命改変プログラム

ファーストなサイコロ

仲間と勇気の関係性



「僕が行こう。それしか手は無いよ」


 テッケンさんの言葉を僕らは素直に呑むことは出来ない。ようやくたどり着いた泉の場所。だけどそこはモンスターの巣窟だった。
 まるでその泉に誰も近づかせないようにしてるみたいだ。あそこが僕達の目的地なのに……どうにかしないといけない。
 そこで名乗りを上げたのがテッケンさんだった。


「囮しかない。それにそれは僕が適任さ」
「でも……そんなのみすみす殺されに行くような物ですよ。僕なら最後の瞬間は乱舞で逃げれるかも知れない」


 乱舞は凄く素早く動ける様になる。それを上手く使えば奴等の相手をしながら逃げる事だって――


「それはダメだよスオウ君。君のHPは有限なんだ。危険過ぎる。万が一に懸ける場面じゃまだないよ」
「テッケンさん……」


 僕の意見は即座に却下された。確かにここで死ぬわけには行かない。囮役を引き受ける人は実際は生き残るのは絶望的だ。
 この森の現状を知るなら、誰もがそう悟る。囮役の人はこの場からモンスターを連れ出す為にアクティブされて反対方向に走ることになる。
 そしたらきっと次々とモンスターに出会ってしまうだろう。モンスターの大行列『トレイン』と言う現象の完成だ。フィールドの切り替えが無いLROでは逃げきるなんて不可能でそれを覚悟しないといけない。
 デスペナルティもあるし、何より大量のモンスターに追われる恐怖なんて誰も体験はしたくない事なんだ。モンスターには慣れても命を奪われる瞬間には誰も慣れはしないだろう。
 その奪う相手が人外の化け物なら尚更だ。恐怖が沸いてこない訳がない。それなのに……


「大丈夫だよスオウ君。僕は君より経験豊富だ。それに逃走用のスキルも充実してるしね。それに何より、僕の命は有限ではない」


 小さな体で胸を張るテッケンさん。本当にこの人は格好良すぎだよ。その小さな体に溢れんばかりの勇気を僕も少し分けて貰えた気がする。
 その言葉に、覚悟に、応えなくちゃいけない。


「わかりました。信じます、テッケンさんの事」
「ああ、それでいいよ。覚えておいてくれたまえ。君の乱舞は逃げるために使うものじゃない。その力は仲間を守り、誰かを救える力だよ。前に向かって使って欲しい」


 テッケンさんの言葉が心に染みる。そうだ……乱舞は逃げるための力じゃない。全てを守り抜くために……アイツを救いたいと願った時に貰った力だ。
 どうして僕に乱舞が発現したのかは今でも謎だけど、前を切り開くためにこの力が僕にあるのなら、後ろに向かっては使えない。そうしてしまうと泡の様なこの力が弾けて消えてしまいそうな気さえする。
 そんな事は有るわけないのかも知れないけど、確かめる方法なんて無い。せめてセツリを救い出すまでは、僕は乱舞を手放す事なんて出来ない。
 だからここはやっぱりテッケンさんしかいない。様々なスキルを拾得しているこの人しかここは任せられない。ほんの数パーセントでもあの大群を手玉に取って生き延びられるかも……なんて思える人物を僕はこの人しか知らないよ。
 僕とテッケンさんはそれぞれの武器を抜き刃を合わせた。これは契約や約束みたいなものだ。


「「幸運を」」


 それだけで十分だった。それだけで仲間とは思いを共有出来る。テッケンさんはみんなをそれぞれ見て頷き、そして体を翻してタルンカッペを舞い上げた。
 空に浮かぶ月と舞ったタルンカッペが重なるとき、前に飛び出したテッケンさんは近くのモンスターに一撃をたたき込む。


「ぐむもぉぉぉぉ!!」


 テッケンさんの短剣が青い光を帯びてモンスターに深く食い込んだ。小さな体からは想像も出来ない程の強力な一撃。
 断末魔の叫びと共に戦闘態勢に入るモンスターは、怒りをその顔に浮かべ背にいるテッケンさんに向かいガムシャラに武器を振るう。
 だけどその時にはテッケンさんは更なる連続攻撃の為に宙にいた。今度は緑のエフェクトがその短剣には纏っている。
 体を捻りクネり、変速的に上から下へテッケンさんは獣人系のモンスターを切り刻んだ。敵のHPが急速に減り、そして決まった……と思った。格好良く地に降り立ったテッケンさんもそう思っただろう。
 だけどモンスターは倒れない。その周りには白いエフェクトが体を包み傷を治していた。それは敵の回復系魔法だ。ここもやはりパーティーの様にバランス良く配置されている。


「テッケンさん!」
「ダメだシルクちゃん!」


 僕は飛び出そうとしたシルクちゃんの肩を掴み押し留める。ダメなんだ……今、幾らテッケンさんがピンチでも僕らが出ていったら彼の覚悟や努力が全て水の泡になってしまう。歯を食いしばって耐えなくちゃいけない。
 どうして彼がわざわざ戦闘までやってるのか……一人じゃ勝てる訳もないのに。それは周りのモンスター全部を余す事なく引きつける為だ。
 全員がテッケンさんにアクティブするのを確認してるんだ。そうしないと後から出てくる僕達が危険に陥るかも知れないから……彼は全てをその身で受けている。


「ぬう!」


 テッケンさんの武器が敵の武器に弾かれる。倒し損ねた敵は爛々と目を狂気に染めて追い打ちを懸けるように武器をないだ。だけどそれをテッケンさんは体の小ささを生かし上手く交わした。
 目的の物を切れなかった武器は周りの草木を無闇に傷つけてようやく止まる。その時、僕達は隠れてる草むらの横を無数のモンスターが通り過ぎる光景を見た。
 奴らは全員テッケンさんに狙いを定めている。フラグ立て過ぎじゃないかテッケンさん? 大丈夫なのだろうか。既に大量のモンスターの群に彼は取り囲まれてる。流石にやりすぎだ。これじゃあどこにも引っ張って行けないよ。


「あの人、大丈夫なの? 逃げ場なんてないわよ」


 セラの言うとおり、テッケンさんには逃げ場がない。不安はわかるよ。僕も不安だ。だけどここはテッケンさんを信じるって決めたんだ。彼ならきっと何とか出来る。
 その時、テッケンさんは不意に武器を納めた。


「「「「なっ!!」」」」


 身を隠す僕らは全員で声を押し殺して驚いた。この場で武器を納めるなんて自殺行為にしか思えない。一体何する気なんだテッケンさん。
 武器を納めて畏怖を抱く物が無くなったからモンスター達は一斉にテッケンさんに襲いかかった。もう我慢できない。これはダメだろ!
 思わず動き出そうと僕らはした。だけどそれすらも遅くて……テッケンさんが居た場所はモンスターに埋め尽くされて土埃が舞い上がる。


「あれじゃあ終わりね」
「縁起でもない事言うなよセラ!」


 なんて事を平淡な声で言うんだ。でも確かにあれじゃあ生きているなんて思えない。赤い目を輝かせたモンスターが我先にと腕や口を突き刺していた。
 僕達は一体どうしたら良いんだ……そんな絶望に捕らわれかけた時、何かが土埃の中から飛び出してきた。それは丁度五十センチ位の見慣れた影をしてる。


「ふあっはっは! こっちだウスノロ共!」


 紛れも無いテッケンさんの声が暗い森の中に重なって聞こえる。その理由は簡単、飛び出してきたテッケンさんは一人じゃ無かったんだ。
 まるで分身の術でも使ったのかの様に複数人のテッケンさんがその場を走り回っている。そして少しの間、僕達もモンスター達も呆気に取られたように呆然としてた。
 すると土埃も晴れた頃、テッケンさんは笑い声を止めてこう言った。


「では諸君、さらばだ」


 スタコラサッサと言う擬音が一番あってると思うその逃げ様、天晴れだ。ようやく目の前の出来事を理解したモンスター共がその後を追っていく。複数のテッケンさんは僕達と反対方向にそれぞれ散っていった。
 なるほど、これならプレッシャーも分散されるというわけだね。その場にはいつの間にか静寂が訪れていた。僕達も本当に騙されちゃったよ。やってくれるねあの人は。


「本当にヒヤヒヤしちゃったわ。もっとシンプルに出来なかったの?」
「僕に言われても困るんだけど」


 セラは何かあると僕に突っかかって来るよね。いつの間にこんなに嫌われたんだろうか。


「それより今の内に泉へ行くぞ。彼の犠牲を無駄にはしたくないだろう」
「「犠牲って言うな!」」


 僕とシルクちゃんは同時に鍛冶屋の発言に言葉を返していた。たく、どいつもこいつも言葉がぞんざいだよ。
 僕は地面に虚しく落ちているタルンカッペを拾い上げて呟いた。


「テッケンさん……ありがとうございます」


 彼のタルンカッペをアイテム欄に納め、僕達は満月を映す泉へと足を向けた。静寂が包む森の中……僕達は遂に復活の泉に辿りついたんだ。




 復活の泉の前に付くとセラが何かを投げ入れた。それは何かの葉だろうか? すると泉に波紋が広がり、美しい泉の精が姿を現した。成る程、そっきのアイテムはこの精霊を呼び出すために必要な物なのか。


【そなた等は我に何を望む?】


 泉の精にふさわしい、柔らかく清らかな声が森に響いた。セラは持ってきていた殻の装飾瓶を差し出して望みを伝える。


「ここの水を頂戴。私はそれだけで良いわ」
【……千ルークマになります】
「お金取るの!?」


 僕達全員びっくりだよ。そんなの聞いていない。それに千ルークマって野水にしては高いぞ。一ルークマは一円と考えてくれ。そしたら千ルークマは千円だ。高いよね?


【市場価格でございます】


 嘘付け。その価格変動しないだろう。でもなんだかおかしいな。NPCであるはずの泉の精がこんな風に対応するのか?
 でもここで疑ってもどうしようも無いから、セラは渋々千ルークマ支払って水を瓶いっぱいに貰った。すると泉の精は一旦消えてしまった。
 願いを叶えたから戻ったのだろうか? あの葉一枚で一回分って事か。どうしようあんなの持ってないよ。


「あの~セラ様」
「私の奴隷になると誓いなさい」
「話、早すぎないか!?」


 どんだけ理解力良いんだよ。僕の一言でセラは僕の思惑を掴んだみたいだ。墓穴を掘ったかも知れない。今は仲間なんだし素直に言えば一枚位くれるよね。


「さっきの葉っぱをくだいさいな」
「契約書と朱肉よ。判子の代わりに指紋で許してあげる」
「なんでそんな物があるんだぁぁ!」


 駄目だこいつ。タダでくれる気が微塵も無い。てか無駄にアイテム欄を使ってるなよな。


「この世にタダより高い物なんてないんだから」


 おっしょる通りです。


「あの~スオウ君。ちょっといい?」


 その時控えめなシルクちゃんの声が聞こえた。だけどちょっと待って欲しい。僕は今とても大変なんだ。


「ごめん、後にしてシルクちゃん。僕は今、目の前のメイドと拳を交えないバトルをしてるんだ」


 そう、これは交渉というバトルだ。神経をすり減らしながら相手の一挙手一投足に目を配り、自分の言葉を通す隙を探す。とても高度なバトル。
 シルクちゃんは「あう~」とか唸ってそれでも僕に何か言いたそうだった。だけど僕の背中はそれを拒否した。ゴメンシルクちゃん。
 ……考えた方を変えよう。元々タダで貰おうとした僕が意地汚かったんだ。そうだよ。僕達はまだ知り合って間もない。
 そんな相手に誰もタダで貴重だろうアイテムをくれる訳無いじゃないか。それを僕はずうずうしくも友人面して、女の子の私物を狙ってたんだ・・それって変態じゃないか!


「何一人で悶えてるの? 遊んでる場合じゃないの、分かってる?」
「そんなこと分かってるよ。お前のせいで僕の思考が変な方向に捻れたんだ」


 まったく、冷静に考えたら僕は変態じゃないよ。別に下着やらを狙った訳じゃないっつーの。くっそ……目の前で変な契約書揺らすなよ。
 なに、これ見よがしに見せつけてんだ。これしか方法が無いみたいに錯覚しそうじゃないか。ならないぞ。僕はお前の奴隷には成らない!


「全財産で勘弁して貰えないっすか!」


 もう面子なんて捨ててやる。物事には何だって優先順位ってのがあるんだ。今の僕の一番はシルフィング復活だ。


「お金でなんでも解決しようとするなんて……いつからそんなのがここLROでも成り立つように成ったのやら」


 なんだかまるで僕が汚く染まったかの様な言い方だな。頬に片手を当てて、溜息付く姿が妙に様に成ってる。いや、言ってる事は正しいんだろうけど……どうすれと?何なら納得するんだよ。


「やっぱり今の時代、武器になるのは情報でしょ?」


 唇に指を添えて艶やかに微笑むセラはなんだか不気味だ。こいつの性格を知らずにその仕草で微笑むこいつを普通に見たらきっと見とれるぐらいするんだろうけどね。
 メイド服って破壊力がね……案外そのために着てるのかも知れない。迷わず女の武器を使いそうだもん。


「情報って何の情報だよ?」


 問題はそこだな。セラは一体何を求めてるんだ? 僕達がまだ全部は話してないそれぞれの事情を詳しくとか? でもセツリや僕やサクヤの事はそんなに広めたく無いんだよね。
 だけどそんな僕の心配は杞憂だった。


「それはもちろん、アギト様の恥ずかしい過去とか~。知られたくない秘密とか~。親友だって言うのなら一つくらい知ってるでしょ? 話しなさいよ」


 なんて安い注文だ。いいや、僕にはそんな親友を売るみたいな事出来るわけが無い。それじゃあ僕は紛れもなく汚れてる事にな――――


「私もオマケで秘密の情報を提供するよ。きっとアンタは喜ぶ物だと思うけど……もちろんあの葉もね」
「実はアギトってさ――――――」


 はっ!? 気付いたときには僕の口が親友を売っていた。なんて親友概の無い奴だ……僕ってちょっと自己嫌悪に陥りつつも実は心の奥ではもう一人の僕が何かを囁いていたりする。


『いいじゃないか。どうせアギトなんだからよ』
「……」


 くそう、反論できない。流石は僕の心の中の悪魔。良いこと言うじゃないか。そうだな、別にアギトだから心痛める事なんかないや。
 リアルでは日々迷惑を被ってる訳だし、ここら辺でおあいこにしておこう。親友を売って晴れやかな気持ちで居ると(この発言は問題か?)ある疑問が浮かんだ。


「セラさ、アギトの事どうでもいいとか言ってなかったか? それなのにどうしてアギトの情報が欲しいんだよ?」
「ああ、実はそれはね――」


 実はやっぱりアギトの事を思ってる訳なんだろう。乙女の心は複雑怪奇と言うからね。あれ? 秋の空だっけ?


「――アギト様ってからかうと面白いの。ぞくぞくしちゃう」


 複雑怪奇で決定だ。それ以外に表せない。秋の空なんて綺麗な物じゃないよ。ドロドロだ。
 その発言をしたときのセラの顔は大好物のスイーツを食べ放題的な顔だった。甘くてとろけて、でもちょっと口直しにはビターも必要……みたいな。悪寒が走ったよ。
 ちょっとだけアギトに悪いことしたかな、と思ってきちゃった。て、ちょっと待て。なんで僕の中の天使は出てこないだよ。
 普通はワンセットだろ。天使と悪魔・善意と悪意みたいなさ。一方しか居ないんじゃ僕はまるで天使であるべき物が欠けてるみたいじゃないか。人として大切な物を持ち合わせてないってか。
 少なくとも目の前で悶えてるセラよりは持ち合わせてる自信がある。大事なもの、こいつ自分から捨ててそうだもん。


「そんなことより、情報やったんだからお前も葉っぱくれよ。それとそっちの情報もな」
「はいはい、私は契約は守るわよ。でも情報はここでは何だからアルテミナス戻ってからでいいよね?」
「……まあ、別に」


 何となく情報は貰えないような気がしたけど、まあいいさ。元々目的の物は別の物だ。生け贄はアギトだし僕に損は無い。


「じゃあ、早速……んしょ」
「ん?」


 セラは地面に落ちた葉っぱを選び出した。あれ? ウインドウからあの特別な葉っぱを取り出さないのか? やっぱり契約不履行にするつもりだな。
 だけど僕のそんな疑いを払いのけるような晴れやかな笑顔でセラは一枚の葉っぱを選び出し僕の目の前に掲げる。


「はい、取り合えず一番これが綺麗よ」
「意味がわからん!」


 それをどうしろと! そんな落ち葉求めてないよ! すると僕の怒りを無視してセラはその葉っぱを泉に投げ込む。


「全く、一番綺麗だって言ってるのに贅沢言わないでよね」


 呆れた様に声を出すセラ。僕は沸々と怒りが沸いてくるけどその時、宙を舞っていた葉っぱが泉に落ちた。すると前と同じように波紋が広がり、泉の精が姿を現した。


【ご無沙汰しております。さあ、あなた方の望みはなんですか?】
「え?」


 僕は呆気に取られる。なんで出てくるの? その葉っぱはなんの変哲もない落ち葉だぞ。その時、後ろからやっとで意を決したシルクちゃんの声が届いた。


「えっとねスオウ君。その泉に入れて精霊を呼び出すその葉っぱ……特別な物なんかじゃないんだよ。ここに来る途中でセラちゃん拾ってたもん!」
「あらら、シルク様。ネタバレは私がしたかったのに」


 あざ笑うセラの声がとっても不愉快。じゃあ何か……セラの奴はなんでも無いタダの落ち葉をわざわざアイテム欄にしまって特別な物に見せかけていたって事か!


「この悪魔! ふざけんな!」
「大原則。私があの葉を特別なアイテムなんて言った?」


 なんてこった……全ては僕の早とちりか。そんなんで危うくタダの落ち葉の為に僕はセラの奴隷に成るところだったのか。恐ろしい奴……結局、得しかしてないよこいつ。
 もっと早くにシルクちゃんの声に耳を傾けていれば、こんなに笑われる事もなくて、自分の愚かさに打ちのめされる事も無かった。
 ごめんシルクちゃん……僕は道化師です。全然違うところでセラと渡り合えてるなんて思って、夢中になってました。その時からセラはきっと心で笑っていたことでしょう。
 僕はピエロ……哀れな道化師。だからどうか貴方の言葉を聞かなかったバカな僕を叱ってください。


「そ、そんなことないよ。私がもっとはっきり言えばよかったの」


 優しいシルクちゃんの言葉が今は痛い。なんて僕は愚かなんだ。こんな良い子を無視して悪魔の相手なんかしたからこんなに心をズタボロにされてしまった。




「お前等、遊びも程々にしろ。たく、緊張感が無い奴らだな。どうやったら今の状況でそんな漫才みたいな事ができるんだ?」


 それはずっと黙っていた鍛冶屋の声。別に漫才してた訳じゃねーよ。僕らはいつだってこうなんだ。微妙にメンバー変わってもそこら辺は何故か変わらないな。


【もういいですか?】


 退屈そうな声は泉の精。こいつ本当にNPCか?


「ちょっと待って、これをお願いします!」


 僕は慌てて折れたシルフィングを差し出した。するとシルフィングの折れ目から青い物が昇っている。何だこれ?


【これはウエポンアライアスですね。分かりました。試練の帷を卸しましょう】


 聞き馴れない言葉に僕らは呆けた。そして次にシルフィングを泉の精は膜で覆って手元へ引き寄せた。それから一段低い声で言い放つ。


【武器の望みと所有者の望み、望みの集いは更なる力を生み出す時。……ほら、よそ見をしてていいのですか?】


 その瞬間、何かが僕の横を抜けた。それは白い輝きを放つ何か。何だ……何をくわえている? そしてそれを悟った時、僕は自身の肘から潰れたトマトの様に流れ出る血を見た。


「うっ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 僕の絶叫が薄明かりを讃えだした森の中にこだました。叫ばずにはいられない。何故なら僕の左腕の肘から先が無くなっていたからだ。

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