命改変プログラム
イベントランディブー
センラルトの街に色とりどりの水が舞っている。人々の笑い声と共に弾け飛ぶ水の音が愉快な音楽の様だ。人々はプレイヤーやNPC関係なく赤や青や黄色などの色まみれ。
それは異様な光景なんだけど今更そんなことを気にする奴はない。リアルにだってよく分かんない祭りは乱雑してるからね。
だけど僕達はただ無闇に人に水をぶっかけるのを楽しんでる訳じゃないんだ。笑顔の裏では僕達の目は世話しなく動き光る物が無いか探している。
それこそが僕達プレイヤーがこの祭りに参加している理由。町中のNPCのたった一人が隠し持ってる筈のコアクリスタルを手に入れる事が僕らの目的だ。
支給されたバケツには使用して三秒経つと再び色の付いた水が供給される。その再ランダムで水の色が変更される仕様でやっぱりアギトの言ったとおり、色に寄って落ちる時間が違うみたいだ。
一番早く落ちるのは白の水で、今まで確認した中で一番落ちるのが遅いのは紫だな。白は三十秒も持たないけど紫は五分は持つ。
「スオウ! この地区のNPCには掛け終わったぞ。外れだ。移動するぞ!」
アギトのそんな声が飛び交う喧噪の中から聞こえた。だけど周りを見ても確認できない。先に行ったのかアイツ?
「おい、移動するって言ってんだろうが!」
「うわぁ! 誰だお前!」
隣に現れたのは緑と黄色、そして二つの色が混ざって黄緑まで加わった不気味な生物……そんな知り合い僕にはいないぞ!
「アギトだよ! ふざけんな! お前も似たようなもんだぞ!」
ああ、アギトか。不気味過ぎて分かんなかったよ。でもその指摘を受けて自分の姿を確認してみる。赤に青に緑にとビビットカラーが目に痛い。なんで僕のはこんな派手な色なんだよ。
まあそれも時間が経つと綺麗に消えるから良いけどね。洗濯要らずのここら辺はやっぱりゲームの快適さだよ。リアルだとこの後に自分で後悔とかしそうだもん。
僕とアギトは取りあえず場所を移動する。ウインドウを出して街の地図を広げて場所を決める。LROの街はリアルの町並みに広いからコアクリスタルを持つNPCを見つけるのは大変だ。
取りあえず地区ごとに回ってるけどこれじゃ絶対時間切れになる事間違いなし。二時間位の制限時間で町中を探すのは不可能なんだ。
それにコアクリスタルを持ったNPCが止まってるとはあんまり思えない。でもそれでもやっぱり確証はないし、そこら辺にいるNPCを無視するわけにも行かないんだよね。
「絶対に運の要素強いぞこのイベント。それにこんなに街の広さを呪ったのも初めてだよ」
「確かにな。せめて水が消えなければ除外出来る奴が分かるんだけどな~」
僕達二人は路地裏に入ってボヤく。このままじゃコアクリスタルを見つけるなんて無理だ。ウインドウの時間を確認すると後一時間しかない。
イベント開始から半分経ってるし、もしかしたら既に誰かの手に渡っている可能性もある。てか、一時間経って見つかっていない方がオカシいような……
「だけど誰かが発見したら人づてにでも伝わって来るはずだ。それに伝わらなくてもそこに向かって人は流れる。それなら分かる筈なんだよスオウ。よっぽど上手い奴が先行して見つけていない限りな」
確かにみんな躍起になってるし、人が流れるのは解るけどそうなったら混戦だ。どうにかして一番に見つけないとコアクリスタルを手にするのは難しい。
それに……
「よっぽど上手い奴ってなんだよ? そんな奴居るのか?」
僕の質問にアギトは首を縦に振って肯定する。
「お前はさ、まだまだ初心者だしアンフェリティクエストでLROの内情なんかに目を向けてないから知らないんだよな。LROのトッププレイヤー達はスゴいもんだぞ」
アギトのそんな言葉に僕はここでの自分を振り返ってみた。確かに僕は目の前の事以外LROを知らない気がする。始めた初日から分け解らない事になったし、普通にこなしていくクエストもやってない。
最初の街はそうそうに出ちゃったし、それからやったクエストはアンフェリティクエスト絡みでマトモじゃなかったんだ。LROの内情って何だっけ? トッププレイヤーって――
「お前も何だろアギト?」
確かこいつもそのトッププレイヤーだと聞いたぞ。確かテッケンさんから。
「俺は全然成り立てなんだよ。このLROで最強って言われてる奴知ってるか?」
なんだかアギトはテンションが上がっている。何をそんなに興奮してるんだか。僕は取り合えず首を横に振った。
「だろうな。スオウが知ってる分けない。とにかくスッゲェー人なんだよ。滅茶苦茶強いしな」
なんだかアギトの目が輝いている。こうなるとこいつウザイから話題を戻さないと。
「まあ、凄い人が居るってのは伝わったよ。そんな事よりとにかく今はどうやってコアクリスタルを見つけるかだろ」
僕の声に征されてアギトはトリップした状態から戻ってきた。
「ああ……そだな」
なんだか急にやる気が無くなったな。どれだけ憧れてるんだよ。町の喧噪を傍目に僕らは地図を見て作戦会議だ。
「取り合えず町の出入り口には人が集まってるから除外だな。大通りも既に散々掛けられたろうから除外して……そうなると中央付近かな?」
「中央で大通りは繋がってるんだぞ。この街には三つの出入り口があって無いのは南だけなんだからそこを探すしかないだろ」
成る程ね。さすがアギト。伊達に長くやってる訳じゃない。街の南の方は山から流れてきた水が何本も細かく分かれてる部分だ。あんまり店も無いからそっちには人は行かないんだよね。
確かマイルームって言うプレイヤーが買うことが出来る家が沢山ある地域だ。仮想で家? と思うけどそれを買うことを目的にする人も居るそうだ。
買った家は自由に出来るらしいし。店にしたりね。でもかなり高額だから空き家が目立つらしい。それなら人目にも付かずにNPCがうろつけるのかも知れない。
「よし、じゃあ急ごうアギト!」
アギトは脱力しながらも僕の後に付いていく。そんなに聞いてほしかったのか?
「あのさアギト……なんだか僕もその最強の人を知りたくなったよ」
「おお! 本当かスオウ!」
再びテンション上昇のアギト。まあせめて目的達成まではやる気にしておかないとね。それに気になるのは本当だ。これからもアンフェリティクエストは何が起きるか分からないし強い人は一人でも必要だ。
僕は道を駆けながら隣のアギトの話を聞いている。だけどアギトの話は興奮しててよく分からない。なんか全部聞いた話みたいだし……他人の他人の自慢話程ツマラナイものはないよね。
走る間に何回も僕らは水を被った。そして到達した南側だけどそこにも既にプレイヤーは一杯だった。
「な……」
一体どれだけの人数がこの街に集まってるんだ? 人工密度がやばいぞ。
「やっぱりだな。誰だって考えることは同じだ」
「分かってたんならそういえよ!」
無駄な時間じゃ無いか。
「お前自分で見なきゃ気が済まない質じゃん」
う……確かにそうだけど。でもこれじゃ一体どこにコアクリスタルを持ったNPCが居るっていうんだ? 既に時間は後四十分……街にはどこにも溢れんばかりのプレイヤーがいて見つけられないなんてあり得ないだろ。
「確かにな……何か見落としてるのかも」
見落とし……僕達は次々に掛けられる水を無視して考えた。ああもう、ザバンザバンうるせえな!
「ん?」
次々掛けられる水のカーテンの向こうに何か見える。光何かが!
「アギト! あれ!」
僕は水をかき分けて飛び出した。だけどそこには水を掛け合っているNPCとかの姿しかない。
「どうしたんだよスオウ」
振り向くとなんだかドスグロい色になったアギトがいた。こいつは本当に色が変わると不気味だな。
「一瞬さ、あそこに光る物が見えた気がしたんだよ」
僕は前で水を掛け合っているNPCを指さす。
「はあ? 光ってないぞ」
確かにあのNPCは光ってない。だけど……
「なあアギト。NPCのバケツの水は僕達と同じ仕様なのかな?」
「多分……いや……まさか!」
アギトも僕の疑問に気付いた。むしろその可能性は十分にある。同じ色の水が出るからって同じ効果を持っているとは限らない。だってNPCはプレイヤーにも掛けるけどNPC同士でだって掛けてる。
そこに意味があったのかも知れない。だって目の前のNPC達はプレイヤーにも定期的に水を掛けて、掛けられたら近くのNPCが掛けられた相手に水を掛けている。
それはまるで何かを隠すようだ。
「アギト、近くのNPCの水を顔に被ってみろ! いや、目に入れろ!」
僕の言葉でアギトは後ろでバケツを構えていたNPCのバケツに顔を突っ込んだ。
「あそこだアギト!」
僕が指を指す方を緑に染まったアギトが見つめた。
「見えたぞスオウ! 真ん中の太ったおっさんだ!」
「よし!」
僕は勢い良く駆け出す。その時アギトが「使え!」と自分のバケツを渡してきた。僕はそれをありがたく受け取りバケツを両手に携えて水路の脇の集団に突っ込んだ。
ジャンプして空中からまずは右手のバケツの水を集団に被せた。その瞬間オッサンの周りの何人かが自分のバケツの水を掛けた。
やっぱり思った通り、NPCのバケツの水は仕様が違う。きっと僕達プレイヤーの水を無効化出来るんだ。でもそれだけじゃ誰も見つけられないからもう一つの機能がプレイヤーの目にコアクリスタルを見せる機能がある。多分そんなところだろう。
でも基本的な部分は僕らのバケツと機能は同じ。なら、今こそ最大のチャンスだ!
「くらえええぇぇぇぇ!」
僕は左腕に持ったバケツを降り被る。だってそうだろ? 僕達とバケツの機能が変わらないならNPCの奴らに水が戻るまで数秒掛かる。前の一撃を隠す為に使った水はまだ戻ってないんだ!
赤い水がオッサンに襲いかかった。僕は集団の向こう側に降り立つ。その時、まだ昼間なのに僕の体に出来た陰を見て背中に光を感じた。
その場にいた誰もが止まって僕の後ろに目を奪われている。振り返るとそこにはオッサンの頭から神々しいまでの光が放たれていたんだ。コアクリスタルは間違いなくあそこだ! オッサンの頭の……カツラの中だ!
なんだか微妙に赤面してるオッサンに笑える。そんな場合じゃないけど……妙に芸が細かいな。
必死に腹筋を押さえつけて僕は手を伸ばした。
「待てスオウ!」
アギトの声。僕がコアクリスタルを取ったら不味いと言ったアギト。だけど今はそんな悠長な事言ってられない!
周りには数十人のプレイヤーが既に居るんだ! ここで確保しなくちゃ不味い。もうバレたんだ。これからは混戦になる。取り合えず物は手に入れて守りきる方を僕は選ぶよ。
僕は手を伸ばす。コアクリスタルは直ぐそこだ。後数センチで手が届く……その時、大量の水を一斉にNPCから掛けられた。
「ぶがぁぁ!」
目に入ったよ目に。視界が奪われる。
「くっそ……アギト!」
「分かってる!」
ぼやけた視界で捉えたのは輝く頭の赤いオッサンの逃げる姿。そしてそれに続くプレイヤー達だ。きっとあの中にアギトも居るはずだ。
僕も水を拭い走りだす。ここで逃がす訳には行かない。だけどどうして周りのNPCはコアクリスタルの輝きを止めるじゃなく、僕の動きの阻止に水を使ったのだろう?
もしかしてあの機能はコアクリスタルが輝いた瞬間に失われたのかも知れない。だからこその攻撃。NPC達の優先順位の切り替えかな?
僕達は家々の隙間を走る。その時何かが空に放たれた。それはプレイヤー同士の合図だと思う。次々に上がるそれはきっと目的の物の在処を教えてるんだ。直ぐに大量のプレイヤーが詰めかけそうだ。
急がないとやばい。まだ捕まえられないのかアギト。きっと先頭はあいつの筈だ。赤色は確か二分半位しか持たなかった筈だ。流石に光が消えて人混みに紛れ込まれたら逃げられる可能性が高い。
だって奴を見てるのは今追いかけてる僕らだけ……他のプレイヤーは光で判断して初めてあのオッサンと認識するだろう。
光がなければ大多数のプレイヤーは気付かない。色を付けようにもアギトは今、バケツを持ってない。
その時上空から僕らの上を何かが滑空した。青白く輝く鳥は見覚えがあった。
「クー?」
そして鳥は前方に体当たりをして奮迅をまき散らす。民家の軒先で大惨事だ。奮迅が晴れると鳥にまたがった二人の姿が見えた。
「サクヤ、セツリ!」
見知った二人の顔。セツリも一緒で安心したけどこれはどういう事だよ。前方を走っていたアギト達を吹き飛ばしてクーはオッサンをその大きな脚で捉えている。
「ご苦労様です二人とも。おかげで助かりました。このイベントの報酬は私達が頂きます」
淡々としゃべるサクヤの言葉が呑み込めない。もしかしたらが現実になったって事か? 二人もあのアイテムを狙ってる。
「セツリ……」
僕が目をサクヤからセツリに移すと彼女はサクヤの後ろに隠れる様に動いた。やっぱりまだ怒っているのかな。
「ごめんね……スオウ……」
そんな言葉がぽつりと聞こえた。え? それは何に対する? てか謝るのは僕の方だと思ってたのに先に言われちゃったぞ。
「ダメですよセツリ。それはまだ早いです。追いこんで追い込んで……嘘も本心も見抜ける様になってからにしましょう」
サクヤの言葉に悪寒が走った。なんだ? アイツ異様に怖い。なんだか自分が大ピンチになる気がするぞ。このままじゃいけない気がするけどやりようが……そう思ったとき誰かの魔法がクーに入って炎がその身を包む。
「セツリ! サクヤ!」
二人の苦渋の表情にクーの甲高い悲鳴。もしかしてオッサンを捕まえてるからPK対象になってるのか?
「クー! オッサンを離して飛び上がれ!」
僕の言葉に反応してクーは空へ飛翔する。すると炎は消えた。二人と一羽のHPは微妙に減っている。それでもあれぐらいなら全然大丈夫だ。よかった。
そう思って胸をなで下ろすとアギトの声が飛んできた。
「スオウ! オッサンを」
ああ、そうだ! 奴を確保しないと行けない。
「おおっと! 全員動くなよ! 丸焼けにしちまうぞ」
その場の全員の動きがピタリと止まる。オッサンの側には一人のプレイヤーが僕達に赤い刀身の剣を向けていた。その剣の刀身からは鉄が溶けた様な物が落ちて地面を焼いている。
アイツがさっき迷いもせずにクーを炎で包んだ奴か? 多分そうだと思う。ムカつく顔つきしてるよ。PKを何とも思ってない寧ろ楽しんでそうな顔だ。
それはゲームとしては正しいのかも知れないけど、あの二人を巻き込む事なんか無かったんだ。それなのにこの野郎・・・胸の奥から沸沸と怒りが沸いてくる。
僕は腰の二本の剣に手を伸ばす。
「へへ、運が良かったぜ。まさか本当に見つけてくれるとはな」
「ん?」
なんだその言葉? まるで僕達を付けてたみたいな発言だ。僕のいぶかしむ顔に気付いたのかゲスがその鶏冠みたいな髪を揺さぶった。
「何言ってんだ? って顔だな。親切に教えてくれた奴が居るんだよ。お前を付ければこれの所持者を見つけてくれるってな」
そういってゲスはオッサンを蹴った。震えるNPCを見て僕は何かが切れた。そして剣を抜き去った。
「何やってんだ! どういう事か斬り裂いてから答えてもらう!」
「やめろ、スオウ!」
アギトの制止の声を僕は無視する。その代わりに
「アイツの攻撃から周りの奴らを守れよアギト!」
と言って駆けだした。奴の攻撃が何であれ、僕は絶対に当たらない。さっきオッサンを蹴って踏みつけてるお前はPK対象だ!
「来いよ! 俺の剣の餌食にしてやる! さっきの鳥の様にな!」
ゲスは赤い刀身の剣を振った。するとマグマの固まりの様な火球が出現して僕に向かって来る。これがさっきクーを焼いた攻撃か。
「避けて、スオウーーー!」
空からセツリの叫びが聞こえた。だけど僕は笑ってる。避けようとしない僕に流石のゲスも少し訝しげだ。僕はそのまま火球に突っ込んだ。
「スオウーーー!」
「はっ、ハハハハ。バカだ。バカが居るぞ! わざわざ飛び込みやがった。大ダメージは避けられねえぞ!」
ゲスの笑い声が響く。さっさと閉じろよ。晴天の空にそんな笑い声は不快だ。僕は火球の中から飛び出した。勿論ダメージなんか微塵も無い。僕には相手の攻撃を一分間に一度、絶対的にかわせるスキルがある。
ゲスの顔が強ばった。
「なっ!」
「よお、お前の炎、涼しかったよ」
青い刀身のシルフィングを僕は振るう。奴の体に幾つもの筋が刻まれて行く。そして後方に吹っ飛んだ。後ろを見るとアギトが奴が放った火球を武器で斬り裂いていた。そして火球は紙吹雪の様に散って消えた。
「おい、どういう事か吐けよ」
僕はゲスに詰め寄った。僕達を付けてた? それにそうするように仕向けた奴が居る。それは無視できない事だ。
「ふへへへ……知らねえよ。ただこのイベントアイテムが欲しいならそうするのが良いってメールが届いてたんだよ。差出人不明でな」
「何?」
ゲーム内で差出人不明なんてあり得ない。何故ならメールのやり取りはフレンド登録しないと出来ないからだ。他人から誰かへ一方的にメールは送れないんだ。
「疑って良いぜ。だけどなこれは本当だ。俺の他にもいるんじゃないか……そんなメールを受け取った・・」
ゲスの声が不意に途切れた。そして不気味な笑みを讃えた顔を上げて言い放つ。
「奴らがな!」
目の前に衝撃が走り僕は後ろに吹き飛んだ。信じられねぇ、あのゲスさっきの攻撃を煙幕代わりに使いやがった。既にPK対象じゃ無くなってたから奴の攻撃は通らなかったけど驚いた。
爆発に乗じてゲスは逃げた。僕は奴の言葉の意味を考えながら立ち上がりアギトの後方にいるプレイヤー達を見る。するとみんな一斉に首を振った。まあ悪い奴らには見えない。
「どう思うアギ――」
その時ガサっという音が聞こえた。一斉にその方向を見るとオッサンが逃げようとしてる。忘れてた!
「逃がすかオッサン!」
僕はオッサンを捕まえる為に腕を伸ばした。そして今度こそ捕まえたと思った時、信じられない事が起こった。
「「「「はぁ!?」」」」
その場の全員が発した「はぁ!?」だ。それだけ僕達は驚愕した。だって僕が捕まえたと思ったその時、オッサンは二人になった。僕の手から逃げるように正中線で分裂したんだ!
「え? 何? 何が起こったの?」
「しっかりしろスオウ! オッサンが逃げるぞ! 二人のオッサンが!」
僕はその場で動転した。腕を伸ばしたままの格好から戻れない。それだけオッサンの分裂は衝撃だった。アギトの言葉が遠くに聞こえるよ。
その時上空から凄い勢いの風が地上の僕らを襲った。それはクーがオッサンの一人を追いかけるために羽ばたいた余波だ。そしてサクヤが言い放つ。
「そっちは二人に任せるから、どっちが当たっても恨みっこ無しですからぁ!」
オッサンの光は消えている。捕まえるかもう一度水を掛けるかまで確かにどっちのオッサンがコアクリスタルを持ってるか分からない。
僕はアギトと共に走り出した。その時、町中に響くアラーム音。そして空に文字とタイマーが浮かび上がった。
【イベント終了まで残り二十分を切りました】
僕達はそれぞれの思いを胸に最後の争奪戦を始める。
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