美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ148

「あ……あ……」


 逃げないと。そう頭が警鐘を鳴らす。けどそんな思いとは裏腹に体は言う事をきかない。無理矢理に動かそうとした足はもつれて、泥の中へとダイブした。ごめんフィリー。背中側に居るから私よりは泥浴びてないから怒らないでほしい。


(って、そんな現実逃避してる場合じゃ――あれ?)


 この岩全てが他種族と分かって、直ぐにでも逃げ出そうとしたけど……よくみてみると別段、今のところから動く様子はないみたいだ。大丈夫……なのかな? 


――か弱き種よ――
――怯えるなかれ――
――我らに既に力なし、今はただ大樹への導きを待つだけなり――


「それって……」


 つまりはこの人たちはもう死の間際みたいな? そんな状態という事だろうか? それに大樹ってクリスタルウッドの事……か? ラーゼ様がお創りになったあの大樹。全てのマナはアレを通して循環してると言ってた。死ねばそのマナは大樹へと帰るってのはそういう事だと聞いた。よく見ると、わずかに震えてる様な岩の面々。けど本当に動くことは出来ないみたい。なら安心……なのかな? とりあえず立ち上がり再びちょっと近づいてみる。危害を加えることはないみたいだし、出来うることなら情報が欲しい。


「貴方達は一体?」
――我らは幾星霜を生きる大地の礎『ガイア』――
――地の誕生と共に生きる我ら――
――全てを見てきた我らの終わりは、大地の終わり――


 歌うような声がこの場所にこだまする。ガイア――彼等はガイアというそうだ。それにしても大層な事をのたまってる。このガイアとかいう種が終わると大地が終わるとか……それってこの世界が終わるようなものでは? そんなバカなだ。今大地はクリスタルウッドと共にラーゼ様支えてる……様な物だと勝手に解釈してる。ラーゼ様は凄いからな。クリスタルウッドの事を聞いた時、まさに彼女は神なのだと思ったから、多分間違ってはない。だからこの種族がなくなろうと、大地は終わりはしないだろう。


 クリスタルウッドがマナを大地へと届けてる筈だし……マナが豊富なら大地も潤うとラーゼ様は言ってた。それを使ってファイラル領の大地は今や豊穣で、質のよい農作物をブランド化、貴族共に高値で売ってウハウハともいってらっしゃった。ラーゼ様がやっばりこの美貌はいい食べ物から――とかなんとかいったらこぞって買っていくって笑ってたから間違いない。


「今はクリスタルウッドが大地を支えてるんじゃないの……ですか?」


 なんとなく敬語になってしまった。これが種の差というものか。自分達がどれだけ脆弱かわかってるから、ついつい敬語が出てしまう。ラーゼ様は魂に序列は組み込まれてるっていってた。そのせいだろう。


――あの世界樹はまだ若い――
――大地の全てに根を張れてはいない――
――だが、我らの力を合わせればそれも可能であったろう――
――それが叶わぬのが口惜しき――


 まだこいつ等、自分たちが大地にとって重要と言い張るか。だが確かにあのクリスタルウッドが若い木というのはわかる。普通は何十年、何百年、それこそ世界に根を張る大樹ともなれば、何千年の月日をかけるのか……それはきっと途方もない時間なのは想像がつく。けどクリスタルウッドはラーゼ様が出現させてまだ数年だ。大地の隅々にその根が行ってないというのみそうかもしれない。


「ねえ、私達ここから出たいんだけど? どうすれば……いいでしょう?」
――出口はなし――
――ここは我らが墓場――
――やつらのせいで出来た、我らの墓――
――全てを帰らせる地として出来たここは大地の洞穴――
――何物も抜け出す事叶わず――
――諦めて大樹の導きを待つのみ――


 それは脱出方法はない……ということか? けど……そんな……私は膝が震える。けど再びフィリーを泥まみれにするわけにはいかないから必死でこらえる。


――こわがるなかれ――
――大樹に帰れば、全ては共にある――
――おそれる事なし――
「そんな事! そんなっ――の! つっ!?」


 反論しようとしたとき、私とフィリーの紋章が輝いた。眩しいって程じゃない。けど、その輝きは僅かながらも辺りを照らすくらいはある。そんな私とフィリーの輝きを見たのか感じたのか、ガイア達がざわめきだした。



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