美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√55

 蛇は動けない。ここで動く事はようやく拘束出来たこの化け物を野に放つことだからだ。両手が塞がった中で目の前の奴と戦わなければならない。厳しいが泣き言なんて言ってられない。目の前の奴はこのでか物の頭脳らしい。なら、戦闘力はそこまででもないかもしれない。

(楽観的な予測は危険ですね)

 直ぐに蛇はそう思いなおす。事実、目の前の敵のプレッシャーはかなりのものだ。これで弱者な訳はない。

「その状態でどこまで持つのか……なんていわん。ただ素早く……死ね」

 次の瞬間、蛇の足元から棘が出てきた。間一髪で蛇は飛んだ。だが――

「それからどうする? お前はそこから動けないだろう」

 いつの間にか奴の腕が大きな槍へと変化してた。それに伸びた棘はそのまま。下に落ちても、避けた先も狙われてる。

「ならこうです!」

 そういって蛇は腕を引く。すると反って背中についてる頭部分が滑りながら迫ってくる。

「意味がないとわからないか!?」

 迫ってくる頭部分に奴は取り込まれる。すると頭が変化した。奴の口が現れて、何もなかった部分に大きな一つの目が現れる。そしてその勢いのまま蛇に迫る。

「愚策を犯したな蛇!」

 巨大な口が開かれる。それはさっきの比じゃない。地面さえも巨大にえぐれるほどの口だ。蛇なんて簡単にかみ砕く事が出来るだろう。

「ぬぐうううおおおおおお!」

 蛇は必死にその勢いを弱めようと鞭を絞める。だが、頭が加わった化け物は想像以上に強い。鞭自体がはちきれそうだ。はちきれてないのは、過剰なマナを供給してるからにすぎない。だけどそれでも止まらないだ。

「アンサンブルバルン様!!」

 口へと飲まれる瞬間、彼女が飛び込んできた。蛇を守るように覆いかぶさろうとする。だが蛇の方が大きい完全に隠すのは無理だ。だけどある程度守られはした。即死してはない。

「大丈夫ですか?」
「全くあなたは無茶をしますね」
「だってアンサンブルバルン様が危なかったので……あっ、もしかして私邪魔しちゃいましたでしょうか? アンサンブルバルン様は幾重もの策を張って敵を追い詰める策士家、あんな化け物に遅れなど取らないですよね。すみません!」
「……」

 蛇はなんとも言えない顔をしてる。それに対して絶体絶命の状況の中、彼女の瞳はキラキラしてる。目だけが輝いてる様に見えるくらい。口の中でゴリゴリされてて暗い筈なのに、本当にそう見える。そんな期待のまなざしを見てた蛇は深く息を吐く。そしてこういった。

「勿論ですよ。こんな奴はさっさと倒して、魔王も倒して、そしてラーゼ様に楽をしていただきましょう」
「ほえ? 魔王!! 流石ですアンサンブルバルン様!」

 彼女は屈託ない笑顔でそういった。それに気分を良くして、蛇は出来る事を考える。

(そうですね。使える物はすべて使いましょう。悔しいですが、私の攻撃力ではこれを倒すにはいたらない。なら、全てを使いましょう)

 そう思って、蛇は本部に通信を送る。

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