美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ3

コンコンコン――


 上品にノックをして中の返事を待つ。だが数分待てど返事が返ってくることはない。とりあえずもう一度ノックをしてみる。だがやはり反応はなかった。外から中へと呼び掛けてみるが、やはり反応はない。いつまでもここで棒立ちしてる訳にもいかない……が、ラーゼ様の部屋に無断で入るというのに抵抗がある。


「ラーゼ様はあれで部屋ではだらしなくしてらっしゃるからな……」


 もしかしたらあられもない姿かもしれない。それはそれで嬉しいが……だが耐えるのが大変なのだ。いつだって私は自分を律してる。それはそれしか私には出来ないからだ。私は自身を律してそして皆の規範であろうとしてる。上に立つ者として、それが義務だからだ。そしてこの立場を与えてくれたラーゼ様に報いるためにも……それにこれ以上などは、自分にはもったいない。なんの特別もなかったしがない村民だった私にはあの方を求めるなど、過ぎ過ぎてる事だ。


「大丈夫、私は本能を律する。この気持ちを溢れさす事はしない」


 今一度誓いを立てて、ドアに手を掛ける。大きな白いドアは触れた私のマナを読み取って静かに消え去った。この部屋には登録されてるマナを持つ者だけが入れる。そんな中に私も入っているのが申し訳ない。


「失礼いたします」


 一礼して中に入る。その瞬間、鼻腔を擽る甘く良い香りが頭を刺激してくる。張りつめてた緊張を一気にほぐす程の威力がある匂いだ。決してキツなく、だが確かに感じるラーゼ様の香り。それは麻薬の様な物だと知る者は言う。どんなに気を張りつめていても、一瞬にしてそんな防御膜を吹き飛ばす。ラーゼ様が相手の懐にいとも容易く入り込むのはきっとこの香りのせいだろう。警戒心など、ラーゼ様の前では持てない。ラーゼ様の前で出てくる感情は愛……しかない。


 私は必死に自分を律して前に進む。すると窓際の小さなテーブルにつっぶしてスヤスヤ寝息を立ててるラーゼ様の姿が目に入った。床には何かの書類が散乱してる。多分寝るときに落としてしまったのだろう。飲み物とかは別のテーブルにあるので無事だったようだ。それにしても……


「ふうー」


 もう言葉などいらない。というか、出てこない。美しすぎて……陽射しがまるでラーゼ様だけを照らしてるんじゃないかって思える。それくらい輝いてみえる。これは気づいたらずっと見ててしまう……そう気づいた私はまずは床に散乱してる書類を集める。なんの書類かとふと見ると、手書きで服のデザインとかがされてた。かなり派手だし、露出も多い。きっとプリムローズの為の衣装なのだろう。だがちょっと露出が多くないだろうか? スカートは短いし、お腹まで出して……そうおもいつつ、めのまえのラーゼ様に視線を移す。


「つっ!?」


 膝を折って書類を集めてたから、今私の視線は丁度ラーゼ様の腰辺りで……そして今日のラーゼ様は短い青のスカートだった。ふと流れた私の視線は真っ白な太ももの奥の白い布が見えた。完璧な曲線美から続くその秘部から私は一度視線を外す。そして自分を必死に律した。けど何故か視線が吸い寄せられてしまう。気づくとふと手が伸びてその脚に触れようと……


「ダメだ!」


 私は何とか間一髪の所で追いとどまって立ち上がる。するとその声に反応したのか、ラーゼ様がもぞもぞと顔をお上げになる。


「あーハゲだぁー」


 何故だろう。他の者にハゲと言われると心に黒い物が滞るというのに……ラーゼ様の口からそれが紡がれるだけで満たされる。全く違う物が積みあがる。私は優雅に礼をする。


「ハゲでございます。参上いたしました」



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