命改変プログラム

ファーストなサイコロ

走りすぎた幻想



「行ったぞ、スオウ!」
 アギトの声に僕は身構える。路地に入ったオッサンを僕らは地図を確認して挟み撃ちにする作戦だ。土を蹴る音が迫る。そして揺れるお腹が見えた!
「捕ったぁぁぁ!」
 オッサンに僕の腕が迫る。今度こそ僕はオッサンを掴んだ。だけどその瞬間、手に伝わる感触に異変を感じた。
 肉が豆腐……ゼリーを通り越してスライムの様に溶けてオッサンの体は割れたんだ。僕は腕の支えを失い、前に突っ伏す格好に。
「なっ!」
 体勢を崩した僕の横を更に分裂したオッサンが抜けていく。そして再び二手に分かれやがった。
「おいおい、何度分裂するんだよあのオッサン」
 全くその通りだ。オッサンの後ろから走ってきてたアギトがそんなことをボヤいて僕の横を走り抜ける。僕も止まったままじゃいられない。直ぐにアギトの後ろに続く。
「どうする?」
 僕は前を走るアギトに尋ねる。
「二手に分かれるしか――」
 アギトの声が途切れた。路地を出て広くなった道の左右にオッサンは走っていった筈だ。だからその方向を確認して唖然としたんだ。
 だってそこには溢れるプレイヤーの群に次々に増殖するオッサンの姿があったから……
「マジかよ」
 これはどういう事なんだ。アイテムやらない気マンマンじゃないか! こっちがこんな感じになってるって事はきっとセツリの方もこんな感じになってるんだろう。
 掴んだ側から分裂されたら捕まえようがない。制限は無いのか? 
「もう一度聞くけど……どうする」
 ここは古参プレイヤーの知恵と知識を見せて貰おう。なんだかあそこに飛び込むのが億劫だよ。増えていくオッサンの図は気味悪い。
 いつの間にか情報が広まってあのオッサンがコアクリスタルの所持者とみんな分かってるからバケツを放り投げて捕まえるのに躍起だよ。
「捕まえるしかないだろ」
 アギトの根も葉もないつまらない解答に僕は嘆息する。それをどうやるか聞いてんだよ。まったく、古参プレイヤーが聞いて呆れるな。
「うるせぇな。何かある筈なんだよ。オッサンを捕まえる方法がさ」
 目を細めて苦々しく呟くアギト。確かに今の状況じゃ絶対にオッサンは捕まえられない。それなら捕まえる為の方法が有る筈だ。
 大量に増えたオッサンは次々と分散していく。みんな戸惑いながらもそれを追いかけるしか出来ない。僕とアギトも取り合えず一番近くのオッサンを追いかける。
 方法は分からないけど見失う訳にも行かないんだ。目の前のオッサンがコアクリスタルを持ってる確証はないけど僕達にもそうする事しか出来ない。


 石造りの家々が視界を過ぎて行き、どんどん街の中央部分に近づいていく。目の前のオッサンは既に三回ほど分裂してた。どこからともなく人の波は押し寄せるんだ。
 僕とアギトは追いかけるだけでオッサンには触れては居なかった。無闇に増えても困るだけだからだ。目の前のオッサンを追っていた人数も減り今は僕らだけ。
 それほど街にオッサンが溢れていると言う事だろう。視線を動かせば必ずプレイヤーに追いかけられているオッサンの姿が目に入った。
 既に諦めモードで地面に座り込んでる人達の姿も走っていると目にとまる。確かに今の状況じゃコアクリスタルを手にするのは無理と思えて当然だった。
「スオウ、どうするんだよ? 時間が迫ってる!」
 アギトのそんな声に空のタイマーを見ると時間は後十分に迫っていた。
「分かんないよ! 初心者に求めるな。お前の方がプレイ時間圧倒的に長いだろ。そのキャリアを見せろよ!」
 僕は思わずアギトにあたる。だって走り続けて疲労困憊だよまったくさ。HPは減らないにしても倦怠感が襲ってくる。元々マラソンは好きじゃないんだ。
「お前なぁ、俺だって考えてるんだよ。こういうイベント系はキャリアなんて関係ない。元々誰でも参加出来るようになってるんだからな!」
 アギトも流石に走り続けて疲れていたんだろう。切れかけてた。だけどそう言われるとこっちだって、なんだこの野郎的になるわけで……僕達はお互いのバケツの水を走りながら器用に掛け合った。
「ふざけんなよ役立たず!」
「うるせえ! なんでもかんでも頼るなよな!」
 それぞれ黄色と紫に染まった僕達である。何やってるんだろ……無駄に疲れた。街の中央の東西南北へ伸びる大通りの合流地点に僕達は出た。
 そこは中央に大きな木があって円形状の空間にその木を元に紐でこの街の紋章みたいな旗が広がって飾られている。運動会でそれぞれの国の国旗を張り巡らせる様な感じでね。
 そして当然ここも人で溢れていた。だけどプレイヤーは疲労困憊なのかNPC達の水かけに無抵抗だ。側にはオッサンも居るのにどうせ分裂すると分かっているから手も伸ばさない。
 よく見るとここだけで十人位のオッサンの姿が有った。僕とアギトも思わず足を止めてしまう。だって別に前の奴を追いかけなくてもここには溢れたオッサンが居るんだ。
 もしかして既に街の至る所で同じ様な光景が広がって居るのかも知れない。なんだかアイツ等、集まってコソコソ話し出してるし……チラチラこっちを見るのもなんだかムカつくな。
「なあアギト。アイツ等斬れないかな」
 僕は物騒な発想をしていた。なんだかコアクリスタル云々より今までの労力分位あのオッサンに返したい。
「無理に決まってるだろ。オッサンまで届くかよ。あれはあくまでNPCだぞ。PK対象のプレイヤーじゃないんだ」
「聞いてみただけだよ。んな事分かってる」
 NPCには基本攻撃は届かない。それは常識だ。あれ? だけどあのゲスのキックは何故か入ってなかったっけ?
「あれは微妙だったからな。プレイヤーがNPCに触れる範囲って判断されたんだろう」
 なるほどね。でもあからさまな蹴りだったけど……武器じゃ無かったからかな? ならブン殴る位出来るって事か?
「やろうと思えば出来るぞ。だけど特定のNPCには友好度とかあるからな。後は街に対する信頼度とか貢献度。それはクエストにも影響するから止めた方がいいぞ」
「へ~そうだったんだ」
 初めて知った。そんな数値もあったのか。まぁ殆どクエストやってない僕には縁遠い数値だよね。でもそれならその数値を上げたら貴重な情報とかクエストが出たりするわけだよな? 今NPCに話しかければ状況打破の方法を教えてくれる奴も居るのでは? 
 僕は淡い期待を胸にアギトを見る。だけどアギトは簡単に首を振った。
「無理だな。イベント中はNPCは何も答えてくれない」
 それは絶望的だ。確かにNPCの人達は楽しそうに水の掛け合いっこし続けてるだけだ。
「水……バケツ……コアクリスタル……オッサン」
 僕はブツブツと考える。アギトが言うとおり何か条件がある筈なんだ。僕が最初にコアクリスタル見つけた時の様に――あれ?
 僕は何かが引っかかった。
「アギト……お前さ、僕がオッサンのカツラの下にコアクリスタルが有るのを見つけて捕ろうとした時、見てたよな?」
「ああ、そりゃまあ」
 隣のアギトは訝しげに頷く。だってそれは聞くまでも無い事の筈だからだ。僕達は二人で共に行動してたんだから間違いなく見てる事は分かっている。
 だけど僕は自分の記憶を確かめる様にアギトに聞いたんだ。
「あの時、オッサン逃げたよな?」
「今だってきっと大量に逃げてると思うぞ」
 アギトの声は素っ気ない。そんな事、聞くなよなって感じだ。だけど見てたんなら良く思い出せよな。
「なら、あの時オッサンはどうやって逃げた?」
 僕の再三の言葉にアギトは目を閉じてその場を思い出そうとしてる。そしてゆっくりとその時の事を語りだした。
「確か、お前がオッサンに触れる直前に周りのNPCがスオウに水を掛けて逃がした……」
 そこでアギトも気づいた様だ。目を開いて集まってるオッサンを見て僕を見る。僕はアギトの視線に頷いた。
「それがおかしいんだ。分裂出来るのなら周りのNPCの助けなんて入らないだろ? だけどあの時はそれをせずに周りの助力で逃げたんだ。
 なあアギト、お前が一番にあの後追いかけたんだ。触れたりしなかったのか?」
「確かに何度か髪の毛を掠った感触はあったけど……オッサンは分裂なんてしなかったぞ」
 僕とアギトは二人でバケツの中の水を見つめた。
「あの時と今で違う事はこれだ。もうとっくに水は落ちてコアクリスタルは輝いてない」
 僕はバケツの青い水に映る自分の顔が笑っているのに気づいた。それはそうだろ。やっとで見つけた攻略法だ。
「そうだな。オッサンが初めて分裂したのも水が全部落ちた後だった。その前はそんな素振り一回もしなかったのにだ」
 つまり、僕達の推測はこうだ。オッサンは水を掛けられるかコアクリスタルが光ってる間は分裂出来ない! これで決まりだ! 
「だけどスオウ。目の前のオッサンがコアクリスタルを持ってる本体とは限らないぞ」
 確かにそうだ。このオッサン達がコアクリスタル持っている本体という可能性は低いだろう。だけど今や何体になっているかも分からないんだ。
「だからこのイベントはもう無理だろ・・・捕らせる気なんてないんだよ。幾らいるかも分からないオッサン達全員に水を掛けるなんて不可能だ」
「そうだな……でも、方法はあるぞ」
 諦めたらそこで試合終了だよアギト君。この街に集まっているプレイヤーはオッサンが急速に分裂してもたかが十分程度で追い越せる人数じゃないだろう。
 それならリスクを承知の上でとれる方法がある!
「何する気だよスオウ?」
「まあ見てなって」
 僕はアギトを制してウインドウを表示。オプションを出して声のボリュームを町中での最高に設定。これでよし。
 ここLROではゲームらしく音量の調節が出来る。それはパーティーメンバー探したり、自分を売り込む時に大きな声を出せるようにだ。女性とかだとどうしてもリアルの声量のままじゃ心許ないからね。
 だけど最大にすることはまず無いだろう。それは重大なマナー違反だからだ。だって最大にして叫ぶと街の端から端まで届く程の音になるから……僕は大きく息を吸ってそして叫んだ。


「全てのイベント参加プレイヤー! 手を伸ばす前にバケツを捕れ! そして近くのオッサンにぶっかけろ! それがイベントアイテム入手の方法だぁぁぁぁ!」


僕の叫びでそびえ立つ大きな木が揺れた。アギトや周りのプレイヤー達はその爆音に吹っ飛び掛けて腰が抜けていた。事実僕もびっくりだよ。
 ゲームじゃなかったら確実に鼓膜は破れていただろう。それだけの大音量だった。これなら町中に届いた筈だ。確かに普段の状態の街でやったら怒られる行為だね。
 すると腰砕けだったアギトがゆっくり立ち上がってなにやら肩を震わせている。
「お……お前バカか! 何、盛大に公開してんだよ!」
 まあアギトが怒るのも無理ないね。だけど僕はそんなアギトを余所に周りを見回した。さっきまでやる気無くして座り込んでいた連中が殺気だってバケツを構えだしている。
 僕はその様子に満足してアギトに言った。
「だってさ、このまま二人でやっても絶対にコアクリスタルは手には入らないじゃん。何も出来ずタイムアップだよ。それよりも全員に知らせてみんなで探せば確実に見つかるよ。
 多分直ぐにね。それならずっとやりようがある。タイムアップまで可能性が広がるんだ」
 僕はアギトのバケツを自分のバケツで叩く。するとガシャンと音がして中の水が跳ねた。波紋が広がりそして消えていく。
 アギトはそんな水を見つめて頭を掻いた。
「あ~もう、本当にお前って無茶苦茶だな。アイテム狙いの奴がこんな事するなんて考えられない」
「可能性の問題だろ。そこで諦めるか、リスクの先の何パーセントかに賭けるかだよ。
 それにこれはイベントだしね。最後まで楽しみたいじゃん」
 僕の言葉にアギトはバケツをぶつけ返して来た。そして僕の顔を見てこう言った。
「お前らしいな。しょうがないから最後の一秒まで付き合ってやるよ!」
「当然だろ。誰が途中棄権なんか認めたよ!」
 僕とアギトは中央に固まっているオッサン達に向かって走り出した。そして周りにいた人達も一斉に動き出して輪のようになった。これで逃げ場はない!
「うらぁぁぁ!」
 僕達はバケツを振りかぶる。多分丁度町中でその行為がシンクロしたんだろう。その声が地鳴りの様に響いたんだ。
 そしてオッサン達は色とりどりの水を被る。その瞬間、目の前のオッサン達は消え去った。それはハズレって事だろう。
「くっそ!」
「おいスオウ、あれだ!」
 アギトが指さす方には光が見えた。きっとあれはコアクリスタルの光だろう。だけど遠い……今居る場所は中央で見える光は東出口の方向だ。だけど取り合えず走る他無い。移動手段は他には今は無いからね。
 イベント中でゲートクリスタルは使用不可なんだ。このゲートクリスタルってのはどの街にもあって基本はそれぞれの出入り口にある。大きな街には中央広場にも一個はある。
 これはその街の中をワープで移動できる優れものだ。LROの街は基本どこも広い割に車とかないからこのゲートクリスタルは必須なんだね。
 ゲートクリスタル間を一瞬で移動できるから今使えれば便利だったんだけど……悔しがっても仕方ない、今はみんな条件は同じだ。
「うわ!」
 何かいきなりの突風で転びそうになった。前を見ると前方には大きな鳥が空を飛んでいた。条件同じじゃねーよ。
「おい! サクヤにセツリ、お前等今更だけどズルいぞそれ!」
 僕は見知ったその姿に呼びかける。すると気付いたのか二人がこっちを振り返って何やらこそこそ話してる。
 するとスピードを緩めて僕らの上空でサクヤが顔を覗かせて言う。
「うるさいですね。なら乗りますか?」
 え? マジで? 意外な提案だな。きな臭いけどクーの早さは捨てがたい。僕とアギトは目を見合って頷いた。
「頼む!」
「分かりました」
 サクヤの声と共にクーが迫って来る。僕らはスピード落として上を向いてふと思った。そう言えばクーに僕らが乗っていいのか? セツリはまあ分かるんだ。だけどサクヤが僕らまで乗せるかな?
 そう思っているとクーは直ぐ上まで来てた。本当に乗せてくれそうだ……そう思った時、クーの大きくなった足が僕とアギトの顔面をそれぞれ鷲掴みにした。
「イテテテ、イテェヨおい!」
 鳥の爪って鋭いんだぞ! 首が切断されそうな恐怖が襲いかかってきた。だけど直ぐにそれより怖い恐怖が僕とアギトを襲う。
「うそ……ちょっと、待てサクヤ! 地面が……地面が離れていく~~!」
 僕達は顔面を捕まれたまま空に連れ出されたんだ。顔は上を向いて捕まれているから何も見えなくて怖さ倍増。一体何の恨みがあるんだサクヤの奴め。
「恨みなんてそんな……私はただ親切心でやっている事なのに」
「こんな親切心無いね! あってたまるか!」
 ここにも嘘を堂々と言う女がいたよ。がんばって反論したけどサクヤには見えても居ないんだよね。悲しすぎる。
「あ~も~人の親切心にケチをつけるだなんて、なんて傲慢な方達でしょう。返して貰います。私の親切心」
「は? え? ちょ……待ったサクヤ!」
「俺は失礼な事言ってないぞ。だから止めてサクヤ様!」
 なんだサクヤ様って。だけど僕達はサクヤがやろうとしてる事にとっさに気付いて慌てふためいていた。サクヤ様もしょうが無いのかも知れない。てか僕だけ売ったなアギトの野郎。
「大丈夫ですよ。私は慈悲深いですからね」
 おおそれじゃあ考え直して……
「ちゃんと目的地の上ですから」
「「ふざけんなぁぁ!」」
 僕とアギトの声が重なった。この大和撫子風で性悪なんて質悪いんだよ!
 だけど本当にサクヤはやった。僕とアギトは上空で捨てられたんだ。晴天の空に二人の叫びが響いてた。だけど下には光ものが確かに見える。
「おい、アギト!」
「ああ、俺が貫いてやるよ!」
 僕達はそれぞれに武器を構えた。どうやらコアクリスタルを手に入れたパーティーが大量のプレイヤーを凌いでいる様だ。隔てる光の壁が見える。あのままタイムアップを狙ってるんだろう。
 だけどそうはさせない! 隣のアギトは落ちながら自慢の槍を握り締めて振り被る。放たれた槍は赤い光を放ち彼らの防壁とぶつかった。その瞬間に大爆発を起こして周りは爆煙に包まれた。
「槍スキルのボラテイルだ。着弾と同時に見たとおりになる。かっこいいだろ?」
 アギトの攻撃で邪魔な周りのプレイヤーも吹き飛んで壁際まで行ったから助かった。コアクリスタルを手に入れても周りを囲まれてたら逃げれない。
「うおぉぉぉ!」
 僕はシルフィングを爆煙の中の陰に向けてまずは左を振った。煙を切り裂いて現れたのは紛れもなくさっきのパーティーの一人だ。アギトの攻撃の影響でようやく立ち上がった所。これなら行ける! 僕は右腕を続いて動かした。かわせる筈もない態勢だ。
「うあああああ!」
 断末魔の叫びが周囲に響く。痛みはないけどそれなりの衝撃は来るんだ。僕は続けざまに連続攻撃を放って彼のHPを削る。だけどHPがレッドゾーンに入った時、自分の中から声が聞こえた気がした。
『それは命の残量……』
 背筋を悪寒が貫いた。まさか……そんな筈はないのに、後一撃の所で手が止まる。これはゲームだと分かってるのに、自分の体験が脳裏を掠める。
 だけどその時、反撃を食らった。攻撃が止まった隙に目の前の彼は剣を突き立ててたんだ。その顔は形相に近くて、人が放つリアルな怒気みたいなのに当てられた様な気がした。
 剣と剣のぶつかり合いで押される。二刀がおぼつかない。そして僕は剣を弾かれて一瞬の硬直状態へ……そこへ彼の剣が一直線に向かってくる。
「スオウ!」
 その時、アギトの槍が彼を貫いた。この瞬間、彼のHPはゼロになりその場に倒れた。動かないけど、死んだ訳じゃない。五分の間に誰かが蘇生魔法を掛ければ彼は蘇る。
 だけど・・・なんだかその姿が異様に怖い。何だろう、初めて見るわけじゃ無いのに地面に倒れた彼が何かに見える。
 視界がブレていく……昔のテレビの様な映像の波が起きて思わず目を閉じた。そして開いた瞬間、そこには僕が倒れていた。
 辺りがセピア色に変わり、音も無い。沢山いたプレイヤーの姿は消えていて代わりにここに居ないはずの知り合いが僕の周りにいた。
 みんながその場で泣いている。テッケンさんもシルクちゃんもリルレットやエイル……鍛冶屋まで。そしてアギト……拳を何度も地面に打ちつけて何度も僕の名前を呼んでいるんだろう。
 なんで……いや……これは一体何なんだ? 頭が混乱する。それだけじゃ済まなくてパニックに陥りそうだ。僕の体からは黒い血が流れ出て地面に溢れている。これはまさに死だ。
 その時、誰かが僕の体をすり抜けた。思わず身を引いたその先にはサクヤの姿。だけど彼女は泣いていない。冷たい目で僕を見下ろしている。
「ごめんなさいスオウ……」
 この世界で唯一聞こえた音に僕は前を見た。そこには土下座して頭を下げるセツリの姿があった。そんなセツリにみんなが武器を構える。
 何する気だ? やめろ! 僕はみんなを止めようと前へ出た。
「スオウ!!」
 アギトの声。その瞬間、僕は元の風景の中にいた。そして手には光るコアクリスタルが……
「まさか……今のは未来?」

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