美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#83

 取り敢えず門から出るのは諦めた。だってあそこ混戦過ぎるんだもん。てか押されてる。わかっては居たが、獣王がいくら空で無双してても、下の戦力差は大きい。獣王のお陰で今くらいに収まってるとも言える。上からも首都に向かって砲撃されると逃げ場なんてない。首都上空の艦隊はあらかた獣王が片付けてくれた。けど、向こうも飛行部隊出してきてる。
 獣王は今はそっちの相手で精一杯。こっちの航空戦力はなくなったから、空を守れるのは獣王とその近衛部隊しかいない。下にまで手が回らないのが現状だ。それでも獣僧兵団はよくやってる。避難しきれてない住民達を守り、友の屍を踏みしめながらも戦ってる。追い詰められた獣人達も次第にその奥底に眠らせてた本能で敵へと牙を向いてる。


 それでもガロンの鉄の兵団には僅かな傷をつけて潰されるだけ。ガロンとはどういう国なのか……私は全くわかってない。蛇から聞いた話では、ガロンとは九十九神と呼ばれるあやふやな存在の国らしい。彼等の数は臆を越える。だが一つ一つはとても弱いという事らしい。あの鉄の兵には複数の九十九神が宿り動かしてるとのこと。
 なにかに寄生する事でしか生きれなかった彼等は国と言う概念すらもない小さな存在らしかった。数百年前までは。けど何者かが彼等に知恵と力を与えた。今はガロンで天皇と呼ばれる存在がそれらしい。でも詳細は一切の不明。九十九神達は何にでもやどれる。それは生物に限らない。そして彼等には寿命という概念すらもないようだ。
 剣でも魔法でも彼等は殺せない。実際、向こうの敵を倒しても、そこら辺の死体に取り付いて動き出してくる。しかもそのそこら辺の死体は大体獣人だ。殺された同胞をもう一度殺させる。中々に酷い仕打ちだろう。


 獣僧兵団の精神的不可が計り知れない。それでも彼等は引けない。まだ生きてる同胞を守る為に。ご苦労な事だよ。取り敢えず中に入って来たガロンの軍勢は相手にしてられない。死なないし、周りに獣人が居るってのも厄介。私はそこまで大々的に知られたくない。記憶に残りやすいし、変な奴等に目をつけられるとやっかいじゃん。


 既に変な奴等に目をつけられてる気配はあるけどね。あのユニコーン達……まあ全部殺せば済むことかな。


「どこか無いの? 出る所」
「その前に、一度着替えては? 流石に幻獣種とやりあうと成れば、こちらも準備が必要です」
「そうなの?」
「貴方は本当に何も知りませんね」


 失礼な蛇である。しょうがないじゃん、だって私はこの世界の人間じゃないもん。何も知らされずにここに来たのに、常識とか言われてもって感じ。まあ学ぶ時間はあるにはあったけど、そんなかったるい事を私がやるわけない。でも確かにあいつらは強かった。蛇が準備が必要というのなら、そうなんでしょう。確かに私の服もボロボロだし着替えてもいいかもね。


 てな訳で私達はホテルに戻ってきた。既にホテルには誰の姿も無かった……とか言いたいけど、普通に従業員の方達はいた。


「お待ちしておりました。アンサンブルバルン様、ラーゼ様」


 そういったのは背が高くやけに綺麗なスーツに身を包んだ黒ウサギ。こんな獣人見たことなかったけど? そんな私の考えが顔に出てたのか、彼は自己紹介してくれた。


「お目にかかるのは初めてですね。こちらからは何度もそのお姿を拝見してましたが。私はこのホテルの支配人兼、アンサンブルバルン様の部下でございます」
「へぇーって、支配人が部下って事はもしかして……この人達も?」
「そうですよ。彼等は私が集めた精鋭達です」
「マジで?」


 私はグルダフを見る。すると彼もコホンと気まずそうに咳払いをした。知ってたってことだね。私だけ知らなかったと。まあグルダフも立場上は蛇の部下だからね。そりゃあ知らされてるよね。


「アンサンブルバルン様、我らも出撃の準備は整っております」
「ええ、久々に本気で出ます。ラーゼにも新しい服を」
「こちらに」


 凄い配慮。もう準備されてた。しかも普段着じゃない……ちゃんとした戦闘服だ。まあなんか、ヒラヒラが多いし、スカートだしで、守るところも薄そうではあるが……これ、蛇の趣味が入ってるよね? 


「最高級の生地に、マナを練り込んだ特注品ですよ。貴女の力にも耐えられる筈です」
「へえーそうなんだ」


 確かに近くでみると普通の生地ではないとわかる。なんか色が微妙に変わったりしてるというか……とにかく不思議。とりあえずグルダフ達にも準備させる。私も着替えだ。近くの部屋に入って数人の獣人が、私の服を剥ぎ取って体を軽く拭いてくれる。なんだか私のシミひとつない肌を見てゴクリとしてるけど、この人達も蛇の部下。
 下手な事はしないだろう。下着をはいて、スパッツぽいのもはく。どうやら見えても大丈夫な様になってるらしい。スカートと上はセパレートタイプらしくて足から通して着た。。腰のチャックを締めて、肩に紐部分をかける……けど、これ、上はほぼこれしかないんですけど、紐と言ってもそれなりに幅あるし、不思議な素材で勝手に私の体に密着する。肩から胸の半分ちょい無い位を隠して、腹部も隠すのは逆に横腹辺りだけってのにこだわりを感じる。胸とかぱっくりすぎでしょ。おへそも大胆とかいう以前の問題だし、背中もがら空きだ。


 製作者はかなりの変態だね。間違いない。けどどうやらまだ有ったらしい。胸当てを持ってきてくれた。まあ確かにこれで胸の防御力は上がったけど……この胸当て事態なんか凝った装飾してある。ヒラヒラで飾られてもあるし。長い無意味そうなリボンはひとりでに私の背中で結ばれた。一部分だけがハイテクしようか。全部に適用しようよ。
 後は手を保護するための奴も嵌めた。これも素肌かと思うくらいにピッチリとくっついた。そして綺麗な花びらの様な模様が見えたり見えなかったり。そして最後に膝まであるブーツを履く。それなりの高さのヒールもあって、いつもと目線が違う。これもかなり可愛くそしてこだわりがみてとれるデザインされてる。高いヒールなのに動きが阻害されないのも特殊な事がされてるのかな? 更に残りのリボンが勝手に私の髪に絡みついてきた。アクセント? みたいな? それとも戦闘中にも髪が邪魔にならないようにでもしてくれるのかな? 左右の耳の辺りでリボンとなってる。


「お似合いですラーゼ様」


 そんな言葉を頂き、私の変身は完了した。部屋を出ると既に皆待ってた。そして私の格好をみるなり、各々顔を赤くする。やっぱり露出多いよねこれ。いや、いいけど。蛇とかカメレオンとかいつもと違って鎧とか武器とか帯刀してるけど、別にいいよね。私が大切。てな訳で私達は、門を通らない別ルートで首都の外へと出ることに。
 どうやら、民衆には秘密のルートらしい。そういうのあるよね。東門西門とかあるけど、今は全部の門で攻撃受けてる。だけど、こういうルートでは小さな扉から外周へと行けるらしい。出てみると確かに、近くの門に集まってるガロンの軍勢が遠くに見えた。どうやままだ気づかれては無いようだ。とりあえず少数なんだし、ラジエル達を確認できるまでは気づかれずに行こうと思う。
 で、見つけたら即ぶっ殺すって事で満場一致。大丈夫大丈夫、今の私ならなんとか出来る。だって見た感じ完全に魔法少女だもん!

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