命改変プログラム
私の一コマ――振り下ろされる刃
センラルトの街、西側の大通りに面するそれなりの宿屋の一階、憩いの場で私は裁縫をやっていた。モダンな作りのこの宿屋で一番のお気に入りの場所だ。
風情がある木目調のテーブルとイスが三セット位並んだこぢんまりとした空間だけど私はそれが好きだった。観葉植物が緑の葉を日差しに照らしてたり、用意されてるリアルの小説の上巻だけ何故か抜け落ちてたりするちょっと間抜けなLROが私は好きです。
データなんだから数に限りがあるなんておかしいのにね。私達がこの街のこの宿を取って既に二日位だけど一向に上巻の場所は埋まらない。
いつもはカウンターで決まった動きだけを繰り返してるちょっと渋めのおじさん風宿屋の主人NPCを見るのも好きです。ずっと見てるとNPCと言ってもそれぞれ個性が見えて来たりします。
このゲームの作り手達の愛を感じる瞬間ですね。私はそんな一面を見つける度に心の中でクスクスしてます。
「あっ……やっちゃった」
裁縫スキル『セーター編』に入った私だけどこれはなかなか難しい。『マフラー編四十面化』を極めた私がこんな所で躓くとはなかなか持ってやってくれるよLRO。
私は最近裁縫のスキル収集に凝ってる。裁縫はLROにある生産系の中で唯一、「オート」と「マニュアル」が有るんだ。それも限定的だけど……リアル系の服や装飾ならまさに手作りが出来る。
それを面倒と言う人も勿論いるだろう。けど少し最初に裏技の「セミオート」に設定してあげるとやり方が自然と頭と体に染み着くから楽で楽しくなれる。
「オート」は素材の選択の後、少しチクチクすると直ぐに完成して出来はランダム。これじゃあ私は満足出来ない。「マニュアル」はまさにリアルと同じ行程をなぞる事が出来る。だけどリアルよりも楽に出来る工夫が一杯なのです。
まずは糸の解れは一瞬で解除! 同じ縫い方の場所ならコピーでどこまででも伸ばせます。これを使えばマフラーなんて一日で完成だよ。それにマニュアルは自己流が出せるんだ。凄い人はLROで自分の店を出してたりしてる。
それはブランドだよ。私はそんな大層な物を心ざしてる訳じゃないけど趣味でチクチクしてると楽しいのです。
「セミオート」はオートとマニュアルの中間で自分の手の動きをシステムがサポートしてくれる状態です。勝手に手がマフラーとか手袋とか編んでくれます。
だからその状態を思い出しながらやっていくと誰でもきっと出来るようになる筈です。
私は失敗した箇所を一瞬で元の状態に戻して再スタート……と思ったらメールが届いた音が頭に響いた。ウインドウを開きメールを確認。それはテッケンさんからだ。何々。
【なんて事だい! 今日はあのイベントの日じゃないか! 今直ぐ戻るから楽しみをとって置いてくれ! 緊急事項だよこれは】
私は頭をコテンと傾ける。肩に掛からない程度の揃えられた銀髪が日の光を優しく返す。私はそんな髪を指でクルクルと巻きながら思案した。
(楽しみを取っておくってどうするんだろう?)
私はイスの背に背筋を伸ばして寄りかかり窓の外を見た。綺麗な石造りの町並みの上では何故か誰もが色とりどりの水を掛けて掛けられしてる。でも見えるのはNPCばかりだな。
プレイヤーの人たちはどこに行っちゃったのだろうか。なんだかさっきから騒がしいと思ったらイベントやってたんだ。なんだか楽しそうなイベントだ。そう言えばアギトやテッケンさんがここの所、話してた気がする。
私は窓の向こう側の楽しそうな光景を見てクスクス笑った。だってみんなおかしな色に染まってるもの。そして笑顔なの。普段は決まった表情しか取らないNPCの人たちが笑ってる。
それがとっても自然に見えて……本当にこの街は息づいてる気がしたんです。
私は視線を戻してテッケンさんへ返信した。内容は簡単だ。
【無理そうなので、早く戻ってきてください】
彼の少しでも早い帰路を祈りつつ、私は再び裁縫に戻る。今度こそセーターの壁を私は越える! イベントに参加したい気もするけどみんながここに戻ってきた時に迎えなきゃね。
セツリちゃんは寂しがり屋らしいから帰ってくる所に居てあげるよ。実を言うとこのセーターも……ね。
だけど不意に止まった手、そして吐き出される息。ポツリと呟いてしまったこれは私の寂しがりの顔が出たのかも……
「はぁ~、みんな遅いなぁ」
そんな私の声が誰も居ない憩いの場に溶けて行った。
汚い空気が鼻につく。いつものこの場所じゃないみたい……いや、目の前のこいつらにとってはこれがこの場所の空気なのかも知れない。
ただ、僕が知ってるLROという世界は絶対にこんな臭いを漂わせていない。腐った土と灰と、そして擦れたゴムの様な嫌な臭い。
そんな表現はLROのシステムは絶対にしてないだろうけど奴らの面を見てたら自然と浮かぶ。とにかく一刻も早く消し去りたい。
だけどその前に……
「アギト、『魔眼』ってなんだよ?」
なんだか周りが知ってて当然と言う体で話すから僕の声は自然と小声だ。なんだよ僕が恥ずかしい奴みたいじゃないか。初心者なんです。僕はまだ初めて一ヶ月も経ってないんだ!
「魔眼ってのは透視、策適系の極みのスキルの一つだ。まぁ、でも魔眼なんて呼ばれるんだからちょっとタチ悪いんだよ」
アギトの返答に困惑が募る。そこにゲスの声が被さってきた。
「タチ悪いなんて酷いなぁ。ははは、スッゲー楽しい力だぜ。なんせ狙った獲物は逃がさないんで済むんだからな」
くそムカつく声だ。だから何なんだよ。具体的に話せ。
ようはこのゲス共は魔眼っていうスキルで僕達の行動を全部どこかで見てたとか言うことなのだろうか?
「大体はそんな感じだけどさ。でもそれだけなら『千里眼』と言うスキルがあるんだよ。わざわざ魔眼なんて物を好きでとる奴は大抵犯罪者野郎だ」
そこに魔眼の「魔」の部分があるとアギトは言った。犯罪者か……確かにいつかセツリを浚った奴らとこいつらは同じ空気出してるよ。
「何しやがったお前!」
僕は前で飄々としながら武器を地面に当てて不規則な音を鳴らしてるゲスに問いただす。魔眼の正体とはなんだ!?
「くくくくくくく。魔眼の対象は人じゃないんだよ。物だよ物。今日の場合はそこの女が握ってるコアクリスタルっつ~わけ。
あの時、お前に斬られた時にはもう魔眼でマーキングしてたんだよ。魔眼の特性はアイテムの強制実体化にアイテム欄への収納不可へのオマケ付きだ。
まあ、離れてちゃしまわれちまうけどな。でもマーキングしたアイテムはアイテム欄から強制的に出すことが可能なんだよ」
「なに!?」
なんてこった。それじゃぁまさにアイテム狙いのドロボーの片棒を担ぐスキルじゃないか。
そしてアギトが言うには『千里眼』と『魔眼』は二重習得が出来ないらしい。だから普通にテッケンさん辺りの策適系を伸ばした人は純粋に千里眼の方を選ぶ。千里眼の対象は人やモンスター、はたまたフィールドやダンジョンでたまに見かける宝箱なんかだ。
これはとっても役に立つスキル。フィールドに一歩出れば不意討ちされても仕方ないLROでは周辺探査は出来るならしたほうがいい。
狩りの時だって獲物を見つけるとかいろんな方面に使える策適スキルの大御所なんだ。
それに比べて魔眼の対象はアイテムなんて……アイテムの強制実態化とか奪うためにあるシステムとしか思えないよ。
「ま、当初の予定ではこんな事になるなんて開発側も思ってなかったんじゃないか? それに別にな、魔眼って言うスキルが悪い訳じゃない。全ては俺たちプレイヤーの使いようだ」
アギトは怖い顔でそんな事を言った。こいつもLROが大好きだからこういう犯罪者プレイヤーは許しておけないんだろう。前に一回不覚とったしね。
あの時は悪魔の介入で結局アギトはあの犯罪者ギルドの奴らに借りを返せてない。ここでその恨みを晴らす気満々になってきてる。
「なんだよそれさぁ。俺は正しく使ってるぜ。魔眼の正しい使い方は強奪なんだよ。その為のスキル以外に何立ってんだよ! たまんねーぜ、苦労して取ったアイテムを強者に持って行かれた時の顔がさぁ! 最高なんだよ!」
腐った言葉の数々に周りを囲んでる奴らは思いだしたかのように笑っている。こいつらはレアアイテム狙いの犯罪者チーム? ギルドなのか?
不快な笑いの不協和音がその場に響く。凍り付いた様に冷たい空気が漂っていた。
「くははは、お前等もさぁ……見せてくれよ。あの顔をさ!」
ゲスが言葉と同時にあの火球が飛ばしてくる。それは開戦の合図だった。一気に取り囲んでいた奴らが動く。その数十数人……二人で凌ぐにはきつい数だ。
アギトが火球を叩き割るとその中から鶏冠野郎が飛び出してきた。だけどさっきの攻撃はアギト凌いでこっちに来るためだった。
「ヒャァハァー!」
目の前に下ろされる赤い刀身を僕は受け止めた。鶏冠野郎は僕狙いか。
「カスの装備の癖してあの時はよくもやってくれたよな!」
「お前がそのカスに負けるほどに弱かっただけだろ!」
僕とアギトはそれぞれ背中をセツリ達に向けてその周囲をグルッと守るしかない。これは大変だ。一人で五人以上の攻撃を凌がなくちゃいけい。
鶏冠の攻撃を受け止めて居ると他のゲスがセツリに迫る。僕は体を回転させて二人の寝そべる空間に沿って移動する。そして二つの剣を両手一杯に広げて権勢した。
「これ以上先へは行かせない!」
武器のぶつかり合いは幾度となく続く。だけど双方HPが減ることはなかった。だって僕らはPK対象者じゃない。セツリと同じパーティーなら僕とアギトにもダメージが入っただろうけど今はまだ違う。
それに町中はPK禁止区域だしその制限も高い。イベントでここでのPKが対象となってるのはセツリとサクヤだけだ。後、クーもかな。
だから僕達にはダメージは蓄積しない。既に半分を下回ってたHP残量で僕らがこうも強気で居られるのはその辺だ。
ここではやられる事はない。だけど倒すことも出来ない。でもそれでも後五分も切ったのならこのままで十分に耐え切れた。HPが減らないなら怖いものはないからね。
「くは、お前バカか。ここには直接攻撃の他にも攻撃手段がある事を忘れてるのかぁ!」
鶏冠の言葉に僕はセツリ達をみた。そしてその上に何かが落ちてきてる風切り音が聞こえた。上を見るとそれは数本の大きな針が起こしていた。銀光するその細長いダイヤの形をした針達は一直線にセツリ達へ迫っている!
「させるかぁ!」
僕は針がセツリ達を貫く直前に剣でその針を弾き飛ばした。その瞬間は僕は隙だらけでそこを狙わない奴らじゃない。背中に迫る剣の気配を感じてとっさに体を僕は捻る。
「つっ……」
腕に鋭い痛みが走る。HPも減らない筈なのに痛みだなんて僕の浸透率は確実に上がってるようだ。
「スオウ!」
横からのアギトの救援。槍は素早い三段付きを放って敵を吹き飛ばす。だけどその時、再びセツリ達に迫る針の姿が見えた。僕はその針を切り捨てる。
当てるわけには行かない。セツリ達は今、PK対象としてその身の出来事はダメージにつながる。一本たりともこの防衛線を抜かせる訳には行かない!
だけど次々に魔法の針は振ってくる。離れた場所に居る後衛組が流れる様に魔法を詠唱してるのか。あれを止めなとじり貧だ。
それには今の状態じゃ無理だ。死なないけど倒せない。それじゃあこの状況を打破できないんだ!
僕はもう針を防ぐ事だけをしていた。後他は全てアギトだよりだ。そうしないと防ぎきれない。全神経を集中してないとたちまち串刺しになりそうだ。
(重い……腕が……感覚無くなってきた。このままじゃ)
その瞬間、横から伸びてきた剣に右手のシルフィングが飛ばされた。
「ははは、串刺しの刑~」
動作が緩慢になった所を狙われた。鶏冠の野郎が本当に嬉しそうにそう言って巻き込まれないように離れる。そして奴に気を取られた瞬間に左手のシルフィングも甲高い音を響かせてこぼれていった。
「しまっ!!」
その後の言葉は続かなかった。何故なら続けざまに飛来した大きな針(全長一メートル半)が僕の体を貫いたからだ。三個飛来して二個が僕の体に刺さって消えていく。左肩と右太股だ。
僕はその場に膝を付く。そして僕は感じていた生温い物が流れ落ちてる感覚を……。
「ぐっ!」
脇からクーにもたれ掛かってきたのはアギトだ。HPに代わりはないけど見た目はそうとうボロボロだ。それもそうだろう、倒すことも出来ない相手十人位と戦ってたんだ。
流石のアギトでも倒せない相手に勝つことは出来ない。普通にやれればアギトならそれでも二・三人は倒しただろうに、まさか倒せない事が枷になるなんて……。
「すまねえスオウ……流石にきついぞ」
「……だな」
僕は頼りない返事を返すことしか出来ない。それをいぶかしんだアギトは僕の服から落ちてる物に気付いたようだ。
「スオウ! お前……やられたのか?」
「二カ所ほど風通し良くなっただけだよ。大丈夫……急所は避けたさ」
前に胸を貫かれて大変な事になった。同じ過ちはもうしないさ。だけどアギトはそんな僕の言葉では安心出来ないらしい。
「バカ言うな! 今この瞬間にもリアルでどうなってるか分からないんだぞ! ぐっ……」
「あんまり興奮するなよな。お前も怪我してんだろ」
ホント人の事ばっかり言ってるなよな。
「俺のは幻だろ。だけどお前のは……そうじゃないかもしれないんだぞ」
はは……確かに……でも、あの時の様な沈んでいく感覚はまだ無いよ。だからきっと大丈夫。
腐った面した奴らが僕らの直ぐ周りを取り囲む。空には無数の針が展開していて僕らにその先端を向けていた。握られた命がここにはある。
「もう野暮だからさ。渡せなんていわねーよ。だってそうだろ? 殺しちまえば煩わしい事もしなくて済むんだしさぁ。なあどう思う」
鶏冠をつけたゲスが僕を見下ろしながらそんな事を言う。ニヤニヤと口の端をつり上げて笑うその笑い方に吐き気を催しそうだ。
「おいおい、わかんねー訳じゃないだろ。やれよ。ゲスに頭を下げて止めてくださいってお願いしろよ!」
ゲスは空に片手をあげる。それはきっと合図だろう。
「十秒待ってやるよ。ほら、じゅう~きゅう~はぁぁぁち――」
楽しそうにカウントを取り出すゲス共の声が不協和音を奏でて町に反射する様に聞こえる。変な効果でもあるのか僕の目は霞んでいた。
「スオウ! おい、どうするんだ?」
「ほらほら~早くしないと全員串刺しだぜ。後ろのかわい子ちゃんまで穴だらけだぞ~」
耳にへばりつく様な笑い声が周りで起こった。僕は後ろを振り返り目を瞑る二人に視線を向ける。そこには二人の美少女がいるはずだ。だけど僕にはその顔が良く見えない。けれど想像する事は出来る。
ここで自分に出来る事は安いプライドを守る事じゃない。このままじゃセツリに取り返しのつかない事が起きる。あれだけの数の攻撃を受けてセツリのHPが残るとは思えない。
僕はセツリの手からコアクリスタルを取った。これをセツリがアイテム欄に入れずに持ってた訳は奴の魔眼の効果。この輝きが何度僕を迷わせるんだ。
「これを渡して、僕が謝ればいいんだよな……」
「ああ、ほら後三秒だぞ。さっさとしろよ。はい、にぃ~い!」
空の針が僕達を狙っている。奴の手一つであれが降り注ぐんだ。交わした言葉をこいつらが守るとは思えない。だけど他にどんな方法がある?
僕は諦めないと誓った。君を守る事を守ることを諦めないと……だから僕の小さなプライドなんて捨ててしまえる。
「い~ち、ぜぇ~……ああ、それでいい」
僕は奴にコアクリスタルをゲスの前の地面に置いた。ゲスは目の前にある物を見て目を輝かせてる。ゲスな奴らの不適な笑みが僕に向けられる。
「ほら、まだやることあるだろうが!」
「っ!!」
「スオウ!」
奴は僕の頭を踏みつけて地面に擦りつける。敗北と屈辱がこんなにも悔しい物だと初めて気付いた。それがこいつらだから尚の事だ。だけど僕は歯を悔い締めて耐える。耐える事が出来た。
「ほらほら、言えないのかな~?」
奴の手が僅かに動く。それに反応するように頭上の針が僅かに動いた。言わなきゃダメだ。セツリを守る事は出来ない。口を動かせ僕!
「……す」
「んん?」
ゲス共があからさまに全員で耳に手を当てて僕の声を聞くポーズを取る。それでも僕は何も言えない。アギトの沈痛な顔が目に映った。んな顔するなよ……止めろ情けない。
「……すみ……ま……」
「うんうん」
土の味とはこういう物かと思った。確かにイヤな味だな。僕は覚悟を決めて息を吸った。一気に言った方が気が楽だ。
「すみませんで――」
「止めろスオウ君! 君は間違っている!」
突如として響きわたった声に僕の言葉は最後まで紡がれる事はなかった。凛とした強さを持った声だった。その場の誰もがその声の主を捜した。
「君はそんな奴か? 本当に彼女達を救う方法が君がプライドを捨て土の味を噛み締める事なのか! 君は本当は逃げてるだけじゃないのか!」
周りのゲスが声の主を必死で探し吠えている。だけど直ぐ近くの筈のゲスの声はとても遠くに聞こえた。だってあの声はなんて言った?
僕が逃げてるだけだと……そう言ったか?
「どう言う事だよ」
僕は地面を見つめて小さく呟いた。するとその声が聞こえた様に続きが来た。
「方法ならまだあるじゃないか! 君は恐れているんだよ。いいや信じきれないのだろう。だけどねスオウ君。君だって分かってる筈だ。目の前のその男は……周りにいるそいつ等は……君が土の味を知った所で、必ずセツリちゃんを殺す! そう言う奴らだ!」
僕は目を見開いた。土を撫でて来た風に突如高原の風が混じったみたいなすっきりさが脳の回路を骨組みから組み直す。
そうだ……それは僕も疑ってた事だ。いや、この声の言う通りに分かっていた事なのかも知れない。ただ僕は……
「君ならそんな奴等に屈しなくても彼女を守れる! いいや、今の君だからこそセツリちゃんを守り通せるんだ! 痛みを恐れないでくれ。スオウ君、君が下を向いてしまったら一体誰がセツリちゃんを助けるんだい! それは君の役目だろう! 王子様は土下座なんかしないぞ! 颯爽と立ってなくてはいけないんだ!」
ただ僕は逃げてただけだ。怖がっていただけだ。そんなんで丸まった背中をセツリに見せようとした。なんてこったよ本当に。
僕は両腕に力を込めて踏みつけられた頭を持ち上げる。
「うああああぁぁぁ!」
僕は奴の足ごと体を持ち上げて形勢逆転だ。ゲスは尻餅をついている。立ち上がった僕の視線の先には小さな陰が見える。
家の屋根に立ちこちらに笑顔を向けてる人物。それはテッケンさんだ。僕は彼に向かってコアクリスタルを投げた。
「何しやがるてめぇぇ! 死んでろよ!」
ゲスのそんな声と共に針が豪雨の如く降り注ぐ。だけど何を恐れる事がある。
僕のHPは尽きる事はない。その身から力が沸くようだ。僕の体は今、闘気を帯びている。
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