美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ42

 普通の街が見える。そこまで発展しないけど、別段荒廃してるわけでもない。ちゃんと時間的ゆとりをもったように成長してる普通の街だ。この世界の建物が連なり、この世界の人種のいたって普通な服装を着た普通の人たちがたくさんいる。人種は数だけは多いからね。皆さんいつもの日常を送ってる。そんな皆さんに至福の時を与えましょう。私たち……プリムローズが。


 空を覆う雲が広がる。さっきまでの晴天が嘘のような暗い空。それに人々は不安がってる。まあだけど安心してほしい。だって今から私たちが太陽になるんだから。だからこそ隠した。邪魔だからね。スポットライトは私たちにだけ当たってればいいんだよ。


「行くよ、皆」
「「「「はい!!」」」」


 私の言葉にプリムローズのメンバーが応えてくれる。今、私たちは船の甲板にいる。もちろん着替えてね。派手なステージ衣装を風になびかせてる私たち。すると左右に展開してる船から大きな音楽響いてくる。領で開発したスピーカーが蠢きだしたのだ。この世界、大きな音を出すには生演奏くらいしかなかったからね。けどこの新開発の奴があればどこでもステージだ。突然空から鳴り響く音にこの街の人達はきっと驚いてることだろう。


 だけどこんなものじゃないよ。まだまだ度肝を抜いてあげよう。私たちは視線を交わし口を開く。私たちの歌声は魔道具で拡張されてスピーカーを通して届けられる。少しずつ高度を下げていく船。周囲の船からライトアップされてるこの船はとても目立ってる。そして沢山の人達に見える様に大きな映像が魔道具を通して大写しにされる。ここらでようやく私たちが何者なのか……それがこの街の人たちもわかっただろう。


 ここは別の領だけど私たちの事は伝わってる。だからこそのツアーだしね。気軽に他領になんかこの世界はこれない。それこそ冒険者とか、商人とかくらいだよ。普通の人達は生涯他領に行くことがない……とかもけっこう普通らしい。私には考えられないね。だってこっちに来てからずっと色んな所いってるしね。まあだけど、それが普通なら仕方ない。けどそれは私には当てはまらないから……これないのならいってあげるまで。
 私は優しいからね。


 人々が集まってきてる。この段階でかけてくる奴らはきっと私たちのファンだ。彼らが盛り上がればここの人達にももっともっと熱が伝染するだろう。だからガッカリなんてさせないよ。夢中にさせてあげる。一曲を歌い終わって私は眼下を見下ろすよ。たくさんの人たちが私たちを見上げてる。そして鳴り響くたくさんの声。私たちはそれぞれが透明な泡に包まれて船から飛び出る。そして色んな所から見てる人たちに向けて手を振るよ。


 それに興奮した声が返ってくる。そんな人たちに私たちは声をそろえて言うよ。互いの姿が小さくても、見えなくても息が合う。それだけの時間、一緒にやってきたんだから。


「「「私たちはプリムローズです! 皆ーー会いに来たよーーーー!!」」」


 街が唸る。地響きかと思うほどに。



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