美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#85

(決まった)


 私は心の中でそう思ってた。連れらされてた人達を見つけて悪即斬しようとしたけど一つの問題にぶち当たった。それは敵の真ん中にこの子達が居たことだ。普通にやると巻き込んでしまう。そこで思い出したのが彼女が持ってるピアスだ。確かカタヤとかいうパイロットに渡した筈だけど、なぜかこの子が持ってた。大切そうに抱えちゃって……前からカタヤを特別な目で見てた様な感じだったし、落とされた? 
 人の渡した物で女の子落すとか、随分あくどい奴だ。でもまさかこんな風に使えるとはね。私の力の波長に合わせた魔光石を使ったらしい。色々と魔光石は加工調整が効くんだとか。
 それで私の力を遠隔発動。バリアを張って、その周りに私の力をぶつけた。案の定周囲は悲惨な事になった。そしてさっそうと登場。ここで決めなきゃ、いつ決めるって状況だったでしょ。


 ただの平野と化したガロンの前線基地。だけど微妙に動く奴等はいる。そもそも死なないのなら、粉々にでもしない限り無理だよね。奴等が宿る依代をさ。私に続いて蛇たちも現れる。私は四方百メートルくらいをぶっ飛ばしたけど、巻き込まれたのは雑魚が大半みたい。一体どうやって察知したかわかんないけど、ユニコーンは勿論、ガロンの強そうな奴等も無事だ。


「ラーゼ……それに」


 カタヤが蛇に視線を固定する。それだけ危険だと認識してるんだろう。この国の英雄だしね。人種の国からしたら最大の障害と言っても多分間違ってない。


「そんなに睨まなくても丸呑みにしたりしませんよ」
「あなた達は……助け……なんですか?」
「それ以外に見えますか?」


 ほんと蛇の言うとおり、ここまで決めてきて実は通りすがりとか有り得る訳無いじゃん。まあ彼等から見れば信じられないのも理解できるけどね。彼等からしてみれば、わざわざ獣人が人種を助けに来るなんてありえないって認識なんだろう。確かにそれは間違ってない。獣人として普通なら人種なんて助けないだろう。けど、今やここに居る奴等は私の部下みたいな物。
 私の意志が絶対なのだ。実際人種を助けるとかどう思ってるかは分からない。けど、ここまで来て逆らうやつもいないでしょ。


「貴方はライザップの英雄の筈だ。どうして……」


 もっともな疑問だね。けど蛇は私の首に腕を回して抱きしめる様にしてこう言うよ。


「それは彼女を愛してるからですよ」
「は?」
「え?」
「へ?」


 カタヤのお仲間さん達が、揃って変な声を出した。そして私と蛇を観ながらカタヤは震える声を出す。


「彼女は……子供だ」
「そんな子供のなにを想像しておっきくしてるの?」


 ズボンがせり上がってますが? そんな私の指摘にカタヤは顔を真赤にしてナニを押さえつける様にして隠す。


「私の美の前には子供とか大人とか関係ないってその身でわかったでしょ?」
「これは! その……」


 なにか反論しようとしたんだろうけど、言葉は続かなかった。周りの冷ややかな目もそれを許さなかったんだろう。特に女性陣のね。婚期に近づいてそうなお姉さんから、私よりもちょっと上っぽいあの娘とかのね。てかいい加減ひっつくのやめろ。


「そろそろ気持ち悪いから離れなさいよ」
「全く仕方ないですね」


 そうやって離れた蛇は同時にこういった。


「丁度、歓迎の準備もできたようですしね」


 蛇の視線を辿ると、一角を生やした人達と共に、ガロンの兵隊が周りを再び囲いだしてた。数が減ってるかどうかは正直分からない。多分減ってないんでしょう。しかもだだの人形みたいじゃないのも混じってるよ。一回り大きな体に、歪な形。見えるだけで四・五体は居る。なんか変な感じ……ねっとりとした視線が絡みついてる感じがする。
 けど男共が私を見る時のイヤラシイ感じではない。なんかもっとこう……探るような感じの視線。でもあいつらはまだ動きは無いよう。


「それだけ……ですか。もう逃げ場はない」
「おかしな事言うじゃないラジエル。私達が追い詰めに来たんだけど?」


 一応一緒に着いてきたらしいラジエルは一角さんたちの後方に居る。完全に守られる側になってるじゃん。それでいいの? うさぎっ子とか見えないな。この情けない姿を見せたかったのに。そしたらきっと戻って来てくれるよね。


「この状況で何を……皆さんも獣人の誇りを思い出してください!」


 私の周りに展開してる獣人達にそう語りかけるラジエル。けど、彼の言葉にはなんの重みもない。そんな言葉に誰が靡くだろうか。


「ラジエル、もうわかってるでしょ。あんたが観てる国を救うには私達を殺して、そしてアンタの都合を押し付けるしか無いのよ。私と同じようにね」
「くっ……」


 誰だって自分の都合で動いてる。世界平和も、そんなのはついでなんだよ。ラジエルは理想を追いたいんだろう。けど、その過程の都合はきっとラジエルが夢見る理想とは程遠い。それこそ歴史の闇に閉ざされたりする部分。でもねラジエル……誰かがそういう所を担ってるから、世界ってのは成り立ってるんだよ。大きな括りで一点だけで出来てる物なんてない。
 それこそ、沢山の意志が集まってるんだから当然だよ。ただ綺麗な物は個でしかない。純粋なものは一つだけ。それは私だ。お前じゃない。


「まだその時ではないだけだ。お前はまだまだ目指せるさ。理想をな」


 そういうのは立派な角に捻じれが加わった屈強な男性。どうやらユニコーンとやらは彫刻の像とかが着てる布みたいなのが戦闘服のようだ。みんな同じの着てる。


「だからここは我らに任せろ。悪魔はここで滅ぼす」


 悪魔呼ばわりですか。完全に私みてるし、どうやら私は悪魔らしい。確かにサキュバスという線も悪くない……けど、尻軽そうだから止めたんだ。私の目指す物とはあってないかなってね。


「貴様は我らが同胞の一人を殺した。楽に死ねると思うなよ」


 自身の角を引き抜きつつ、そう言う男。筋肉質で、その腕は私の胴体位ありそうなムキムキ具合。ハッキリ言ってキモい。とりあえず私は自身が作り出したバリアの中に入る。


「何のつもりだ?」
「何って見学だけど? アンタ達の相手は私の下僕達がしてくれるわ」
「貴様ふざけてるのか! 獣人風情で我らユニコーンの相手が務まる思うな!!」


 どうやら、バカにしてると思われたらしい。他のユニコーンの人達もちょっとキレ気味。けど、別にふざけたわけではない。だって当たり前でしょ?


「なんで私が戦わないと行けないのよ。私は崇められる側なの。戦うのは私の役目じゃない。そういう物でしょ、上に立つものって? それに獣人が本当に相手にならないか、確かめてみても良いんじゃない? 彼等を倒せば、私が相手してあげるわよ?」
「そういうことです」


 私の言葉に蛇たちがその武器を構える。だけど挑発されたユニコーン達の怒りは怒髪天を突く勢いで、その髪がなにやら青い光を放ってる。それに伴って空も黒い雲に覆われる。


「覆しようのない位の差を忘れたか獣共! 一瞬で終わらせてやる!!」


 黒い雲に閃光が走る。それが合図だった。ユニコーン達は絶対の自身の元に動き出す。

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