美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H271

 アイドルスクールを後にした私はアナハイムの街をぶらぶらしてる。帽子をまぶかにかぶって幻想魔法の効果を付与したサングラスをつけてるからバレずにこうやって通りを歩ける。
 すると……だ。

「おう嬢ちゃん。ちょっとお兄さん達とお茶でもしようじゃねーか」
「ああ、きっと楽しいからよ。俺たちと一緒にこいよ」

 そうやってなんか男の二人組が私の前にあられわた。私のことを上から下まで不躾に見てくる不定の輩。まあ別に見られるのは慣れてる。だから別に……別に、良いなんてことはない。

 私はそんな安い女ではない。むしろ最上級だ。チラチラと純情を出してみるのなら許そう。なにせ私には青少年達に女の子とは−−とはいう夢を抱かせる存在だからだ。
 世の男が女性に興味をなくしたら困る事態になるだろう。だからこそ、憧れとか、理想は大切だ。私はそんな憧れや理想を体現する存在だと思う。なにせ皆私に憧れて、私という女性を欲しいと思うからだ。

 まあだからある程度、こういう輩がやってくるのはしょうがない。なにせ私は魅力的にすぎるからだ。確かに今は顔を見られないようにしてるが、けどそれでもこうやって声をかけられるということは、私にはそこはかとない魅力が漂ってるということだろう。
 全く私は、自分の魅力が時に恐ろしいよ。やっぱり美少女には美少女の雰囲気というものがあるんだろう。こういう狼然とした男はそういうのを嗅ぎ取るのが上手いんだ。

「はあ、その勇気だけは認めてあげる」

 けど危機感が足りないよね。確かに私は美少女の雰囲気を醸し出してるだろう。それは否定する理由はない。大体は遠巻きに見てるだけだ。なにせ私の雰囲気はただの美少女という雰囲気ではないからだと思う。
 でもこいつらはどうやら私をただの美少女と思ったんだろう。その危機感の欠如はこの世界では致命的だ。確かにアナハイムは安心安全な都市ではある。犯罪率はとても低いし、生活水準はこの世界で一番高いだろう。だからこそ、数年前まであった危機感を感じとる勘という奴がなくなったんだろうね。
 憂うことである。

「そうそう、俺たち勇気あんだよ」
「おうよ、俺たちが軍に入ればすぐにエリートなんだ。俺たち卒業後にはもう軍に入ることが決まってるからな。将校課程にすぐに行けるくらいなんだぜ。将来安泰な俺たちに声をかけられるなんて君、運がいいよ」
「へえーそうなんですか」

 なかなか鼻高々してる奴らである。実際、こんなんででも優秀なら別にいいが、私に声をかけたその幸運を教授してあげよう。
 
「どうどうだよ皆」

 私はそう言って足元の二体のぬいぐるみをせいする。

「そのぬいぐるみ、君にすごくあってるね」
「まあ君の方が美しいけどね」

 ぬいぐるみと比べんな。私の方が可愛いのは当たり前というか、ベクトルが違うというか。

「私、強い人は好きですよ」
「ハハッ、なら俺たちは相性良さそうだ」
「ああ、俺たち学校の授業でも他の生徒をバッタバタとやってんだぜ」
「まあ素敵です」

 私はそう言って意識的に高い声を出す。それに気を良くしていく学生だという二人。軍学校というとキララが通ったあの学校かな? でもあそこは寮生でこんな簡単に外に出れないか。もっと緩い方の学校も作ったからそっちかも。そっちではもっと幅広く学生を集めていろんな教育をしてるからね。
 キララが通ったところは今や……今やというか昔からエリート育成機関だったけど、その傾向は強くなってる。
 こいつらみたいなチャラチャラした奴らはいないだろう。

「こんなところで立ち話もなんだし、行こうぜ。もっと色々と話そうぜ」

 そう言って私の手を取ろうとしてくる一人の学生。私はそれをひらりとかわしてこういうよ。

「あなた達の話が本当なら、やぶさかでもないですけど、私嘘つきは嫌いなんです」
「なんだよそれ。俺たち嘘なんてついてないぜ」
「ああ、俺たちめっちゃ強いから」

 まあ若者はこういう風に意味不明な自信が大事ではあるよね。でも私に声をかけた勇気と無謀の責任はとってもらおう。

「口ではなんとでも言えます。なので、証明してください」

 私はパンパンと手を叩く。小さな私の手では可愛い音しか出ないが、それで十分。ナンパ男二人は次の瞬間、ガクッと意識を刈り取られて、空中でくの字になってる。そこにはカメレオンがいるのだ。

「戦場に連れて行ってあげなさい。そこで死ななかったら、私に面会できる権利をあげましょう。ふふ、楽しみだね」

 そう言って彼らを私は戦場に送る。うんうん、嘘はよくないもんね。それに褒美が私への面会とか破格だよ。なんて私は優しいんだろう。

 彼らはカメレオン部隊に連れられてきっとどっかの部隊に放り込まれることだろう。ガンバ!!

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