美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√74

 面倒な事になった。魔王様の為にクリスタルウッドにあの方の場所を用意してるというのに……やはりあの女が近づくとクリスタルウッドが歓喜に震える。別にこの大地を離れていたという訳でもないのに……中にいると殊の外わかる。

 この神秘の木の感情が。これはやはりただの木じゃない。わかってた事だ。だが……一体になる事で感じる。それは……この木には感情がある――ということだ。世界を支える木だ。それでもおかしくなんかないが、魔族の土地で苗木だった頃はわからなかった。

 祭られてはいたが、それだけだ。特別なんだと思うだけ。だが、この土地に来て初めて育った世界樹をみて、特別の意味を知った。神秘……というものがどういうものか、それはこの木が体現してる。どこまでも続くかの様なマナの海。それを侵食するのは普通は出来る事じゃない。

 だが我等魔族は世界樹に選ばれた種。だから出来る。ある程度は。私は普通よりも浸透率が高かった。だからこの大役を任されたのだ。私の役目は魔王様の為の入り口を作る事。それは成功している。クリスタルウッドと溶け合った時点で私は目的を達してる。後は自我を保ち、魔王様の部屋をクリスタルウッドの中へと用意すること。魔族の王に居城はない。

 それは魔王様はクリスタルウッドの化身だと言われてるからだ。魔王様は世界樹と共に育って、時期が来れば現れてくださる。そう伝えられてきたが、今回の魔王様は特殊だ。魔王様はいる。世界樹が苗木の時に生まれた。だが世界樹はなくなった。それは歪な事だ。三つの世界が侵食してくるこの時、世界の為にもあんな奴が世界樹を支配し続けるよりも魔王様の元に戻った方が絶対にいい。

 なのにこの世界樹は……

「ああ、折角配置した家具が!」

 空間を区切り、世界樹の中にくつろげる空間を創造してたのに、それが消えてしまう。まだ空間は維持してるが、事前にこの地の奴らから得たマナでは意味がなかったかもしれない。馴染んでた人種のマナは小さくても、まやかしには使えた。

 だが、それもここまで。後は私自身のマナで空間と入り口だけでも維持しておこう。たとえ、この身が全てマナになろうとも。

「仕方ないわね。殺風景になってしまうけど、そこは魔王様のセンスに任せるとしましょう」

 くすっと笑う。魔王様というのは恐ろしい存在だと聞いてたが、実際に会ってみると、そんなに変わらない女の子だった。守りたいと思わせるような……そんな子だった。でも最近はどんどん、そんな感じは失われてきてる。凄みというか、支配者の凄みを感じて雰囲気も見た目は少女だが、その貫禄は少女の出せるものではなくなっていってる。
 でも時々彼女は女の子を見せる。そんな子にはとても重い役目だ。いつだってきっと彼女は頑張ってる。なら最後に私からも贈り物をあげたい。

 だからやり遂げよう……

(ん?)

 真っ白になってしまった空間で一人、消えかける私の耳に声が届く。

「セイ! セーーイ!!」

 その名前は偽りだ。そんな名前を呼ぶのはこの世界で一人しかいない。愚かな人種の男。私を信じ、騙された。だがここにいる筈はない。そもそも人種はこの場で意思を保ってられるわけがない。
 だがその声はどんどんと大きくなる。そして男はそこにいた。

「なぜ?」
「何故って僕達は夫婦だろ?」
「そんなの――嘘よ」

 もう気付いてるだろう。私は魔族の姿をしてる。どんな馬鹿でも気づく。だが愚かなのか、彼はいう。

「それでも一緒にいてくれないか?」
「なんで……そんな……」

 はっきり言って意味が分からない。意味がない。

「だって……一人は寂しいし……さ」
「あんた……その為に、死んだの?」

 そうこの場にいるということは死んだはず。肉体と共にここにはこれない。

「夫婦は、一緒にいるものだろう」

 彼は赤い顔で私の手を無理矢理取った。振り払う事は簡単だ。だが……どうせ私たちは消える。なら……最後までこの男でも夫婦でもいいかと思った。別にそれは、寂しかったからじゃない。取られた手が暖かったからじゃない。

 だだ、この男がバカすぎたから、そのくらいなら……っておもっただけ。

「ありがたく思いなさい」

 私はそういって手の握りを変える。指を交差させてしっがりと握る。それだけで……それまで。けど、暖かいからこれでいい。

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