美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ72

 耳のピアスから声が聞こえた。


『大丈夫。手放さないで』


 迷ってる私にそう伝えるのはラーゼの声だ。するとマントを大量のマナが包んでく。そしてマントがおとなしくなってく。どうやらラーゼの力がマントに残ってるのか、居るのかわからない鉄血種を押さえ込んでくれてるみたいだ。助かる。正直今、これを無くすのは避けたかった。だってこれ凄い便利なんだもん。視覚的にも奴らから逃れられるしね。成長してる私のマントは防御力も応用力も高い。


 まあ今の状態でそれがどこまで出来るのかわからないけど。でもあるのと無いのとは心持ちが違ってくるよ。けどこれをしてる間は私もしかして魔法使えない? さっき黒い炎出たし……


「あっ、そうだ!」


 私は鉄血種に向かって魔法を唱える。するとその瞬間奴はギョ!? とした顔になった。今までそんな顔見たことなかった。つまりはあの黒い炎はそれだけヤバイ代物だって事だろう。まあそんな顔されても止めないけどね。だってこれは大切な事だ。味方で試す事も出来ない以上、こいつに向けるのが一番。だって敵なんだもん。


 詠唱の完了をまたずに鉄血種は動き出したけど、一足遅かったね。こっちは元々単純で一番弱い魔法を選んでるっての! 完成した魔法を放つ。けど実は、放つ前からこれは違うやつが出るなって事がわかった。なぜなら、詠唱した魔法に対して、使われたマナが以上に多かったからだ。しかもそれだけじゃない……


「ぐおおおおおおおお!!」


 鉄血種は私の魔法を避けようと急転換した。どうやら真の力とやら開放した状態でも黒い炎は不味いらしい。私の魔法はというとやっぱり黒い炎だった。それがさっきまで鉄血種が居た場所に出現してる。外れた……そう思った。けど違った。現れた炎は小さな灯火を線香花火の様に飛ばして消えていく。すると今度は鉄血種の傍でその灯火が現れる。


 そして黒い炎の本体が現れた。


「づあ!? やはり駄目か。だが!!」


 鉄血種はこの炎からは逃げれないと分かってたみたい。それはそうか。だって元は奴らの力だ。なんで私が使えてるのかの方が疑問。多分マントのおかげなんだろうけど、ほんとこのマント何なんだろう。鉄血種はその力を滾らせて体中に赤い血管の様な物が浮き出てきた。そして自身の影から靄の様な物が出てる。そこに手を突っ込んで取り出したのは武器。
 鉄血種が武器を使うなんて記述は人種のデータの中にはなかった。多分、使う必要もなかったからだろう。自分たちの腕を変質させるだけで、人種なんて潰せて来たんだからね。


 って事は、鉄血種が武器を取り出すのはとっておきの時って事。奴の武器はなんか刀身がうねった変な形の剣だった。綺麗に装飾されたその剣は、ぱっと見、観賞用にも思えるけど、そうでは無いんだろう。その証拠に、奴はその剣で自身の腕を切り落とした。


「これでどうだ?」


 切り落とした左腕には黒い炎が取り付いてた。それから逃れる為にそうしたんだろう。けど自分で切るって……でもそれをしないと鉄血種でも助からなかったんだろう。それにあいつら再生出来るしね。人を食えば元に戻る。


「ああ……食わないと……お前ら全員……今すぐに!!」


 鉄血種は何かするために自身の剣を振ったと思われる。けど……その何かが発動する事はなかった。なぜなら、その剣は黒い炎によって燃やされてたからだ。


「ふはっはははははははははは!!」


 赤い月が輝く中、鉄血種は何かを悟って笑い出す。黒い炎は奴の剣から腕に移り、そして体全体を包み奴を燃やし尽くしてく。灰となった鉄血種。吹いてきた風がその灰を空へと返した。私はそののぼる様をじっと見つめてた。そして気付く。赤い月の傍で何かが爆発したのを……あれはまさかゼウス? 赤い炎と共にその船体からは黒い炎が見えていた。


 私は無意識にマントを使って空へと飛び出してた。

「美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く