美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Ω161

(僕は……どうなったんだろう……)

 ここがどこだかわからない。ただただ真っ暗な海の中を漂ってる様な……そんな気がする。

(海か……)

 海には思い出がある。それは僕がカタヤ様達に引き取られてたまだ全然馴染めなかった時だ。カタヤ様はよくしてくれてたけど、あの頃はキララ様とは全然打ち解けてなくて、二人はよく僕の事でケンカ――って程じゃないが、言い合いしてた。
 だからどんどん肩身が狭くなってやっぱりここには自分の居場所はないんだって……だからって帰る場所なんてもうない。僕は二人の養子になったんだ。それは普通ならとても羨む事なんだって、子供ながらに理解はしてた。でも、寂しいものは寂しいわけで……それに城とかにはほかに子供なんていない。

 大人ばかりの城で子供の僕が息が詰まるのは当然だ。それに色々な視線が僕に向けられてたのも大きいと思う。それはただの興味だったりもあったが、きっと他の視線も合ったんだと思う。僕はあの頃、人の視線が怖かったから、そういうことだろう。

 そんないっぱいいっぱいの中、カタヤ様はそんな僕に気づいて、外に連れ出してくれた。それもアンティカでだ。無理言って出動して、そして見せてくれたのは世界の綺麗さだった。今まで見た事ない景色をいっぱい見せてくれた。その中に海もあった。

 今や結構気軽にファイラルでは都市とか街ごとの行き来は出来る。けどそれは数年前まではなかなか考えられなかったことだし、今でもファイラル以外ではなかなかに敷居高い。それでも昔よりは全然行き来は激しくて、人の流れというものが大きく変わってる。

 そんな世界だからこそ、新しい景色を見るって機会はそう多くない。けどそんな世界でカタヤ様は自分にいろんな……それこそ世界の素晴らしさを教えてくれた。まああれでも世界にとってはほんの一部……自分のちっぽけさを感じた。

 そして海の雄大さや、不思議さはかなりびっくりした。海というものは知ってたけど、あの時初めて見たから。今思い出すと恥ずかしいくらいにはしゃいでたと思う。

(ごめんなさい……)

 自然とそんな思いがあふれてくる。二人の力に、それにこれから生まれてくる弟か妹の力にだってなりたかった。周囲は軍に入った僕の事を見限られたとかあざ笑ってたが、そんな事はない。二人共ちゃんと今や僕の家族だ。だから僕は自分で望んで軍に入ったんだ。

 キララ様はどう接していいのかわからなかっただけなんだ。今でもぎこちないが、僕をないがしろにしてるわけではないとわかってる。役に立ちたかったんだけど、それは道半ばで潰えてしまった。でもそれでも自分では精一杯頑張ったと思う。

 ラーゼ様は絶対に無くすことが出来ない人だ。だからああするしかなかった。その選択に後悔なんてない。あるのはこれまでの生き方への後悔くらい……自然と涙がこぼれる。

「お母さん……」

 不思議なことに、もういないお母さんがみえる。そういえば海も命の源とか聞いたことある。世界には世界樹があるのになんで? とか思ったが、あれだけ雄大ならそれもあるかも。とりあえず僕はお母さんに近づきたくて必死に水をかく。

 けど、お母さんと僕の距離は縮まらない。ただお母さんは優しく微笑むだけ。

「なんで!? いかないで!!」

 お母さんは僕を迎えてくれる気が無いように思った。言葉が伝わった訳じゃない。けど、何となくそう思った。まだ来ちゃいけないと言われた様な気がした。そんな時だ。

「聞こえるユング! 聞こえるならラーゼに応えなさい!!」

 そんな声が聞こえた。

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