美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β17

『キララ様、私達気付いたの』
『ああ、どうかしていたよ。君よりも生徒会に相応しい人は居たんだ』


 そんな事を突然言ってくるのは会長であるオルレイン様とティアラ様だ。優しかった二人の瞳は今や冷たくて、そして何やら遠い。それなのに、二人の声はやけにはっきりと聞こえてた。


『何を……言ってるんです? 確かに私は生徒会に相応してくないかもですけど……それじゃあ一体誰を……』


 そう言いながら、私の喉は乾いていってた。心には焦りと恐怖。誰からも必要とされなくなると、私はまた一人ぼっちだ。心が空っぽになるあの感覚。自分が世界に無視されてるあの日々に戻るのはやだ。けどそんな私の思いとは裏腹に、オルレイン様とティアラ様の間に、一人の人物が現れる。それは細く、美しくなったサーテラス様だ。


『ごめんなさいキララ様。やはり私のほうが、相応しいみたい。平民である貴女ではその地位は相応しくないのです』
『そうね。やはりサーテ様でないと』
『ああ、君のほうが相応しい』


 そう言って三人は楽しげに笑ってる。それはとても自然で、私が確かに居た筈の位置にサーテラス様は溶け込んでた。胸が痛かった。引き裂かれる様な痛み。私は手を伸ばして震える声を出す。


『……まっ……待って!!』


 追いすがるそんな私を置いて、楽しそうに笑い合う三人は歩いても無いのに遠ざかってく。そんな三人の光景は輝いてて、私の後方からは真っ暗な闇が迫る。そしてそんな闇の中には、膝を抱えて座ってる在りし日の自分が見えた。そしてそんな自分が手招きしてるんだ。逃げれる訳無いって……今の生活が夢なんだって……いつだって奴は迫ってくる。


『いや……やめて……来ないでええええええええ!!』






「大丈夫?」


 目を開けると、やけに眩しい光景があった。光景というか……人物だけど。一瞬幻覚? と思ったけど、彼女はその手で私の頬や額を触ってきて、彼女の存在が実在だと伝えてきた。


「ラーゼ? 本物?」
「私が偽物だとして、こんな美少女が世界に二人もいると思うわけ?」


 ああ、本物だなって思った。いつだってラーゼは自信満々。傍若無人……これがラーゼだよね。


「とりあえず身体拭いてあげるから、服脱ぎなさい。汗だくよアンタ」
「ちょっ、言う前から脱がそうとしないでよ!」
「何、ちょっとは成長したかな? って思って。どうせ減るものじゃないでしょ」
「脱ぐから! 脱ぐから待ってよ」


 女同士だからっていきなり裸見せあったりしないから! けどラーゼの奴はすでにタオルも持って準備万端の様。逃げれなさそうだし、ここはしたいようにさせるべき。変に意地張ると、ラーゼの奴は何が何でもわがまま通そうとするからね。現状よりも絶対に悪くなるって私は経験でわかってる。私はベッドに上体を起こして、上着を脱ぐ。
 前は布団で隠す。ラーゼはベッドに上がってきて、私の背中側に回る。


「うんうん、私ほどじゃないけど、綺麗な肌ね」
「その比較いらないから」


 全く、アンタに勝てる女なんかこの世界に居ないんだから比べないでほしい。私は所詮、普通よりも可愛い位なの。人種でもティアラ様には勿論……痩せて綺麗になったサーテラス様にだって勝てない。再び心が堕ちてきた。その二人もだけど、こうも絶望的な差を見せつけられるとね。久々に見たラーゼはやっぱり綺麗で可愛い。
 その姿だけなら妖精とか天使とか……そんな印象を持つのに何の不思議もない容姿してる。私的には内面を知ってるから、悪魔とかでもあるけどね。私と違ってなんでも持ってるし。出会った時から、ラーゼはそうだった。


「どうしたの? なんか落ち込んでるようじゃん? 学校楽しくない?」
「…………」


 私の身体を拭きながらラーゼがそんな事を聞いてくる。そういえば……私は今日、初めて学校を休んだのだ。なんだか、怖くなって……私が必要とされなくなるんじゃないかって……そう思うと、体調が悪くなって、色々と言い訳して今日は休んだ。そして寝てたらあんな不安を煽る様な夢を見て……けどそしたらラーゼが居た。
 そういえば……なんでいるんだろうと、私は今更ながらに思った。


「なんで、ここにいるの?」
「それはアレよ。ちょっとギルド本部に用があったから、ついでに様子でも見てこようかなって」
「じゃあ……亜子の方にも行ったの?」
「亜子はなんだか、校外学習だって」
「そう……なんだ」


 私も入学してから数回しか亜子には会ってない。なにせ軍事教練の方はとても厳しいらしくて、空いてる時間ってのがほぼ無い感じ。日に日にやつれてく亜子が哀れだった。でも私には何も出来ない……けどラーゼなら、その容姿で先生たちを落とせばどうにかできるかも知れない。


「亜子……辛そうだった」
「そう? 私はそんなに心配してないけど?」
「なんで?」


 ラーゼはやつれてく亜子見てないでしょ。あれを見たら絶対に心配するよ。けどラーゼは笑ってこう言うよ。


「だって亜子にはなんとしてもやり遂げたい目的がある。目的がある心は強いものよ」
「そんなもの……」
「それで、アンタも目的有った筈だけど? もう諦めたのかしら? ふて寝してるくらいだし?」
「これはっ――ちがっ!?」


 私は否定しようと振り返った。するといきなりラーゼはギュッと私を抱きしめてきた。私よりも小さいくせに……その行為をされて私は何かがこみ上げてくる。


「まあ、辛くなったらいつだって戻っきてもいいわよ。だってアンタの居場所はちゃんとあるでしょ? 私の傍がアンタの居場所なの。それを努々忘れない事」
「ラー……ジェ……」


 グズっと鼻を啜る私。なにを恐れる必要が有ったのか。いつの間にかここが私の世界の全てになってたけど、そんなことはない。だって私の事を待ってる人達はちゃんといるんだ。私は自分よりも見た目幼いラーゼの胸の中でわんわんと感情を吐き出すように泣いた。こんなに泣いたのは生まれて始めてかもしれない。領地について行くときも、家や部屋、それに仕えてくれる人ができた時もどこか夢のようで泣きはしなかった。


 けど、私はそれをようやく実感できたのかも知れない。違う環境に出てくことで、与えられてた物の大きさと、自分の中でのそれの大きさが見えたんだ。私にはどんなに成っても帰っていい場所がもうある。それはとっても強い心の支えになることだよ。

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