美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β48

 朝が来ましたわ。あの日から何度目かの朝。私はあれからずっと学校へも行けず、こうやって部屋に閉じこもってる。だって行ける訳がない。こんな……こんな姿をどうしたら再び晒せると言うのでしょう。
 私は自身の姿を新調した姿見に映す。そこにはブクブクと太った豚の姿があった。前は自身の身体をそこまで嫌いではなかった。好きでもありませんでしたけど……けど、それでも私は違う感じで素敵なのだと……解釈してましたわ。


「けど……なによこれは……ただの豚じゃない」


 一度美しく成ってしまったせいでしょう。今の自分の姿が、耐えられないほどに醜く見える。いままでこんな姿で人前に出てたなんて……これでどうやって再び学校へ行けると言うのでしょう。いつも迎えに来てくれてた子達もあの日の惨状をみて来なくなりましたわ。あの日の戦いは外には一切の影響はありませんでしたけど、この部屋はボロボロになりましたからね。
 大急ぎで修繕と家具も買い直しして今はもう元に戻ってますけど……部屋はもとに戻っても、私の心はそうではありません。そんな時、コンコンと音とともに声がしてか細い声で「あの……サーテラス様。今日もお花が届いて……ます」と聞こえた。いつもの使用人の声。けどそれ以上にまた今日も花を送りつけてきた。


 キララさんはなんのつもりか知らないけど、花を送ってくる。それが私にはたまらなく屈辱だとは思いもしてないでしょう。


「捨てなさい……そんなもの」


 私は冷淡に言い放つ。それには直ぐに「はい」という声が聞こえた。けど扉の向こうで更にこう聞こえてしまった。


「こんなにキレイなのに……」


 それを聞いた瞬間、プツッと頭の何処かが切れた気がしましたわ。扉を開けて戻ろうとしてた彼女を中に引きずり込んで馬乗りになります。小柄で細い彼女は私の体重で苦しそう。それが更にイライラを募らせる。


「何が! 綺麗ですって!! あの女か! 私は! そんなに醜いか!!」


 そう言って私は一心不乱に彼女を殴る。使用人の……使用人の分際で!! 一体いつまで殴ってただろうか? わからない。ただ拳が痛くなったからやめた。彼女は腕で顔を覆ってただ丸くなって震えてる。


「貴女のせいで汚れましたわ。早く換えの服を持ってきなさい。それに罰として貴女は今日は食事抜きです」


 一方的にそんな事を告げる。息を整えつつ、服を脱ごうかとおもったけど、一人では無理でした。ヨタヨタと起き上がろうとしてる子の傍には花が散乱してる。キレイな花。それを見て私はこういう。


「こんな私と友達? そのつもりですか……」


 私はその花の一つに手を伸ばす。その時だった。倒れてた使用人が私に寄りかかってきた。その時、何かが腹部にめり込んで来る。お腹が熱い……私は力なく大の字に倒れた。その時カランと同時にナイフも落ちた。


(ああ、刺されたんですのね)


 冷静に……何故か冷静にそんな事を思った。流れ出る血は止まらない。あっという間に床に広がってく。


「あっ……ああ……」


 私を刺したその子は動転してる。


「あなっ」
「あぁあうあああああああああああ!!」


 声をだそうとした瞬間、また殴られると思ったのか、血まみれのナイフをとって彼女は何度も何度も私を刺す。その度に嫌な感触と音が頭に響いた。そしてどこかで聞いた魔王の言葉が浮かんで……そして私の命は消えていく。


『その狂気はいずれ自分を殺すよ』


 全く……ムカつく程にその通りでしたわよ魔王さん。


 


 
 その日はいつもどおりだった。あの戦いから数日。学園はいつも通りになった。皆元通り。ただひとつ、サーテラス様はここにいない。ずっと引きこもってる。何が出来るだろうかと相談したら、ティアラ様がお花が良いんでは? って言ってくれたからそれを毎日送ってる。ちなみにティアラ様にはもう一度告白された。もちろんちゃんと断ったけど、それでもお友達で居させてくださいって言われたからそれは了承した。


 アナハともいつも通り。相変わらず教室ではそっけないけど、あの焼却場では沢山話すようになった。ペルの奴は普段はヌイグルミ形態にしてる。けど、時々研究所にいってる。ペルの事にネジマキ博士が興味あるみたい。亜子とカタヤさんは魔王の情報収集と対策を始めてる。上のほうも秘密裏に動いてるみたい。けど今すぐ何が出来る訳でもない。
 だから私はここで皆さんと魔法の腕を磨くべく、日々研鑽をつんでる。


 
 授業も終わり、生徒会の活動も済ませて寮へと帰宅する。でもすぐに自室には行かず、上の階を目指す。誰も近づかないサーテラス様の部屋をちょっとだけ確認するためだ。まあ中まではみれないけどね。ただ部屋を確認するだけ。けど今日はいつもと違った。扉の前にメイド服の少女がうずくまってたんだ。私はその子に近づく。そして気付いた。
 彼女が血まみれで震えてる事に。そしてその手には真っ赤なナイフが握られてる。私は勢い良く扉をあける。私はその光景を目の当たりにした。思わず悲鳴を上げそうになったけどそれを無理矢理抑える。ここで私が悲鳴をあげると大事になってしまう。


 私はこの娘をしってる。サーテラス様に酷い仕打ちをされてたメイドの娘だ。きっと我慢の限界だったんだろう……だからって許されることじゃない。でも……このままじゃ、この娘も殺される。絶対に死刑……よくて奴隷落ちだ。私は震えてるその子の頭を優しく撫でてこういうよ。


「大丈夫、もう震えないで。なんとかしてみるから。怖いものなんてなにもない所に連れてって上げる」


 私はピアスに手を伸ばす。そしてアイツに連絡を入れた。


 
 あれから更に数日後。サーテラス様の死体は内密に処理された。学園ではお辞めになった事になった。家族が色々とでしゃばってたようだけど、ラーゼが……というかアンサンブルバルン様がなんとか上手くやってくれたみたい。毎日はとても快適になった。あの子も今頃はファイラル領で暮らしてるから問題はないだろう。けど、私の心にはなにか黒い物が残ってる。
 これは後悔? それとも…………わからない。でも私は一層頑張らないとって思う。後数年で魔王が動く。その時、私が皆の救いになるために。

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