美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β25

「――で、こうなってだね。そしたら――が――」


 他愛もない話が咲いている。相槌のように上品に微笑むサーテラス様。そしてより弾む話し。私達は今、一般生徒が使う一階ではなく、上の階に上がって来てた。てか生徒会は普段こっちで食事してる。注目を浴びるからね。上階は静かで気品があるから下の喧騒とは無縁だ。それにここを使ってるのは名のある貴族の子息、子女達だから、家の名を落すような行動は取らない。
 弁えてるんだ。まあだけど、聞き耳くらいは立ててるかもしれないけどね。


「とっても面白いですわねキララ様」
「え……ええ、そうですね」


 こっちに話し振らないで欲しい。そんな誰かも分からない人の話で笑える訳無いでしょ。オルレイン様ももっと共通の話題にしてよね。そんな王族の裏話とか暗殺されそうで聞きたくないんですけど。やっぱりなんだか可笑しい……オルレイン様もこんな人じゃなかった。王家の話とか、私は聞いた事なかったのに。そういうのを学園に持ち込むのを嫌ってた感じもしてたのに……


「オルレイン様、良いんですか? そんなに王家の事を話して? 機密とかうっかり話しちゃわないでくださいね。私はまだ死にたくないので」
「はん、俺が知ってる話なんて与太話以外の何物でもないさ。俺は所詮しがない第三王子だからな。三番目なんだよ」


 この人酔ってるのかな? 昼間から行けないよそれは。でもグラスを見てもお酒には……いや、見た目には分からないや。けど流石に学生にお酒は出さないでしょ? だってここ学食だよ。滅茶苦茶綺羅びやかだけど、学食だからね。でも彼は王族だからな〰。わがまま言えば通りそうな気もする。それが王族ってものでしょ。


「三番目なんてそんなの誰も気にしてませんわ。オルレイン様がオルレイン様だからこそ私達はついていってるんです」


 なんか一番の新参者が一番の古株みたいな事言いだしたよ。この場にはティアラ様も居るんだし、それは彼女の台詞であってアンタの台詞じゃないでしょ。けどそんな事私が言える訳もない。だって言ったら、朝の二の舞いだよ。ここはティアラ様がビシっと言ってくれないと……


「…………」


 何やら彼女は物思いにふけってる様子。てかサーテラス様が皆を引き連れて声かけて来た時からこんな感じだ。他の方々は今まさに「その通りです!」「オルレイン様だから付き従ってます!」「流石サーテラス様!」とか言ってる。実際、ティアラ様もそんな一員になると思ったんだけど……既に毒牙にかかってるっぽいからね。
 そう思ってると、私とティアラ様の目がかち合った。私も朝の事があるし、チラチラって感じで見てて、多分ティアラ様もそうだっんだろう。そんな互いの視線が幾つかのすれ違いの末、今かち合ったんだ。


(私はなんて言ったら良いんだろう?)


 分からない。だって下手に今朝の事を掘り返しても墓穴を掘るだけのような気もする。そして向こうも何も言葉は出てこない様子。そうしてる間にサーテラス様が「ね、ティアラ様もそう思いますわよね?」とか言ってきた。前の話を全く聞いてなかった私は何をどう思ってるのか意味分からない。それは多分ティアラ様も同じ。けど彼女はサーテラス様に、無難な返事だけ返してやり過ごしてた。


 そして結局ティアラ様と一度も口を聞くことはなく、お昼休みは過ぎた。皆が立って席を離れるその時……サーテラス様は言ってきた。


「お付き合いくださってありがとうございますキララ様。今日はとても楽しい食事でしたわ」


 そうですか。私はそんなに会話に加わってなかったけど……前はもっと私に皆話を振ってきてた。からかったりもあったけど、悪意はなくて、ちょっとした冗談で、皆が笑い合える……そんな時間だったはずだ。けど今日はそんな事微塵も感じなかった。私の位置にサーテラス様が居る。そこは誰がいても良いのかも知れないけど、皆が向いてる方向が違うような……そんな齟齬を感じた。


 傍目にはきっと楽しげなグループに見えるだろう。でも……どこかきしんでて、中に居るからこそわかる苦痛って物を感じた。けどそれは私の嫉妬もあるのかもしれない。気にしないって決めたけど……そう簡単に割り切れる物じゃないから。本当はみんなちゃんと楽しんでたのかも知れない。


「私は……許されたと思って宜しいんでしょうか?」


 おずおずとした感じでサーテラス様は手を差し伸べて来る。この手を取ると和解したことになるのだろうか? 皆さんの視線が握れと圧力を掛けてるかの様に感じる。いや、別に握るのは良いんだよ。これをとれば嫌な視線とか無くなるだろうし。敵対するよりも近くにいたほうが探れるかもだし……私は自身の手を伸ばす。でも躊躇ってるからその歩みは遅い。
 そうしてるとサーテラス様はおずおずとした表情のまま、手だけ素早く動かして私の手を取ってきた。


「嬉しいです! 私達ぼうおともだぢでずぅぅぅぅぅぅぅ――――」


 何!? いきなりサーテラス様の声がおかしくなった? いや、目の前の彼女は何も変わってない。変わってるのは私の方? 視界の隅が黒く狭まってく。そして見えた……彼女に取り付く何か……魔王? それは二本の角を持つ人形の何か。妙に細い手足は人にしてはとても長い。そんな不気味な存在がサーテラス様の肩に手を置き、足は腰の所で支えてる。


 そしてそれが喋ってるんだと……私は理解した。


「おぉぉぉばぁぁぁぁえぇぇぇぇぽぉぉぉ落ちろぉぉぉぉぉ」


 その瞬間、掴まれた手から、黒いマナが私の中に入って来る。こうやって周囲を支配していってるんだ。私の視界には自身の腕が黒く成ってくのが見えた。


(ヤダ! 怖い!!)


 そう思うけど、掴む力は強く、振りほどけ無い……というか、動けない。奴の力が私の全身に及ぶ……その時だった。私の耳につけてたピアスが輝き出す。そして黒いマナを追い出していく。


「ごぉおのぢがらぁは――――うん、やっぱりそうだったんだ。ちょっとやり過ぎだよ。ごめんね。私もまだまだで。だけどいい機会だから……忠告。私はやっぱり魔王なんだよ。だから……止めるなら早いほうがいいよ。これはまあ挨拶のつもりできたんだけど……やっぱり意志が動いちゃうんだよね。それにどうしてもあいつとは引き合うの。今確信できた。だから貴女とも無縁ではいられない。ごめんなさい」


 そんな言葉を残して私の視界は元に戻った。もうサーテラス様の背後の黒い何かはみえない。


「あの……キララ様。流石にちょっと恥ずかしいですわ」


 握ったままの手を気恥ずかしそうしてるサーテラス様なんか私は気に留めてなかった。その後ろでずっと複雑な表情してるティアラ様も。ただ私はあの何かの言葉と声がごちゃごちゃになって頭が破裂しそうだった。そして実際何かが壊れる音が聞こえた。


「大変、キララ様……ピアスが」
「え? ええええええええええ!?」


 乙女があるまじき声を出して私は狼狽えた。だって……だってそれは私の力の源。ラーゼの力を得るための媒体であるピアスだったからだ。

「美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く