美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ85

「うーん」


 私は籠の中で一人、そう唸る。なんか私が乗ってるキューブも高い位置に来てしまった。これでアナハから襲われる事はないが、移動する事もできない。とりあえず私は幹の所から移動して根が張ってる部分へと降りた。


 だってアナハが来ないのなら幹にへばりついてる理由もないしね。根の部分には幾人かの兵士がいる。上に上がる前に飛び降り奴もいた様だけど、ここに残ってるのは私が居るからみたい。大体皆、私を一人にしないようにって蛇とかに言われてるんだろう。


 それなら上昇する前に飛び降りた奴らはどうなの? と思わなくもないが、まあ色んな判断があるでしょうし気にはしないよ。ただ、私は残ってくれてる奴らを覚えておくだけでね。とりあえず私は籠からでる。高い場所から見るこの場所はなかなかに絶景だ。


 妖精は消えたが、木々が文字を流しつつ光ってるのが水面に反射して綺麗だ。


「下はどうなってるのかな?」


 私はそういって膝をついてちょっとキューブから顔をせり出す。


「ラーゼ様危ないですよ!」


 そういってくる兵士の一人は、大きな目玉に直接ヘルメット被ってるような奴だ。顔だけの種が居たと思うけど、あれの親戚みたいな奴だ。まあこっちは眼だけなんだけどね。体は細い神経が伸びて形作ってるからかなりキモイ。


 今は専用の服に隠れてるからそうでも……いや、目玉ってだけでやっぱキモイや。その内鼻だけとか、耳だけとかの種と会うかもと思ってたが、そんな事は今のところはない。そういえば目玉だけでどうやって声出してるのかといえば、ここはファンタジーの世界だ。


 マナという便利な物があるから、なんだってあり。声を届ける……というか思考をちょくせつ届けるなんて人種以外なら割と出来る。獣人も蛇とかなら出来るしね。人種はそこらへん外部装置とかを介さないと厳しいから、ここら辺も人種の劣等感でるよね。


 けど今はそんな事はどうでもいいか。そういって声を掛けてきた一つ目君? さん? 声的に実は女の子な印象を受けたけど、いかんせん目玉だけなのでその判断は出来ない。とりあえずその人と周りにいる兵士の人達も私を心配そうに見てる。


 支えた方がいいのだろうか? とか思いつつも、私のような高貴で絶世の美少女に触れるのはきっと憚れてるのだろう。確かに彼らからしたら、私なんて天上人である。他種族もいるじゃんとお思いかもしれないが、ファイラル領にいて普通に暮らしてる彼らしたらやっぱり私は偉い人なのである。


 私は偉い人たちの中でも飛びぬけて有名だし、更に言うと私の美はどんな種にも通じてしまうのである。価値観が変われば美意識だって変わるらしいが、やっぱり私にはそんな常識はつうようしない。


「うーん、流石にやり辛そうだね」


 相手は操られるといってもアナハ。そしてアナハは腐っても貴族。別に腐ってはいないが……寧ろ疎まれてた実家からはキララの側近になったことで掌返しされたとか……これだから貴族は……とかおもわなくもないが、それか普通だよね。


 使える物は使うものだ。私だってそうするし。


「おっ、グルダフも戻ってきたし、キララが魔法で援護してるから上手く捕まえられるかな――っつ!?」


 ズルっと根の上を手が滑った。水場だし、それなりに滑りやすくなってたみたい。


「「「ラーゼ様!!」」」


 兵士たちか素早く反応して私を間一髪止めてくれる。服が引っ張られてるが、そこはしょうがない。私の体重なら破ける事はないでしょう。


「ふう……」


 安堵のため息を吐く。実際、私なら落ちたとしても無傷で済むけどね。けど、やっぱり落ちる瞬間ってなんかゾワッてするじゃん。だから驚いちゃう。そう思って自分がついた手を見てみると、なんか私か触れてるキューブの側面が光ってた。


「わわっ、またなんかやっちゃった?」


 別の所に手置こうと動かしてみると、私が触る所どこもかしこも光やがる。そうしてると兵士達から文句が出た。


「ラーゼ様、引っ張り上げますので大人しくしててください!」
「ごめんなさい」


 流石にジタバタしてたら掴んてる人たちからしたら迷惑だよね。普通に私は誤った。彼らからしたら、私を落としたなんて斬首物だからね。そりゃ必死にもなる。そう思ってると私は気づいて。


「待って!」


 私は上にあげようとする手を止める。そしてちょっと悪いけど、首を伸ばしてそこを見ようとする。なんか光が下に向かって流れてるような? そう思ってると見えてきた。なにか赤い雫が膨らんでいき、そして下に落ちる。


 それは何故かバシャーンという水が弾ける音はしなくて、ピアノの鍵盤をはじいた様な音がした。そしてそれは他の所でも続く。それはまるで、木々が一つの曲を演奏してるかのようだった。

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