美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ156

 なんだか、雰囲気がよくない。私の策略を超えて何度だって立ち上がるラジエルはどこか主人公じみてて気色が悪い。空気が、空間が奴に味方してるようじゃん。そんな訳ないよね? だって私は美少女だ。可愛いはどんなものよりも価値がある。そのはず。

 私以上に勝利が似合う奴なんていない。ラジエルが勝利の女神を味方につけてるなんて事……絶対にない。なのに……

「終わりだ、ラーゼ」

 そういって私に剣を突き立てるラジエル。それは勝利の宣言かな? ラジエルを危険を判断した皆が奴を仕留めようと、動いてくれたが、ラジエルの奴はこちらの軍勢を一人で叩き潰して、私を切り刻んだ。この私をだ。おかげでせっかく治った体も再びボロボロである。

 体は何度も治せるが、服はそうもいかない。折角アウトドア使用でもおしゃれな格好をしてたのに……いまや、ただのぼろい服になり果ててる。いろんなところ見えちゃってるし、こいつ狙ってそういうところを切ったのでは? と思う。
 まあ今のラジエルは私の体に目移りなんかしてないけど……それもムカつくが。ついさっきまでのラジエルなら、私のこんな格好に目移りしてた筈。進化とは色々とそいつを変えるみたいだ。

「何も言う気はないか」

 ヤバイ、こいつ止めを刺す気だ。けどそれは当たり前か。今のこいつを止めれる戦力はこちら側にはない。皆倒されちゃってるし、アンティカは今も拘束中。籠の中の面々は無事だろうけど、彼らは戦闘力ないし……ここまでかもしれない。いろいろと好き勝手にやってきた……だからか、案外じたばたなんてしないものだ。これ以上、痛いのも辛いのも嫌だしね。

 私は基本、なんだってスマートにやりたい派なんだよ。こんなボロボロなんて私に似合わないじゃん。まあ最後の最後まで綺麗で美して、そして可愛くありたいけど……力自体はまだまだあるけど、こいつの剣は問答無用で切り裂いてくる。そんなの反則だよ。
 反則みたいな力使ってたのは私も同じだけどさ、バリバリに戦える奴が使うとかね……私は力を持ってるだけで、そんな戦える訳でもなかったから、世界のバランス的にこうよかったわけじゃん。なのにこいつは……これだけの力を得て、どうするんだろうか? まあそんなの私の気にすることでもないけど……

(ん?)

 ふと視線をラジエルから離すと、羽根つきの奴らが見えた。奴らはマナとなってるから、ほかの奴らは気づいてないよう……なにやらキューブの開いた直上から下を指さしてる。あそこに落ちろと? もしかしたらこのキューブの中こそが、奴らがいってた場所なのかも。

 けど、それを許すこいつじゃないよ。だって身体能力的に私は人種並みで、こいつは進化した獣人だ。差がありすぎる。それに頑張るのは疲れたっていうかね。なんだかやる気が起きない。ほら、ラジエルの剣が私に迫ってる。それをただ眺めるしか――

ドンドン

 ――そんな音が二発、耳に届く。それは剣が放つ音じゃない。いつの間にか私の前には黒いマントを羽織った亜子がいた。そしてラジエルに向ける銃口。けど、亜子の渾身の不意打ちをラジエルはその自身の進化した肉体で受け止めてる。

「無駄だったな」

 剣はそのまま振り下ろされる。それを亜子と……そしてマントから出てきて大きくなったペルがその身に受けた。

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