美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ158

 管に包まれて私は真っ暗な中にいたはずだった。少なくとも、管がビカビカひからない限り、何も見えるはずはない。けど今、私は真っ白な空間にいる。何度か見たような空間。精神体とかになってマナの中にいた時とか……けど、この感じ……

「この世界に来た時の事を思いだしちゃうな」

 今の私にはちゃんと体がある。この空間でも、私はラーゼだ。この空間で私はこの体を、神の器を手に入れたのだろうか? わからない。

「ん?」

 どうしたらいいんだろうか? こんな何もない空間で……とか思ってると、地面に横断歩道みたいな感じの物が現れた。薄く光ってるそれは奥に続いてる。私はその道しるべに従って歩き出す。何もないこの場所は、とても広く、どこまで歩けばいいのか、不安になる。
 なんの音もないし……とても寂しい、そしてつまらなさそうな場所だ。ゴールなんて実はない? とか思ってると、看板があった。そこで道は二つに分かれてた。
 看板の前まで行ってその文字を読む。

「『アルス・パレス』と『ミラス・パレス』」

 私はそれぞれの道の先をみる。さっきまで何もなかったように見えたんだけど、いつの間にかデデーンとそれは現れてた。どちらも高い壁に囲まれた、大きな城のよう。一つは黒と赤でなんか重厚そうな見た目してて、もう一つは緑と青で爽やかな感じの城だった。

 どっちに行きたいかっていわれるとこの場合は爽やかな方だろうか? 

「まあ、何にもなかったらあっちの黒い方にも行けばいいだけだよね」

 そう思って私は爽やかな方に一歩を踏み出す。けど一歩を踏み出した時、私は頭に鈍痛が走った。そのせいでふらりと体が傾いて看板に軽くぶつかった。そう軽くだ。なのに……

「え? わわ!?」

 看板は音を立てて倒れた。んな、バカな。私めっちゃ軽いよ。しかも今、トンってぶつかったくらいだ。それで倒れるって強度がおかしい。断固私は無罪だと主張したい。そんな事を思ってると、いきなり周囲が暗くなった。まるで誰かが照明を落としたかのよう。

 まさかこの空間の主がお怒りに……とか思ってると、倒れた看板の先に更に道が浮かぶ。そしてその先に何かある。

「あれ?」

 なんかいつの間にか看板自体が消えてる。むむ……不可思議だけど、ここ自体がよくわからないし、気にしてもしょうがないか。

「もしかして、今私試されたのかな?」

 なんかそんな感じがする。だってデカデカと見えてた目標というか、ゴールが示されてた。けど看板の先に更に道があった。これって普通わからないよね? 何かの試験だった? とりあえず私はその何かに向かって歩みを進める。

 近づくにつれてそれが何かわかった。私の腰くらいの高さの台座に、ティアラがある。今の私は真っ裸だからね。あれくらいつけてもいいでしょう。まあ真っ裸にティアラだけって変態みたいだけど、私の体はそこらの服よりも綺麗だから問題ないでしょう。

 私は一歩ずつティアラへと近づく。すると声が聞こえた。ノイズ交じりの声だ。

『やめ――ろ! いく――な!』

 そんな言葉を聞くと、なんか足が重くなる。けど、もう私の行く先はこの道の先しかない。それになんか必死なこの声の奴には反発したくなる気がする。なんとなくね。こいつがこんなに止めるなら……って気持ちが沸き上がる。

 私は声に負けず、ティアラの前に来た。手を伸ばして、そのティアラを掴む。その瞬間、ティアラの周りの床が、円を描いて光った。そして台座は地面に収まり、代わりに、開いた床から白いフレームに赤い背もたれと台座を備えた豪華な椅子が……いや玉座が現れた。私が座るには大きすぎる玉座だ。

 けど、ふさわしいと思ったよ。だって私だからね。けどこれじゃあ完全に裸の王様……いや女王様だ。まあけど見せびらかすのも嫌いじゃない。興奮するし。私は頭にティアラを乗せる。するとその瞬間、真っ白なドレスが私の身を包んだ。

「残念」

 きっとこの服を着てそんな事を言うのは私だけなんだろうなって思った。だって普通はそんな言葉がでないくらいに凝ったドレスだからだ。肌ざわりなんて着てるのがわからないくらいだし、繊維の一つ一つが装飾されてるんじゃないかってくらいの出来。ライトの当たり方で輝き方さえも変わってくるようなそんなドレス。
 私はそんなドレスを身にまとい、玉座へと腰掛ける。

 その瞬間、どこかから鐘の音が響き、世界に光が戻る。目の前には、羽持ち達が平伏してた。

「我らの神のご帰還である!!」

 不思議だった。玉座にいると、私はすべてがわかるような感覚になる。そう、全てを手にした感覚とはきっとこんな物なのだろう。

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