美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ64

「ティル?」
「何してる! 早くこい!!」


 何かを感じたと思った。いや、何かなんて曖昧な物じゃない。確かに今、僕はティルを感じたんだ。けどそれを確かめる前に、自分は仲間によって穴倉に蹴り飛ばされる。そして次の瞬間、とてつもない衝撃が襲う。逃げ遅れた仲間に、連れて来てた魔物がその衝撃で粉々になるのがみえた。思わず目をそらしたくなる光景。けど、それをしちゃいけない。ここに連れてきたのは自分だ。戦いを始めたのも……なら、死から逃げちゃいけない。


「ぐえ!?」


 しっかりと上を見てたせいで床にたたきつけられた。鋭利な物がなくてよかった。あったら死んでた。自分が悶絶してると、先に降りてた仲間たちが集まってきてた。


「大丈夫か?」
「ああ、なんとかね。出来ればもう少し優しくエスコートして欲しかったけど……」
「死んで欲しかったらそうしてた。よかったな。まだ貴様には利用価値がある」


 そういう彼女は厳しい目をしてる。暗に早く立てと言ってるんだろう。確かにここでいつまでも寝転がってる訳にもいかないか。なかなかに仕立てがよかった服も既にボロボロ。だが、それも皆に比べればマシな方が。皆が僕を守る為に戦ってくれてる。だから、まだマシ。そして彼女「セーファ」は僕の為の護衛だ。近衛と言っていい。彼女は不死鳥族の末裔だ。正直、オウラムの中で一番の上位種は彼女だろう。永遠の命を宿す炎をその身に纏う彼女を傷つける事は事実上不可能。


 そんな彼女が何故に自分なんかの近衛に収まってるのかは自分自身でも不可思議でならない。だが、これも運命。自分の国がラーゼに落とされ、それでもなんとか逃げ延びた時は絶望しかなかった。けどそれでも仲間たちに支えられて少しづつ……少しずつ歩んだ結果が今だ。セーファとの出会いはそれこそ奇跡。そしてこうやって和解しあえたのもだ。きっと世界は言ってる。奴を止めろ――と。


「無事な者達で部隊を再編。奥を目指そう。奴に……ここを取られるわけにはいかない」
「そうだな。それに、天の奴らも動き出した。どうやら貴様と禍根のある奴がちょっかいを出したせいみたいだぞ」
「やっぱり……ラーゼ!」


 ギリっと奥歯を強く噛みしめる。あいつはいつもいつも沢山の物を奪ってく。沢山の物を得る立場だった自分の人生が変わったのはあいつと出会ってからだ。与えられる側から奪われる側になった。まあ無くしたから気づいた事もある。それに、強くなったとも思う。


「ティルは……姫たちは無事だろうか?」


 その自分の言葉にセーファは少しだけ目を閉じる。そして目を開けてこういった。


「信じなさい。あれもそう悪運は悪くはないわ」


 それはつまり何も分からなかったという事だろう。セーファはとても強いマナの持ち主だ。その感知範囲も様々な身体能力もここの誰よりも高い。そのセーファで分からなかったという事は……最悪の想像をせざるえない。


「ここは特殊なマナで満ちている。常に聞こえる見えない声。それが邪魔をしてる。そしてそいつらには意思を感じる。我らを意図的に妨害してるのだとしたら……諦めるにはまだ早い」


 なんだかんだ言って慰めてくれるセーファは優しい。二人で話してる間に部隊は再編されたみたいだ。蹴りこまれた穴倉はなかなかに大きな洞窟だった。土も剥き出しなんかじゃないし、地面には何やら等間隔に並べられた鉄製の何かがある。それはどこまでも続いてて……きっとこれをたどれば新たな場所に行ける筈だ。


「ああ、そうだな。僕たちは何度も危機を乗り越えてきた。信じよう、仲間を」


 そういって自分たちは進みだした。

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