美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ94

新たな領に来た。そこは水が豊富で水上都市として観光を生業としてるアクワイヤという領だ。アクワイヤは実際そこまで大きな領じゃない。けど賑わいは大きな領にも負けてはない。一生に一度は行きたい領という確固たる地位を確立してるからだろう。この世界はそんな旅行なんてしないけど、旅行するならアクワイヤとか言われてる。まあ今はファイラル領もその枠に入ってるわけだけどね。実際このアクワイヤ領はこのアクワイヤという都市だけが見所だからね。


 ここだけでいいっていうメリットもあるけど、ボリュームを求めるならファイラルになっちゃうよね。ファイラルは大きな都市が三つもあるし、それぞれが全く違う雰囲気と構造群してる。きっと飽きはこないだろう。まあだけどアクワイヤを否定したい訳じゃない。ここはここで凄く綺麗で美しい。それこそファイラルのどの都市にもない物がある。私も水の都ってのは考えたんだよね。だって定番じゃない? 


 けどそれを一から造るとなると膨大な労力が必要だし、水源だっている。簡単ではなかった。ファイラルにも湖とかあるけど……元の領の範囲ではここまで広大なのはないんだよね。だって元々荒野だったわけだし。私が力注いで森にしたけど、あそこはクリスタルウッドがあるからね。なんか神聖的な感じが強いからあんまりいじりづらいよね。まあ温泉とかは作ってるけど。森の深い所はファイラルでも上層部の奴らしか行けないようにしてる。


 それでも十分って判断でもある。なんせクリスタルウッドはデカいからよく見える。それにあんまり森の奥に進むのは危険なんだ。モンスターとかがいるって意味ではなくて、あそこはマナが濃いからね。でもだからこそ、普通じゃ見れない光景が見えたりする。そう色々とね。なので森の表層に建てた温泉街はかなりにぎわってる。色々と幻想的な光景は勿論だけど、一番は大切だった人に会える――みたいな? 


 私自身はスルーしてる大量のマナ。けど今、私の力になってるマナは、全てがゼルラグドールの力って訳じゃない。いまや、私の力は世界中のマナなのだ。それを成してるのがクリスタルウッドだ。クリスタルウッドは世界中のマナを循環させてる。そのせいでか、クリスタルウッドに近い場所には出るのだ。その幽霊と呼んでいいのかわからない存在が。マナは生命の源。だからそれが集まってるクリスタルウッドは死者達が最終的に集う場所であるともいえる。


 そして他の場所ではありえない程の高純度なマナによって時にはマナ生命体の様に出てくることがある。それこそ、思いが強い人が近くにいれば、それを引っ張り出すことも……なので最後にお別れを言ったりしに来る人はかなりいる。


 こんな世界だからね。死はとても身近だ。碌に別れも済ませられず、ましてや死体とかも残ら無かったりも結構あるみたい。あとは行方不明者の生死の確認とかあったりするらしい。それにそういう未練を断ち切らせた方がマナも純度を増すとかメルもいってた。だから商売に……ゲフンゲフン、黙認してるわけだ。宿としては繁盛知てるしね。それで金までとる必要もない。それに無粋だしね。なので私は宿の料金を減らしたくらいだよ。


 反対意見は勿論出た。だって多少高くても人が集まってくるのは確実だったしね。でもそれで別れをいえない人たちが出るのは悲しいじゃん。そもそもがファイラルにくるまでだって大変なのに、そこまでして、泊る所もなく帰らせるとか悪手でしかないでしょ。だから今や宿の経営で利益なんて見込んでない。一応料金は取ってるけど、それでも二束三文。けど大抵宿代が浮いた分を他の物に使ってくれるのだ。


 それこそお土産とかさ。だから問題などない。


「なかなかにお高いわね」


 けどどうやらアクワイヤは違うみたい。完全に金持ち区画とそうじゃないのを分けてるね。いや、悪くないんだけどね。アクワイヤを観光してて思うのは、全てが市場の相場よりも二・三割高くなってるって事。食べ物とかもなかなかに高い。確かにこの光景には一生に一度目にする価値がある。だからこそ、一生懸命お金をためて庶民たちはここで贅沢をすることが箔になる。それなら、このくらいの値段は出せるでしょって感じだ。


 今まではそれで回ってたんだろうけど……蛇の調査ではファイラルが台頭してきてからここの売り上げは確実に減ってる。いつまでも殿様商売を続けてもいけないと思うんだけど。まあだけど、流石は長年観光やってるだけあって食べ物とかにもこだわってるのか、そこそこの店でも美味しくはある。それにファイラルに客が流れてるのもあるんだろうけど、結構人もまばらで、ある意味今が適正人数なのかもしれない。


 混みあった場所って好きじゃないんだよね。混みあった人々を高みから見るのは好きなんだけどね。


「落ち着いてていい感じね」
「そうですね。けどそれも今日までですよきっと。明日には沢山の人が集まってます」
「そうだといいね」


 ミラの言葉に私はそう返す。今回はここでライブをするって周辺の町や村、隣接する領に伝えてるからね。多分そうなるだろう。どのくらいサンライズの影響があるのか……とか思ったけど、今は向こうも近くにはいないし、そこまで影響はないかな。だって二組のアイドルグループが居て、どちらに行くことを迷うのはどっちも手に届く範囲にいるときだけでしょ。少なくともこの世界ではそうだ。


 だから近くで私たちのライブがあるとわかればこっちにくるよね。まあだけど、ただ明日を待つのも退屈だし、色々と皆が楽しめるようにするけどね。ここは水の都だし、色々とできそうだよね。演出とかさ。いままでで一番綺麗なステージにしたい。私はそう思って食後のお茶を飲み干すよ。



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