美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ8

 私は自分の庭と言うべき建物内を歩いてく。私の後ろにはてくてくと続くぬいぐるみ達。うん、なんか皆の愛らしい物を見る視線が凄いね。私に向けてる視線が何割か増しでほわわんしてる。まあぬいぐるみ達と私って破壊力ヤバいからね。私の引き立て役には最高の素材と言っても過言じゃない。


「ラーゼ様、ごきげん……ほう」


 挨拶をしてくれようとした女性が私の後ろから出てきたぬいぐるを見て止まって、そして私とぬいぐるの組みあわせに今のような吐息が思わず漏れる。うむうむ、まあトリップしちゃうのはしかたないけど、仕事には支障きたさないようにね。


 そういっても、さっきから私が歩いてきた方向を振り返るとこの人と同じ様にトリップしちゃってる人がいっぱい。そろそろここの人達も私という存在に慣れてきたと思ったけど、油断しちゃうとこうなっちゃうね。なんて罪深い私。そう思ってると、何やらドダダダダと前方から音がしてくる。それと同時に何やら私を呼ぶ声がきこえる。いや、聞きたくない声なんだけどね。


「ラーゼ! ラーゼエエエエエエ!」
「皆、あの変質者を近づけないで!!」


 私の指示に一斉にぬいぐる達が動く。向かってくる変質者から私を守るに様に大きくなって壁になる。まあ大きくなるといっても五十センチくらいの体が一メートルくらいになる程度だけどさ。それが十体くらいもいればそれなりに障害にはなりえる。


「なっ……なんだ貴様ら!? やるか!? やる気か おらぁ!!」


 どこのチンピラよ。てか頭悪そうな言葉使ってるね。相変わらずこいつが来ると頭痛くなるよ。


「なんなのよサイオス。ここは冒険者ギルドじゃないんだから静かにしなさい」


 あそこは荒くれ者たちの場所だったから、別段どうでもよかったけどさ、ここは一応ファイラルでの中心の建物。一部では王宮よりも豪華で美しいんじゃね? とか言われてる場所だ。こいつにはあんまり似つかわしくないよね。この廊下さえ馬車さえも通れるほどに広く、所々に置かれてる調度品は上品極まりない。ほんとこいつにはここは似合わないよ。


「ラーゼ、よかった。大変なんだ!」
「様をつけなさい様を。あんたは下っ端も下っ端なんだから」
「だが俺たちはいずれ伴侶と――」
「それはあんたの妄想だから」


 こいつは相も変わらず私の事を運命の人と信じて疑ってない。全く、身分の違いって奴を分かってほしいね。別段私はそこら辺気にしないけどさ、こいつはないなって思ってる。


「で、何が大変なの? 寧ろ大変な事は目白押しだけどさ」
「それは……ここではちょっと……」
「え? 何? 私を人目のない所に連れてって押し倒す気? やっちゃって」


 その言葉でぬいぐるたちが一斉にサイオスを押し倒す。こいつで二人っきりと危ないからね。ハゲと違ってこいつは自分を抑えるとかしない。別段やるのは良いけど、あくまでそれは私が認めた時だけ。言いなりになるなんて私のプライドが許さない。


「言いたい事はここで言いなさい」


 私はぬいぐるみ達の下敷きになってるサイオスを見下ろす。するとサイオスはなんかぼーっと私を見てる。角度的に見えてはない……と思うけど、虐げられる趣味でもあるのかな? 踏んでやろうかしら。そう思って足を挙げる。けどその時ちょっとドキワクな表情をしたからやめた。


「で、何が大変なの言いなさない。大丈夫だから」


 私は何気にカードの魔法を発動させた。それは周囲に声を漏らさない魔法だ。これで誰かに聞こえる事はない。


「実は……お前が出会ったという『シャグリラン』たちのアジトが見つかった」
「そうなんだ。案外早かったわね」
「だが、そこに無事な死体はなかった」


 私は少し思案する。無事な死体って事は無事じゃない死体はあったって事だよね? どういうことなのか? あれから魂の回廊でゼルに話しかけても反応しないし、もしかして戻った? でもそんなミスをゼルがするとは思えない。って事は……なんか嫌な予感がするよ。



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