命改変プログラム

ファーストなサイコロ

それぞれの役割



 二つの光球がぶつかり合った。一つは黒いフードを被った人物の鍵の様な形をした杖から出た紫色の球。そしてもう一つはプリティックアロマのステッキから飛び出したピンク色の光の球だ。
 二つの球は空で互いを飲み込みながら膨張し拡散した。それと共に二人とも動き出す。プリティックアロマは空気を蹴るように空に飛び出す。フードの人物は両手を広げ更に無数の球が出現した。
 そしてその球は沢山の軌道からプリティックアロマに襲いかかる。だけどそれをステッキで叩き壊しながら彼女は徐々に近づいていく。そして
「食らいなさい! 愛と勇気の力を!」
 ステッキが振り下ろされる。だけどその攻撃はフードの人物まで届いてはいなかった。
「その程度か? 愛と勇気とやらは……」
 紫の光がプリティックアロマにぶつかってはぜた。その拍子に彼女は悲鳴と共に落ちて来る。僕は慌ててその場所に駆け込もうとしたけど僕よりも先にその場にたどり着いた奴がいた。管理者だ。
「きゃあぁぁぁぁぁ! はぷぅ!」
 奴がプリティックアロマを受け止めた。僕はなんだか負けた気分だよ。てか今更だけどなんだプリティックアロマって? 
 よく日曜の朝にやってる少女向けアニメに似ているけどそれかな? プリティックアロマの格好はピンクを基調としたなんとも女の子らい格好で今にも見えそうな位のミニスカート――って下はスパッツかよ! なんだか異様にがっかり。
 二つに分かれた髪は栗毛から鮮やかなピンク色になっている。本当に変身ヒーローみたい。この場合はヒロインか。
「大丈夫かセツリ?」
「……」
 どうしたんだろう返事がない。既に管理者の腕から離れて居るのになんだよ。てかこの状況がなんだよって感じだけど。そろそろ説明を求めたい。
「今の私はプリティックアロマなんだからアロマと呼んでよ!」
「痛い奴だなお前って……」
 そんな願望があったのか。
「今の私はスオウを守れる。だから痛くてもいいもん」
 その言葉はなんだか僕にとっては情けないものだ。今の僕は普段と逆の立場なんだな。
 その時フードの人物が杖をかざす。すると紫の光が町に満ちていく。そしてその光は黒い影だったモンスターに色を与えていくんだ。
「しまった。僕の管理を離される!」
 そんな管理者の声を聞き終わる前にモンスター共は動き出していた。色を取り戻した奴らはその闘争本能も取り戻した様だ。管理から切り離された化け物は今度こそ本当に牙をむく。
「スオウ! 私の後ろに!」
「セツ……アロマ!」
 ああ、なんだか恥ずかしい。けどそう言わなきゃ彼女は怒りそうだし。てかどうしたんだよ一体。
「僕の管理者権限に干渉されたようだ。奴はその力を持つ。もう一人のセツリ……彼女の思いの写し身。この空間から出るには奴を倒すしかない」
 ようはあのフードの奴が全ての元凶か。管理者が何やってんだって感じだけど……元凶が出てきたのなら分かりやすい。で……セツリのあの格好はなんだ?
「この世界を脱出するためにセツリが選んだ方法だ。彼女はずっと守られるだけが嫌だった。そんな彼女が自分の世界で選んだ方法」
 アロマのステッキが光を放つ。そうやって僕たちは彼女に守られている。
「選んだ方法……」
 それがセツリの選んだ枷みたいなものなんだろうか。自身だ望んだリアルとの隔絶。だけど少しでもそれが揺らいでまたリアルに近づく為に自分の思いを確認する手段。
 周りのモンスターを廃して彼女は再び空に飛ぶ。そして大きくステッキを振ってその動きにあわせて光の筋が魔法陣を作り上げた。そして必殺技を叫ぶ声。
 大きな光の奔流がフードの人物に襲いかかる。だけどその中心を貫くように紫の光が走った。
「え? ……そんな」
 光の奔流は拡散して消えていく。その紫の光はアロマを貫いていた。
「これが愛と勇気の限界ね」
 そう言って掲げられた杖の光から黒い大きな何かが姿を現していく。僕は今度こそアロマを受け止めその怪物に目を向けた。それは忘れようもないあの悪魔の姿だ。
「ごめんね……私じゃ……ヒーローは役不足だったよ」
 僕の腕の中でそんなことを言うアロマもといセツリ。その胸からは赤い液体が滴り落ちている。
「おい! しっかりしろ。守るんだろ? 戻るんだろ? ヒーローになりたいならそんな簡単に諦めるな! お前が言った言葉だぞ!」
 悪魔が大きなメイスを振りかぶる。僕はアロマを包むようにするけどこんな肉の壁一枚で防げるほど優しくは無さそうな一撃だ。
 だけどその一撃は直前で僕達の前で止まった。何かがぶつかる音と僅かな衝撃を伝えるだけに止まったんだ。そしてそれをしてくれたのは
「お兄ちゃん!」
 アロマが結局そう呼ぶアイツは管理者だ。素手でメイスを受け止めた体は次第にブレだしていた。
「まだ……貴女は……僕をそう呼んでくれるんだね」
「お兄ちゃん!」
「おい! お前……」
 粒となっていく管理者は僕を見つめる。
「信じろ……ここはセツリの世界でありお前の世界だ。それを忘れるな」
 その瞬間僕達の足下に魔法陣が現れた。これを僕は知っている。転移魔法だ。
 消えていくこの世界の管理者を見つめながら僕達の体はその光に吸い込まれて行く。僕が最後にみたのはボサボサの頭にあの巨大なメイスが降りる瞬間だった。


 僕の手は空を切って床に落ちる。周りには無数の机と椅子が綺麗に並んだ場所。前方には黒板と放送の為のスピーカーに学級目標を掲げた壁。ここは……
「学校?」
 その時、腕の中のアロマの体が光り変身が解けた。教室に響いた甲高い音はステッキが手から落ちた音。
「セツリ? おい! セツリ!」
 僕はセツリを抱えて保健室に走った。学校で手当するならそこしかない。保健室に入りセツリをベットに寝かしたけど困った。胸が貫かれてるんだ。血を拭くにしても包帯を巻くにしても服を脱がさないといけない。
 でも脱がせても僕に何が出来るんだろう。手当なんて意味があるのか? 今もセツリの胸からは止めどなく血が流れている。これは手当なんてレベルでどうにか出来るのか?
「スオウ……」
 か弱いセツリの声。今にも消えてしまいそうだ。そうだ、胸なんだよ……貫かれたのは。僕もそれで死に掛けたじゃないか! 僕にセツリは引っ張れるか? 引っ張りあげられるのか? 
「私……死んじゃうのかな?」
「そんなこと無い!」
 僕は勢いよく言って手を握った。小さく細い手だ。たった二人の世界で今彼女は消えようとしている。そんな事させたくない。どうあってもつなぎ止めたい。死なせたくない、こんな場所で……。
 もしも自分の命を分けれるのなら躊躇わずに分け与えるのに。無力な僕にはただ手を握る事しか出来ない。それでも強く……彼女の存在を離さないように僕は握りしめていた。
 真っ暗な保健室に横たわるセツリの呼吸音だけが嫌に大きく聞こえる。その時、僕達の掌が輝きだした。小さな光は次第に大きくなり僕達の握りあった腕を包む。そしてその光は二人の体に優しく広がった。
 すると次第にセツリの呼吸が静かになっていく事に気付いた。激しかった胸の動きが深くなでらかに落ち着いていく。そしてにじみ出ていた血もそれ以上は広がらず、まさに目の前で奇跡が起きた。
「セツリ!」
 呼吸が整ったセツリは僕に向かって柔らかな笑顔を向けてくれる。
「何……したのスオウ? 今の光、暖かかったよ」
 セツリの質問に対する答えを僕は持っていない。だけどセツリの傷は完全に消えていた。一体何が回復アイテムの変わりになったんだろう。
「何したのか自分でも分からないよ」
 それは正直な自分の気持ちだ。僕にセツリの傷を治す力なんて無かったはずなのに何故かセツリは手を繋いで回復した。どういう事なんだろう……まるで本当に繋ぎ合った者の命を吸ったとか? 
 僕は確かにそれを出来るのなら望んだ……その結果が今目の前で起きた事なのかも知れない。
「それでも私は感じたよ。自分の中に入ってくる暖かな物……あれはきっとスオウの魂だったんだよ」
 僕はセツリの言葉に素直に頷いた。そうだ、きっとそうなんだ。難しく考える事なんか無い。目の前のセツリは助かったんだから素直に今は喜ぼう。それできっと良いんだよ。
 僕はそう自分に言い聞かせてセツリに向かってこう言った。
「僕の魂を受け取ってくれてありがとう」
 そんな僕の言葉にセツリは弾ける様な笑顔を見せて答える。
「変なの。助けて貰ったのは私だよ」
 そう言えばそうだ。僕とセツリは互いに笑った。それはおかしな事だった。モンスターの大群に出られるかも分からない空間で僕らは笑い有っている。
 でもそれは諦めとか……絶望を感じての苦し紛れって訳じゃない。ただ……そうだな。言えるのは僕達は一人じゃ無かったからこの時笑えたんだ。
 そして僕はこの空間にある可能性をセツリが助かった事で見いだしていた。最後に管理者はなんて言っていた?
【ここはセツリの世界であり、お前の世界だ】
 そう言った。僕の仮定はこうだ。セツリが願って変身出来たように、僕達はここでは願う事でそれを実現する事が出来るんじゃないかってこと。
 それはきっと脳を提供してる僕達にだけ許された特権。だってここはシステムが僕達の脳を繋いで作り上げた世界なんだから。
 僕はきっと本当に自身の命をセツリに分け与えたんだろう。HPバーは見えないけどそれはきっと半分位は減ったかも知れない。多分、そう言うことなんだ。
 僕もセツリにリンクした世界の一部なら……きっと力に慣れるはず。その思いをシステムに乗せれば僕はここでも戦える筈だ。


 一頻り笑い終えると僕達は窓の外を見た。すると暗闇にはこの学校をグルッと囲むよう赤い目がいくつも見えた。完全に僕達の位置はバレてる様だ。だけど中には入れないみたいで、ただ外でこちらを伺う様にしてる。
 セツリの心も落ち着いたのか空には少しの月明かりも戻ってきている。
「本当にウジャウジャとしつこいね。まるでスオウみたい」
「おい、それは僕が追いかけるのは迷惑だって言いたいのか?」
 結構ショックだぞそれ。セツリは綺麗な横顔に笑顔を覗かしてからかうように言う。
「それでも……スオウなら嬉しいんだよ」
 栗色の髪がふわりと揺れる。音が静かに流れていく。
「なら最初からそう言えよ。紛らわしい」
 自分のやってることは親切の押し売りでもストーカーでもないと思いたいからな。
「私は女の子だから本心はたまに胸に隠すの。察してよ」
 無理だろそれ。どこに女子が関係してるのかも分からないし。僕は沢山だして行きたい方なんだよ。誰かを知るにはブツカるのが一番だと思ってる。
「それはスオウが男の子だからだよ。女はね、男よりも口が災いの元になりやすいの」
 それは……そういう物なんだろうか? 女子の世界なんて縁遠いから分からない……って、セツリだってそう言うの分からない筈じゃないのか?
「むぅ、私にだって女友達いるよ」
「それってサクヤだろ?」
 それ以外考えられない。するとその名前を聞いた瞬間にセツリの顔が華やいだ。
「何で知ってるの? スオウに話して無いよね? サクヤの事」
「知り合ったんだよ。セツリを助ける途中でさ。今はLROに居るよ。セツリの側でお前が目覚めるの多分今も待ってる」
 するとセツリはなんだかいろんな表情を一気に作った。なんだ? 悩んでるのか。 感情が直ぐに顔に出る奴だ。
「そっか……サクヤすっごいいい子だからね。一緒に居るとなんだか私が悪女になっちゃうんだよね」
 いや……どういう事だよそれ。僕は二人が一緒に居た頃を知っている。でもそこには仲睦まじい二人の姿があったと記憶してるけど……
「それで有ってるよ。私たち仲良かったもん。ただね……私は酷い女だなぁ~って思うだけ」
 それはあの約束の事を言ってるのだろうか? 聞きたいような……でもセツリの横顔にはさっきの台詞が見えた気がした。「察してよ」 だから僕は「ふ~ん」と言うだけに止まった。きっと正解だったろう。
「でも、仲良かったって、今はそう出来ないみたいな言い方だな」
 僕の言葉にうなだれるセツリ。ミスった。地雷踏んだようだ。
「そんなの無理だよ。私はサクヤを置いてった。見限ったの。なんだか帰りたく無くなってきたかも」
 少しずつだけどセツリという人間が分かってきたかも。基本、傍若無人に見えるけどその実本当はとても臆病なのかも知れない。あと逃げ癖付いてるな。僕はセツリの手を握った。
「ふざけるな。放さないからな僕は。絶対に戻るんだ」
 するとセツリは僕から顔を背けた。だけど逃げようとはしない。いや、してるのかも知れないけど僕には分からない。
 そして影に入ってよく見えないセツリの顔から声がした。
「なんで……なんでスオウはそこまでしてくれるの? それって同情とか……仲間の信頼に応える為とかだけなの?」
 いつの間にか出ていたまん丸満月は何故か秋に昇る月の様に赤かった。その光の中……僕は答える。唇の動き一つ一つを確認するように僕は動かしていた。
「それは……」
 影になっていた部分からセツリの大きな瞳が覗いた。星を散りばめた様な綺麗な瞳。僕は必死に言葉を紡ぐ。
 だけどその時、校舎全体が激しく揺れた。
「うあ!」
「きゃあ!」
 地震と思うほどの大きな揺れは二度・三度と続く。これは……地震じゃない。
 僕は外を見て唖然とした。黒い悪魔がその巨大なメイスを校舎に突き立てている! バリアの様な物で守られている校舎は今はまだ無事だけど、この衝撃はいつまでも耐えられる物じゃない様な気がする。
 それについには赤い月を背にして杖を掲げる奴の姿を見てしまった。そして何故か届く奴の声。
「今宵は良い夜だ。赤い月が私の血を沸騰させてる様じゃないか。世界を消すのには絶好の夜だとは思わないかプリティックアロマ」
 なんだろう。最初から思っていた事だけど何だか芝居臭くないかその言葉。すると隣のセツリがワナワナ震えて何かを呟いている。
「そ、その台詞は……第五十話の……あの名台詞」
 セツリはいきなり駆け出す。手にはあの魔法のステッキを握りしめて。一体どうしたんだ?
「負けられないの! 私は絶対これだけは!」
 その瞬間、大音量と共に校舎の天井から何かが振ってきた。飛び散る噴煙の中、見てみると隕石の様な物が空から次々に落ちて来くる。さっきのもきっとこれだ!
「マジかよ……」
 あんなのに当たったらひとたまりもない。流石バランスを考えてない誰かさんの頭が作った世界だ。これをやってるのは多分さっきの奴だろうからもう最悪。倒せるのかな?
 次々と落ちてくる隕石を無視してセツリは走る。僕もその後に付くけど状況はかなり不味かった。さっきの一撃でどうやら学校に張ってあったバリアは消えたようでモンスター共が次々と校舎に押し寄せて来るのが見えていたんだ。
 僕達は階段を上ってるからまだ大丈夫だけど逃げ場が無くなることは見えていた。逃げ続ける訳にはどっち道出来ないんだけど。
 セツリは屋上に飛び出して叫ぶ。
「そんな事させない! 絶対に貴女を止めて見せる!」
 ステッキを掲げたセツリを光が包む。そして現れたのはプリティックアロマ! ピンクがもう目に痛いよ。
「さあ、第二戦と行こう!!」
 フードの人物の張りの聞いた声に挑発される様にアロマは足に力を込める。だけど飛ぶ前に僕はその肩を捕まえた。
「ちょっと待て!」
 僕の言葉に膝が折れる格好になるアロマ。
「お前分かってるのか? ついさっき、コテンパにやられたんだぞ!」
 僕の言葉に顔を弾けさせて答えるアロマ。
「大丈夫! 愛と勇気の力は無限大だから!」
 頭が痛くなってくる。コスプレしたら性格変わるっていうけどこれもその類だろうか。アロマになったセツリは超ポジティブだった。愛と勇気の力に影響されてるんだろう。
「だからその無限大の力で負けてたって言ってんだ! 分かってるのか? 今度こそ死ぬかも知れないんだぞ! もうちょっと慎重に行けよ!」
 僕はつい口調をあらげてしまった。でも仕方ないだろう。だって直ぐに突っ込むんだコイツ。どっかの誰かを見てるようで危なっかし……え? それは自分じゃないかと気付く僕。
「慎重なんて待ってられない。冷静なんて置いて行くもん。それで恐怖を忘れられて突っ込むの。バカかも知れないね。それでも私は守りたい人が居るから突っ込むことしか出来ないの!」
 そのセツリの言葉はかつての自分と一緒だった。ただただ最初は守りたい……助けたいの一心で僕も突っ込んではガムシャラに剣を振ったんだ。それはこんなに周りに迷惑を掛けるし心配を掛けるとも何となくは知ってたけど実感は無かった。だけど今僕はそれを知る。
 初めて僕は今、アギト達の立場に居るのかも知れない。どうして僕はあの時走れたのか。どうして僕はここまで来れたのか……僕の後ろでいつも見守ってくれたアイツが居たからだと気付いた。
 すべての迷いを捨てて一直線に僕がセツリに向かって突っ込む事が出来たのは後ろを任せられる奴が居たからなんだ。
 僕はかつて……と言うか今現在もそうだけどこうやって客観的に見た自分の行いをホントバカだなと思う。だけどみんながそんなバカに付き合う気持ちも何となく分かる気もする事を今知った。
 僕はアロマの肩から手を離す。
「スオウ……ごめんなさい。今ならね、分かるよ。あの時のスオウの気持ち。貴方だけでも……って奴」
 その言葉にいつかの時を思い出す。それを言ったとき確か僕は叩かれたっけ。
「同じ事言うなら僕も叩くよ。二人でLROに戻るんだ。そうだろ?」
「うん、だからスオウはどこかに隠れて……うぐ」
 僕はアロマの唇に指を立てて制した。だって僕の役目はそんな事じゃない。
「お前は前だけ見てろ。アイツをぶっ飛ばす事だけ考えてろ。後ろは……その後全部は僕が片付けるからさ。それが僕の役目だよ」
 そう、この世界での主役は僕じゃない。それはやぱっりセツリなんだ。僕はアイツの気が余計な事に散らされないようにするんだ。いつもアギト達がやってくれてるように。きっと大変だろうけど……言い勉強だ。
「でも、スオウ武器は?」
「大丈夫」
 そんな心配杞憂だよ。その時屋上に大きな悪魔が顔を見せた。やっとお出ましだ。僕はいつものように左右の腰に手を伸ばす。その時、悪魔が僕めがけてメイスを付いて来る。
 アロマの叫ぶ声も聞こえた。だけど大丈夫。僕は宙を握り締めそして振った。
 金属同士のブツカる激しい音と飛び散る火花。拍子にメイスは空に戻っていた。そして僕の手の先には青く輝く二対の剣が月光を帯びて怪しく光っている。その剣の名は『シルフィング』僕の相棒だ。
 地面に転落した悪魔は沢山のモンスターを巻き込んでくれたようだ。僕は惚けているアロマに剣を掲げて言う。
「本当にあるかもな。愛と勇気の力って奴」
 その言葉を聞いて微笑んだアロマの顔は最高級のカメラでもきっとフレームに収まりきれない程魅力的だった。
 そして彼女は前を見据えて空に飛んだ。そこには彼女の倒すべき敵が悠々と待ちかまえている。

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