命改変プログラム

ファーストなサイコロ

願い求めて



 爆煙の余波か、煙たい臭いが周りに立ちこめていた。戻ってきた意識だけど僕の頭は真っ暗な水の中で溺れるみたいに混乱してる。
 いつの間にか僕の手に握られたコアクリスタル……それを僕は沈痛な面もちで見つめていた。妖しく輝くその光がさっきの映像を見せたのかな?
 何だったんだろう……さっき見たものは? あれは本当に未来なのか? だけどそんな事……それに、このイベントで手には入るアイテムは心を読むアイテムの筈じゃないのか。
「スオウ、来るぞ!」
 僕の考えを遮るようなアギトの声に顔を上げた。周りには武器を構えたプレイヤーの山が迫ってきている。みんなが僕の手の中のコアクリスタルを狙っているんだ。
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
 後方では魔法を発動する為に詠唱をしてる人たちも見えた。だけどこの物量なら魔法なんて必要ないだろう。
 詠唱し終わるまでに僕達はこの人の波に押しつぶされてしまうからだ。それだけ圧倒的な物量差。二人で凌げる数じゃない。前も後ろも埋め尽くされて絶対絶命とはこの事だ。
 僕とアギトは互いに背中を向けて迫り来るプレイヤーを見やった。
 彼らは僕のHPを尽きさせる事をしようとしてる。その場合、僕は自分がどうなるか分からない。もしかしたらそれは最悪の事態が起きるかも知れない事……目の前のプレイヤーに罪は無いけど、何かを背負わせてしまうかも知れない事。
 それに当然、そんなこと自分がイヤだ。こんな所でそんな最悪の結果を招くわけに行かない。絶望的だけど、僕とアギトは強く己の武器を握りしめた。
 だけどその時、空から声が聞こえた。


「スオウ! アギト! 飛びなさい!」


 僕達はその声に従ってとっさに真上にジャンプした。その瞬間、大き羽がその場に広がり巻き起こった風がプレイヤーの足を止める。僕とアギトの場所は真下で風の影響は殆ど無かった。
 だからありがたく降りてきてくれたクーの脚を掴む。そして僕達は大空へと飛翔して脱出に成功する。町が眼下に広がる中、僕達はプレイヤーが殺到してた場所の反対側まで楽々移動できた。
 なんて楽なんだ。クー最高。どうせならその背に乗せてくれたら言うことないんだけどね。


 クーは西側の出入り口辺りに降り立った。流石にNPC以外いない。殆どのプレイヤーが向こうに集ってたんだろう。それか向かっていた人達もいたはずだ。
 ここはもっとも遠い場所。いわゆる安全地帯だな。僕とアギトはクーを撫で撫でしてあげる。
「助かったよクー、ありがとう」
「ああ、ほんとにな。よくやってくれたよ」
 僕達の感謝の言葉にクーは鳴いて答えてくれた。甲高い声が空に響く。だけどそれも束の間の安堵だった。
 クーを撫でている僕達の体の周りには複数のお札が回っていた。この魔法は知っている。これは……
「サクヤ、なんのつもりだよ」
 僕はクーの背に居る二人の内の一人に視線を向ける。巫女服で黒の長いストレート髪が風に揺れている女性サクヤだ。こいつの高速詠唱ははっきり言って敵の時は驚異だった。
 その魔法が今、再び僕達に向けられている。どうしてなんだよ。
「スオウ、貴方には感謝もしてるし期待もしてます。だけど今はセツリの意志が優先です。コアクリスタルを渡してください」
 綺麗な腕がこちらに伸ばされる。僕は隣のセツリに視線を動かした。フワフワの栗色の髪にドレスの様な白のワンピースが青空に映えている。僕と目が合うとセツリはまたサクヤの後ろに隠れる様に体を小さくしてる。
「サクヤ、言わないでって言ったのに……」
 そんな声が少しだけ聞こえたけど、それ以上は何も分からない。やっぱりまだ怒っているのか? さっきは僕の為に叫んでくれたのに、空耳だったのかな?
「さぁ! 早く出してください。殺しはしませんけど痛い目にはあわせますよ」
 なんて物騒な奴だ。そういう奴だって事は知ってたけどなんだかこの光景がさっき見たセピア色の世界に重なる気がした。
 あの世界で見たサクヤの目は酷く冷たかった。まるで心をなくしたただのプログラムみたいに……。二人がもしかして僕を……と思ってしまう。
 最後にみんなが武器を取ったのもそれなら辻褄が合うんだ。だけど……そんな事考えたくない。目の前に居る二人は今は対立してるけど、あんな目はしてないよ。
 サクヤの目は……まあ見下ろす感じだからか怖いけどさ。セツリはかわいらしく顔を赤らめてそっぽを向いている。だから……あり得ない、あんな事。
「どうするスオウ?」
 小声で隣のアギトが訪ねてきた。僕はどうすればいいんだろうか。別に渡したって構わない気はする。いや、僕はまだ許されてないんだっけ。
 それならこのアイテムはまだ必要って事だ。でも既に、心を読むアイテムってのは疑いの余地がある。そもそも噂何だよな。
 それにこのアイテムが心を読むにせよ、未来を見せるにしても、それなら確かめたい。前者ならセツリの心を、後者ならさっき見た謎の光景をだ。だから僕は
「無理だよサクヤ。これは渡せない」
 こう言うしかない。その瞬間、周りのお札が僕達に張り付いてきた。そして炎の固まりが僕とアギトを包み込む。
「「ぐああああ」」
 二人の悲鳴が木霊する。
「スオウ! サクヤやりすぎだよ」
 セツリの心配する声。だけどその声にサクヤは素っ気なく応える。
「大丈夫ですよセツリ。二人ともそれなりの修羅場を潜ってきてるんですから……ね」
 その瞬間、炎をかいくぐってサクヤに迫っていた僕達に視線が当たる。気付いてやがったかコイツ。僕はスキルで、アギトは自慢の装甲で炎を打ち破ってたんだ。
「クー」
 その一言でクーが空へ飛翔する。僕達はクーの起こした風に寄って後方に押し戻された。
「しまった!」
「やばいぞスオウ」
 サクヤ達は遙か上空に行ってしまった。僕達は状況の悪さに舌打ちするしかない。だって僕達に攻撃の手段はないんだ。魔法が使えれば別だけど僕に至っては魔法系のスキルは一つも持ってないし……アギトは――
「長い呪文は苦手なんだよ」
 だそうだ。この肉体派め! 僕達はソーサラーやヒーラー系にはなれないな。


 もともとLROはそういう職業が設定されてる訳じゃないんだ。
 自分がなりたいようにスキルを自由に求める事が出来るから自然に役割的に分類が出来てしまっただけだ。
 それぞれが見つける楽しみが違うから、戦闘系のスキルを多く求めて大層な武器を振るってやる人達を前衛なんかと呼ぶ。リアルには無い、魔法と言う楽しみに求める人は自然とそれ系が多くなって後衛、特に攻撃系魔法を多く持つ人を『ソーサラー』、回復補助系を多く持つ人を『ヒーラー』と誰かが呼んだ。でも中には魔法と剣を上手く使う人だっているかも知れないわけだよね。
 そして他にも生産系スキルとかを伸ばす人を『職人』とか呼ぶ。他にも様々あるここLROで基本、前衛と呼ばれる僕とアギト、後衛の筈であるサクヤなら常識的に言えば僕らに分がある筈……なんだけど、あれは反則だ。
 僕とアギトは地上でサクヤの魔法を避けるので精一杯だ。大量に現れるお札は斬っても斬ってもきりがない。安全地帯からのサクヤの高速詠唱は予想以上にやっかいだ。
 高速詠唱はプレイヤーではないサクヤに与えられた特権のスキル。これはさっきの前提を覆す程の危険な物だよ。だって基本、魔法は強力だ。パーティープレイでは大きく敵のHPを削るのは魔法の役目。締めの一撃と言ってもいい。
 たった一撃の強力な魔法に対抗するために前衛である僕らは技を工夫するんだ。それか連携を複数人で繰り出す。
 だけどそれだけ強力な魔法には詠唱時間というリスクがある。それこそが前衛の方が分があると言われる理由だ。強力な魔法ほど詠唱は長くなりそれは隙だ。その間に幾らでも僕達は攻撃を打ち込んで詠唱を中断させることが出来る。
 けれど今の状況にそれは通用しない。いや、たとえサクヤが空に居なくても彼女の高速詠唱はその常識を打ち破る。多分サクヤは同じ後衛の人が一つの魔法を発動する時には既に三つくらいは出せる。それくらいデタラメに早いんだ。


「アギト! さっきの技使えよ!」
 僕はサクヤの魔法を交い潜りながら声を上げる。さっきの技ってのは僕達がコアクリスタルを手にするために空から奇襲を掛けたときアギトが放った『ボラテイル』というスキルだ。
「ふざけるな! クーは初速で音速超えるんだぞ! 当たるか!」
 ああ、そうだった。あのコンビはデタラメなスペックを有してた。どうすればいいんだ? 僕らには手がない。 
「そろそろ観念しなさい!」
 空のサクヤがそう叫んだ。その時、地面が揺れだした。地面を見るとこの西出入り口一面にお札が敷き詰められていた。
 普段の火の魔法の間に仕込まれたみたいだ。元々こっちが狙いか。
 地面から火柱が吹き出す。これまでの魔法とは規模や性質が違うな。
「範囲魔法だぞ! 避けるのは無理だ!」
 アギトの声が飛んできた。範囲魔法は周囲を埋め尽くす様に発動するらしいから確かに避けるのは無理かも知れない。
 実際、周囲を火柱で囲まれてそこから吐き出される大量のマグマの粒は今までの様になんとか避けられる物じゃない。例えれば雨と同じだ。あれを避けられないのと同じように、だけどずっと雨よりも強力な雨が降っていた。
「ちっ……」
 僕のHPが瞬く間に減っていく。僕の装甲は薄いからホントにあっと言う間だよ。アイツ本当は僕を殺す気なんじゃないのかな?
 僕とアギトは一直線に火柱の外を目指すけどこのままじゃ間に合わない。アギトはともかく僕は攻撃範囲から抜け出す前にHPが尽きるだろう。
「スオウ捕まれ!」
 そう言ってアギトは武器の槍を僕に向けた。その瞬間、何をするか悟った僕はその柄を取った。
「うおおおおおー! いっけぇぇぇ!」
 アギトは武器を僕ごと振るった。そして投擲の状態に成るとおもいっきりブン投げた。赤い光を纏った槍はスキルが発動してとてつもない早さでマグマの雨を突き抜ける。
 そして周りにあった建物にぶつかり大爆発を起こした。
「うばぁぁ!」
 僕は衝撃で槍から手を離し転がった。パーティーじゃなかったら死んでる所だよ。キンキンする耳を叩いて立ち上がっているとアギトの姿が火柱の内側から見えた。
「スオウ、無事か?」
「なんとかっ――づあ!!」
 僕の視界が急速にブレた。そしてアギトが小さくなって行く。腕を巻き込んで僕の胴には青白く発光する物が巻き付いていた。これはクーの尻尾か? 僕は拉致されたみたいだ。
「よく持ちこたえたけどこれまでですよスオウ」
 後ろから聞こえる声に首を動かすとサクヤとセツリの姿。これは万事休すか。
「スオウ、私欲しいのソレ。渡して!」
 セツリは両手を出して胸を張って言い放つ。凄い尊大な態度だな。実際もう勝敗は決した様な物だけど最後の砦として僕にはコアクリスタルを渡さない選択支がある。
 二人は僕を倒せないだろうし、それならこのまま時間が過ぎるのを待っていればアイテムは僕の物だ。だけどそんな事を考えてるとセツリの後ろに居るサクヤが不敵に笑って言い放つ。
「セツリがこんなに頼んでるのにタイムアップを狙うなんて事、考えてないですよね? 甘いですよスオウ。私たちはそんなに甘くありません」
 ギクッと思った。だけど何? 私たちって? サクヤはわかるけどセツリまでそうなのか? 
「ダメなのスオウ?」
 大きな瞳が僕を見つめる。罪悪感ってどこから沸いてくるんだろう? 何も悪い事してない筈なのに、女の子にそんな目されたら妙に悪い事した気がしてくるよ。
 だけどその気持ちを押し込めてでも僕は知りたいことがある。だから
「ごめんセツリ。僕にもこのアイテムが必要なんだ」
 僕はセツリの目を真っ直ぐに見返して言った。なんだって思いが大事なんだ。だから自分の思いをその瞳に乗せて言ったつもりだけど……思いとは時にぶつかるもの。
 互いに譲れない事ならなおのこと。
「そっか、サクヤお願い」
 うん? なんだかセツリの声のトーンが変わった気がする。やけにさっぱり引いたし何する気だ? 「そっか」の時の笑顔がなんだか冷たく見えたぞ。
「了解ですセツリ。覚悟してくださいねスオウ」
 怖い……怖いよこの二人! まさか本当にヤル気か?
「そんなことしないよスオウ。覚えてる? サクヤはここのNPCだった事」
「あぁ、まあそうだったね」
 サクヤとはこの町で初めて会ったんだ。僕達を導いたNPCだった。だけどそれがなんだって言うんだ?
 サクヤはクーの背に立ち、尾に縛られている僕に迫る。
「このイベントはこの町のNPCが持つコアクリスタルを奪う事です。思わないですか? 奪われたコアクリスタルを取り戻そうとNPCはしないのかと。更に奪おうとするプレイヤーだけが敵だとでも?」
 何言ってるんだ? それじゃまるでこの町のNPCだって敵だとでも言う気か。だけど西口に来たときNPCは誰も襲って来なかったぞ。
「それはそうですよ。普通のNPCにプレイヤーを倒して奪い返すなんて出来ません。だからこそ私たちは……触るだけでいいんです」
 サクヤは胸元からリボンを取り出してそれを左手に持ち腕を伸ばす。すると彼女の腕が僕の体に入ってきた。サクヤの腕と僕の胸の隙間から光が漏れる。
「うあぁぁあぁ!」
 痛みはない……けど、何かが入ってくる感触は確かにあった。
「少し仕様は違いますけど……まだ私もここのNPCとして認識されてるんです。だからこうやってコアクリスタルを取り出すことが出来ます」
 サクヤの腕が僕の中をかき回す。すると腕を振ってないのにウインドウが出てきた。そして勝手にアイテム欄へ移り画面がスクロールしていく。止まった場所は勿論コアクリスタルの場所だ。
「リボンを置いていくから許してください」
「入らねえよ!」
 なんだそれ。ただ単にNPCがそういう仕様になってるだけだろ。ようは何かのアイテムと交換してコアクリスタルを取り出せるって事だ。
「その通り、では遠慮なく頂かせて貰います」
 そう言ってサクヤは僕の胸から腕を引き抜いた。その手にはコアクリスタルが輝いている。僕の胸に空いた光の穴が閉じて行く。
「サクヤ、お前……」
 僕は歯噛みする。まさかそんな裏技が有るなんて想定外だ。サクヤはセツリにコアクリスタルを渡して振り返る。
「これで私達の完全勝利ですね」
「ありがとうスオウ」
 二人とも良い笑顔しやがる。でもまだ終わってない。取り返すチャンスは有るはずだ。そう思う僕はなんとか動こうとするけどその瞬間クーの尾が開いた。
「は?」
 僕は重力に従って落下していく。用済みになったからゴミは捨てられたって事か?
「それじゃあイベント終わりに宿で会いましょう。負け犬スオウ君」
 そう言ってサクヤはセツリに腕を絡めて抱き寄せる。何を見せつけてんだアイツ! 僕は結局いらないとでも言いたいのか? 
「ふざけんなぁサクヤァァァ!」
 最後の遠吠えだ。もう僕にはこれ位しか出来ない。確かにこれで僕たちの負けは確定だよ。最後の砦だったコアクリスタルも奪われて、もう僕達の手はサクヤ達の所までは届かない。
「スオウ!」
 声とともに僕を受け止めてくれたアギト。何だかんだ言っても頼りになる奴だな。どうしようかと思ってたんだ。あんな高い所から放り投げるからさ。
「コアクリスタルは?」
「取られたよ。ごめん」
 僕の言葉にうなだれるアギト。頑張っただけに最後にこれじゃあね。完全にサクヤとセツリにしてやられた。
「ああ~、女の子に負けるなんて情けねぇな俺ら」
「うるせぇよ」
 分かってる事をわざわざ言うなよな。追い打ちになっちゃうじゃにないか。
 その時、丁度空の数字が後五分を示した。その数字の周りをクーは優雅に回っている。もう僕達は眺める事しか出来ない。ここまでかな……確かめたかったけど仕方ない。サクヤとセツリになら……まあ許せるよ。
 僕とアギトは刻まれる数字をぼんやりと眺めていた。
 後五分だけど、されど五分。終わったと思っていたのは僕達だけでここには様々なプレイヤーが今集っていたんだ。


 その時、空に何かが飛んできた。まるでキャッチボールの様な気軽さとゆっくり差でスローモーションに見えてしまったその何か。
 僕とアギト、そしてセツリとサクヤはただそれを眺めていただけだったんだ。僕達は一重に気が抜けてた。それしかもう言えない。
 ゆっくりとクーの飛ぶ高さ位までそれが行ったときだ。心臓が跳ねる様な爆音と一瞬だけ空に何かが走った。本当にほんの一瞬……だけど世界を多い尽くしてしまったんじゃないかとその一瞬で思えた程の強烈な閃光だった。
「なんだ今の?」
 僕は目をこすりながら再び空をみる。するとだんだん近づいてくるクーが見えた。
「ん?」
 いや違う……良く見るとクーの体はあちこち焼けた様にくすぶっていて煙も出ていた。そしてどんどん地上に近づいているのに一向に羽を広げようとしない。
 向かって来てるんじゃない……クーは落ちてるんだ!
そして背に居る二人もどうやら気絶してる。あれは……さっきのボールみたいなのは攻撃だったんだ。
 このままじゃセツリ達は確実に地面と激突してしまう。敵からの攻撃によっての二次被害ではダメージとして加算される。最悪、HPが尽きることだって考えられるんだ。
 そんな事起こさせる訳には行かない! 僕とアギトは同時に動いていた。武器を構えて、クーと二人分の体重を受け止める。
「「がっ……ああああぁぁぁ!」」
 僕達は唸った。そうしなければ押しつぶされそうだったからだ。きっと二人と一匹分の重さなんて支えられる物じゃない。だけどそこに僕達が武器を構えた訳がある。
 僕達のHPはクー達を受け止めた時に大きく減っていた。それは今が戦闘状態になっているからだ。武器を構えた事でPK対象のセツリ達と戦闘が成り立った。
 そしてHPを犠牲にする事で衝撃をシステム的に分散させた訳だ。これは強力なモンスターの攻撃を防ぐときと同じ事。奴らの攻撃を受け止める事が出来るのはHPと自身の肉体にその衝撃を分けてるからだ。
 だからこそ強力な攻撃は完璧に受けきらない限りHPは少しは減る。
 僕とアギトはなんとかセツリ達を地面におろした。その時、大勢の笑い声がその場にこだました。そしてその中の一つは聞き覚えがあった。
「はははは、ああ~残念だったな~。レアアイテムだったから威力は良かったけどさぁ、落としてくれなきゃなさぁ……面白くねえよ!」
 それは鶏冠付きのゲスだった。周りには同じ様な腐った目をした奴多数。こんなに囲まれていて気付かないなんて僕も未熟者だね。
 所でなんでこいつらはここに揃っているんだ?
「マーキングされたな。アイツ『魔眼』のスキル持ちか」
 『魔眼』? 僕の聞きなれない言葉を余所に二人はにらみ合っている。ゲス共のニヤけた面が張り付くようにそこかしこに合った。
 最後の五分。このイベントで一番激しい戦いの幕開けだ。

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