美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Ω76

 走って走って、落ちてくる瓦礫や、迫ってくる根を強化された体でバッタバッタと薙ぎ払う。物凄いパワーだった。今の私には出来無いことなんかない……そうおもわせるだけの力。そして全能感が私を包んでる。でも自分の体から限界って物も知ってる。

 普通の一般人なら、きっとこの全能感に酔いしれてそんな事、気づきもしないだろう。でも私は知ってるんだ。大きな力には代償があるって事を。

「くう……」

 足がもつれそうになる。けど倒れる訳にはいかない。私が倒れたら、ラーゼ様にダメージがあるかもしれない。

「クリエイト、そろそろ限界?」
「いえ、まだいけます!」

 私は力強く地面をける。けど行くところが見えない。何せ相手はこの星その者だ。どこに逃げたって意味がない。けど一度落ち着きたいところだ。なにせ私たちには何もない。このまま戦って勝てるとは思えない。戦いに必要なのは準備だと私は知ってる。

 沢山の準備を整えて戦いとはやるものだ。ぶっつけでやれることなんか、ケンカくらい。これはケンカ程度の規模じゃない。いくら準備を整えたって勝てるかどうかも怪しい強敵が相手なんだ。それに実際、これはじり貧すぎる。

 だって世界樹の根の狙いはラーゼ様だ。ラーゼ様の力を使う限り、世界樹の根から逃れる事は出来ない。だってこの力を感じてあれは追ってきてる。このままじゃいずれ……

(覚悟を決めるしかないよね)

 全員が無事に帰る……それがいちばん英雄的だ。きっと後世の歴史に名を残せるだろう。けど今の状況でそれは夢を見過ぎな事だって誰でもわかる。このままじゃダメなんだ。ラーゼ様の力は凄いが、敵はラーゼ様と変わらない世界樹そのもの……簡単な事じゃない。

 私たちが死んでも……ラーゼ様だけは生きなきゃいけない。だってラーゼ様は人種に……ううん、わたしたちの世界に必要な人だ。だから……

「ユング……ラーゼ様をお願い」

 私はそういって並走してるユングに近づく。普通ならラーゼ様を担ぐことに動揺とかしそうなユングだが、その言葉の意味を理解してるんだろう。僅かに俯く。

「クリエイト……」
「ごめんなさいラーゼ様、ユングの背中に移ってもらえませんか? それと力を授けてくださると助かります。その後はなるべく力を隠してくださいね」

 これしかない。誰かが囮になってその間にラーゼ様を逃がすしか方法がないんだ。そうしないと一時的でもこの窮地を脱する事は出来ない。けどそれにユングの奴が意見した。

「ラーゼ様、僕にも力をください。そして……ラーゼ様を頼みますクリエイトさん」
「ユング……それは……」

 ユングはここの奴らからもらったマスクしてるから、表情はわからないし締まらない。けど、そこには死の覚悟がある。

「あ、あんたはダメでしょ。カタヤ様やキララ様の息子なのよ!」
「養子ですよ。そにれこれから本当の子が生まれる。僕がいない方がきっといい」

 その言葉にぶっ叩いてやろうかと思ったが、私よりも早くラーゼ様がグーパンしてた。カツンとなったくらいの衝撃だ。実際ラーゼ様の拳の方がダメージあるだろう。そして……

「本気なのね?」
「はい!」
「なら、私から二人にはユングの最後、伝えてあげる」
「ラーゼ様!!」

 私はそう声を上げるが、ユングが「ありがとうございます」と言った。引く気はない。そして伸ばした手にラーゼ様が力を送る。苦しそうな声を上げるユングが、その場にうずくまる。私たちも足を止めようとしたが――

「走れ!! 走ってください……ここは引き受けますから」

 そうユングはいった。苦しそうな声だった。

「行きましょうクリエイト」
「つっ! 生きなさいユング! 簡単に死ぬんじゃないわよ!!」

 私は車長さんの手を引いて走り出した。既にラーゼ様が力を抑えだしてる。根はユングの方へと集まって言ってた。残酷な事を言ったと思う。簡単に死ぬわけない。ユングはその命を燃やし尽くすだろう。けど……それでも生きようとしてほしかったんだ。

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