美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H510

「私は……そんな……何てことを……」

 聖女ちゃんはベルちゃんの指摘によってとても動揺してる。なにせ自分自身の手で人の存在をゆがませてしまった。その罪が、彼女の心に重くのしかかる。私ならありがたい事でしょ? とか思うんだけどね。聖女ちゃんはそんな考えが出来る子じゃない。それは今まで観てきてわかってる。誰より聖女してる聖女ちゃんだからこそ、こんな命をゆがませる、そしてそれが当人の意思でもないような事を許容できるわけはない。

 けどそこで動いたのは今まさに話の中心になってる者。そう……聖騎士である。聖女ちゃんの力を受けすぎてその存在を変質させてしまった聖騎士は、なんかとても真っ白になってる。それに頭に輪っかが出てるし。その聖騎士が恐れ多くも、聖女ちゃんの頬にその手を触れた。普段なら、そんな事を聖騎士がしようものなら、他の聖騎士に袋だたきにされるところだろう。けど、今はそんな場合では無い。それに今くらいは他の聖騎士達だって許してくれるでしょう。

 今この状況で嫉妬に狂う奴等だとしたら、仲間買いがないよね。

「ごめんなさい……私は……何てことを……」

 そう言って聖女ちゃんの瞳から大粒の涙が零れる。ぽろぽろ……ポロポロと流れ出る涙はまるで宝石のようだ。そんな涙が聖騎士へと落ちる。彼はそんな涙を拭ってこう言った。

「気にしないでください。弱い私が悪かったのです。そんな私を、貴方は救ってくれた。救ってくれたのです」

 なんか普通に話してる様に聞えるけど……多分この声は他の人には聞えてないだろう。なにせ声としては出てない。頭に直接響くような声だ。本当ならこの会話は聖女ちゃんとあの救われた聖騎士にしか聞えないものだろう。じゃあ何故私にもその声が聞えてるのか……はっきりいえば「さあ?」としか言えない。多分私がこの世界の生みの親……だからとかじゃないかな? とりあえずラッキーと思っておこう。

「救ってなど……貴方を人に戻す方法も私にはわかりません! それは貴方の人生を奪ったという事です!!」

「そうではないですよ。私の人生はもとより貴方に……聖女様に捧げてました。ですので、これはより貴方のために尽くせるという事です。それこそ私の本望。私の本懐、私の願いなのです。だから――」

 そう言って変質した聖騎士が聖女ちゃんの側から立ち上がる。本当ならその体にずっと触れてたいだろうに、自分の役割を果たすために、その楽園から自ら出るなんて……あの騎士やるね。好きな子の膝枕なんて理想郷でしょうに。それでも聖女ちゃんの涙を止めるために、そこから歩み出す。あんたは男だよ……私はそう思った。

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