美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ97

(交渉?)


 はてなんのことやら……正直よくわからない。けどラーゼが大丈夫と言った。それならきっと……そうなんだろう。こいつは無茶苦茶だけど、出来ない事は言わない奴だ。けど今まさに私は……いやこの街は消滅させられそうなんだけどね。一体誰と交渉したのだろうか? 目の前の奴? でもラーゼはここには居ない筈だ。てか……こいつはずっと私達と戦ってた訳で……


(いや、そういえは空間移動で居なく成った時があった)


 けどそれならその時点で戦いが終わってた筈では? 帰って来てもこいつは戦闘を続けてた。そしてこんな事に……


(こいつ……じゃない?)


 でも見てた感じ、こいつが鉄血種の親玉というか、一番偉い奴っぽかった。本当にラーゼの奴が誰と話しをつけたのか謎。とりあえず……あのデカイのを止めてくれないかな? そうしないと……ここら一帯が消える。黒い太陽の様に成ってる黒い炎。デカくなった鉄血種は大きく振りかぶってそれを――


『はは、僕の眷属ともあろうものがここまでになるとはね。全く僕は醜いのは嫌いだよ』


 ――軽い声が響く。そしてそれは子供の様な声だった。ぼやけだしてた視界で私は必死にその声の主を見ようとする。いつの間にはそれは空にいる。白いハステーラ・ペラスを身にまとった、美少年……だと思う。後ろ姿しかみえないけど、きっとそうだろう。だって鉄血種は皆が皆、美男・美女揃いだった。そんな奴らを眷属とか抜かす奴なら、美少年でしかないでしょ。


 目の前に現れた美少年を見てデカくなった鉄血種は止まってる。いや、動けないのかな? 何か、不思議な力を感じる気がする。


『まあ、でもさ。君たちもよくやってると思うよ。僕の言いつけを守って人種を管理して来てくれた。けど、あれはなかった事にします!』


 なんか一方的にそんな宣言を始めた美少年。これには流石に私のハステーラ・ペラスの中に居る鉄血種達もあんぐりしてる。彼らも息も絶え絶えだけど、「そんな……」とか「なぜ……真祖様」とか言ってる。ああ、アレが真祖とか言ってた奴か、と私は気付いたよ。


『理由かい? それを教える義務はない。けど、一つだけいうのなら、彼女がとても美味しかったからだ。そして僕は負けてしまった。全く、あれだけ搾り取られると言うこときかないとね。またやってくれないだろうし。もう彼女無しでは生きれないよ。知ってしまったから。味わってしまったから。全く大した娘だよ。きっと計算してたね。
 けど僕だってこの世界の柱の一人。それでも負ける事なんて無いと思ったんだけど……想像以上に彼女はすごかった。僕が求め続けて、けど決して得られない物を、与えてくれる。全く、この僕が惚れちゃったよ』


 ななななななななな、何やったのよラーゼ!? なんか搾り取られたとか……彼女無しではいきれないとか……なんだか私には刺激が強すぎるワードがちらほらと聞こえた。こんな身体の状態じゃなかったら真っ赤に成ってたかもしれない。


『まあそんな訳だから、人種はこのままでいいよ。長い停滞の時代が動く』


 そう言った真祖? 美少年はハステーラ・ペラスをバサッとはためかせて声を張り上げた。


『聞け我が眷属達よ! 小さき義務は果たされた。これからは上を取りにゆけ! この世界の覇者と成れ!!』


 その瞬間、デカく成ってた鉄血種が元の姿に戻った。いや、戻された? そして美少年はこちらにやってくる。


『ハステーラ・ペラスに戻った子達は返して貰うよ。まあだけど、頑張ったご褒美にそれは君にあげるよ。けど、無垢なハステーラ・ペラスは危険だから気をつけてね。……大丈夫、君は死なないさ』


 私の瞳から何を悟ったのか、最後に美少年はそう言って微笑んだ。それは、まさに吸い込まれそうな笑顔。柔らかく暖かくて、けど何処か謎めいてて、神聖でいて、でもどこか恐ろしい……けどやっぱり、どこまでいっても彼は果てしないほどに美少年だった。それを確認してから、私の意識は深く深く落ちていく。

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