美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√19

(誰だ?)

 声に反応して頭を上げた私にそんな疑問が浮かぶ。銀髪に銀目……それにあのととのった顔立ち。人種は劣等種族だ。種として劣る人種は容姿も他の種に劣る。この世界は種として上位に行くほどに見目麗しくなる。勿論、感性に合わない姿の種はどれだけ見目麗しいといわれても理解できなかったりするが……王の傍らに現れた男は人の範疇を超えた姿をしてる……気がする。

 彫像の様な顔は、まるで理想の顔に作られた様に感じるほど。

(あれを忘れるなんて……そんな事はありえない)

 違和感。私はこの人種の国で最大のファイラル領のトップ代理として働いている。それは別にラーゼ様が何もしないからではない。そう、自分の思い付きしか実行する気がないからじゃない。そもそもがそういう人だし、誰もが彼女にあの人はそういう人だと理解してるし、それを支えるのが喜びなのでなんの問題もない。
 かくいう私もその一人だ。ラーゼ様の力になれるのなら、この身を粉にして働く。というか働いてる。ラーゼ様の代わりなど、私には過ぎたる地位。だが任せられたのならしかたない。ラーゼ様の評判を落とす訳にはいかない。
 だからこそ仕事には必死に取り組み、貴族という知らない世界の事は必死に学んだ。有名な貴族も有名でない貴族も頭には入ってる。確かに貴族は平民よりも見目はいい。だがあれはなんだ? そんなレベルじゃない。せめて名を言ってくれれば……どの貴族かわかるかもしれない。

『王よ、既に火蓋は斬られたのです。このまま引けば、王の名に傷がつきます。直接的には王妃様になりますが、王妃様は王の奥方。同時に王の評判も堕ちることになるでしょう』
『ふむふむ、これ以上こちらの威厳が失われるは困る』

 銀髪の貴族の言葉に王は頷く。余計な知恵を……そう思う。確かにすべての責任は王妃様にある。だが、王妃様を御せなかった王の評判だって当然に下がるのは避けられない事実。だからこそ、気づいてほしくなかったのだが……

『ならばどうでしょう? 向こうに仮初の敗北を演じてもらうというのは?』
「な!?」

 私は思わずそんな声が漏れてしまう。何を言い出したのだこの男は? 男の発した言葉がどういう意味を持ってるのか、私は必死に優秀ではない頭で考える。

『仮初というのは、どういうことだ?』
『はい、つまりは敗北した振りをしてもらうわけです。いえ、敗北といわずともいいでしょう。形だけ降伏してもらい、こちらは領を取り上げたりせずに王の器の大きさを国に知れ渡らせるのです。ファイラルという巨大な領を打ち倒せるだけの力が王にはあるという、力の権威にもなりましょう』
『なるほど、それは良いな』

 王は満足気に頷いてる。このままでは不味い……が、口を割り込ませる前に更に銀髪の男は続ける。

『更には向こうの民の暴走とこちらの王妃様の暴走、双方は痛み分けで不祥事は不問に出来ます。ですが、王の器を示すことで、貸しを作る事が出来るのです。それを使えばあの美しいラーゼ様に何かお願いが出来るかもしれません』
『お、おおお!!』

 王の目の色が変わる。あれは絶対に嫌らしい事を考えている。いやそれは無理もない。ラーゼ様は男にとっては魅力的すぎる。王はこの気にあの方の体を所望するかもしれない。王は欲望をなんとか奥に押し込んで王の顔を作り直す。そしてこちらに向かってこういった。

『どうだ? なかなかにいい落としどころだと思うが?』

 私は考える。確かにこれならファイラルに謀反ありとかいうのはうやむやに出来るだろう。だがその代償がラーゼ様……じっさい王が何を要求するかは分からないが、大なり小なり嫌らしい事は確実だろう。ラーゼ様はあれでドライだからやってしまわれるかもしれない。それに一夜経てば、ラーゼ様の体は無垢に戻る。穢れなどあの方は知らない。
 逆に言えばあの方を汚れさせる事は誰にもできない。だが……わかってても、心が拒絶する。私はラーゼ様が沢山の者にその身を許してる事を知ってる。それは他種族の力を取り込むためでもあるし、単に権力者を篭絡する為でもある。
 
 それは浅ましい行為だと……そこらの女になら思うだろう。だが……それでも私はやはりラーゼ様に魅せられているんだ。

「陛下――」

 私は口を開く。その口は一人のハゲた男の物か、はたまたファイラルという領を背負う男の物か……

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