美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ12

「亜子、ちょっといいか?」


 重い空気で解散したと思われてたけど、一人私に声を掛けてきた奴がいた。グレン・バステテル、いつも何かとやり投げなやつだ。見た目はまあ良いほうだと思う。黒のロン毛を後ろで束ねてて、切れ長の目は真面目にしてれば、色気もあってマシなんだけど、こいつの場合はいつも眠たげに下がってる。それに私への距離が異常に近い。なんか親友面してくるのがうざかったやつ。直ぐに私の肩に腕載せたり、頭ワシャワシャしてきたりするんだよね。こいつ私の事女と思ってないのかと何度思ったことか。
 それに講義はよくサボるし、教官達への態度もはっきり言えば舐め腐ってたはずだ。私の他になんでこのカリキュラムに選出されたのか、はっきり言ってわからない。そもそも選出されたからと言って、このカリキュラムを受けるかは自由だった筈。まあ普通は受けないなんてあり得ないけどさ、こいつの場合は受けるとは思ってなかった。


 だって一応貴族だから、適当に生きてくだけで充分とか言ってたし。まあだけど、優秀ではあったのは事実だ。講義とかの成績ははっきり言って落第しないギリギリだったけど、軍事教練のほうは教官をからかいながらも、完璧以上に課題をクリアする奴だった。だからこそレイドスとかアルドとはよく衝突してた。レイドスとかアルドは真面目だったからね。


 どんなに努力しても超えられない奴が適当にやってるのが許せなかったんだろう。まあ私もムカついてたけどね。てかこいつが私に馴れ馴れしいせいで変な噂は流れるわ、教官達には私がグレンの担当の様にされるわ……はっきりいっていい迷惑であった。そんな悪友とも言うべき相手に、この状況でまずはなんというのか……私はちょっと思案して口を開く。


「あれ? 生きてたんだ?」
「おい、それ洒落になってねーからな」


 どうやらグレンもそれなりに危険な思いはしたみたいだ。まあそうだよね。皆戦場を経験したからこそ、あんな雰囲気に成ってたんだし……流石に悪かったかな? とか思ったけど、グレンは普通に笑ってた。


「あはははは、やっぱお前おもしれーわ。そこらのお嬢様とは違うよな」
「だから私、お嬢様じゃないから」


 そりゃあここに通える時点で、世間的にはお嬢様なんだろうけど、私の場合、色々と特別だったからね。


「なんなのよ? そっちも忙しいんじゃないの?」
「お前ほどじゃないさ。そっちはアンティカで戦場飛び回ってるんだろ?」
「まあ……」


 確かに私達特務フェアリーは超多忙だ。だってどこの戦場も私達の事待ってるからね。寧ろ頼り過ぎだと言っていい。やっぱり量産化を考えるべきだよ。流石に三機は少なすぎる。私達戦場を移動する間にしか寝れなかったもん。移動する時は自動操縦に出来るんだよね。だからコクピットで寝るのが習慣化してた。けど流石に寝るようには出来てないから、身体が痛くて仕方なかった。


「いや、なんだ俺も死線を幾つか超えたわけだ」
「そうね。少しは真剣に生きる気になった?」
「いいや、寧ろもっとだらけたいって思ってるぜ!」


 駄目だこいつ。もう手遅れだろう。てか、戦場にいって沢山の死を目の当たりにしたはずだ。それでよく、こんな事言えるね。まあらしいっちゃらしいけど。


「そんな目すんなよ。ゾクゾクするだろ」


 やっべーこいつ変な性癖に目覚めちゃってるよ。やっぱり多少の変化は有った見たい。どう考えてもいい方向の変化ではないけどね。


「お前はどのくらいここに入れるんだ?」
「さあ……とりあえず進軍は一段落したし、少しはいれるかもね」


 散々馬車馬の如くこき使われたお陰で、戦闘は一段落してる。どこもかしこも決着がついたかというとそうじゃないんだけど、とりあえず直ぐに戦況は動かない状態になってる。それはこっちの都合と向こうの都合が折り重なって奇しくも膠着状態みたいな? そんな感じだ。まあだからいつ呼び出されるかもわかんないんだけどね。


「そうか、じゃあまたしばらく会えないな」
「そっちは偵察部隊とかだったっけ?」


 確かグレンの配属はそんな所だった気がする。真面目に聞いてなかったからうろ覚えだけどね。けどどうやら有ってたみたい。グレンは頷いてくれた。


「俺達の部隊は明日フォールン地方に行く」
「フォールン? そこって戦場だったっけ?」


 私達フェアリーは大抵の戦場に飛んだはずだけど……その地方にはいってないはずだ。確か、この大陸の左奥にある島々がそんな名前の地域だった気がする。私って前の世界の地図は日本とアメリカとかしか知らなかった。なのに既にこの世界の地図は結構頭に入ってる。散々頭に詰め込んだからね。


「これは機密なんだが――」
「ちょっとやめてくれない? 軍人が簡単に機密話しちゃうの」


 軍規違反だからね。バレたら処罰ものだ。しかも両方処罰されるからね。巻き込まないで欲しい。


「そうだな。話すのはやめとこう。俺達の仲なら問題ないはずだ。信じてるぜ」
「何を言ってるのかわかんないんだけど?」


 グレンの奴は行きたくないから現実逃避してるのかな? なんとなくそんな気がする。そういうやつだし。


「帰って来たら結婚しようぜ」
「あーはいはいちょっとは真面目にやんなさい――っては?」


 今なんて言ったこいつ? このバカ、何言ったの? ごめんなんか信じられない言葉が聞こえた気がしたよ。私がアホ面晒してると、グレンの奴が私の名前を呼んで、肩にその両手を置いてきた。え? なにそのその目? 憂いを帯びた表情とか、あんた眠い時しかしなかったじゃん。お昼食いすぎて寝すぎて、訓練に遅れる事が確定して、諦める時しかしなかったじゃん。


「亜子……結婚しよう。俺たち、案外相性いいと思うぜ」
「寝言は寝て言え。私はアンタを養う気はない」
「えー案外本気なんだけど。亜子ならやれる! 出来るから!」
「もうアンタは喋るな! 私の夢が壊れる!!」


 私はプロポーズはもっと運命的な何かがあるって思ってたんだよ! だからこんなので消費したくない。ノーカン! これはノーカンです!! 私はグレンの手を払い除けて歩きだす。時間のムダだったね。


「あははは、やっぱ無理かー。俺はお前しかないって思ってるんだけどな」
「迷惑だから」


 きっぱり言ってやった。そこに迷いも躊躇いもない。


「亜子、なら生きて帰る為のご褒美前払いでくれよ」
「は? アンタは殺しても生きて帰ってくるで――」


 言葉が途切れた。なぜなら、グレンの奴が私が振り返った瞬間に唇を重ねて来たからだ。それは一瞬だった。けど、確実にその感触はあって……私は何か言いたいのに言葉がでなくてパクパクしてる。


「これで一日は頑張れる」
「一日だけかよ! 私の唇返せバカ!」


 私の初キッスの価値はそれだけか! 本気で怒ってグレンに詰め寄る。拳を握って案外本気で殴りにいった。けど向こうの方が強くって……腕を掴まれたと思ったらもう一度キッスされた。


「これで二日頑張れる。もっとしていい?」
「殺す。マジで殺す……」


 私はホルスターから愛銃を取り出す。するとグレンは慌てた様に逃げてった。


「残りは帰って来てからもらうぜ!」
「誰がやるかバカああああああああ!」


 そんな叫びが、誰も居ない廊下に響いてた。そう誰も居ない……と思ってたら、背後のドアが開き……教官がこういった。


「……爆発しろ糞ガキ共」


 その目は本気だった。私は直ぐ様その場から退散した。
 

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