美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H568

「わわっ――えっとえっとごめんなさい!」

 なくなった壁の先は異様な場所だった。なんか美女とおっさんが同じ服を着て同じポーズをとってる個室? みたいなところ? えっと……地獄絵図ですか? それともそういうプレイなのだろうか?

 思わず嘔吐きそうになったけど耐えて謝れた私偉いと思う。だっておっさんは頭も禿散らかしてて、お腹もたっぷんたっぷんしてる。いやーこういう人もいるんだね。なにせこの世界の魂は強力なのを集めてるって聞いてたからね。

 実際その影響なのか、街中の人達はシュッとした体型の人達が多かったと思う。けど目の前には小太りのおっさん。ある意味でこういう人も必要なんだな……周りを引き立てるためには……って思い出させてくれるような逸材である。

「んな? なななな……」

 と小太りのおっさんは口をパクパクして声にならない声を上げてる。そしてそれに連動してるよこの可愛い女の子。見た目十代くらいの女子だよこれ? やっぱりそういうパパ活とかいうのだろうか? でも……全く一緒の動きしてるんだよね。流石におっさんと女の子が全く同じ動きをするって無くない? 確率的には全くない……とは言えないかもしれないけど、かなりその確率は低いでしょ。しかもそういうリアクションって揃ったとしても最初の一回までじゃない? おっさん、と女子のリアクションがここまで揃うっておかしい。

 そう思ってると後ろから彼が出てきた。

「済みません。このことは他言しないのでご安心を。私達は悪意をもって貴方を陥れようとしてるわけではありませんから。ただの事故なんです。ご了承を」

 丁寧な言葉遣いでそういう彼。出来る男って感じだ。

「あ……あんたは一体」

 うん、やっぱり同じ動きしてる。冷静にみてると、あれは映像なんだとわかってきた。ホログラムって奴かな? 女の子がホログラムね。つまりはこの状況って……おっさんが可愛い女の子になってる……ていう業の深い状況って事だよね!! いやー進んだ世界の変態って凄いね。

 実際におっさんがいくらメイクとか整形を頑張ってもああはなれない……のかな? めっちゃ進んだ技術をもってそうだし成れなくも無いような気がするが……映像の方がお手軽なのは確かだよね。

 その服を着て、可愛い姿になってそれを堪能する……確かにこれは他人に言えるような事では無い。幸いに私が壁を消滅させても音なんて一ミリもしなかったから周囲の誰も気づいてない。そもそも個室になってるらしいみたいだし、このおっさんの名誉はまだ守られている。

「私はこう言う者です」

 そういって何かを手の甲に示す。なにか光が走って、それと同じパターンがおっさんの瞳に走ったように見えた。すると理解したのかおっさんは女の子の格好をしたままビシッと体を直立させて「ありがとうございます!!」といってそそくさと穴から出て行った。なんかこの部屋からでると勝手に服がこの場所でよく見てる黒いスーツになった。へぇーめっちゃ精度高い偽装魔法だったみたいだ。凄いねあの服。そして隣の女の子は消えた。

 とりあえず私達はこの惨状をこの建物の管理人にでも謝らないといけないだろう――とか思ったけど、そこら辺はなんか彼が対応してくれるらしい。やっぱり持つ者は権力だよね。

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