美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ127

「う……ん」


 ボヤついた頭が深みから登ってくる。周囲を見回すと、木の床に藁が敷き詰まれた感じの数畳の空間に私たちは詰め込まれてるようだ。腕や、足が干渉してるよ。


「なにか……振動してるような?」


 私はとりあえずミラとフィリー姉さまとコランの無事を確認して床に手を置いてみた。かすかな振動を確かに感じる。もしかして移動してる? けどなんで? 馬車とかではもっと振動も大きいはずだし、ダンプとかでもそうだ。船? けど、今私たちが使ってるくらいの超最新鋭くらいじゃないとこんなに揺れがないとかありえない。


「でもあれだよね。移動してるって事は、私たちをどこかに連れていくつもりって訳で……それって絶対にヤバいんじゃないのかな?」


 このままどこかに連れてかれたらどうなるのか……それをかんがえると、嫌な記憶がよみがえる。下卑た笑みを浮かべた者たちが、私を見てたあの場所。お金を出して沢山の女の子を売りさばいてたあの場所。あそこはいつも嫌な匂いが充満してた。


「うっ……」


 喉から胃液が昇ってくる様な感覚。ここずっと、昔の事を思い出すなんて事なかったのに……あんなところにもう一度戻るなんて考えたくもない。どうにかしないと。


「ねえ、起きて」


 私は皆を揺すぶってその目を覚まさせる。コランだけやけに熟睡してて苦労した。しかも目覚めた時も「朝ごはんは~?」とか言ってるし……この子は本当に大物になるよ。ラーゼ様が期待してるのもわかる。コランの純粋なままの目を見ると、絶対にこれを濁らせちゃいけないと思う。逃げ出さないといけない。


「助けをまった方がいいんじゃないかしら? 私たちがどうにか出来るわからない訳だし……きっとラーゼ様なら」


 フィリー姉さまが不安気な顔でそういうよ。確かにそれもわかる。犯人を下手に刺激するともしかすると……それを考えると足がすくむ。けど私達がここにいると、それだけでラーゼ様はきっと不利になる。何が目的か……なんてわからないけど、ラーゼ様を狙うのならあの美貌とか考えられる。彼女を蹂躙したいなんてきっとどんな獣だって思うだろう。それだけの美しさなんだ。ラーゼ様が汚されるなんて……ぜったいにダメだ。ラーゼ様は優しいから、それで私達が解放されるとか聞けば、きっとその体を捧げちゃう。


 ラーゼ様はプライド高いけど、それは体だけに依存してるプライドじゃない。あれだけの体を持ってても、ラーゼ様は心が気高いだ。だからきっと私達の為ならそれをしちゃうという確信が私にはあるよ。


「私は……ラーゼ様の足手まといにはなりたくない」


 絞り出すように私はそういった。


「ラーゼ様の所に帰らないときっと心配させちゃうよね? 私、早くラーゼ様の所に帰りたいです!」


 純粋なコランの言葉。それにフィリー姉さまも折れたのか大きく息を吐きだす。


「わかったわ。けど、危ない事はしない。これだけは守って。特にシシとコランを傷つけるなんて出来ないの」
「私は?」
「見つかったら戦闘なんてご法度よ」
「「はい」」
「私は?」


 何かをミラが言ってるけど、私達は反応しない。少し悲しい目をしたけど、フィリー姉さまと私がミラを真剣な表情で見つめると、彼女もキリッとしてくれた。


「アレを使うんだな?」
「それしかないでしょう?」
「こんな時の為の物たし」


 私達はそういって手首の部分を爪でカリカリする。すると皮膚が少し剥がれて、それをめくった。これは実際は皮膚ではなく、皮膚っぽいシールである。そしてその下から現れたのは、黄色い紋章。私達はそれに触れて言葉を紡苦ぐ。


「「「我ら大樹の使途なり。この声に応えたまえ」」」

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