許せんぞ!」
「――――ひっ!?」


 本気の殺意と言うものをぶつけられて私の喉が微かな悲鳴を上げた。抜かれた剣が一直線に私の喉元を目指して飛んで来る。
 恐怖が体を縛り付けた。口が震えて動かない。抜かれた刃に私の言葉は余りにも無力だ。


「うおおおおおお!」


 雄叫びと共に隊長さんが傷を受けた体に鞭を打って私の前に躍り出た。そして乾いた音を鳴らして剣をはじき返す。私はその瞬間、その場にへたり込んでしまう。
 私は言葉の危なさも知ったんだ。同時にその無力さも感じた。届かない事もある。ううん、その方がきっと多い。隊長さんに伝わったのはこの人がきっとスゴく良い人だからだ。
 そしてそんな隊長さんだから小隊の人達は私の言葉に疑いを持ちながらも戦ってくれたんだ。それは私の力なの?言葉の力だったのかな? 


「また貴様か! エルフの恥晒し共が! そんな女に踊らされたクズが! 我らの邪魔をするな!」
「うるせぇよ……それに俺達は踊らされてなんかない! 墓穴を掘ったな。今の発言で疑惑は確証に変わったぞ。お前達はまんまとやられたんだ。彼女の言葉に!」
「何?」


 隊長さんのそんな言葉は私にも疑問だった。私の無力過ぎる言葉が何かした? そんな実感ないよ。結局、暴力と言う牙に押し込まれてしまったんだもん。
 落ち込む私の肩にその時、優しく黒甲冑に覆われた手が乗せられた。それは逃げ足だけの彼。彼は自分の顔を覆う兜に手を掛ける。


「お前は今、言ったんだ。あの方の理想とする国ってな。それは紛れもない彼女の言ったことを真実だと示してる! そうだろ? これで満足したか、ノウイ!」


 黒い兜が宙に舞う。そして現れたのは鮮やかな新緑の緑を塗った様な髪の毛。長い耳には左右対称の星形のピアスが揺れている。
 エルフの美成年然とした作りの顔……だけど目は一般的なエルフの切れ長じゃない。それのせいでだねきっと。『ノウイ』と呼ばれた彼は残念な顔に成ってるもの。目が点という残念な顔に。だけどそんなの彼は気にしてない。隊長さんの声に初めて意欲的に応える声が私にはが届いた。


「了解っすよ隊長! アンタの目は正しかった!」


 ビッと親指を突き立てるノウイ。格好良い姿、光景の筈、だけどなんだか締まらない。それはノウイのあの目のせいかな? 
 でも……今の言葉は……そうなの? 私は何かが出来たのかな? 小さな真実を晒しただけ……しかもそれはただの偶然。


「俺がその女の言葉に俺が誘われたとでも……誘われた……誘われたと言いたいのか貴様!」


 プライドでも傷ついたのか異様に叫ぶ親衛隊の一人。そしてその刀身にはエフェクトが帯び始めた。周りの奴らも同じように止めと言わんばかりに刀身を輝かせる。


「隊長さん……私……」


 弱々しく口を開くしか出来ない。巻き込んでしまった。傷つけてしまった。本当ならこの人達はここでやられる事なんかなかったのに……私の言葉はきっと悪い方へこの人達を動かしたんだ。そんな考えが巡って……ごめんなさいが口から出ようとした。
 でも返って来た言葉は私の考えとは全然違ってた。それはもっと優しくて、強い言葉だった。


「ありがとう。君のおかげで俺達は本来の側に立てたんだ。君の言葉のおかげで、奴らの嘘は知れ渡ったんだ。君はもっと自信を持っていいんだよ。
 君の言葉はちゃんと届く。それを俺達が証明する! 最大限の感謝の代わりだ! ノウイ、頼むぞ!」


 その言葉と同時にノウイは私を抱き抱える。私はお姫様抱っこの状態だ。隊長さんの言葉に浸る間もなく、私はパニックだ。でも、確かに心は軽く成ってたかも知れない。


「隊長……相変わらず一人だけかっこいいっすね」


 私を抱えたノウイがそちら側に背を向けて言い放つ。その動作で私は二人が何を示し合わせてるのか理解した。


「待って! ダメだよ! 隊長さん……そんな! 私のせいで……」
「君の……せいじゃない!」


 隊長さんは親衛隊の剣をはじき返してそう言った。すると親衛隊側も何をやろうと理解したのか全員で私達に向かってくる。真っ先にやられるのは私達と親衛隊を隔てる隊長さんだ!
 だけど隊長さんは臆す事なく言葉を紡いだ。それは私が見習わなくちゃいけない勇気の言葉。


「君のせいなんかじゃ絶対にないんだ! お願いだ。君の言葉で真実を俺達に見せたようにあの人にも……アギト様にもその言葉を掛けてやってくれ。
 アイリ様を助けるには俺達脇役じゃ役不足だからな。でも、託したいんだ。君のその言葉に。俺達の思いも一緒に。だから、行ってくれ……俺達の思いを届ける為に!」
「……はいっ!」


 私はいっぱいこみ上げてくる感情を、だけど言葉に出来なかった。たったそれだけを言うので精一杯。これれじゃあダメだよね。
 だけど今は……許してください。まだまだ私は未熟で、分からないことの方が多くて、きっと沢山の事を見落としてるバカな女です。
 だから間違った事を今までやり続けてきた。それは本当に沢山の人達に迷惑を今でも掛けてる。でも……みんな、そんな私をなぜだか見放さないんだ。
 なら、私が自分を見放すのは早いのかも知れないと思える。みんなが許しくれるこの存在……私はそれを誰よりも信じなくちゃいけない。
 思いを受け取ったなら……後は全力でやり遂げるしかない。泣くか笑うかなんて分からないんだよね。でもやらずにしとくのはきっと一番ダメな事。
 立ち止まらなければ、未熟は玄人にきっとなれる。分からない事はきっと減らせる。いろんな見落としてた物を拾える様になって、バカじゃない自分に成れる。
 待てとは言いません。走り続ける事を許してください。貴方達の思いを届ける為に……私は今もう一度自分を信じて走ります。
 気付けば涙が頬を滴り落ちていた。私はひんやりとするノウイの甲冑に顔を押しつけてそれを誤魔化す。だってまだ早いもん。まだ何も……終わってなんか無いから。


「逃げれるとでも思ってるのか? 貴様等はここで全員ジ・エンドなんだよ!」


 濁った台詞が振りかざされる剣と共に振ってくる。だけど隊長さんは気合いでそれら全てを受け止める。武器で足りない分は甘んじてその大きな肉体を盾にした。
 一気にHPが大幅に減っていく。その減りようは凄まじく止まる気配が無い。だけど隊長さんは小さく笑った。こんな絶望的な状況で……自分の命が削られながら……それでもいつもと変わらずにそうした。


「本当に……そうかな? お前達は軍の末端なんて知らないだろう。だから教えてやるよ。そこに居るノウイって奴は実は――――」


 隊長さんはこのノウイって人をかなり……ううん、絶対に信頼してるんだ。それが伝わってくる。でなきゃ、死に際にあんな風に笑えない。
 それは信頼できる部下に後を任せられるから出来る事なんだ。この妙に勿体ぶった間の取りようもその証。そして何より。私を抱えるノウイにもその笑みが見て取れた。そして情けない声ばかり上げていた彼とは思えない程、背筋は持ち上がり、胸を張っている。
 これはもう、続く言葉に期待せざる得ない。そしてそんな二人の態度は親衛隊にも伝わったようだ。


〔一体あの目が点野郎は何なんだ?〕


 そういう疑問と畏怖を感じた囁きが聞こえるみたい。だけど彼らにもプライドがある。この絶対に有利な状況下で逃亡を許すなんてヘマはあり得ないと確信出来てる。
 それにそんな事が起こってはいけないんだ。……だけど、一抹の不安がよぎったのも確かだろう。二人はそれだけ淀みも迷いもないんだから。
 そして遂に、隊長さんの口から続きの言葉が紡がれた。


「――軍の中で一番『逃げ足』が速いんだ!!」
「うおおっすうう!」


 轟く叫びは一つだけ……それ以外は閑古鳥が鳴くような静けさに満ちていた。周りでざわめいていたプレイヤー達でさえ静まり返っている。
 だってそれは余りにも、なんというかね……って感じの物だったからだ。良くここで吠えれたねノウイ。私は丸く成るしか出来ないよ。
 そして次第に沸き上がる笑い声。そして大爆笑へと繋がった。もちろん一番笑ってるのは親衛隊の連中だ。気品も誇りもなく、下品にゲラゲラと笑っている。
 だけど二人は気にする事はないようだ。最後に二人で短いやり取りを交わしてる。


「頼むぞノウイ。こいつらに見せつけてやれ、お前の武器を!」
「当然っすよ隊長。あい了解! 俺こそは海を駆けた男っす!」
「よし、行ってこい! お前なら奴らなどに捕まりはしない!」


 その瞬間、隊長のHPが無惨に無くなった。暗く色落ちしてその場に倒れ込む。だけど私達に感傷に浸る暇はなかった。
 何故なら親衛隊は直ぐに向かってきたからだ。笑いながらもやるべき事はキチンとこなすらしい。全員が武器を構えて容赦なく振るう。
 火が出たり、水が出たり、氷が出たり、風が起こったりする。それら全てが私達に向かっている。だけど何故かノウイは動かない。このままじゃ当たっちゃうよ!
 だけど攻撃が到達する寸前、彼は私に点の目を線にして穏やかに笑ってくれた。


「OKす。大丈夫、隊長達の思い……奴らに渡しはしないっす!」


 次の瞬間、私には何が起こったのか分からなかった。気付くと私達は、親衛隊の背後に居たんだ。そして轟く複数の攻撃の衝突音。
 ものスゴく速く移動したって事なのかな? だけどそれでも異常だった。速い動きは何度か見てる。スオウの乱舞もそうだしクーちゃんもとっても速い。
 だけどこんな気付くまで移動したのが分からないなんてレベルじゃない。だから異常……これもスキルなのかな?異常を裏付ける様に親衛隊は驚愕してる……てか、直ぐには私達が通り抜けた事にも気付いてなかったみたいだ。


「何をした貴様!」


 そう叫んだ親衛隊の一人には得体知れない技への恐怖が混じってた。でも確かにそうだ。それを抱くのも無理はない事だよ。だって私も鳥肌が立つ感覚があった。
 だけどそんな周りの空気を余所に、ノウイはいつもの調子で喋った。


「ご安心を、皆さんを傷つける事は出来ないっすから」


 けれどここで声のトーンが一段落ちて今まで覆われていた凄みが放たれる。


「隊長が言ったっすよね? 俺の逃げ足は軍一だって……それをひけらかす気もないっすけど、隊長と仲間達の思いのために……全力で! 逃げさせて貰うっす!」


 ノウイの豆サイズの瞳に宿る炎。今のノウイは最高に輝いてるよ。
 急ごう、さっきから大きな音が聞こえてる。何か嫌な予感がしてならない。ドロドロとした国内情勢に一際強い波をあそこから感じる。




 凄まじい崩落音と周囲の地面までが亀裂を作って陥没していく。そんな状況の中心に俺とローブを纏った奴は互いの武器を合わせてにらみ合っていた。
 俺の武器は槍『カシミナク』――赤い柄に黒い刃が特徴的な力強い槍で別名『神射し』と称される程の一品だ。
 対するは三十センチあるかないかのオモチャの様な剣『王剣カーテナ』――だけどその実、この国の支配者にだけその力を与えると言われる国宝級の武器。その力は超越絶大。
 そんな二つの武器が宿すスキルと力を込めて振るわれた事でのシステム異常。でなければこんな事は考えられない。
 俺達には届いていたんだ。崩落音や地割れよりも大きくそして恐ろしい音が。それは地面が陥没したから当然だといえる事。その上に建ってる物が影響されない訳がない。
 この国の象徴とも言える光明の塔がその姿を傾けていた。それは衝撃だった。この国に初めて降りたって見つめたあの力強い塔が……クリスタルが傾いている。こんな事、この国で育った誰もが目を背けてしまう。
 それだけ、あの塔は象徴で、誇りで、自慢だった。


「案外柔い塔ね。君のその武器より頼りないんじゃない? ふふ、そんなに怖い顔しないで、君は合格。カーテナを受け止めるんだからね。楽し☆」
「貴様!」


 奴の言葉に怒りを沸き立たせてもこれ以上の力は出ない。カーテナと対峙して折れてないだけカシミナクは立派だ。神射しと言ってもバランスに沿ったカシミナクと『バランス崩し』とまで称されるカーテナ……二つの武器には絶対的なポテンシャルの差があった。
 だけど活路も少しだけ考えてた。奴はどうやってかアイリの腕を振るってカーテナを使う。その時、アイリは気絶してるんだ。そしてさっき目覚めた時にはカーテナは発動しなかった。


(アイリの意識を戻せば奴は丸腰だ)


 それが結論だ。そしてそれは俺なら出来る……と思う。俺は目の前でカーテナの黒い影に包まれて行っているアイリに声を掛けようと口を開いた――――その時だ。


「ずああぁぁぁぁ!」
「ダメだよ君。女の子と対面してるのに別の子に声を掛けようとするなんてさ。マナー違反。そんな事で私の気分を盛り下げないで」


 押し込まれたカーテナからの衝撃波で俺の体は地面を転がる。そして奴の芝居掛かった言葉と共に連続して振るわれるカーテナ。爆弾が体内で弾ける様な衝撃が何度も襲い、幾らHPが減らなくても別の意味で死ぬと思った。
 こぼれ落ちるカシミナク。それはとてもあっけない敗北だった。これが軍の連中が起きあがれない理由。圧倒的な恐怖をカーテナは植え付けたんだ。それは絶望。体と心が切り離された。
 翳される腕と紡がれる言葉。


「愛した女にやられる気分はどう? いや、君は捨てられたんだっけ?」


 霞む目に映るのは憎き相手。だけどここに力は無い。

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