美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#108

 森の奥は光も届かない程に暗く……そして不気味……というのは違った。確かに空からの光は届いてない。けど、魔光石に寄って光は保たれてる。寧ろ幻想的だ。なんだか私が引っ張られた場所は少し開けてて、周りには魔光石が一杯。そして開けた中央には白い大きな木がそびえてる。この木は周りの木とは明らかに違う。なにせ白いし、大きさも比較にならない感じ。
 昨夜出来た木とはとても思えない大きさだ。まあそれは周りの普通の木もそうなんだけどね。こんな立派な森が一夜で出来たなんてほんと信じられないね。これは私が凄すぎるという事だろうか? 


(てか……これだけの木なら集落からだって見えてもおかしくないような?)


 そのくらいこの木は大きい。サイズ感が違うもん。この木を見てると、周りの木は小ぶりだと思える程。けどこんなの集落からは確認出来なかった。私の屋敷はあの集落で断トツでデカイ。だから見晴らしも段違い。けどこの木は見えなかった。それだけ遠いって事? けどこのサイズ感なら輪郭くらい見えてもおかしくないような気がする。


 そんな事を考えてると私にベタベタとくっついてた糸がパラリと取れた。私をこんな所まで引っ張ってきておいて、これをやったやつは姿を表さない。いや、気配は感じる。てか蛇目にするとよく見える。そこら中に確かに居る。けど、この白い木の周りにはどうやら寄ってこないみたい。なにやら神聖な場所なの? 昨夜できたばかりなのに神聖とはこれいかに? ってかんじでもあるけどね。


(ようこそ、お越しくださってありがとうございます)
「え?」


 なにやらどこかから声が聴こえる。キョロキョロと辺りを見回すけど、それらしい奴はいない。と思ってると、白い大木が輝き出した。そして中から、触覚が長く伸びた、真っ白な女の人が現れた。見た目は全体的に人に似てる。けど、その目は普通の目じゃない。目玉が昆虫のそれっぽい。ちょっと不気味だ。てかなんか私に似てない? まあ、私程に美しい訳じゃないけど。
 やっぱり私の力を受けたからだろうか? 


「だれ?」
「警戒しないでください我等が母よ」
「いやいや、母とかそんな歳じゃないから私」


 失礼なやつである。でも敵意は感じないな。母とか言ってるし、私をどうするつもりなのだろうか?


「貴女の力で我等は生まれたのです。年齢などは関係ない。偉大なる母に敬意を払います」


 そう言って細長いその人は私に礼をする。てかデカイなこの人。三メートル以上あるよ。グルダフとかよりもデカイ。まあ横にはグルダフの方がデカイけどさ……縦にはこの人の方がデカイ。人ではないが。腰折っても私よりデカイよ。


「その偉大な母に何やってくれてるの? 目的は何よ?」
「我等は母を救出したまでですよ」
「救出?」


 ちょっと何言ってるのかよくわからない。するとその眼球に私をいっぱい移して、こういうよ。


「我等が母にはこの地はふさわしくないのです。だからこそ、こうやって自身に相応しい地に作り変えたのでしょう? ならばこここそが母の住まう場所の筈」
「うん? そんな事思ってないけど?」
「…………母よ、なら何故にこんな事をしなさった?」


 なんか残念がってるけど、なんでといわれてもね。私利私欲しかないから言いづらい……とか私がおもうと思ったか!


「お金と食糧事情改善の為よ! 貧相な土地を肥沃にしようとしたらこうなっただけ。アンタ達こそなんなの? 私の力の影響で生まれた訳?」
「その通りです。我等はマナ生命体の様な物。はるか昔はこの星には沢山の同胞が居ましたが、皆マナの減損と共に姿を曖昧にしていきました。そして忘れさられた存在となりはてた。ですが母のお陰で、我等はこの地に限って蘇る事が出来たのです」
「へぇー」
「…………興味なさそうですね」


 なんか私の余りに淡白な反応に彼女はややスネ気味である。


「でも、それでこんな森に住めっていわれても困る。私は贅沢な暮らしがしたいもん」
「母よ……それは……」


 あれ? なんかフルフルと震えだしたぞ。怒ったかな? 敬愛してそうな母がこんな残念な奴としって愛が憎悪へと変わった? 展開早くね?


「素晴らしい」
「ん?」


 どうやらそうでは無かったらしい。


「流石我等が母。我等は母の力を受けた申し子なので、その欲望の一端も理解しております。なのでこのクリスタルウッドがあるのです」


 クリスタルウッドというのは白い大きな木の事らしい。なんかダサイ名前つけてるね。誰のセンスだよ。あれ? 私の子供らしいから私のセンスか? 


「母の願いはこのクリスタルウッドが叶えてくれます。これは世界中のマナを集めそして循環させる役割があります。大昔に失われた世界樹のそれを模倣して作ったのです」
「お……おう?」


 よくわからないが、なんか私の領地にとんでもないものができてる事は理解した。なんて物あるんだよ。


「それでそのクリスタルウッドがどうやって私の願いを叶えるのよ?」
「これは世界中のマナを集めます」
「うん」
「つまりはマナ、食べ放題なのです!」
「私、別にマナ食べてないし」
「いえいえ、それはそういう行為を行ってないだけで、生命は無意識にマナを常に排出と吸収を行っております。母ほどの生命ならば、より高純度なマナを求めるのは自然の摂理。母よ、この頃肩が凝ったり、足がむくんできたりしてませんか? そんなお悩みも、このクリスタルウッドが一気に解決――」


 なんか通販番組みたいなこと言い出したぞ。途端にクリスタルウッドの神聖さが失われた気がする。その説明でいいのか疑問を投げかけたい。あれかな? 私が生み出したから、知能も私クラスなのかな? 


「ちょっとまってよ。体調が改善するのはわかったけど、何処に贅沢があるのよ?」
「…………高純度なマナを独占出来るのは生命の王だけです。それは母を新たなるステージへと導きます」
「どういうこと?」


 それを聞こうとしたら、いきなり森全体が大きく揺れた。どうやら戦闘が激化してるよう。まあ、私がさらわれたとあったら、蛇が黙ってないか。


「煩いハエ共ですね。ここは神聖な地だと言うのに……ですが大丈夫です。ハエ共は直ぐに息絶えるでしょう」
「なんで?」
「それはクリスタルウッドがあるからです。この木はマナを集めます。力とは使う度に外に放出されるものですから。しかもこの地は今や、マナの純度が他とは比になりません。放出し、体内にここのマナを取り込むのは今の不純な生命には毒なのです。勿論母は違いますが」
「へえーってそれじゃみんな不味いじゃん!」
「なにか問題でも? 母はここで暮らすのに?」


 このデッカイのは既に私がここで暮らすの了承したみたいにいってるけど、それは無いから。こんな何も無い所でなんか暮らせないよ。


「あいつらも私の手下なの。死んで貰ったら困る。私が楽する為に必要なんだからね」
「ですがこのクリスタルウッドがあれば、生きるのに支障などないと思いますが?」
「確かに生きるだけならね。けど、私は楽しく生きたいの。わかる?」
「楽して生きたいはずでは?」


 むむ……流石私の子供、よくわかってるじゃん。けど楽だけでは退屈なのよ。生きてるだけで、何もしなくていいなんて、直ぐに飽きちゃうよ。


「とにかく、私はここには住めない。私の事をもっとよくわかりたいなら付いてきなさい。てかここの生命全部が私の子なら、私の命令聞くの?」
「ええ、皆母を見つめてますので」


 だからさっきから視線がめっちゃねっとりと絡みついてるのね。てか私一気に母とか……やっぱりなんか嫌。私は超絶美少女で売り出しるのに、母とか呼ばれるのはね。


「ラーゼって呼びなさい。それと、他の子達を今すぐ止めて。アンタ達との付き合いは皆と話し合って決める。アンタ……名前は?」
「メルゼバーゼスです。メルとお呼びくださいラーゼ」
「メルね。私にとっては刺激も大事なの。だから引きこもることはしない。いい?」
「ラーゼがそうお望みなら」


 案外聞き分けいい子のようだ。私の意思は最大限尊重してくれるのはありがたい。


「まあ生み出したのは私だし、悪いようにはしないわよ。この森とアンタ達も私の領民なわけだしね。だから互いに上手く付き合える様にしてあげる」
「母の心のままに」


 そう言ってメルは何やら上を向いて少しの間止まる。すると森のざわめきは収まった。まあ遠くで派手な音は聞こえるけどね。蛇たちはまだ止まってないんだろう。けどメルがいればこの森の事はわかったようなものじゃないのかな? それならネジマキ博士に下ろす魔光石とかも採掘しやすくなるだろうし……いきなり領民が増えたのだ。労働力倍増。これはなかなかに朗報である。
 私はしめしめと思いながらメルに抱えてもらって蛇たちが居る方向を目指した。

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