美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Ω92

 ラーゼ様が打ち出した黒いマナの塊が灰色の鎧へと打ち込まれた。すると鎧の体がガクンと一瞬動いた。そしてギギギ、ガガガと不気味な動きをしだす。まさか……命でも宿ったのだろうか? 私達では動かす事も一苦労の重量を持ってる鎧が歪だけど、動き出してる。

「ラーゼ様離れてください!」

 そういって私は鎧とラーゼ様の間に入る。この鎧がいきなり目の前のラーゼ様を襲ってくるかもしれない。そんな事を許せるはずがない。目いっぱい警戒して、私は鎧を睨む。一応武器として飾ってあった棒みたいなものを持ってきてる。伸縮が出来てなかなかに便利な棒を見つけたんだ。
 これは物理的な機構で伸び縮みしてくれるから丁度良かった。まあ、私が振り回しても、あの鎧に効果があるかは期待できないが……

 バキンバキンと派手な音を出して、ついには支えから解き放たれる鎧。

「寝起きとかじゃないわよね?」
「そんな風に見えますか?」

 間抜けな事を言ってるラーゼ様に思わずそう帰してしまった。ラーゼ様は今目の前にいる鎧が最初に会った鎧たちと同じに見えるのだろうか? 私にはそうは思えない。目の前の鎧からはヤバイ感じをビンビン感じる。膝を震わせながら立ってる鎧はその重量に耐え切れなくなったのか、膝をつく。


「マナが足りないのかも」
「って、継ぎ足ししないでくださいよ!」

 本当に、もうちょっと危機感持って! ラーゼ様にはこの不気味な感じを感じ取れないのだろうか? 確かに戦場に立つ者でないとわからない感覚という物はある。ラーゼ様から見たら、動き出した鎧の動きがぎこちないから、自分のせいだと思ったのかもしれない。

 だからってマナを継ぎ足すのはどうなの? どう見ても安全そうにはみえない動きしてると思うんだけど! ラーゼ様からマナの継ぎ足しをもらった鎧はその瞳をギンと光らせた。そしてこっちを見てる? けどその視線は直ぐに下にいった。見てるのは床だ。そして両の腕を振り上げたと思うと、次の瞬間この建物が揺れた。

「きゃあああああ!」
「ラーゼ様!」
「うああああああああ私も――」

 傾いた床に滑りそうになったラーゼ様を私は支えたが、その手はラーゼ様だけで手一杯だった。車長さんは鎧が明けた穴に落ちていく。

 私とラーゼ様は恐る恐る穴に近づいて車長さんの無事を確認する。

「大丈夫ですか?」
「な……なんとか!」

 けどその姿は私達には見えなかった。なぜなら、あの鎧は一階の床もぶち抜いてしまったようだからだ。

「一体、あの鎧はどこに……」
「追いかけよう」
「危険ですラーゼ様!」
「でも、私達に攻撃して訳じゃないし、あれは手掛かりでもあるでしょう? なら、放って何ておけないんじゃない?」
「それは……」

 確かに正論……そんな事をおもってると下から車長さんの声が届く。

「ラーゼ様! クリエイト君! これを見てくれ!」

 その興奮した様な声に私達はとりあえず車長さんの元へと向かう事にした。

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