美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β8

「そういえば知っますかキララさん」
「何をですかアミーさん?」


 食事の手を止めずに私は向かいに座る小動物的なその人を見る。目鼻立ちは地味だし、身長も高くもなく、低くもない彼女は何も特徴がないお嬢様だ。強いて言えばお嬢様が特徴かもしれない。まあここにはお嬢様なんて腐るほどいるんだけとね。けどこのアミーさんはとても丁寧で物腰も柔らかく、そして気配り上手な人だから本物と呼んで良いお嬢様だ。だからとても友達が多い。お嬢様は一杯いるけど、ここまで完璧なお嬢様は私が知るなかでこの人だけ。豚? あれは論外。


 これで美人なら……きっと男が放って置かない事だろう。いや、美人じゃないけど、決してブスって訳じゃない。可愛らしい顔してるだけ。そして全体的に顔のパーツが小さいだけだ。どうして神様は後少しだけパーツのバランスを確かめなかったのか……と問いたいよね。私がそんな失礼な事を考えてるとは梅雨とも知らずアミーさんは彼女にしては行儀悪くこちらに身を乗り出してくる。
 そして片手で口元を隠して私だけに聞こえる様な小声でこういった。


「生徒会の皆様がキララさんを狙ってるらしいですよ」
「生徒会?」
「ご存じなくて?」
「ええと……はい」


 多分これはこの学園に通う人達の中では常識みたいな知識なんだろう。笑われたって仕方ない。けど、彼女はそんなことはしない。やさしく微笑んで説明してくれる。


「生徒会とは生徒の代表的な立場の方々が活動する会ですわ。教師と生徒の間に入って色々とこの学園の為に頑張ってらっしゃいますの」
「なるほど……けど、どうしてそんな方達が私に?」


 よくわからないよね。確かに今私は話題の人物なのかもしれないけど……


「きっとキララさんの力の事を考えての事だと思いますわ」
「力? 利用しようとかですか?」


 私はその考えに至ってちょっと警戒して周りを見回す。食堂はとても賑やかで人が多い。豚に連れられて行ったここの上階は確かに気品あふれる場所だった。そことは雲泥の差だ。けど私はあんな静かな食事よりも、ここでワイワイしながら食べる方が好きだった。庶民的? 上等である。庶民とか私に取っては素晴らしい称号だよ。
 だって生きてて良い存在なんだからね。あの豚はバカにするだろうけど、あんな奴のことは関係ないのだ。


「キララを利用しようとする奴は俺がぶっ飛ばしてやるよ!」
「ありがとうペル。頼りにしてるよ」
「おう!」


 ペルはその小さな拳を高く掲げて自慢げにしてる。毛糸の身体にボタンで出来た目。そして動き出す様になってから自分でつけた赤いマント。可愛さ優先で頭を大きくして、体は頭の一回り小さめで、そこから手足がちょこんと出る感じのヌイグルミがペルだ。出来は上々で気に入ってるんだけど、手足が短いとペルは動きにくそうなんだよね。
 動くとわかってればもっとフォルムを考えたんだけど……そもそも魔光石がペルの中に入ったのもお試し的な感覚だったんだもん。まさか取れなくなるとは−−いや、動きだすとは思わなかった。


「ふふ、仲良しですね。けど大丈夫ですよ。生徒会の皆さんはきっとキララさんの力に成ってくれると思います」
「それはどういう?」


 そんな事を思って聞き返した時、ザワッと食堂の空気が変わったのがわかった。騒がしかった食堂から喧騒がピタッと止んでる。そして皆の視線が一点に集まってる。それは入り口の方だ。視線を動かすと同時に、靴音が近づいてきてるのがわかった。それは五人の男女。しかも皆さんとても見目麗しかった。私は実はかなり見た目良い方で、ラーゼ以外には負けないんじゃないかと自惚れてけど……悠然とした足取りで歩いてくる五人の内の一人。
 サラサラの銀髪に真っ白な肌のその人を見て、完全に「負けた!?」と思った。ラーゼの奴は超反則だけど、あの人も反則と言える程の美貌を誇ってた。そして何故が私の前で先頭のイケメンが立ち止まった。


 ざわざわとした喧騒が再び現れ始める。けど誰もまだ一言も発さない。まるでその人が喋るまでは声さえ出してはいけないような……そんな感じだった。

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