美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β41

「なんで!? そうなる!! 助けてやる! お兄ちゃんが絶対に!!」


 魔王の……いや、ミリアの言葉を聞いて、カタヤさんはそう返した。それはそうだよね。殺してなんて言われて、分かったなんて言えないよ。とくにそれが、兄妹とかならなおさらだろう。私には家族なんていないけど、知り合った人達を見捨てるなんてやっぱり出来ないよ。


「そうだよミリア! 絶対方法はあるよ! だから諦めないで!!」


 亜子も彼女にそう語りかける。亜子だって彼女と深い? かはわからないけど、関係あるからね。でも私達はそんなつながりなんて無いから何も言えない。


「ありがとう。けど……無理だよ。だって私は魔王として魂がもう変わってる。今、私は魔王ミリアなのよ。私はもう人種じゃない」


 人種ではもうない……彼女の魂は魔王と混ざって、存在自体が魔王として転生したと言うことなのかな? だからこそ救うすべはないと……ミリアは言ってるのかもしれない。


「それでも……それでも俺は諦めない!! こっちに来るんだミリア!!」


 そう言ってカタヤさんはミリアに向かって手を伸ばす。確かにミリアは魔王だ。けど、その自我はちゃんとある。何か出来る事があるはずだと思うのは当然だよ。そこに確かにミリアは居るんだ。姿とかは変わってるけど、それは確かにミリアなら……一緒に解決策を探すことだって出来る。


「ごめんお兄ちゃん。私はその手を取られないよ」
「どうしてだ? お兄ちゃんが絶対になんとかしてやる! 大丈夫だ! だからさあ!」


 けどミリアは首を振るう。


「私はね。まだ完全には目覚めてない。ゆっくり時間を掛けて、その肉体が構築されてる段階なの。今度の魔王は多分歴史上最悪の力をもった存在になる。だから私は警告しに来たんだよ。目覚めるまでの間に力をつけて。魔王として目覚めても、私は多分私だけど……魔王としての本能はちゃんとあると思う。だって実際に、今の私は皆を殺してしまいたいもん。お兄ちゃんと居れる奴皆、殺したい」


 そういったミリアが私を見た。その瞬間だ。腰が抜けた。そして下半身がなにやらとても熱くて……床に水が広がってく。一睨みで私の身体は完全に魔王に屈服した。


「ごめんね。けど大丈夫、まだ殺さないよ。わかったでしょ? 私は危険なんだよ」
「俺がいる! お兄ちゃんを信じろ!!」


 それでもカタヤさんは引かない。なんとかミリアを取り戻したいんだ。


「ミリア……私のせいなの? 私が来たから……ミリアはそんな風に成っちゃったの?」
「違うよ亜子。亜子は何も悪くない。それに悲観してるわけでも無いんだよ。この力……結構楽しいよ」
「ミリア! ミリアはそんな誰かを操って楽しむような子じゃない!」


 亜子が怒りをはらんでそういう。それを聞いて僅かに悲しげに瞳を伏せる。


「そうかもね。でも私はもう魔王だから。以前とはやっぱり変わっちゃってるのかも。自分ではわからないけど……この子……サーテちゃんだっけ?」


 そう言ってミリアはその腕を広げてみせる。


「この子の心……いい感じに黒くなってたんだよ。丁度良いなって思った。力を貸してあげたら、とても喜んでくれたよ。私の助言にも案外従順だったし、何かが違ってたら、こんな娘にはなってなかったのかも知れないね」
「なにが言いたいのミリア?」


 確かに今サーテラス様はそこまで関係無いような気がする。けど、今それを持ち出したって事は何かがあるのかも……


「私がここにとどまるって事は、この体の持ち主はずっとこのままってことだよ。短期間なら問題ないけど、ずっとなんて、普通の身体は私の力に耐えられない。きっとこの娘死ぬわ。それでもいい?」


 サーテラス様を犠牲にミリアを留めるか、サーテラス様の為に戻って貰うか……


「別の入れ物を用意すればいい。ネジマキ博士に頼めば!」
「無駄だよ。今出たら、私は引っ張られるもん。そしたら目覚めるまではもう出る事は出来ない。ねっどうしようもないでしょ?」
「くっ……」


 カタヤさんはその手を強く、強く握りしめてる。目の前のに探し求めた妹がいるのに、何も出来ないんだ。悔しいだろう


「ねえ……ミリア……さん」
「ん?」
「ひっ!?」


 ヤバイ、自分で声掛けといてなんだけどめっちゃ怖い。いや、今はミリアはなにもしてない。けど、見られただけで私は竦み上がってしまう。それだけの恐怖が植え付けられてる。けど、このままじゃだめなんだ。恐怖に負けちゃだけ。また膀胱がキューと締め付けられる感じがするけど、漏らさないよ。私は必死に声の出し方を思い出しながら喋るよ。


「えっと……どうして……ここに? だって……貴女はカタヤさんや……亜子に会いたかったんでしょ? それなのにこんなまどろっこしい……事……」
「そうだね。けど、私もまだまだ慣れてないし、いきなり軍に乗り込むのもどうかなーって思ったの。学園の生徒なら、そこまで大事にしなくても秘密裏に事をすすめれるかなって。それに……ここには貴女がいたから丁度良かった」
「私?」
「ええ、あの女の力を一番強く受け取ってる貴女。都合よく亜子やお兄ちゃんとも知り合い。すこし追い詰めたら、こうしてくれるかなってね?」
「じゃあ、皆の洗脳を解いた後、何もしなかったのは……
「やる必要がなかったから。貴女は役割を全うしてくれました。ありがとう、思うように動いてくれて」


 わ……私は……自惚れてたよ。もしかしたら警戒してるのかと思ったけど……どうやらそんな事は全然なかったようだ。寧ろ私は彼女の手の平の上で踊ってたに過ぎなかった。それが……たまらなく悔しい。なのに、私は何も出来ない。文句の一つだって……言えないよ。


「大丈夫、安心して。この人はちゃんと開放する。私と言う力をなくしてどうするかは知らないけどね」


 沈黙が流れる。話はここまでなのかもしれない。そして暗にそう告げる様にミリアは後ろを向いた。けど、その時、やっぱりカタヤさんが声掛ける。


「ミリア! どうしたら……俺はどうすればお前を救える?」


 本人に聞いちゃうんだ。けど、必死に絞り出した言葉だとわかる。引き止めたいんだ。行かせたくないんだ。だからこそ、そんなことだって聞く。


「殺してよ。目覚めて私が暴れだすその時に颯爽と現れて私を倒して見せて。私のお兄ちゃんが一番だって、私に見せて……ね」
「ミリア……」


 キレイな笑顔だった。けどそれ以上にミリアという女の子の顔が見えた気がした。私はその顔さえ知らない。けど、サーテラス様の顔に重なる様に、彼女の……ミリアの顔が見えた様な?


 黒い力が次第に彼女の内に戻ってく。どうやら行ってしまうようだ。けどその時、その力の流れが止まった。そして何やら、一人でにミリアはブツブツと言ってる。


「うん、あーけど……まあいっか。そういう契約だしね」


 そんな言葉が聞こえて彼女は振り返る。


「ごめんね。私は手を出さないつもりだったんだけど、どうしてもこの娘が決着つけたいって。まさか目覚めちゃうとは……その心に呼応して魔王の衝動も目覚めてる。少しだけ、頑張ってみて。死なないでね」


 そう言ってミリアは目をとじる。そして次に目を開いた時、それはもうミリアではなかった。


「あーはっはっはっはっはっは! さあ決着をつけましょうキララさん! ぬるい事は言わないわ。メッチャメチャのグッチャグチャにしてあげますわ!! 貴方がいなければ――貴方の存在が憎らしい!!」


 ブワッとその体内に戻ってた黒い力が彼女の背から溢れ出した。そして瞳が金色に光り、額には角が見える。そして背中には四枚の羽。サーテラス様はどうやら私が憎くて憎くてたまらないらしい。最後だからって人まで捨てて来た。なんでそんなに私が気に入らないのよ……魔王の力を前に私はカタカタと震えるしか出来ない。私は……私はなんて情けないんだろう。
 私は結局こうなんだ……口だけなんだ。肝心な時、私は何もできなくなる。私はいつだって誰かに助けられるのを待ってる。結局……そんなやつなんだ。私を守る様にカタヤさんと亜子が立つ。でも一瞬で二人は吹っ飛んだ。廊下の壁に叩きつけられる。アナハはサーテラス様を睨むけど、睨み返されると、彼女は石に成ってしまった。


「魔眼なんて、今の私には効きませんわ」


 そして眼前に来たサーテラス様は私の首を片手で掴んで持ち上げて来た。その時ペルが飛び出したけど、一瞬にして、ペルは粉々にされた。圧倒的過ぎた。首を締められて意識が朦朧としてくる。
 何かを彼女は言ってる。狂ったように。


「私が……私の方が優れてますわ。格も品も家柄も……なにもかも! だって私は貴族ですもの!」


 何が貴族だ。そんな姿で……貴女はもう……化物だ。ミリアとは違う。あの娘は魔王でも人だったよ。けど……この人は違う貴族に囚われた化物。それに成り果てててる。そして私はそんな成れの果てに殺されるんだ。

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