命改変プログラム
月光を染める闇
空に大きな、まして落ちてきそうな程の満月が昇り、風は周りの草木を揺らして不気味さを演出していた。僕達……いいや、僕とテッケンさんとシルクちゃんと鍛冶屋とセラは普段のルートを大きく迂回して例の森の前に立っている。
「ああ~もう~なんで私がアンタ達なんかを案内しなくちゃ行けないのよ! 本当にもう、最低最悪。地獄に堕ちてくんない!?」
なんて口が悪いメイドだ。暗器使いってのも裏付けるなこの性格の悪さ。セラはそんな事言いながら表示させたウインドウに何か印を付けていた。
「しょうがないだろ。僕達でその泉の位置を知ってる奴いなんだからさ。お姫様の命令なんだから文句言わずに働け」
そう、セラが僕達に付いて来てるのはアイリの言いつけだ。僕達はただいま作戦行動中でこの役目は結構重要なんだ。今回の戦いの行方を左右するかも知れない。
だけどあのガイエンを初めとするエルフのお偉いさん共は明らかに僕達が自国の問題に首を突っ込むのを嫌がっていた。エルフは誇りが高いから、助力を仰ぐなんて行為その物が嫌らしい。
でもこれはハッキリ言ってエルフの国で起きただけでLRO全体の問題だ。あり得ない筈のモンスターの村への進行。これはどうもアンフィリティクエスト絡みなんじゃないかと思えて成らない。
異常事態はとにかくそっちに繋がるんだよね。
「私も嫌われたもんだよね~。アイリ様ったらそんなにアギト様の事隠してのが気に障っちゃったんだ。もう、本当に純情ウブウブなんだから切り刻みたくなっちゃうな」
なんて危険な発言してるんだこいつ。自国のお姫様を切り刻みたいだなんて、とんでもない背信行為だ。でもセラを見てると思うよ。
こいつは自分が不利になったり得する為なら、仲間を後ろからその暗器で躊躇わずに刺すだろうと。まあ、パーティーなら仲間にそんな事しても意味はないからあくまで例えなんだけど。
「嫌われてるって、どっちかって言うとお前がお姫様の事嫌ってるんじゃないのか?」
僕の言葉にセラは動かしていた手を止めた。どうやら泉までのルートを何通りも確認してるみたいだったけど、どうやら聞き捨て成らない言葉だったらしい。
「どうしてそう思っちゃうのかな? 私がアイリ様を? バッカみたい。あの人はね、尊敬に値する人よ」
セラは笑顔だ。笑顔だけどどうしても素直に受け入れられないぞ。
「尊敬と嫉妬は違うだろ。アギトは今でもお姫様を好きみたいだし」
それが気に入らないんじゃないの? あのアギトに対するセラの態度が演技とかじゃないんだったらの話だけど。
「何よそれ? ううんそれこそ何よって感じ。私がアギト様の事でアイリ様をどうかするとでも思ってるわけ? あの二人に何があったのかも知らない癖に、そんな事言わないでよ!」
いつになく真剣な眼差しでセラに言われてしまった。からかう様に言ったのが悪かったか。セラは一体何を知ってるって言うんだ? てか教えないのに、それを持ち出すのは反則だろ。
「じゃあ、別にアギトの事はどう思ってる訳でもないんだ」
「ゲームの世界で、何をどう思えって言うのよ。バッカみたい。楽しめれば私は何でもいいの」
セラはそう言って再びルート確認に移る。メイド服を翻すこいつはゲームをゲームとしてちゃんと楽しんでるって事か。リアルを侵す事無く、こことの間に一線を引いている。
それは本当に正しいLROのやり方なのかも知れない。浸りすぎないのがこのLROを心から楽しむ秘訣かもなんてね。僕にはもう絶対に出来ないことだ。
「くぴぴ!」
「どうしたのピク?」
その時、シルクちゃんの肩に乗るピクが小さく小刻みに喉を鳴らした。なんだ? まるで何かを知らせるような警戒音。首を伸ばしてある方向を見つめている……まさか!
「テッケンさん、策適を! 方向はピクの見つめてる方だ」
「よし、分かった。スキル『千里眼』で確認しよう」
テッケンさんが千里眼を発動して暗闇の彼方に目を向ける。すると直ぐにテッケンさんの顔が曇った。
「不味いよ! モンスターだ。数十体……こっちに向かってる!」
僕達は一斉にその方向をみやった。だけど肉眼では何も見えない。それは当然の事だ。僕達は千里眼というスキルを持ち合わせてない。
「どういう事ですか? ピクが見てる方からモンスターの群がやってくるって?」
「多分、ピクは高い危機察知能力を持ち合わせてるんじゃないのかな。それはきっと動物レベルでの感性なんだ」
きっとテッケンさんの言うとおりだろう。ピクはとても高い危機察知能力を持ち合わせてる。シルクちゃんはとことん幸運だよ。モンスターの接近を予め知れる事のメリットはここLROではとても大きい。
知らずに出会うか知ってて出会うかの違い。選ぶ選択の権利が知ってれば出来るんだ。それに不意打ちにも会わないしね。
「ピク凄いね」
そう言ってシルクちゃんはピクの頭を撫で撫でする。
「そんな事やってる場合じゃないでしょ! 敵が来てるのなら隠れるの! ほら、渡したもの被って草むらに!」
セラの声が僕達を促した。ウインドウから出発前に渡されたアイテム『タルンカッペ』を出して僕達は草むらへと身を隠す。
タルンカッペというのは被ると姿を消すことが出来るアイテムだ。結構レアな物だけど、この作戦に当たり僕達にそれが貸し与えられた。基本この森では隠密行動だからね。
尋常じゃないほどのモンスターがここら辺には発生してる。それは一回の戦闘でも命取りな程だ。だから僕達はモンスターに遭遇しないように、遭遇してもアクティブされないで泉を目指す事が出来る準備を整えてやってきた。
戦闘中にモンスターが来たらそのモンスターも戦闘に加わる。それに上限なんかないから、次々に加わるモンスターを全部倒せるなんてあり得ない。
そうなったら作戦は失敗なんだ。
僕達は草むらの影で息を潜める。すると次第にドスドスという重量感のある音が複数近づいて来るのが分かった。見えないだけで大丈夫だろうか? モンスターの中には嗅覚や、聴覚でもプレイヤーを見つける事が出来る奴がいると聞いたことが有る。
「問題はない。獣人系は目に頼る」
そう言ったのは僕の後ろの方に潜む鍛冶屋だ。どこに行ってたのかと思ったら作戦前に帰ってきて僕に代わりの剣を渡してくれた。どうやら知り合いの工房で新しく打ってくれたらしい。
今、僕の腰に差してあるのは銀の装飾が美しい『双剣ニーベル』だ。シルフィングより若干軽く、貴重性もそれほど高くないけど全体的に高仕上がりのマルチスペックを有した良い剣なんだと鍛冶屋は言った。
僕は代わりのこの剣を快く鍛冶屋から受け取ったよ。後ろで大丈夫と鍛冶屋は言ったけど僕は念のためにニーベルの塚に手を添えておく。
だけどそれは杞憂だったらしく、モンスターは立ち止まる事もせずにその場を去っていった。
「何なんだあれ?」
なんだかおかしくないかな? 僕は草むらからでてモンスター達の消えた方をみやる。あのモンスター達、森の外周をなぞって進んでる様な……
「確かに、まるで森を監視してる様な動きだね」
同じく草むらから出てきたテッケンさんが発動した千里眼を暗闇の向こうに向けて言った。きっとあの目には今もモンスター達が写ってるんだろう。
でもテッケンさんの言うとおり、まるで奴らは森を監視でもしてるかのようだ。モンスターがあんな行動取るなんて聞いたことない。元から配置された自分達にとって重要な場所ならいざ知らず、こんな元はいなかった場所でそれをやるなんて考えられない。
ますますもってきな臭さを感じる僕だ。やっぱりセツリを残して来た事は正解だったかも知れない。向こうもその内、危険な事をやりに行くんだけどアルテミナスからは離れるしセツリはそこに同伴しないように念を押していた。
当然セツリはそれを拒否したけど後は残った二人に任せるしかない。アギトもサクヤも向こうに居るし、きな臭いのはあそこの上層部も同じだけどモンスターに倒される心配はないから幾分ましだ。
「監視してるのならこの広い森を一組なんて考えられない。他にも回ってくるかもだし、さっさと入るわよ」
そう言ってセラが森に入っていった。確かにグズグズしてる間も無いわけだし急いだ方がいいようだ。僕たちもその背中を追って暗く不気味な夜の森へ足を踏み入れた。
森の中はやけに静かだった。それに異様に暗い。空には満月が輝いているというのにこの暗さは何なんだ? 普段からこんな森なのだろうか? だけど事前に聞いた話ではここはモンスターも少なく生産系プレイヤーの素材集めの場と聞いた。
それならそう難易度は高くないはず……森は見上げれば真上には星空が見えるし月光だってもっと沢山入ってきて良いはずだ。
なのに暗い……数メートル先が見えないくらいに。どういう事だ。上は見えるのに前は見えないなんて事があるのか?
「まるで僕らの視界に直接干渉してるみたいだよ。システムが見せない様にしてるとか……」
「まさか……」
テッケンさんが怖いことを言うからみんなの肩が一瞬震えたよ。やめてほしいよそんな冗談。冗談に聞こえないから。
「くぴぴ」
その時またピクが小さく鳴いた。僕たちはまたかと思いつつ、方向を確認して身を潜める。実を言うと森に入って既に五回目だ。数メートル進む度にモンスターの一団と遭遇する。どれだけ集まってるんだよって感じだ。
ピクが居なければ森に入って直ぐ、モンスターとはち合わせてたよ。タルンカッペは被ってるけど、奴らはどうも目だけで獲物を確認してるだけじゃ無いようなんだ。
多分大部分は目なんだろうけど、近くでは臭いや音でも反応するらしい。だからやっぱり至近距離を通り過ぎる奴らの横を走ったりは出来ない。
それに異常に暗いせいでいきなりヌワって感じで現れる。ピクの知らせで知っててその方向に目を凝らしててもそんな感じだから驚くよ。この変な闇のせいでテッケンさんの千里眼は使い物にならない様で本当にピク様々だった。
ピクの示した方向からモンスターが五体……ワンパーティーとして現れる。さっきからこいつら絶対にパーティーを組んでいる。こんな事ってあり得るのか? 獣人は普通に肉弾戦をする奴もいれば魔法を使う奴だっている。普段はそいつ等がバランス良く固まってることなんか殆ど無いから気にすることも余りないけど、今は違う。
明らかにバランス良く奴らは編成されていた。僕達がパーティーを募るとき前衛は最低でも二人、後衛はヒーラーとソーサラーを一人ずつ、そして最後の一人は狙う狩場やとかを考慮して考える。まさにその通りだった。
「これって厄介過ぎるわね……タゼホへの侵攻組は不味いかも知れない」
そんな事を小声で呟くセラの声が聞こえる。五回目ともなるともう疑う余地は無い。きっとタゼホを壊滅させた奴らも同じように編成されてるんだろう。それはまるで軍隊だ。
この情報をセラは持って帰りたいのだろう。こんな情報は襲われたプレイヤーからは聞けなかったんだ。でもセラには役目がある。それこそが先に先行して僕達がこの森に来た理由だ。
まあ僕にとってはそっちはついでで、シルフィングを元に戻すのが本音なんだけどセラはそっちが本題だ。
あの時、あの会議の場で僕達はそれぞれの目的の為に手を取った。
「それでは、勇士を集い軍を編成してタゼホの解放に皆の尽力を期待する」
片手を力強く掲げてガイエンがそう宣言した。その言葉に誰も反論なんて無くてパチパチと小さな拍手が起こりみんなが席を立とうとした。
だけどそれだけで大丈夫だろうか? という不安が僕達にはあった。僕達、アンフィリティクエストを知っている面々には軍を率いて数だけで勝負を決めようとするその作戦は余りにも安直過ぎる……様な気がした。
だって今までも、特にあの悪魔との戦いは度肝を抜かれた。助けるべき相手がそこには居なかったんだからね。今回も何かとんでもない事がまだ隠れてるんじゃ無いのだろうか?
特に会議中に話された被害者が見たという奴等を統率する存在が謎だらけだ。女神の様なって……どれだけ抽象的なんだよ。
ただ絶対に敵だと分かるのはその女神が被害者に言った一言だ。
【この世界に貴様等の安寧の地はない】
それはまさに宣戦布告の言葉と言っていい。モンスター共から再び牙を向く時が来た、みたいな。でも確かLROの設定にはそういうのがあったんだ。
元々この世界のモンスターと五種族の戦いはずっと行われてきた。だから町とか村……大きな所で国を奴等から守り、そしてモンスターを滅ぼすのが目的みたいな前提だった。
それを考えると今の状況はある一定のラインに到達したから起きた事前のイベントなのかも知れない。ここから不可侵の領域も解除されて本格的な物語始動とかね。
それかやっぱりアンフィリティクエストでおかしくなったシステムのバグなのか……どっちにしてもこの目で確かめるしかない。
「おい、待てよお前等。それだけか? もう二・三策は無いのかよ?」
僕は出ていこうとするエルフの面々に声を掛けた。するといかにも嫌そうに顔をしかめて笑われた。そしてガイエンが僕を見下ろしながら言う。
「お前は何を言っている? 我らエルフは世界で一番の種族だ。すなわち最も強い軍を持ってるのだよ。モンスターがただ集まった烏合の衆など軽くけちらせる。
アイリ様が貴様等を参加させると言ったからその目に焼き付けるがいい。我らの勇士をな」
ガイエン達は自信満々だった。自分達が負けるなんて微塵も思っていないしそんな発想はLROで最大の勢力になってから捨てたみたいだ。
別に僕だって負けて欲しいと思ってる訳じゃないし自信は戦いには必要だ。自惚れじゃなければだけど。僕はガイエンを見上げて食い続ける。
「別に軍を編成してタゼホ解放に向かうのはいいんだよ! でもそれだけで確実かって聞いてんだ。お前達は力を誇示するために行くのか? 違うだろ。国を背負ってるんなら安直に動くなよ。万全で望めって言ってるんだ!」
すると僕の言葉に今度はみんながヤレヤレと肩を竦める。
「これだから……弱気なヒューマらしい考え方だ」
「我らの強さ、を知らんのかね……」
「ヒューマに我らの豪気さはわからんよ」
「劣化種族なのだからね」
バカにする様な言葉の数々……いや実際してるけど。こいつらにはこれ以上何を言っても無駄か。折角、国と言う絶大な力が有るのにそれを万全にしないだなんて愚の骨頂だ。
今回は今までに無い人数が協力してくれる。それならもっと安全に、ずっと安心できる様にするのがあんたらの役目だろ! 最強という名に酔ってるなよ! でもこいつらは何言っても聞きはしない。
こういうアホは一回痛い目に遭わせたいけど、それでこの国の人達に迷惑が掛かるのもどうかと思う。でも不安は募るばかりだ。このままじゃいけない……確信にも似たそんな気持ちが僕の中には沸いていた。
「いいじゃないですか、策を一個増やすくらい。保険はいつだって掛けとくものですよ皆さん」
唐突に会議の場に響いた声はセラだった。驚きだ。アイツが僕の意見に賛同するなんてさ。それは同じエルフも同じらしかった。
「メイド風情が何を言い出すか。お前は確かそいつ等と共に来たな。エルフの誇りを浚われたか?」
セラはそんな罵倒は意に返さず淡々と告げる。
「メイド風情で申し訳ありませんけど、私はそこのバカに誇りを浚われてなんか居ません。むしろ逆で
す。私はこの国の為に一パーセントでも成功の確率を上げたいだけですよ。貴方達がもしも万が一つでも負けて窮地に立たされるのは誰と思いですか? それはアイリ様ですよ。アイリ様の為に打てる策は全て打っとくのが我らの役目でしょう」
その場のエルフ達が固まる。どうやらアイリという単語には弱いようだ。思案顔のエルフの面々の横から声を出したのはガイエンだった。
「そこまで言うのならセラ。お前にはこの他に策があるのか? そこの者共も?」
ガイエンの視線が僕にも向けられる。え? 具体的なのはそっちお任せしようと……誰が助けて! 周りを見やるとみんなの顔が不自然に逆を向いている。
簡単に仲間を見捨てるんだね。
「勿論ですよ」
僕が四苦八苦してる時、セラは薄ら笑いを浮かべてガイエンに近づく。あのメイド、大した奴だ。
「一応聞いてやろう。だが事と次第によってはお前でも罰が下るぞセラ。これは侮辱と変わらぬから
な」
「どうぞご自由にガイエン様」
ガイエンの威圧的な態度にまったく動じないセラ。とことん謎なメイドだ。セラは何やらガイエンの後ろのアイリに礼をして話し出す。それは作法なのだろう。王族を前にした。
「皆さんも知ってると思いますけど、最近あるクエストの攻略キーアイテムの精製方が判明しました。そのアイテムの名は『神酒ネクタル』。精製材料の一つが復活の泉の輝きの水です。
そしてそのクエスト報酬は王族の第三の鍵と言われてます。ここまで言えば分かるでしょう? 私達にはアイリ様がいるのですよ」
周りがなんだかざわめいている。でも僕達は何か分からないよ。
「王族の第三の鍵とアイリ様……セラ、お前はあの兵器が実現出来ると言う気か?」
「ええ。その為に皆さん必死で外堀を埋めていたじゃないですか。クエスト大量発生と同時に」
なんだか物騒な会話が始まった事は分かる。けど、理解まで行かない。そんな僕達にアギトが説明をくれる。
「この城のおかしさにはお前も気付いただろスオウ。それには理由があるんだよ。この城には王族の血とそれぞれ隠された鍵に寄って解放されていく秘密がある。
その中には信じられない戦略魔導兵器があると言われてた。どうやらガイエン達はそれを見つけたらしいな」
なる程、アギトが言うとおりならそれは凄い物だ。心強いなんてもんじゃない。けどなんだろうアギトの顔はあんまり浮かない。ここに来て大体そうだけど、ここで浮かないのはガイエンもなんだ。これは異常。
「だが、あれは今で無くても……それに国力がだな……アイリ様の事も……」
言い淀むガイエン。国力? 兵器発動の代償とかに関係あるのだろうか? アイリの事は建前だろ。その時後ろのアイリ様が腰を上げた。
「私の事はいいんです。それよりそんな事が可能なら今直ぐにでもクエストをクリアしましょう。セラ、行ってくれますか?」
「ええ!? 私ですか?」
当然だろ。お前が言い出した事だ。でもこれはチャンスじゃないか? 泉に先に行けるのならシルフィングを直せる。慈愛に満ちたアイリの顔にはセラも頷くしかなかった。
でも今度はガイエンが快く無い。僕達の同行が嫌みたいだ。だけどそれを耳打ちしてもアイリにはきっぱりと断られたみたいだ。ざまあみろだな。あの悔しそうな顔は傑作だった。
そして僕達はシルフィングを、セラは神酒ネクタルの為に森へと向かう事になったんだ。
森に響くモンスターの叫びが共鳴して広がっていく。無数の足音と幾重にも重なる赤い瞳が蒸気を放っていた。だけどその音が僕達に向かって来ることはない。
遠ざかるモンスターの群……そして静寂は訪れた。僕は一つだけ空いたタルンカッペを拾い上げ呟く。
「テッケンさん……ありがとうございます」
僕達は進む。満月を映すその泉へ。
「ああ~もう~なんで私がアンタ達なんかを案内しなくちゃ行けないのよ! 本当にもう、最低最悪。地獄に堕ちてくんない!?」
なんて口が悪いメイドだ。暗器使いってのも裏付けるなこの性格の悪さ。セラはそんな事言いながら表示させたウインドウに何か印を付けていた。
「しょうがないだろ。僕達でその泉の位置を知ってる奴いなんだからさ。お姫様の命令なんだから文句言わずに働け」
そう、セラが僕達に付いて来てるのはアイリの言いつけだ。僕達はただいま作戦行動中でこの役目は結構重要なんだ。今回の戦いの行方を左右するかも知れない。
だけどあのガイエンを初めとするエルフのお偉いさん共は明らかに僕達が自国の問題に首を突っ込むのを嫌がっていた。エルフは誇りが高いから、助力を仰ぐなんて行為その物が嫌らしい。
でもこれはハッキリ言ってエルフの国で起きただけでLRO全体の問題だ。あり得ない筈のモンスターの村への進行。これはどうもアンフィリティクエスト絡みなんじゃないかと思えて成らない。
異常事態はとにかくそっちに繋がるんだよね。
「私も嫌われたもんだよね~。アイリ様ったらそんなにアギト様の事隠してのが気に障っちゃったんだ。もう、本当に純情ウブウブなんだから切り刻みたくなっちゃうな」
なんて危険な発言してるんだこいつ。自国のお姫様を切り刻みたいだなんて、とんでもない背信行為だ。でもセラを見てると思うよ。
こいつは自分が不利になったり得する為なら、仲間を後ろからその暗器で躊躇わずに刺すだろうと。まあ、パーティーなら仲間にそんな事しても意味はないからあくまで例えなんだけど。
「嫌われてるって、どっちかって言うとお前がお姫様の事嫌ってるんじゃないのか?」
僕の言葉にセラは動かしていた手を止めた。どうやら泉までのルートを何通りも確認してるみたいだったけど、どうやら聞き捨て成らない言葉だったらしい。
「どうしてそう思っちゃうのかな? 私がアイリ様を? バッカみたい。あの人はね、尊敬に値する人よ」
セラは笑顔だ。笑顔だけどどうしても素直に受け入れられないぞ。
「尊敬と嫉妬は違うだろ。アギトは今でもお姫様を好きみたいだし」
それが気に入らないんじゃないの? あのアギトに対するセラの態度が演技とかじゃないんだったらの話だけど。
「何よそれ? ううんそれこそ何よって感じ。私がアギト様の事でアイリ様をどうかするとでも思ってるわけ? あの二人に何があったのかも知らない癖に、そんな事言わないでよ!」
いつになく真剣な眼差しでセラに言われてしまった。からかう様に言ったのが悪かったか。セラは一体何を知ってるって言うんだ? てか教えないのに、それを持ち出すのは反則だろ。
「じゃあ、別にアギトの事はどう思ってる訳でもないんだ」
「ゲームの世界で、何をどう思えって言うのよ。バッカみたい。楽しめれば私は何でもいいの」
セラはそう言って再びルート確認に移る。メイド服を翻すこいつはゲームをゲームとしてちゃんと楽しんでるって事か。リアルを侵す事無く、こことの間に一線を引いている。
それは本当に正しいLROのやり方なのかも知れない。浸りすぎないのがこのLROを心から楽しむ秘訣かもなんてね。僕にはもう絶対に出来ないことだ。
「くぴぴ!」
「どうしたのピク?」
その時、シルクちゃんの肩に乗るピクが小さく小刻みに喉を鳴らした。なんだ? まるで何かを知らせるような警戒音。首を伸ばしてある方向を見つめている……まさか!
「テッケンさん、策適を! 方向はピクの見つめてる方だ」
「よし、分かった。スキル『千里眼』で確認しよう」
テッケンさんが千里眼を発動して暗闇の彼方に目を向ける。すると直ぐにテッケンさんの顔が曇った。
「不味いよ! モンスターだ。数十体……こっちに向かってる!」
僕達は一斉にその方向をみやった。だけど肉眼では何も見えない。それは当然の事だ。僕達は千里眼というスキルを持ち合わせてない。
「どういう事ですか? ピクが見てる方からモンスターの群がやってくるって?」
「多分、ピクは高い危機察知能力を持ち合わせてるんじゃないのかな。それはきっと動物レベルでの感性なんだ」
きっとテッケンさんの言うとおりだろう。ピクはとても高い危機察知能力を持ち合わせてる。シルクちゃんはとことん幸運だよ。モンスターの接近を予め知れる事のメリットはここLROではとても大きい。
知らずに出会うか知ってて出会うかの違い。選ぶ選択の権利が知ってれば出来るんだ。それに不意打ちにも会わないしね。
「ピク凄いね」
そう言ってシルクちゃんはピクの頭を撫で撫でする。
「そんな事やってる場合じゃないでしょ! 敵が来てるのなら隠れるの! ほら、渡したもの被って草むらに!」
セラの声が僕達を促した。ウインドウから出発前に渡されたアイテム『タルンカッペ』を出して僕達は草むらへと身を隠す。
タルンカッペというのは被ると姿を消すことが出来るアイテムだ。結構レアな物だけど、この作戦に当たり僕達にそれが貸し与えられた。基本この森では隠密行動だからね。
尋常じゃないほどのモンスターがここら辺には発生してる。それは一回の戦闘でも命取りな程だ。だから僕達はモンスターに遭遇しないように、遭遇してもアクティブされないで泉を目指す事が出来る準備を整えてやってきた。
戦闘中にモンスターが来たらそのモンスターも戦闘に加わる。それに上限なんかないから、次々に加わるモンスターを全部倒せるなんてあり得ない。
そうなったら作戦は失敗なんだ。
僕達は草むらの影で息を潜める。すると次第にドスドスという重量感のある音が複数近づいて来るのが分かった。見えないだけで大丈夫だろうか? モンスターの中には嗅覚や、聴覚でもプレイヤーを見つける事が出来る奴がいると聞いたことが有る。
「問題はない。獣人系は目に頼る」
そう言ったのは僕の後ろの方に潜む鍛冶屋だ。どこに行ってたのかと思ったら作戦前に帰ってきて僕に代わりの剣を渡してくれた。どうやら知り合いの工房で新しく打ってくれたらしい。
今、僕の腰に差してあるのは銀の装飾が美しい『双剣ニーベル』だ。シルフィングより若干軽く、貴重性もそれほど高くないけど全体的に高仕上がりのマルチスペックを有した良い剣なんだと鍛冶屋は言った。
僕は代わりのこの剣を快く鍛冶屋から受け取ったよ。後ろで大丈夫と鍛冶屋は言ったけど僕は念のためにニーベルの塚に手を添えておく。
だけどそれは杞憂だったらしく、モンスターは立ち止まる事もせずにその場を去っていった。
「何なんだあれ?」
なんだかおかしくないかな? 僕は草むらからでてモンスター達の消えた方をみやる。あのモンスター達、森の外周をなぞって進んでる様な……
「確かに、まるで森を監視してる様な動きだね」
同じく草むらから出てきたテッケンさんが発動した千里眼を暗闇の向こうに向けて言った。きっとあの目には今もモンスター達が写ってるんだろう。
でもテッケンさんの言うとおり、まるで奴らは森を監視でもしてるかのようだ。モンスターがあんな行動取るなんて聞いたことない。元から配置された自分達にとって重要な場所ならいざ知らず、こんな元はいなかった場所でそれをやるなんて考えられない。
ますますもってきな臭さを感じる僕だ。やっぱりセツリを残して来た事は正解だったかも知れない。向こうもその内、危険な事をやりに行くんだけどアルテミナスからは離れるしセツリはそこに同伴しないように念を押していた。
当然セツリはそれを拒否したけど後は残った二人に任せるしかない。アギトもサクヤも向こうに居るし、きな臭いのはあそこの上層部も同じだけどモンスターに倒される心配はないから幾分ましだ。
「監視してるのならこの広い森を一組なんて考えられない。他にも回ってくるかもだし、さっさと入るわよ」
そう言ってセラが森に入っていった。確かにグズグズしてる間も無いわけだし急いだ方がいいようだ。僕たちもその背中を追って暗く不気味な夜の森へ足を踏み入れた。
森の中はやけに静かだった。それに異様に暗い。空には満月が輝いているというのにこの暗さは何なんだ? 普段からこんな森なのだろうか? だけど事前に聞いた話ではここはモンスターも少なく生産系プレイヤーの素材集めの場と聞いた。
それならそう難易度は高くないはず……森は見上げれば真上には星空が見えるし月光だってもっと沢山入ってきて良いはずだ。
なのに暗い……数メートル先が見えないくらいに。どういう事だ。上は見えるのに前は見えないなんて事があるのか?
「まるで僕らの視界に直接干渉してるみたいだよ。システムが見せない様にしてるとか……」
「まさか……」
テッケンさんが怖いことを言うからみんなの肩が一瞬震えたよ。やめてほしいよそんな冗談。冗談に聞こえないから。
「くぴぴ」
その時またピクが小さく鳴いた。僕たちはまたかと思いつつ、方向を確認して身を潜める。実を言うと森に入って既に五回目だ。数メートル進む度にモンスターの一団と遭遇する。どれだけ集まってるんだよって感じだ。
ピクが居なければ森に入って直ぐ、モンスターとはち合わせてたよ。タルンカッペは被ってるけど、奴らはどうも目だけで獲物を確認してるだけじゃ無いようなんだ。
多分大部分は目なんだろうけど、近くでは臭いや音でも反応するらしい。だからやっぱり至近距離を通り過ぎる奴らの横を走ったりは出来ない。
それに異常に暗いせいでいきなりヌワって感じで現れる。ピクの知らせで知っててその方向に目を凝らしててもそんな感じだから驚くよ。この変な闇のせいでテッケンさんの千里眼は使い物にならない様で本当にピク様々だった。
ピクの示した方向からモンスターが五体……ワンパーティーとして現れる。さっきからこいつら絶対にパーティーを組んでいる。こんな事ってあり得るのか? 獣人は普通に肉弾戦をする奴もいれば魔法を使う奴だっている。普段はそいつ等がバランス良く固まってることなんか殆ど無いから気にすることも余りないけど、今は違う。
明らかにバランス良く奴らは編成されていた。僕達がパーティーを募るとき前衛は最低でも二人、後衛はヒーラーとソーサラーを一人ずつ、そして最後の一人は狙う狩場やとかを考慮して考える。まさにその通りだった。
「これって厄介過ぎるわね……タゼホへの侵攻組は不味いかも知れない」
そんな事を小声で呟くセラの声が聞こえる。五回目ともなるともう疑う余地は無い。きっとタゼホを壊滅させた奴らも同じように編成されてるんだろう。それはまるで軍隊だ。
この情報をセラは持って帰りたいのだろう。こんな情報は襲われたプレイヤーからは聞けなかったんだ。でもセラには役目がある。それこそが先に先行して僕達がこの森に来た理由だ。
まあ僕にとってはそっちはついでで、シルフィングを元に戻すのが本音なんだけどセラはそっちが本題だ。
あの時、あの会議の場で僕達はそれぞれの目的の為に手を取った。
「それでは、勇士を集い軍を編成してタゼホの解放に皆の尽力を期待する」
片手を力強く掲げてガイエンがそう宣言した。その言葉に誰も反論なんて無くてパチパチと小さな拍手が起こりみんなが席を立とうとした。
だけどそれだけで大丈夫だろうか? という不安が僕達にはあった。僕達、アンフィリティクエストを知っている面々には軍を率いて数だけで勝負を決めようとするその作戦は余りにも安直過ぎる……様な気がした。
だって今までも、特にあの悪魔との戦いは度肝を抜かれた。助けるべき相手がそこには居なかったんだからね。今回も何かとんでもない事がまだ隠れてるんじゃ無いのだろうか?
特に会議中に話された被害者が見たという奴等を統率する存在が謎だらけだ。女神の様なって……どれだけ抽象的なんだよ。
ただ絶対に敵だと分かるのはその女神が被害者に言った一言だ。
【この世界に貴様等の安寧の地はない】
それはまさに宣戦布告の言葉と言っていい。モンスター共から再び牙を向く時が来た、みたいな。でも確かLROの設定にはそういうのがあったんだ。
元々この世界のモンスターと五種族の戦いはずっと行われてきた。だから町とか村……大きな所で国を奴等から守り、そしてモンスターを滅ぼすのが目的みたいな前提だった。
それを考えると今の状況はある一定のラインに到達したから起きた事前のイベントなのかも知れない。ここから不可侵の領域も解除されて本格的な物語始動とかね。
それかやっぱりアンフィリティクエストでおかしくなったシステムのバグなのか……どっちにしてもこの目で確かめるしかない。
「おい、待てよお前等。それだけか? もう二・三策は無いのかよ?」
僕は出ていこうとするエルフの面々に声を掛けた。するといかにも嫌そうに顔をしかめて笑われた。そしてガイエンが僕を見下ろしながら言う。
「お前は何を言っている? 我らエルフは世界で一番の種族だ。すなわち最も強い軍を持ってるのだよ。モンスターがただ集まった烏合の衆など軽くけちらせる。
アイリ様が貴様等を参加させると言ったからその目に焼き付けるがいい。我らの勇士をな」
ガイエン達は自信満々だった。自分達が負けるなんて微塵も思っていないしそんな発想はLROで最大の勢力になってから捨てたみたいだ。
別に僕だって負けて欲しいと思ってる訳じゃないし自信は戦いには必要だ。自惚れじゃなければだけど。僕はガイエンを見上げて食い続ける。
「別に軍を編成してタゼホ解放に向かうのはいいんだよ! でもそれだけで確実かって聞いてんだ。お前達は力を誇示するために行くのか? 違うだろ。国を背負ってるんなら安直に動くなよ。万全で望めって言ってるんだ!」
すると僕の言葉に今度はみんながヤレヤレと肩を竦める。
「これだから……弱気なヒューマらしい考え方だ」
「我らの強さ、を知らんのかね……」
「ヒューマに我らの豪気さはわからんよ」
「劣化種族なのだからね」
バカにする様な言葉の数々……いや実際してるけど。こいつらにはこれ以上何を言っても無駄か。折角、国と言う絶大な力が有るのにそれを万全にしないだなんて愚の骨頂だ。
今回は今までに無い人数が協力してくれる。それならもっと安全に、ずっと安心できる様にするのがあんたらの役目だろ! 最強という名に酔ってるなよ! でもこいつらは何言っても聞きはしない。
こういうアホは一回痛い目に遭わせたいけど、それでこの国の人達に迷惑が掛かるのもどうかと思う。でも不安は募るばかりだ。このままじゃいけない……確信にも似たそんな気持ちが僕の中には沸いていた。
「いいじゃないですか、策を一個増やすくらい。保険はいつだって掛けとくものですよ皆さん」
唐突に会議の場に響いた声はセラだった。驚きだ。アイツが僕の意見に賛同するなんてさ。それは同じエルフも同じらしかった。
「メイド風情が何を言い出すか。お前は確かそいつ等と共に来たな。エルフの誇りを浚われたか?」
セラはそんな罵倒は意に返さず淡々と告げる。
「メイド風情で申し訳ありませんけど、私はそこのバカに誇りを浚われてなんか居ません。むしろ逆で
す。私はこの国の為に一パーセントでも成功の確率を上げたいだけですよ。貴方達がもしも万が一つでも負けて窮地に立たされるのは誰と思いですか? それはアイリ様ですよ。アイリ様の為に打てる策は全て打っとくのが我らの役目でしょう」
その場のエルフ達が固まる。どうやらアイリという単語には弱いようだ。思案顔のエルフの面々の横から声を出したのはガイエンだった。
「そこまで言うのならセラ。お前にはこの他に策があるのか? そこの者共も?」
ガイエンの視線が僕にも向けられる。え? 具体的なのはそっちお任せしようと……誰が助けて! 周りを見やるとみんなの顔が不自然に逆を向いている。
簡単に仲間を見捨てるんだね。
「勿論ですよ」
僕が四苦八苦してる時、セラは薄ら笑いを浮かべてガイエンに近づく。あのメイド、大した奴だ。
「一応聞いてやろう。だが事と次第によってはお前でも罰が下るぞセラ。これは侮辱と変わらぬから
な」
「どうぞご自由にガイエン様」
ガイエンの威圧的な態度にまったく動じないセラ。とことん謎なメイドだ。セラは何やらガイエンの後ろのアイリに礼をして話し出す。それは作法なのだろう。王族を前にした。
「皆さんも知ってると思いますけど、最近あるクエストの攻略キーアイテムの精製方が判明しました。そのアイテムの名は『神酒ネクタル』。精製材料の一つが復活の泉の輝きの水です。
そしてそのクエスト報酬は王族の第三の鍵と言われてます。ここまで言えば分かるでしょう? 私達にはアイリ様がいるのですよ」
周りがなんだかざわめいている。でも僕達は何か分からないよ。
「王族の第三の鍵とアイリ様……セラ、お前はあの兵器が実現出来ると言う気か?」
「ええ。その為に皆さん必死で外堀を埋めていたじゃないですか。クエスト大量発生と同時に」
なんだか物騒な会話が始まった事は分かる。けど、理解まで行かない。そんな僕達にアギトが説明をくれる。
「この城のおかしさにはお前も気付いただろスオウ。それには理由があるんだよ。この城には王族の血とそれぞれ隠された鍵に寄って解放されていく秘密がある。
その中には信じられない戦略魔導兵器があると言われてた。どうやらガイエン達はそれを見つけたらしいな」
なる程、アギトが言うとおりならそれは凄い物だ。心強いなんてもんじゃない。けどなんだろうアギトの顔はあんまり浮かない。ここに来て大体そうだけど、ここで浮かないのはガイエンもなんだ。これは異常。
「だが、あれは今で無くても……それに国力がだな……アイリ様の事も……」
言い淀むガイエン。国力? 兵器発動の代償とかに関係あるのだろうか? アイリの事は建前だろ。その時後ろのアイリ様が腰を上げた。
「私の事はいいんです。それよりそんな事が可能なら今直ぐにでもクエストをクリアしましょう。セラ、行ってくれますか?」
「ええ!? 私ですか?」
当然だろ。お前が言い出した事だ。でもこれはチャンスじゃないか? 泉に先に行けるのならシルフィングを直せる。慈愛に満ちたアイリの顔にはセラも頷くしかなかった。
でも今度はガイエンが快く無い。僕達の同行が嫌みたいだ。だけどそれを耳打ちしてもアイリにはきっぱりと断られたみたいだ。ざまあみろだな。あの悔しそうな顔は傑作だった。
そして僕達はシルフィングを、セラは神酒ネクタルの為に森へと向かう事になったんだ。
森に響くモンスターの叫びが共鳴して広がっていく。無数の足音と幾重にも重なる赤い瞳が蒸気を放っていた。だけどその音が僕達に向かって来ることはない。
遠ざかるモンスターの群……そして静寂は訪れた。僕は一つだけ空いたタルンカッペを拾い上げ呟く。
「テッケンさん……ありがとうございます」
僕達は進む。満月を映すその泉へ。
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