美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ50

「ぐぬぬ」


 私は思わず手近にあった壁を爪でひっかく。別に負けた気がするとかじゃない。断じてない……が、なんかこう胸がもやもやする。そしてそれは出てくる時にイライラッとね――しちゃうんだ。だからこうやって周囲に不快な音をまき散らすことをしてしまうんだ。私の視界の先には初々しいカップル……ではまだないが、そう見えるしかないミラと犬次がいる。なんなのあの甘酸っぱい雰囲気。むずむずするし、歯がゆいんですけど……じっさいもう付き合っちゃえよ――とか思っちゃう。


 言えないけどね。だって私があの子達をアイドルにした。アイドルに恋愛はご法度なのだ。実際バレなきゃいいんじゃない? とも思わなくもないけどさ……私が体現したいのは完璧なアイドルなのだ。想像と夢の中じゃない、偶像として輝く本物のアイドルだ。それを目指してるプリムローズにスキャンダルはダメ。けど今のミラの表情……ぞれは見過ごせるものではない。はっきり言って、ミラはちょっと他のメンバーよりも人気がない。


 人気がないって程ではないけど……伸び率ってやつ? 他の皆は倍々に増えてるけどミラはね……どうしてかなかなかファンが伸びない。他の三人よりも輝きが足りない? そんな訳ないと私は思ってる。だって私が選んだ子だよ。他の子よりも魅力がないなんてことは絶対にない。けど他の子達に溝を開けられてるのは事実だ。それが何かは、正直私にもわからない。好みなんて千差万別のはず。種が沢山いて多種多様な生物が跋扈するこの世界ならなおさらだ。


 それなのに一人だけが遅れるなんてありえない。けどそれがあり得てて……けど今見えるミラの顔なら……表情なら……ってそうおもえる。別段普段から愛想悪いわけでもないんだけどね。確かに他の三人よりはプリプリしてるように見えるかもしれないけど、それはリーダーであり、皆のお姉さん的な立場もある。後は素ッてのもあるけどね。ミラはまっすぐだ。それはもしかたら眩しすぎるのかもしれない。


 フィリーは色々と隠してて、けどそれが彼女の親しみやすさを演出してるところはある。シシは人によって態度変えてるしね。コランは多分……天性の愛されやすさを持ってる。それはアイドルになるべくして生まれたような才能だ。ミラにはそういうのはない。あるとすれば努力する事。それを怠けない事だ。ミラはまっすぐに前だけを見てるからね。いまはちょっとあちこちに視線を彷徨わせてるけどね。


「ああ、なんでそこで!」
「おおう! よし、よく耐えた!!」


 なんか後ろの二人がうるさい。それぞれに反応が違うのはなんなの? まあ犬さんはわかる。犬次が手を出したら去勢でクビだからね。けどフィリーの言ってる事、おかしくない? さっきまでミラと犬次の事呪いそうだったのに、なんで犬次の応援してるようなこと……


「うぬぬ――はっ!?」


 その時、私に電流が走った。天啓が降りてきたよ。


(まさかフィリーも犬次の事が? だからこんな意味不明なことばっかり?)


 やっぱり近くにいるからかな? 犬次も案外やるね。にやにやと私は一人でしてる。そんな私を見てコランが不思議そうな顔してたけど、コランには恋の三角関係は早いから何も言わずにいた。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品