美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Ω99

「わっとっとっ……」

 私とラーゼ様は腕や脚をバタバタさせながらなんとかバランスを取ろうと四苦八苦してる。無重力という感覚にはなかなかなれない。けど、無重力のおかげで建物を揺らしてる振動から逃れる事は出来た。目視で建物の揺れがわかるって相当の揺れだ。それが大きくなりすぎてきてるのか、建物を覆う多面体の透明なガラスみたいなものにヒビが入りだした。

「なんだか崩壊しそうですね」
「何が出てくるのかしらね」
「なんかわくわくしてませんか?」

 この状況を純粋に楽しんでるラーゼ様が凄い。私は流石に付かれてきたんだけど……いや、疲労なんてものは実は既に限界突破してる。過剰なマナをこの身に宿して戦った時からすでに限界だった。でもこうやって動けてるのは、一重に私の使命感が想像以上にあったからかもしれない。

 私は軍にアンティカに乗りたくて入った。それが夢で目標で、そして全てだったからだ。正直アンティカに乗れるのなら、軍でなくてもよかったんだ。けど私はそんな頭良くなかったし、体を動かす方が好きだった。だから軍の方に入ったわけで、そんなに使命感に燃えて国の為とか、国民の為とか正直周囲よりもそんな思いは薄い。

 誰よりも上手くアンティカを使いこなしたい……私の中にある目標はそんなのだ。けど案外軍に染まってたんだなって思う。それに私は私が思ってる以上にあの世界が、星が気に入ってたらしい。だからこそ、絶対に必要なラーゼ様を守る事に躊躇いなんかないんだ。

 そう……皆がだからこそラーゼ様の為に犠牲になった。今度は私というだけだ。振動はとても大きくなり、激しい勢いを持って中央にあった建物を破壊した。最初に出てきたのは太い腕だった。そしてその衝撃にはじけた建物の破片が周囲に飛んだ。

 勿論こっちにもくる。私は咄嗟にラーゼ様を抱き込み破片に背中を向けた。今の私達に避けるなんて選択肢はなくて……こっちに来るな――と祈るしか術はない。けどそんなのを意思のない破片が聞くわけもない。体を沢山の破片が傷つけていくのがわかる。いくらか背中にも刺さってるだろう。

 血が流れてる部分が熱く喚いてる。私は僅かに目を開けて後ろを見る。

「あっ」

 そんな声が漏れた。なぜなら、大きな破片が既に目の前に会ったからだ。それは明確な死を感じさせる程の大きさと勢いを持ってる。

(死ぬのならアンティカと共にが良かったな)

 人生とはままならない物だ。それでも私はきっと恵まれていたんだろう。大好きをやれたから。ならそのだいすきをやれたことへの感謝として、この命を持って世界を繋ごう。ラーゼ様が生きてれば私達の世界はきっと大丈夫。そう思える。私はラーゼ様の頭頂部をみる。私が抱きかかえてるからそこしか見えない。
 私の腕にすっぽりと入ってしまうこの美少女が私達の希望なのだ。だから……私はラーゼ様を守る様に更に強くその身を抱きしめた。

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