美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ64

「ご、ご機嫌麗しゅうララララーゼ様」


 噛み噛みの挨拶をしてくるローデリア息子。なんとか決めようとしてるけど、私を前にした緊張の方が勝ってるのか……どうにも決まらない。背も高くてそれなりにいい顔はしてると思う。多分さぞモテる事でしょう。だから私も……的に思ってたのかもしれない。けど実際目の前で見たら……普段の様には出来なかったみたいな? まあ屈辱かもしれないけど、気にする必要はないよ。だって私だし。


 初対面で私を前にてんぱらずにいられる奴の方が少ないからね。それこそ同じ人種ならなおさらだよ。


「ごきげんよう。ラーゼでございます」


 とりあえず猫被ってこいつにも挨拶してあげる。まあ私の本性はそれなりに貴族に伝わってるとは思うんだけど……いやどうかな? 蛇とかが上手く隠してるかもしれないけど、そこらへんは知らないな。けど王様とかに会うときはあんまりこびない。むしろ向こうが媚びてくるし? 普通は一番の権力者の前でこそこびへつらうものなのかもしれないけど、そんな常識は私には適応されないのだ。てか上の奴らの方が色々と分かってるってのがあるよね。


 だから隠す必要性もないみたいな? そもそも王様の前では挨拶なんてしないて。「ヤッホー」くらい? 寧ろこんなあいさつするのはこんな地方領主に対して位だよね。幻想を抱いてくれてるからね。面倒くささもあるけど、からかいもある。


 私の事ただの小娘とか、いまだに思ってたりするもんね。だからこそこうやって安易に息子とか紹介してくるんだろうけど……私はファイラルの領主だからね。うまくこの……名前もまだ教えてもらってない息子が私を堕とせれば、ファイラルの莫大な利益を得る事が出来るからね。そういう打算があるんだろう。まあ、目の前の息子の方はそんな感じではなさそうだけど。そんな余裕がない感じか?


 私に続いてミラ達も一応頭を下げる。まあ私が頭下げてるんだから皆続くよね。


「いやはや、どなたも美しい少女だちだ。流石ですな」


 何が流石なのか……それは私の見る目――ってことなのかな? たしかに可愛い子を見逃す事なんかしない。いまこの場で給仕してる一人や二人は目をつけてる。後でお話ししよう。ローデリアはしどろもどろの息子の脇腹を小突き何やら小声で言ってる。それに対して息子は「こ、こほん」とか咳払いして切り出した。


「少しおおお話いたしませんか? わわ私もいずれはこの領を任される身。そそその若さでファイラルを盛り上げてるあなたの言葉はきっと参考になると思うのです」


 なるほど、まずはそっちから攻める気か。にしては周りくどいと思うが? 私はいつまでもここにいるわけないよ。精々あと数か所の街を回ってライブするくらいだから三日くらい? あんまり時間はないはずだが?


「そうですね。でも私はあまり何もやってませんよ? この子達の様に周りが優秀なのです」


 そう言ってさり気に他者を持ち上げられる女アピールしといてみる。


「それでも、その人徳……ぜひ拝見したいのです!」


 おっ、なかなかグイっときたね。後ろからシシの視線が刺さってるよ。コランはさっとミラの後ろに隠れたね。フィリーは周囲で様子を伺ってる地方貴族に愛想を振りまいてる。誰もが私たちに早く近づきたいと思ってる事だろう。皆可愛く綺麗だから……もちろん、みなさんこのローデリア親子みたいな思惑もあるだろうけどね。でも今日はローデリア主催のパーティーだから譲ってるんだろう。そしてこのチャンスにもっと息子にガンガンいってらしく見える。


「ふふふふ二人きりになれる場所に行きませんか?」


 そう言ってローデリア息子は片膝をついて私に手を差し出す。周りが注目してる。実際突っぱねてもいいが……このあとあの大量の貴族の相手をしなくちゃいけないのは正直うざい。シシの奴が後ろで「ダメですラーゼ様。ぺっしてください。ぺっ」とか言ってる。
 シシちゃん、こいつ一応貴族だらかね。まあ私が保護してる限り、貴族でも彼女達をどうにか出来る事はないけどさ……それがこんな地方貴族ならなおさらね。


「ああ!?」


 シシがそんな大げさに声を出す。すぐにその口はミラの手でふさがれたけど、ざわっとした空気は周囲に広がった。


「そうですね。エスコートお願いできますか?」


 それは私がローデリア息子の手を取ったからだ。



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