美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ103

「あれがアイドル……」


 私はラーゼたちの踊る姿を見てそんな言葉を漏らす。


「面妖じゃな」


 そういう姫には同意する。あんなフリフリで色々と出しちゃってる服を着て、そして歌って踊ってる。一体ああいう服にどんな意味があるというのだろう? 私も歌と踊りを合わさった文化を知らない訳ではない。
 けどそういうのはもっと厳かな物だった。決してあんな……あんな破廉恥極まりない物ではない。歌だってこんなにテンポ早かったら神聖さの欠片もない。獣人にはこういうのの方があってると言えばあってるが……考えるよりも動くのが性に合ってる種族ですからね。


 実際こんな戦場で聴いてると眠くなるような曲で歌われても迷惑極まりないが、こんな早い曲でジャンジャンやられても迷惑ではある。集中力とかの面でそうでしょう。まあ誰も文句言ってないですけど……けどそれは戦闘中だからではないかと。


 うるさいと思ってても、敵から視線を外して文句を言ってる場合ではない。そんなことではないかと思ってたが……


「まさか効いてる?」


 信じられない事だ。ラーゼたちが嫌らしい恰好で歌いだしてしばらくして八つの頭を持つ化け物の後ろで何やらやってたスナフスキンの様子が変わった。頭を抱えて震えてる。私達には何の影響もないんだけど……どういうことなのか? 


 あんなふざけた事でこんな事が起こるなんて……


「よくわからんが、チャンスかもしれんの」


 そういう姫がこちらに視線を向ける。普段よりも成長したその姿は一体いつ振りか……姫も覚悟を決めてる。どうやらラーゼの駒たちはラーゼのマナを受け取り、強化されてるらしい。


「こちら側も置物とはしておられぬじゃろ」


 その目は真剣だ。まだまだ子供の範囲から漏れないぐらいの成長度合いだが、このまま姫に負担を強いる訳にはいかない。後方のスナフスキンが苦しんでる今なら、この場にいる戦力全員でかかれば、アレを倒せるかもしれない。向こうもこちらも精鋭と呼べる戦力の筈だ。


 姫はここが攻め時と判断してる。なら……私に止める権利はない。私は黙って頷いて姫に近づく。


「すまぬな。その命、使わせてもらうぞ」
「私の命は我らと、そして明日を信じる勇者の為の物ですから」


 私は戦力にはなりえない。一応護身程度は出来るが、その程度だ。こんな私がここにいられるのは一重にこのため。私は一度死んだのだ。そしてよみがえった。その時、私の魂は変質した。存在としては獣人でもただの獣人ではなくなった。


 私の胸に姫が手を置く。そして錫杖が震えた。


「うっ……ん!」


 内側から何かが溢れてくる。それは体を敏感に刺激する。


「皆に命を重ねる!」


 そして次の瞬間、私はその存在を霧散させた。

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