美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√11

 大きなため息を吐く豪奢な衣装の女性。四十代くらいのその女性の容姿はまだまだ二十代前半に見えるくらいに若々しく、影が差していたとしてもその美しさに陰りはない。なのに彼女は優れない顔をしてた。豪奢な金色の髪はソフトクリームの様に盛られてて、その真っ赤なドレスは見る角度によってキラキラ光を反射するように宝石が埋め込まれてる。

 首の後ろはクジャクの羽の様に広がってるが、それは別段、防御の為じゃない。彼女をより豪奢に、気高く見せる為の装飾だ。首元や手首、それに耳にも、大きな宝石が輝くアクセサリーがある。でもそれもジャラジャラとあるわけじゃない。
 最小限で最大限の輝きを引き立てる様に考えられてる。

「王妃様、そろそろアナハイムへとつきます。歓迎してくれてる民にその姿を見せてはいかがですか?」

 妙齢のメイドが一切無駄のない動きでそう言ってくる。王妃と呼ばれた彼女はもう一度大きくため息を吐いた。

「この街の人達は私など……だってそうでしょう?」

 そういってメイドに何か訴えるような眼を向けるような王妃。けどメイドはその顔を見ずに頭を下げてこういった。

「そんな事はありません。王妃様の輝きも民を照らす物です」
「そうかしら? 王都民も私よりもあれの方が大好きみたいよ。夫だってそうでしょう? 大概の貴族が私に向けてた視線をアレに向けてるわよ」

 すねた様にそういう王妃様。それを見たメイドは背筋を伸ばして王妃様に近づいていく。そしてその前に膝をついて頭を下げてこういった。

「貴女様はこの国の頂点なのです。そんな貴女様を誰がないがしろにいたしましょう。ローレ様とて、貴女様には私と同じように頭を下げるでしょう」
「そ、そうかしら?」
「そうでございます」
「そうね、ならアレがいた時に来た方が良かったかしらね」

 ふわふわとした扇を口元に持っていき、上品に笑う王妃様。彼女は立ち上がって窓の外を見る。

「けど、今行かないといけない気がしたのよね……なんで来たのかしら?」

 最後の方の声はとても小さな声だった。けどメイドには聞こえてた。だけどわざわざ疑問を投げかけたりはしない。なぜなら彼女はメイドだからだ。

「そうね、ここの民に私の美しさがアレに負けてないと見せつけるのもいいかもしれないわね」
「それでは準備いたします」

 そういって鈴を鳴らすと、外に控えてた数十人のメイドが部屋へと入ってきて王妃様の身なりをととのえていく。元から整ってたが、そこら辺は王妃様だから……なのだ。けど結局王妃様は甲板に出ることはなかった。なぜなら、外は風が強かったからだ。

「せっかくの髪が崩れるわ」

 そういって部屋に戻っていったんだ。

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