美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ8

 放たれた銃弾が緑人の身体へと直撃する。もちろん全部じゃない。そもそもが致命傷を避けるために手や足の部分を狙って放たれてるから大半は逸れていってしまった。けどそれでも数撃ちゃ当たるものである。私の玉は誘導されるから当然として、それぞれ左右の足に右腕に大きな穴が空いた。そしてその場に倒れ伏す緑人。


「卑怯……だぞ……貴様らあああああああ!!」


 地面に倒れ伏し、緑の血を流しながら彼はそう叫ぶ。確かに卑怯だったことは認めよう。けど、正々堂々なんて、そんな事を言える訳ない無いじゃない。だって私達は弱いんだもん。ずる賢くいかなきゃ勝てるわけない。


「残念だが、これが戦争だ」


 そう告げるカタヤさんの言葉が真理だよ。私達は周囲を警戒しつつ倒れた彼の周りに集う。あの塔の中の緑人がヤケを起こして無謀な行動を取らないとも限らないからね。勝利を確信した時が一番危ないのだ。映画やドラマ、漫画なんかで私はそれをよくわかってる。


「殺せ……」


 そんな事を呟く緑人。わかってると思うけど、殺すつもりなら頭とか胴体狙ってるから。けどこの殺せはきっと『何も喋る気がない』って意味なんだろう。


「君はあの塔への侵入手段を知ってるはずだ。教えろ」
「殺せと言ってる」


 脅すように声を出しても、彼の言葉は変わらない。私たちにはあの塔へ入る手段が無いのだから、口を割らないのが最も仲間の為だと言うことをわかってる。


「ここで貴方が死んでも結果は変わらないと思いますよ。確かに安全な方法であの塔を攻略する術は私たちにはない。けど、無茶をすれば出来ないことも無いはずです」
「貴様等人種には無理だ。出来るはずがない」


 それは確信めいた声だった。強がり? けどそうは聞こえなかった。確かに自身が口を割らなければ、絶対に落ちる事はないとわかってる声。言葉の強さだった。これはなかなかに厄介だ。こいつはきっといくら痛めつけても口を割るタイプじゃない。かと言って殺すと何も得られなくなる。私はカタヤさんと視線を交わす。するとカタヤさんは頷いた。


 私もそれに頷き返して、銃を向ける。すると緑人はその目を瞑った。


「そうだ……それでいい」
「勘違いしないでください。殺すわけじゃありませんから」


 そう言って私はマガジンを込める所に空いた薄い横穴にホルダーから取り出したカードをセットして一発の弾丸を放つ。魔法陣が現れて飛び出た玉はさっきまでの弾丸の色とは違い紫になってた。そしてそれは緑人に傷をつける事なく彼の身体へと消えた。


(効いたかな?)


 実際これを人以外に使うのは初めてで、上手く効いてるのか分からない。けど、僅かに開いた目はどこか焦点が定まってない様に見える。いい夢見れてるかな? とりあえず、効きを確かめるためにも適当な事を質問する。


「貴方は緑人なんですか? 普通の緑人とは違うみたいに見えるけど……」
「俺は……普通ではない。力を持ちすぎた突然変異種。だが……だからこそ、皆を守る盾になれる。この役目は俺の誇り」


 やっぱり普通の緑人ではないようだ。よしよし、ちゃんと効いてるようだね。


「じゃあ教えて、あの塔への侵入の仕方を」
「それは……」






 私達は聞いた手順を踏み、塔の中へと入った。緑人の彼は話を聞いた後、眠って貰って傷を直した上で縛り上げてる。私達は塔に入って驚いた。そこにはもう誰も居なかったからだ。ただあの緑人が来てた物と似たような布が一杯床にあった。つまりはそういうことなんだろう。中は天上まで吹抜聞けてて、周りの壁には、何やら石像……いいや木像が五体くらいあった。
 とてもでかい木像だ。アレだね。奈良の大仏とか、そんな感じででかい。私達は隈なく塔の中を調べる。よくわからない物が一杯だ。この中に、私達が求める物があるのだろうか? 探すのも大変だけど、それは私達の役目ではない。


 制圧したことを外に伝えて、更にそれは本国にも伝わる。そしてほどなくしたら沢山の研究者とかが派遣されるだろう。緑人の知恵と知識、そしてその秘宝。それを掘り起こすのが彼らの役目。きっとこの中には魔王の記述とか、もしかしたら約束の地のことも何かわかるかもしれない。大丈夫、それらの情報を国のお偉いさんたちが私たちに隠すのは不可能だ。
 なぜなら、既に国の中枢にまでラーゼの手は伸びてる。ラーゼの息のかかってる私とかキララとか警戒してるようだけど、私達はただ都合よく使われる気はない。目的のため、夢のために、動いてるんだ。


 外に出て、アンティカのコクピットに戻ると、新たな司令が届いてた。どうやらまたひとっ飛びしないといけないみたい。


「お風呂……入りたいんだけとな……」


 そんな愚痴を零しつつ私達は再び空を駆ける。

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