美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ70

 頭に入ってくるよくわからない何か。僕には抱えきれない何かは捨てたい処だけど、知識とはそうはいかない。得たくてもそう得られない物だが、捨てたくても簡単に捨てれる物でもない。姫はそういう存在だから大丈夫だが、獣人である僕はそうはいかない。一気に叩き込まれる大量の知識により脳を直接揺さぶられるような気持ち悪さを感じながらも手に取った操縦桿を動かそうと試みる。するとその時だ。腕にちくりと痛みが走った。擦れる視界で腕を見ると何かが刺さってる。


 それは指くらいはあるコード。それが僕の腕に刺さってた。そして更に別の場所にも同じように痛みが走る。


「なんだ……これ? クソッ!!」


 操縦桿から片手を離し、刺さったそのコードを強引に引き抜く。だがそんな事はどうやら無駄なようだ。次から次へと、至る所へとコードは刺さり続ける。


「くっ、何か情報を……」


 僕は頭の中へ集中する。この事もきっと知識の中にあるはずだ。それを探し当てればきっとどうにかなる。何かが流れ込んできてるが、それに構ってる暇はない。いつの間にかコードは全身をくまなくさし、無事なのは顔面くらい。頭にまでそのコードは刺さってた。そして今はどんどんと体を全て覆うように巻き付いてきてる。感覚があるのは操縦桿を握る手と、そして視界を確保してる顔だけだ。


「これ……か」


 頭の中でようやく見つけた知識。それによればこれは、より高度な操作体系への布石のようだ。だが、今のこのアンティカの状態はどうやら中心たる存在による遠隔操作であると知識から推察できる。そういうのがあった。ではなぜ外に排除ではなく、操作体系が稼働してるのか……それはこの操作方法には恐ろしい副作用がある為だと思う。今、僕が襲われてるこれはまさに、アンティカという外殻を自身にしてしまうという操作体系だ。外部の入力装置を使って特定の部分を動かすとかではなく、まさに自身の体の様にアンティカを自由自在に動かす操作方法という事。


 やはり外部装置からの操作は得意不得意がでるものだ。生命とは同じ種はいても同じ個はいない。それならば、体と同じように操作出来てしまえばいいではないか――という事でこの操作方法は作られたよう。そしてそれは確かに画期的だった。アンティカという強力な強化外骨格を得て、そしてそれを自身の体と同じように動かせる。どうやらこれは古の時代にかなりの脅威を誇ったようだ。だが問題がなかったわけでもない。それはマナの分離だ。


 これは生命装置をムリヤリ体につけて、そして仮死状態の肉体からマナという魂をアンティカという入れ物に移し替える事で実現してる。だがアンティカという元の体よりも強力な体を得た者は次第に、マナをアンティカの方に定着させていったらしい。だからこの装置は危険視された。それでも搭載され続けたのは万が一の為なのか……それがいまこの時とは思えない。何か……理由が――


(体……がみえる)


 マナの分離が起きた。僕の視界には自分自身が見えていた。そして自分を構成するマナがアンティカの方へと流れる。そんな時、隣に何かの気配を感じた。視線を向けるとそこには白い存在がいた。


『私という存在がこの地に顕現する時がきた。その依り代として汝の体を貰おう。なに気にするな。ソレはやる。土産だ』


 何を言ってる? 何を? 僕は……いや俺は必死に手を伸ばす。けど、俺の霧散してくマナはそいつに届く事はなかった。

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